陽気じゃないけどアフリカ音楽 【知られざるワールドミュージックの世界】


ライター/選曲家の栗本斉による、知られざる世界の音楽を紹介する連載コラム。第3回目はアフリカの現代音楽がテーマ。「陽気で土着的」という一般的なアフリカ音楽のイメージを覆す、内省的でダークなサウンドをピックアップする。

多様な音楽性を内在したアフリカの注目ダーク・サウンド

母なる大地、アフリカ大陸。ここで生まれた音楽といえば、太陽の光が似合う太鼓のリズムと陽気な歌。それに合わせてみんな踊っている。一般的にはそんなイメージだろうか。アフリカ音楽自体、我が国ではあまり一般的ではないが、例えばCMでも使われたユッスー・ンドゥールによるビートルズのカバーとか、ポール・サイモンが南アフリカ共和国のミュージシャンたちと制作してグラミー賞を総なめにしたアルバム『グレイスランド』などは、日本のリスナーにもよく知られている。

ただ、アフリカは広大な大地だし、そんな画一的なサウンドだけではないことは想像できるはず。いわゆるブラック・アフリカとイスラム圏の北アフリカでは文化はまったく違うし、貧困や内戦といった「陽気」とは無縁の状況が各地で起こっているという悲しい現実は説明するまでもない。だから、音楽も非常に多様で、まったく陽気さを感じさせないサウンドもたくさん存在する。今回は、一般的な「アフリカ音楽」のイメージを覆すような、内省的な歌やダークなサウンドをじっくりと聴いてみよう。

まずは、西アフリカのマリ共和国から、ロキア・トラオレ。彼女は自国のルーツ音楽をベースにしながらも、エレクトリック・ギターを掻き鳴らし、ロックから現代音楽まであらゆるジャンルを自然に自身の音楽に取り入れるという恐るべき才能を持ったシンガー・ソングライター。スピリチュアルな印象を受ける深淵な歌声が素晴らしい。
 


同じくマリ共和国から、ウム・サンガレもおすすめしたい。ハービー・ハンコックのアルバム『イマジン・プロジェクト』にもフィーチャーされて注目を集めたシンガーで、ロキア・トラオレよりはもっと土着性を感じさせる。ただ、アブストラクトなエレクトロやアンビエント・サウンドを取り入れることで、クールでモダンな世界を築き上げているのが特徴だ。
 


マリの南側に位置するブルキナファソ。数年前にもクーデターが起こるなど政情不安な国だからか、ジョーイ・ル・ソルダーのような社会派ラッパーが生まれるのだろう。朗々と歌うように繰り出されるリリックは、言葉の意味がわからなくても心にぐさりと突き刺さる。
 


中央アフリカのカメルーンはサッカーで有名な国だが、音楽も豊潤なことで知られている。ブリック・バッシーは、バッサ族という少数民族をルーツに持つシンガー・ソングライター。オーガニックなイメージの静かな弾き語りが軸だが、チェロやトロンボーンといった楽器を使ったアンビエントで室内楽的なアレンジが独創的で驚かされる。
 


東アフリカのエチオピアは、昔からエチオ・ジャズといわれる演歌のようなメロディのアフロ・ジャズがマニアに知られている。そのエチオ・ジャズのエッセンスも少し取り入れながら、独自のエレクトロ・サウンドを生み出しているミカエル・セイフにも要注目。民族楽器の音色を取り入れたトライバルなビートが刺激的だ。
 


「アラブの春」を牽引したプロテスト・ソングもアフリカ発!

数年前に世界中を揺るがした反政府運動「アラブの春」。そのきっかけとなったチュニジアの「ジャスミン革命」で、人々の心の支えとなった歌が、エメル・マトルティの「Kelmti Horra」だ。「わたしの言葉は自由」という意味を持つこの感動的なプロテスト・ソングは、チュニジアに留まらずイスラム圏一体に広がっていった。これもアフリカ音楽の豊かさを語る一断面だ。


北アフリカ沖の大西洋に位置する島国カーボベルデは、もともとポルトガル領だったこともあり、モルナやバトゥーケといった独自の音楽ジャンルが発達した。セザリア・エヴォラという大スターが生まれたことで知られるようになったが、ナンシー・ヴィエイラは新世代のシンガー。ファドやサンバにも似た哀愁を感じさせるサウンドと憂いのある声が素晴らしい。
 


同じ島国でも、南アフリカのインド洋沖のレユニオン島はまたまったく文化が違う。フランスの海外県ということもあってフランス文化の影響が色濃く、このメディ・ジェルヴィルもほとんどシャンソンといってもいい作風。マロヤというルーツ音楽をほのかに匂わせながらピアノ弾き語りで情熱的に歌う姿も、アフリカ音楽のひとつのシーンなのだ。
 


最後は南アフリカ共和国から、強烈なインパクトのノジンジャを聴いてもらおう。少し前にクラブ・シーンで話題になったシャンガーン・エレクトロというジャンルの第一人者。殺伐とした雰囲気を持ち、とにかくアッパーでせわしないビートに脳髄を刺激されるが、よく聴くとアフリカ音楽のエッセンスが取り込まれているのがよくわかる。
 


こうやって並べてみると、いかに我々のアフリカに対するイメージがいい加減なのかがよく分かる。本当のアフリカを知るには、「陽気じゃないアフリカ音楽」を聴くべきなのだ。


Text:栗本 斉
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣