おしゃれなアジアのシティポップ 【知られざるワールドミュージックの世界】


日本では数年前から、シティポップが定番化しつつある。キリンジや土岐麻子あたりが基盤となり、一十三十一や流線形が明確なシーンを生み出し、Awesome City Club、Suchmos、シンリズム、Yogee New Wavesなどが続々とブレイク。もちろん、そのルーツには、はっぴいえんどやシュガー・ベイブの人脈から派生したレジェンドたちがいる。

アジア一帯で同時発生的に盛り上がる“シティポップ・ブーム” インドネシア、タイ、韓国、台湾、フィリピンの今!

この動きは日本だけと思いきや、実はアジア一帯でも同時発生的なムーブメントとなっているのをご存知だろうか。アジアのポップスというと、K-POPに代表されるダンスポップか、甘ったるいバラードというイメージが強いが、そういった主流の陰では、ソウル、クロスオーバー、AORといったサウンドをキーワードに新しいミュージシャンが誕生しているのだ。

なぜこういった現象が起きているのかは、それぞれの国で状況は違うとは思うが、ひとついえるのは日本の音楽シーンの情報をリアルタイムで収集し、意識しながら活動しているアーティストが多いことも大きい。まさに、インターネット時代ならではのグローバルなムーブメントといってもいいだろう。

では、さっそくアジア発のシティポップを紹介していこう。まずは、インドネシアから。実はこの国は日本に次ぐシティポップ大国だ。若手のシティポップ・アーティストが多数生まれているが、その牽引役ともいえるのがイックバルだろう。リーダーのムハンマド・イックバルは、山下達郎や角松敏生からの影響を公言しており、tofubeatsの「水星」のカバーもしている。とにかく洗練されたメロディや、80年代らしいシンセ使いが印象的なアレンジなどはクオリティが高く、日本でも高く評価されているバンドだ。
 


モンド・ガスカロも、インドネシアでは重要なひとりだ。首都ジャカルタのインディ・シーンでは、シンガー・ソングライターとしてだけでなく、プロデューサーとしてもその実力ぶりを発揮。彼のファースト・アルバム『Rajakelana』(2016年)は、『旅する風』というタイトルで日本盤もリリースされている。彼の場合は、シティポップだけでなく、60年代のソフトロックやブラジル音楽の影響もあり、渋谷系を思い出させるセンスの良さが特徴だ。
 


次はタイのシティポップ。バンコクは随分前から、日本の渋谷系に近いインディ・シーンがあり、フリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴの影響も多大だ。そのため、シティポップが生まれる土壌は古くからあったといえる。そういったシーンで一歩抜きん出ているのが、男性3人組のポリキャットだ。彼らもイックバル同様に日本のシティポップからの影響が大きく、ライブでは山下達郎や久保田利伸をカバーしている。そしてついには今年10月、日本語詞のアルバム『土曜日のテレビ』まで発表し来日公演も実現させた。ジャンルでいうとシンセ・ポップだが、エレクトロっぽくならず洗練されたポップスに仕上げているのがさすがだ。
 


ポリキャットが所属するSmall Roomレコードは、タイ版渋谷系~シティポップのシーンを生み出し続けてきたレーベルだけに、注目すべきアーティストが多数いる。このタトゥー・カラーも同レーベルの看板アーティスト。4人組のバンドで、2006年のデビュー以来、センスのいいポップな楽曲を作り続けている。バンド特有のグルーヴ感も心地良く、その演奏力も評価が高い。
 


韓国も以前からシティポップ的な音楽が作り出されてきた国のひとつ。どうしてもK-POPに注目されがちだが、優秀なメロディメイカーが多数存在する。サミュエル・セオは、ヒップホップやR&Bがベースにあるシンガー・ソングライターで、プロデューサーとしても活躍する若手のひとり。メロディメイカーとしても秀逸で、この曲のようなメロウなムードは彼の得意とするところだ。スター性もあるので、今後日本でもブレイクするかも?
 


ソウルのインディ・シーンで人気の高いシュガーボウルとソウルライツという2組のバンドによるコラボ楽曲。シュガーボウルは、Suchmosのようなクールな佇まいが魅力。一方のソウルライツは澄んだ女性ボーカルがどこか往年のニューミュージックを思わせる。彼らのセンスが組み合わさったこの曲は、男女ボーカルの絡み具合が絶妙で、まさに韓国シティポップの粋といっても過言ではない。
 


韓国だけでなく、台湾も日本と近いだけあって、昨今はシティポップ風のアーティストが増えていている。その代表的なバンドが、サンセット・ローラーコースターだろう。彼らはサイケやジャム・バンドなどの要素もあるので一概にシティポップとはいえないが、海外公演にも積極的なこともあってスタイリッシュな印象がある。この曲は、ニューヨークでの人気ライブ・シリーズに出演した映像のもので、そのセンスの良さを感じてほしい。
 


同じく台湾のフレックレスは、2003年に結成された4人組バンド。活動休止期間が長かったが、シティポップのブームに呼応するかのように復活し、来日公演も何度か行っている。彼らも山下達郎やフィッシュマンズをフェイバリットに挙げており、女性ボーカルは大貫妙子にも通じるアンニュイな心地良さを感じられる。日本語で歌っていたら、J-POPとして聴いてもまったく違和感はないだろう。
 


ラストはフィリピンの男性シンガー・ソングライターのバンブー。彼はリヴァーマヤというUKテイストのロック・バンドのボーカルだった人物で、ソロもやはりロック色が強いのが特徴。なので、純粋にシティポップのアーティストとは言い難いが、この曲はちょっとジャミロクワイを思わせるようなソウルフルなジャジー・ポップ・チューン。オシャレ感があって、ベテランらしくなかなか味わい深い。
 


このように、アジア各国にはまだまだ洗練されたシティポップの名曲が多数埋もれている。オシャレなサウンドは欧米だけでなく、アジアからも発信されていることを認識してもらいたい。


Text:栗本 斉
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣