ザ・スロットルが東京キネマ倶楽部で語る、大正ロマンと2ndアルバム『A』
ロックンロールバンド「ザ・スロットル」、HIP-HOPチーム「SANABAGUN.」のフロントマン、そして表現集団「SWINGERZ」の主宰も務める高岩遼が、さまざまな場所を訪れ、語り合う企画の第3弾。
今回はザ・スロットルのメンバーとレトロなスポットを訪れる特別版をお届け。そのスポットとして選ばれたのは、JR鴬谷駅から徒歩1分、大正ロマンの時代のオペラハウスを再現した歴史あるイベントホール「東京キネマ倶楽部」。
高岩遼以外は訪れるのが初めてというこの地で、彼らは何を感じ、語り合うのか。昨年12月6日に発売された2ndアルバム『A』の話も含め、インタビューはステージを見下ろすバルコニーのソファで、お酒を嗜みながらスタートした。
大正のグランドキャバレーにタイムスリップ
閉店したグランドキャバレーを改装し、2000年にオープンした「東京キネマ倶楽部」。ビルの5、6階を使った吹き抜けのホールで、5階はステージ&オーディエンスフロア、6階はステージを囲む半円形のバルコニーとなっている。
こういったバルコニー式のフロアは、消防法の関係で今では珍しく、カーテンやテーブル、ソファなどもグランドキャバレー創業当時のもの。この空間に足を踏み入れると同時に、タイムスリップしたような感覚に——。そしてその感覚は、ザ・スロットルのメンバーたちも共有していたようだ。
L→R:菊池 藍(Bass)、成田 アリサ (Drums)、高岩 遼 (Vocal)、熊田 州吾 (Guitar) 、飯笹 博貴 (Machine)
飯笹博貴(以下、飯笹):エレベーター乗って入って来るときも、実際にステージの垂れ幕ひとつ見ても、大正の匂いを感じますね。
熊田州吾(以下、熊田):僕らはいろいろなところでライブをするんですが、ここはどこも類似するところがない。僕の母ちゃんは昔、キャバレーで歌の仕事をしていたんですけど、こういう感じの場所で歌ってたのかなって。
成田アリサ(以下、成田):ワクワクするというか……前からここでライブをしたいと思っていたので、来られてよりその気持ちが高まりました。
菊池藍(以下、菊池):僕は友だちが近くに住んでいてこの辺にはよく来るんですけど、ここは正直この話をいただくまでは知らなくて。この前もよく通ってたんですけど、まさか中がこんな風になってるとは思わなかったです。
高岩遼(以下、高岩):僕は18で岩手から出てきて、都内のライブハウスに面出したのはここが最初か2個目か。けっこうデカいイメージがあって……やっぱりデカかったっていう。ライブしてぇなここでっていう感じです。
過去にはロックバンドやビジュアル系グループ、AKB48やももいろクローバーZまで、数々のミュージシャンがライブを開催したこの場所。中でもEGO-WRAPPIN’は、2001年から毎年12月にこの地でライブを行っている。
ステージフロアとなる5FはスタンディングでMAX約600名、バルコニーの6Fは椅子席も含め100名程度の収容が可能という。彼らに「このキャパのステージがみなさんのライブで埋まった画を想像したら……」と聞くと、思わず「おお……」「ヤバいっすね」といった声が上がった。
ジャズの大御所、ロック、映画音楽に中森明菜
今回のインタビューにあたって、彼らには「東京キネマ倶楽部で思い浮かぶ曲」をそれぞれ挙げてもらった。
〈Bass菊池藍〉
クイーン
菊池:この曲を初めて聞いたのは中学生ぐらいのとき。ちょうどキムタクのドラマがやっていて、親が『Jewels』っていう日本規格のアルバムを買ってきたんです。アルバムの中でもオシャレな曲で、僕が大正とかグランドキャバレーに抱くイメージに合うなと思って選びました。ロマンという言葉にも合うし、この場所で流れてても自然な……僕自身ずっと好きな曲です。
〈Guitar 熊田州吾〉
Bing Crosby
熊田:ビング・クロスビーはスウィング・ジャズ時代の大御所なんですけど、大学のときからずっと好きで。キネマ倶楽部のようなステージは、本来はショウスタイルでやるべきというかそれが似合うし、そういう場所は少ないと思うので選びました。遼と僕はジャズヴォーカル科で、遼はシナトラが好きで僕はクロスビーが好き。今回はこの曲を選びましたけど、ビングの曲だったら何でもキネマ倶楽部に合うと思います。
〈Vocal 高岩遼〉
Ray Charles
高岩:キネマ倶楽部の造りが、ハーレムにあるアポロ・シアターっぽいなと思って。アポロ・シアターはB.B.キングやスティーヴィー・ワンダー、レイ・チャールズといった人たちを輩出した場所だけど、この造りってヨーロッパ調なんですよね。アメリカ人がつくったというよりは、ヨーロッパのオペラのスタイル。そういう……ヨーロッパの文化と混ざっているものがアメリカだと思う。俺らもここでいつかライブをやりたいし、いつかここを“Operahouse”ではなくて“Rockhouse”に変えられたらいいなと。
〈Machine 飯笹博貴〉
♪Theme From Jurassic Park (From ”Jurassic Park” Soundtrack)
John Williams
飯笹:ジョン・ウィリアムズという映画音楽の巨匠の曲がすごい好きで。さっき遼も言いましたけど、この造りがまさにオペラハウスを模していて、オペラやクラシックに僕のルーツがあるのでこの曲を選びました。みんなが知ってるメロディーはこの曲の後半なんですけど、僕は前半の部分が好きで。すごいシンプルなコード進行なんですけど、それぞれの楽器の鳴りがキレイなハーモニーを奏でていて、高校のときに原曲を聴いて虜になった曲です。
〈Drums 成田アリサ〉
♪少女A
中森明菜
成田:そもそも私は昭和から平成の最初ぐらいの曲が親の影響もあって好きなんです。今回選ぶとなって、なぜかさらにアイドルから選ぼうと思って松田聖子か……とも考えたけど、キネマ倶楽部って華やかだけどどこか影がある気がして。てなると聖子ちゃんじゃなくて中森明菜だと。アルバムタイトルも『A』だったから、『よし!これだ!』って思って選びました。曲調もアイドルだけどクールだし、ちょっとロックっぽいのもいい。
始まりであり、ACEであり、ANSWER
新体制で再スタートを切り、昨年12月6日に2ndアルバム『A』をリリースしたザ・スロットル。6曲入りの新作は過去の“ザ・スロットル像”を裏切る曲たちが並び、誤解を恐れず言えば、インタビューをする段階でもその輪郭をはっきり掴めていなかった。さらに言えば、この機会にそのヒントが欲しかった。
菊池:僕らがザ・スロットルに入ったのが6月なんですけど、アルバムの制作が本格的にスタートしたのが7月ぐらい。
飯笹:藍(菊池)と僕は入ってすぐ制作って感じでしたね。
成田:それでRECしたのが9月頭。
高岩:今までと大きく違うのは、Machineが入ること。楽曲制作において急ピッチで進めなきゃいけない部分もたくさんありましたね。すげーケンカもしたし、言い合いもして完成しました。
熊田:完結しているものに関しては、それ以上しようがないというか。一回自分たちが良いと思って認めたものを変化させるのが難しかった。
アルバムタイトルとなった『A』は、シンプルかつ意味深な一文字だ。
高岩:タイトルはマスタリングも終わった最後の最後に決まりました。意味は……ないっす。
成田:お!
一同:フフフ……。
高岩:フフ……いやただアルファベットのAで“始まり”という意味でもあるし、俺らは“ACE”でもあるし、この世への“ANSWER”でもある。一番はアルバムが店頭に並んだときに、『Aって意味わかんな』ってぐらいのテンションのアウトビジュアルにしたかった。MVはアルバムの中から3曲は出そうって決めてて。“Rock This Town”に関しては、ロックバンドでああいうヒップホップっぽいことをやって、かつあれは原曲がブルースなんですけど、3つぐらいしかコードを使ってない。それでわざとらしいザ・90年代のヒップホップのスタイルのMVで100人集めてやってみる……みたいなジョーク。ガチでカッコつけにいってるんだけど、俺らはメチャメチャ爆笑してるっていう。
“Rock This Town”のMVしかり、今回のアルバム『A』全般に通じて感じるのは、「意味はないようで意図はある」ということ。その意図を読み取れるかどうかで、“音楽IQ”を試されているかのようなのだ。インタビュー中に高岩遼は、それらの意図を「ポジティブな皮肉」と呼び、ニヒルに笑った。
菊池:曲順もほぼあの順番にできた感じ。
熊田:コンセプトがないのがコンセプト、みたいな感じでもあったので。
飯笹:つくる段階で、テーマとかいいよって話になって。
高岩:マジでバラバラです。
ザ・スロットルは新時代の鍵を握っているのか
飯笹:僕はCDをつくるのも、決まったバンドに入ってやるのも初めての経験だったので、挑戦の年でした。僕らのイメージするスロットルがようやく始まる感じなので、とにかく聴いてほしいです。
成田:これを聴いてもらって、今年のスロットルに期待してほしい。今年の動きを見てまた『A』に戻ったときに、“なるほどね”ってなると思うので。
飯笹:“Rock This Town”しかり、“どうだい?”という感じのメッセージがあると思いますし、Machineが入ったことで変わったスロットルの新しいサウンドを多くの人に聴いてほしい。
熊田:日本で例えばキャロルとかBOOWYとかサザンとか。そういうパイオニア的な人たちの最初は、アンダーグラウンドだったと思うんですね。僕らはパイオニアになるべくやってるし、その形が出せたと思うんで、新しい世界を見たかったら僕らを観に来てくださいって感じです。
高岩:大正ロマンというか、アメリカニゼーションのあと、基本的にエビバディが聴いている音楽は商品で、その商品はつくられたパッケージであり、いろんな大人たちが頭を使って落とし込んでいくものじゃないですか? そういうものに対してのアンチテーゼなので。だから曲もバラバラだし、今までのザ・スロットルの世界からかけ離れた惑星の話を今回の『A』ではしてる。なので『ザ・スロットルの第一印象はこれでいいです』って感じです……うまく言えないですけど。あとは過去を遡ってもらって、こいつら意味わかんねーことやってんなでもいいですし、引き続き僕らは意味わかんねーことをやりまくる。“理由ある反抗”、横文字にしたら“レベル・ミュージック”として。とりあえずカッコいいアルバムができたんで……買えよって感じです。
どこか伏線があるアルバム『A』。アリサさんが言ったように、このアルバムの“答え合わせ”が必要で、高岩遼はインタビューの最後に、「それは3月にやってくる」という言葉を残した。
19世紀にヨーロッパで風潮した“ロマン主義”の影響から日本で広まった“大正ロマン”。15年と短かった大正という激動の時代において、この言葉は〈個人の解放〉や〈新時代への理想〉を表していた。そのモチベーションは、新たな一歩を踏み出したザ・スロットルにも少なからず当てはまるだろう。
ザ・スロットルは激動の時代を乗り越え、新時代の旗手となることができるのだろうか。彼らはすでにそのための鍵を握っているのかもしれないし、いちリスナーとして、それが今年見られることに今からワクワクしている。
Text:ラスカル(NaNo.works)
Photo:横山マサト
取材協力:東京キネマ倶楽部(http://www.kinema.jp/)