ビッケブランカが「ウララ」の歌詞を通じて考える、“美しい音楽の成り立ち”とは?

ビッケブランカが「ウララ」の歌詞を通じて考える、“美しい音楽の成り立ち”とは?(1)

 

mysoundが注目する様々な分野のアーティストや著名人に音楽への思い入れを語ってもらうインタビュー・シリーズ。今回は4月18日に4曲入りの1stシングル「ウララ」をリリースするビッケブランカの登場です。マイケル・ジャクソンやMIKA、クイーンなどを思わせるミュージカルタッチのカラフルな音楽性で注目を集めた彼は、2016年にメジャー・デビュー。昨年は初のフルアルバム『FEARLESS』をリリースし、<FEARLESS TOUR 2017>を成功させています。2018年の第一弾リリースとなる「ウララ」は、出会いと別れの春を温かい雰囲気で切り取った楽曲。その制作風景についてたっぷりと話してもらいました。

 

ビッケブランカが「ウララ」の歌詞を通じて考える、“美しい音楽の成り立ち”とは?(2)

INTERVIEW

─昨年はデビュー・アルバム『FEARLESS』をリリースして、10月の赤坂BLITZ公演で<FEARLESS TOUR 2017>のファイナルを迎えました。これはビッケブランカさんにとってどんな経験になったのでしょうか?

僕はあまり色んなことは考えないタイプですけど、去年は「出してよかった」と思えるアルバムを出せて、その後みなさんが楽しそうな表情をしてくれているのを見て「アルバムを作ってよかったな」と感じられるいいツアーもできました。もちろん、フェスで「これまで知らなかった人たちが知ってくれる」という機会もすごく好きですけど、自分のツアーには自分の曲を聴きに来てくれる人たちばかりが来てくれるので、フェスとはまた違う楽しさがありますよね。僕にとってはそのどっちもが総じて「楽しい/嬉しい」という感覚で、ずっと変わらずにやりたいことだけをやれているな、と改めて感じられていると思います。

─2018年の第一弾リリースとなる今回の「ウララ」は、この季節にぴったりの春の歌になっています。そもそも「春」という季節にはどんなイメージを持っているのでしょう?

きちんと向き合ったことのある季節ではなくて、「過ごしやすくなる」というぐらいのイメージだったんですけど、今回改めて振り返ってみると、「別れ」があり、「出会い」がある季節ですよね。学生時代のことを思い出したりもしたし、自分自身、上京して音楽をはじめたのも春だったし─。あまりにも色濃い季節だからこそ、これまで向き合ってこなかった季節だったのかもしれないです。「雪が好きだから冬の歌を作ろう」ということはあっても、春の歌は作ったことがなかったというか。だから今回、それをやってみたんです。去年のツアーが終わって、次はシングルがいいんじゃないかという話になったときに、リリース日が4月だったので「これは春の歌にしよう」と。季節に紐づけた歌は最近あまり作っていなかったこともあって、今回はそういう曲を作ってみようと思いました。

─今回の「ウララ」は「出会い」と「別れ」で言うと、どこか「出会い」の方に向かっていくような、ポジティブな雰囲気が感じられる曲になっていると感じました。

サウンドとして「そう聴こえてもらわないと困る」という部分はあります(笑)。僕は「別れをただ悲しむだけの歌」というのは、そもそも生まれる必要はないと思っているんですよ。それを通して希望的なものだったり、何かが生まれたりしないと、音楽や芸術に意味はないと思っていて。そういう意味で、そう聴いていただいたことはすごく嬉しいことです。でも、僕自身はいつまでも別れを「辛いなぁ」と引きずったり、「あの頃はダメだったなぁ」とずっと懐かしんだりしてしまう性格で(笑)。実は今回の「ウララ」も、歌詞だけを見ると「春だからみんなでイエーイ!」という種類のものではないですよね。でも、そんな内容の曲がポジティブなものに“聞こえる”ということが重要なんです。哀しいことを歌いながらも、外面はそうはなっていないことが大切だというか。だからこそ、重苦しく聴こえないことは重要でした。歌詞に自分が出て来るとどうしても「別れ」がテーマになってしまうので、サウンドはもっと軽快にしようとイントロのストリングスを思いついて、そこから勢いのままに作りました。実際に形にする前にじっくり考えて、作りはじめたら数時間で出来上がった、という感じですね。

─冒頭“Oh, my”というミュージカルのようなセリフパートもとてもユニークです。

僕はよくやることですけど、今回も自然と出てきました(笑)。僕は歌詞も含む曲の世界観を頭の中で全部作って、それが完成したら実際の音に落とし込んでいくんですけど、そうすると機械的な制限がないので、曲の展開も自由に考えることができるんですよ。この部分もそんな風に出てきたもので、今回はあの気楽な雰囲気が合うと思ったんですよね。

─ビッケブランカさんの音楽はミュージカル的だと言われることが多いと思いますが、この雰囲気はどこから来ているのでしょうね?

それが、自分では分からないんですよ。普段からミュージカルを観に行くようなことはないですし、自然とそういう形になっているというか。僕は広く浅く色々な音楽を聴いてきたタイプの人間だと思うので、それが自然にこういう形になって出てきているんだと思います。音楽的な柱は2つあって、大好きなマイケル・ジャクソンMIKAに関しては、彼らが何を言いたいか、英語でどういう言い回しをしているか、どんな生い立ちだったということを全部押さえていますけど、他の音楽に関しては、とにかく楽しいからずっと聴いているという感覚で。だから、自分でも何がどう影響しているのかが、分からないんです(笑)。両親から教えてもらったものも含めて、これまで色んな音楽を聴いてきたことが、偶然こういう音楽性になっているんだと思います。

─そしてもうひとつ、「ウララ」には昭和歌謡的な要素が入っているのも印象的でした。

僕の家は洋楽好きの母親と邦楽好きの父親だったこともあって、昔から日本の音楽にも好きなものがたくさんあったんですよ。それこそチューリップや財津和夫さん(チューリップのリーダー)の曲も聴いていたし、イルカさんもビリー・バンバンも、太田裕美さんも聴いていたし。そういうものが、とりとめもなく混ざっているんだと思います。今回はシングルなので、「何か意味ありげだよね」と雰囲気だけで伝える中途半端なものにするのではなくて、伝えたいメッセージはしっかり伝えたいと思っていましたけど、それをやっていたのが、昭和歌謡だったと思うんですよ。TV番組に歌詞のテロップが出ない時代でも、曲のメッセージがちゃんと伝わるものというか。だから、今回昭和歌謡の要素が出てきたのはとても自然なことで、歌詞の面でもそういう着地点を何となく目指していった感じはありました。

─歌詞には「色々あるけれど、一歩前に踏み出そう」というメッセージが感じられますね。

やっぱり、「イェイイェーイ!」という感じにはしたくなかったというか。そもそも、僕の場合、歌詞のテーマはいつも「どうやって別れを描くか」ということなんです。これは意図していなくても、ずっとそうで。今回の描き方は、それを踏まえたうえで「一歩前に進む直前の別れ」を描くということなんです。だから、描いているもの自体は別れですけど─。

─曲はとても温かい雰囲気が感じられるものになっている、と。

そうですね。別れを描いている曲でありつつ、聴いてくれたみなさんには前向きな感情を持ってもらえるというのが、音楽として美しい成り立ちだと思うんです。たとえば、僕の好きなアーティストでも、MIKAは特にそういう部分があると思いますし、マイケル・ジャクソンもブギーのような曲でも、辛い境遇にあることを何となく描写していたりして。同じように、僕が作る曲も憂いの中から生まれた音楽だという感覚があって、それだけはずっと失わないようにしようと思っていますね。それは今回のシングルに限らず、ずっとそうです。

─その雰囲気が春らしい形で出たのが今回の「ウララ」だということですね。一方、2曲目の「Get Physical」は、チア・コールのようなイントロからはじまる楽曲になっています。

この曲は、去年ツアーを終えてすぐの11月頃に作ったんですけど、僕は去年のツアーを終えて、めちゃくちゃ太ってしまったんですよ。その時期の自分のメンタリティを出発点にして、「ワークアウト」というテーマが出てきました。そこから、今みんながジムに行って聴いても楽しくなれるような曲になればいいな、と作っていった曲です。だから、主人公の女性に自分の気持ちも投影しつつ、いつも通り架空のストーリーを作っていきました。チア・コールの部分は、ラグビーのニュージーランド代表チーム「オールブラックス」から着想したものです。最初に観たのはすごく昔だったんですけど、オールブラックスは試合前にハカ(ニュージーランドの民族舞踏)を踊りますよね。それを観て、「この雰囲気で曲を作れたら面白いなぁ」と前から思っていて。だから、僕の中では「ハカ」から着想を受けて「チア」になったという感じだったんです。

─へええ、そうだったんですか(笑)。

だから、チア・コールの中にも「フン!」というハカっぽい要素が残っているんですよ(笑)。

─a-haの「Take On Me」のような80年代のテクノポップ風のシンセも印象的ですね。

特に意識してテクノポップ風の要素をこの曲に入れたわけではないんですけど、80年代の音楽は母親が好きだったので以前から聴いていました。MIKAも80年代のテクノっぽい音を色々と使っていますよね。そういえば以前、それを母親が聴いて「こういう音楽、80年代にいっぱいあったよ」と言っていたことがありました。

─そして3曲目の「Black Rover」は、ストレートなギター・ロックでとても新鮮でした。

この曲はTVアニメ『ブラッククローバー』(原作は『週刊少年ジャンプ』で連載中の人気作。アニメ版は2017年10月より放送中)の新しいOPテーマとして書き下ろした楽曲なので、アニメの世界にどっぷり浸かって、作品の世界を体現するような方向に行ききった感じです。「アイ・アム・アニメ!」「アイ・アム・『ブラッククローバー』!」という気持ちで、すべてを作っていきました。だから、この曲ではピアノのようなビッケブランカらしい要素は意識せずに、いかに作品のための曲になるか、ということを考えていましたね。今までビッケブランカとしてこういう曲を出したことはなかったですけど、僕は高校時代にこういう曲ばかりを聴いていた時期があったんですよ。それもあって、「あの頃こういう曲をよく作ってたな」と思いながら、ギターがたくさん出てきて、疾走感があって、悲壮感もある─というオーダーに全力で応えていきました。それができるのは、「どんな曲を作ってもビッケブランカらしさが出る」という自信があったからだと思いますね。

─確かに、直球のギター・ロックなのにビッケブランカさんらしさも感じられますよね。

「ピアノが鳴っていなかったらビッケブランカじゃない」ということではないと思うんです。アニメをよくするために振り切ってみて、でも自分らしい曲にもなったということは、「いまだに自由に音楽を作れる環境にいるんだな」という自信にも繋がりました。

─そして4曲目の「今ここで逢えたら」は、「ウララ」と対になるような、別れの切なさを前面に出した春の歌になっています。

この曲は19歳ぐらいの頃にアレンジも含めてすべて完成していたんですよ。その当時のままを10年後にレコーディングしました。最初に作った当時はピアノを弾きはじめたばかりで演奏もつたなかったし、歌詞もまだまだ上手くはなかったんです。でも、そのままですごく均整が取れているというか、歌詞に深みを持たせるとアレンジのつたなさが目立つし、アレンジを豪華にすると歌詞のつたなさが目立つという感じで、昔のままの方が曲としていいと思ったので、そのままリレコーディングしました。当時の僕がどんなことを感じてこの歌詞を書いたのかはもう覚えていないですけど、あの頃はまだレーベルにも入っていなかったですし、仕送りをもらって毎日下積み生活をしていた頃で。それこそ何の制約もなく、自由に音楽を作っていた時期だったと思うんです。だから、その頃ならではの気持ちが曲にもこもっているんじゃないかと思って、そのままのアレンジで出してみました。

─それが今回日の目を見たというのは、感慨深いものがありそうですね。

そうですね。歌詞に「さくらの花」という言葉が入っていたので、「ここしかないだろう!」と思って入れた形です。「ウララ」も「今ここで逢えたら」も春の歌で、両方とも別れを歌ってはいますけど、その別れの歌い方がそれぞれ違いますよね。でも実際には同じ人間が歌っているという部分に聴く人が二面性を感じてもらえるかもしれないですし、今回のシングルが「春の歌ではじまって、春の歌で終わる」という構成もすごく締まると思いました。

─「春ではじまって、春で終わる」作品でありながら、それぞれの楽曲はバラエティ豊かで、通して聴いていても飽きない作品になっていると思いました。これまでの作品もそうですが、ビッケブランカさんの音楽に色々な要素が詰まっているのはなぜだと思いますか?

たとえば、さっき「Get Physical」は80年代のテクノポップ調の曲だと言ってくれましたけど、それは実際にそうだと思うんですよ。でも、僕自身はそういう音楽をちゃんと掘っている人間かというと、そうでもないんです。ある意味80年代のテクノポップのうわべをすくっているということで。僕は他の音楽に関しても、そういうところがあるんです。ただ、もっと根っこの部分で「音楽をやる姿勢」「音楽をやる理由」は、ずっとぶれないものを持っていたいと思っていて。それがあるからこそ、色んな音楽の色々な美味しいところをどんどん吸収できるのかもしれないですね。その根本的な部分に自信があるからこそ、色んなものに興味を持てるというか。もともと僕は、ひとりのアーティストが同じような音楽をずっとやっているのがあまり好きではなかったんです。もちろん、その素晴らしさもありますけど、僕自身はひとつの作品に色々な種類の音楽が入っているようなものに興味を持つことが多くて。自分の音楽性がここまでとっ散らかっているのなら、「とっ散らかっているけど、一本芯が通っている」ということが、ビッケブランカの音楽であればいいと思うんですよ。

 

ビッケブランカ インタビュー

NEW RELEASE

ウララ

ビッケブランカ

2018.04.18(水)Release

avex trax/AVCD-94050B/¥2,000(+tax)

 

DISCOGRAPHY

 

PROFILE

1987年11月30日生まれ、愛知県出身のシンガー・ソングライター/ピアニスト。両親の影響で日本のフォークと洋楽に慣れ親しみ、小学校高学年から作曲を開始。大学進学のために上京し、バンドでのギター&ヴォーカルを経て、ピアノへ転向しソロ活動をスタート。2014年に『ツベルクリン』、2015年に『GOOD LUCK』とミニ・アルバム2枚を発表。ミュージカル的な要素を採り入れたツアーでも注目を浴びる。2016年の3枚目のミニ・アルバム『Slave of Love』でメジャー・デビュー。2017年に初のフル・アルバム『FEARLESS』をリリース。

​​​​​ビッケブランカ

 

LIVE

「ビッケブランカ ULALA TOUR 2018」

6月1日(金) 北海道・札幌cube garden 開場18時/開演19時

6月8日(金) 宮城・仙台enn 2nd 開場18時/開演19時

6月15日(金) 福岡・福岡BEAT STATION 開場18時/開演19時

6月22日(金) 愛知・名古屋ReNY limited 開場18時/開演19時

6月23日(土) 大阪・梅田Shangri-La 開場17時/開演18時

6月29日(金) 東京・SHIBUYA TSUTAYA O-EAST 開場18時/開演19時

 

詳細はビッケブランカオフィシャルサイトをご確認ください。

http://vickeblanka.com/

 

Text&Interview:杉山仁

Photo:山口真由子