「まつりの作り方」盆踊りとポップスの交差点~中野駅前大盆踊り大会(東京都中野区)


現在、盆踊りの世界ではさまざまな改革が進められています。過去2回の本連載では、都市の祝祭としての盆踊りの可能性を探るべく、野外フェスやブロックパーティーを経由した「外側」からの改革に挑む2つの祭り・盆踊りを取り上げました。今回は日本民踊の世界、つまりは「内側」からの改革を進めるひとりの人物に焦点をあててみましょう。

今回ご登場いただくのは、1981年生まれの鳳蝶美成(あげは・びじょう)さん。近年Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅがかかる盆踊りとして注目を集めている「中野駅前大盆踊り大会」の実行委員長を務める一方で、日本民踊鳳蝶流の家元師範として各地の教室で指導。さまざまなメディアにも出演し、昨年はauのテレビCMに使用された“三太郎音頭”の振り付け・指導も担当しました。まさに日本民踊・盆踊りの世界におけるイノベイターである美成さんは、盆踊りにどのような変革をもたらそうとしているのでしょうか。彼の地元である東京・中野区でお話を伺いました。

「まつりの作り方」第3回「中野駅前大盆踊り大会」(東京都中野区)」

地域の労働のなかや結婚式などお祝いの席、盆踊りや豊作祈願の祭りといった伝統行事の場で踊られてきた日本民踊の指導者である母のもと、6歳から踊りを習っていたという美成さん。高校時代には演劇にも関心を持ち、大学では演劇学科の演技コースに進みますが、「当時は民俗舞踊の世界にも若い方がいなくなってしまって、継承する責任感みたいなものも感じるようになった」ことからふたたび日本民踊に軸足を移します。

転機となったのは、大学の卒業論文のテーマとして日本三大盆踊りのひとつである「郡上おどり」(岐阜県郡上市八幡町)を選び、現地で生演奏の盆踊りを体験したこと。それまではテープ音源で踊る盆踊りしか知らなかった美成さんは、「現地で体験することによって、演奏のライブ感や踊り手のエネルギー、歌の背景について考えるようになった」と言います。その体験は、のちに「中野駅前大盆踊り大会」へと結びついていくこととなります。

まつりの作り方 第3回「中野駅前大盆踊り大会」(東京都中野区)(1)

大学卒業後、日本民踊・新舞踊協会の指導員として忙しい毎日を送っていた美成さんのもとに、テレビ朝日の人気番組『タモリ倶楽部』からとある依頼が舞い込みます。それは「殿さまキングス“ハワイ音頭”や大泉滉 “UFO音頭”などの歌謡音頭に合わせ、振りを付けてくれ」というものでした。番組の反響は大きく、番組を見た『はなまるマーケット』からは「AKB48やEXILEの楽曲で踊ってくれ」という依頼も。美成さんはそうしたテレビ番組をきっかけとして、本格的に歌謡音頭やポップスに振りをつけていく作業を進めていくことになります。その背景にあったのは、盆踊りの現状に対する危機感でした。

「そういう曲に振りをつけるのは、すごくいいことだと思ったんですよ。お祭り自体も少なくなってきたし、盆踊りで踊る人もどんどん少なくなっていたんですね。若い人は“東京音頭”すら踊れない。若い世代が参加してくれないと(盆踊りも)活気がなくなっちゃいますからね」
 


美成さんの振り付けには2つのパターンがあります。ひとつはオリジナルの振り付けを創作したもの。もうひとつは既存の盆踊り唄の振り付けを移植したものです。美成さんはこう話します。

「創作は創作で『歌の世界観にどうやって日本の踊りのテイストを持ち込めるのか』というおもしろさがあったんですね。マイケル・ジャクソンの“Thriller”はそうやって振りをつけたものです。逆にももいろクローバーの“ココ☆ナツ”は、“黒石よされ”(青森県民謡)の振りの一部を使ってます。小節の数と振りの数を合わせておくと、サビでちょうど振り付けのメインのところがくるような流れを作ることができるんですね。たとえば、中田ヤスタカの曲は四小節×4でひとつの歌が展開されていくことが多いので、郡上おどりの“かわさき”で踊ることができるんです(笑)」

たとえオリジナルの振り付けを創作するとしても、美成さんの振り付けには民俗舞踊らしい足の運びや手の動かし方が残されています。盆踊りの空間で踊ってこそ楽しいもの、踊りの輪のなかで踊ることで快楽を感じられるもの。そこがはっきりと意識されていることは、「盆踊りをいかに更新していくか」という点においても大変重要なことといえます。
 

生演奏で踊る贅沢 「一番大事なのは『みんなで楽しもうぜ』というスタンス」

生演奏で踊る贅沢 「一番大事なのは『みんなで楽しもうぜ』というスタンス」(1)

美成さんが発案者となり、中野駅前大盆踊り大会がスタートしたのは2013年のことでした。
冒頭にも書いたように、この盆踊りは「Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅがかかる盆踊り」としてSNSを中心に話題を集めましたが、もうひとつ重要な売りがあります。それが「中野区民謡連盟の生演奏で踊れる」ということ。東京都内の盆踊りは音の悪いスピーカーから流れる録音音源で踊られることがほとんどですが、中野駅前大盆踊り大会では“東京音頭”や“炭坑節”など盆踊りスタンダードのほか、ご当地音頭である“中野音頭”も生演奏で披露。そのため、熱心な盆踊りフリークの間でも支持を集めてきました。

「たとえ郡上おどりをどれだけ美しく踊ったとしても、地元の方には敵わないんですよね。そこはリスペクトし、参考にさせていただきつつも、盆踊りを通じて自分の地元を活性化していくべきじゃないかと思うようになったんです。そのうちだんだんと『地元で盆踊りをやりたい。やるんだったら生演奏でやりたい』と自分のなかでだんだん欲が出てきまして(笑)。ウチ(鳳蝶流)は中野区民謡連盟に所属してるんですけど、民謡連盟の先生方からは10年ぐらい前から『ウチの地方(じかた:伴奏を受け持つ演奏陣)と一緒にやってよ』と声をかけてもらってたんですね。それであるとき、勇気を出して会長にこう言ったんですよ――『会長、生演奏で盆踊りをやりません?』と。そうしたら、『あら、いいわね』と拍子抜けするほど即決で(笑)」

生演奏で踊る贅沢 「一番大事なのは『みんなで楽しもうぜ』というスタンス」(2)生演奏で踊る贅沢 「一番大事なのは『みんなで楽しもうぜ』というスタンス」(3)

参加される中野区民謡連盟の地方の人数は毎年20人から30人ほど。紅白歌合戦の舞台にも上る名手も含まれるそうで、都内有数の贅沢な盆踊りといえるでしょう。スタッフはお弟子さんや民謡連盟の方々が務め、飲食ブースも地元の方々が中心。「盆踊りを続けるなかで、自分もずいぶん知り合いが増えました」と、美成さんは笑います。

また、生演奏の盆踊りタイムとともに、中野駅前大盆踊り大会の特徴となっているのが、先述したようにさまざまなポップスがかかるということ。きゃりーぱみゅぱみゅの「PONPONPON」、Perfumeの「Baby Cruising Love」、黒うさP「千本桜(杵家七三社中バージョン)」、サザンオールスターズ「希望の轍」、AKB48「恋するフォーチュンクッキー」など、「千本桜」を除いて和風テイストはまったく感じられない楽曲ばかりですが、その絶妙なミスマッチ感覚が多くの盆踊らーたちを虜にしているようです。​​​​​​​

こうした盆踊りとポップスのクロスオーバーは近年各地で見られるようになりましたが、一部の地域の盆踊りでは80年代から荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」やボニーM「Bahama Mama」などが採用されていた例もあり、そのクロスオーバーの歴史は決して昨日今日のものではありません。美成さんの試みはそうした歴史の延長上にあるものでもあるわけですが、荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」で踊る盆踊りが名古屋の日本民踊研究会から始まったように、美成さんの試みが中野区民謡連盟/鳳蝶流という盆踊りの「内側」から起こったものであることに意味があります。地域社会と民踊研究会などの団体によって支えられている旧来の盆踊りの世界と、パフュームやボカロに象徴される若者たちの世界は通常なかなか混ざり合うことはありません。そうした意味でも、両者の架け橋となる美成さんのような存在は、革新を進める現代盆踊りにおいて極めて重要なものといえるのです。

「もともとの考え方としては、中野区民謡連盟の先生方に休んでいただく時間としてJ-POPやアイドルの曲でみなさんに踊ってもらおうと思ったんですよ。なおかつ、生演奏の時間帯に踊っていただいたものを、そのままJ-POPやアイドルの曲に移植しようと。だから、“千本桜”の振り付けは“中野音頭”とまったく一緒ですし、“Baby Cruising Love”は“相馬盆唄”、“希望の轍”は“炭坑節”。基本的にこのあたりの振り付けは四分の四拍子か四分の二拍子なので、ポップスとはだいたい合うんです」

「Baby Cruising Love」を「相馬盆唄」の振りで踊る――そう書くと少々コミカルな印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、案外このようなところから新たなダンス・カルチャーは生まれてくるもの。事実、その反響は熱狂的なものだったといいます。

「ツイッターには『盆踊りで“千本桜”がかかってるよ!』なんて投稿もあって、“中野音頭”以上に注目を集めちゃうこともありました(笑)。でも、“千本桜”を踊れると、“中野音頭”も踊れるようになるんですよね。若い世代にとってはやっぱりポップスの曲のほうが踊りやすいですから。演奏の時間になっても踊りの輪に若い世代がたくさん残っているので、驚かれる先生もいらっしゃいましたね」

中野駅前大盆踊り大会はこの夏で6回目の開催を迎えます。今年も夏に向けて慌ただしい日々を送る美成さんから、これから祭りを始めようという読者へのメッセージを――。

「最終的には、どうにかなることはどうにかなるし、どうにもならないことはどうにもならない(笑)。近所の方々や関係者に頭を下げにいって、無事に終わったらお礼をすること、資金集めなどは『どうにかなること』。『どうにもならないこと』というのは天候だったり、突然のトラブルですね。そういうものにひとつひとつ向き合い、体当たりしていかないといけない。そのガッツがあれば何でもうまくいくと思うんですよ。あと、盆踊りや祭りの場合、綺麗に踊ることだけがすべてじゃないんです。日本に限らず、楽しく躍動的に踊るのが民俗舞踊の原点。親しみやすくて、一般の人でも参加できるものなんですよね。だから、基本的なスタンスは『みんなで楽しもうぜ』。それが一番大事なことだと思いますね」

生演奏で踊る贅沢 「一番大事なのは『みんなで楽しもうぜ』というスタンス」(4)​​​​​​​


中野駅前大盆踊り大会の開催情報はこちらでチェック!
http://nakano-bonodori.com/


Text:大石始
写真:Keiko・K・Oishi(鳳蝶美成氏分)