Californian Grave Digger~極私的ロックドキュメンタリー映画5選 (ソウル&ファンク編)~

 

ポップカルチャーの世界は常にファッションやアート、そして映画と有機的にリンクし、温故知新を繰り返しながら変化し続ける。そして、その変化と進化が最も顕著に表現される大衆娯楽=ポップカルチャーから見えてくる新たな価値観とは何かを探るべく、日本とアメリカ西海岸、時に東南アジアやヨーロッパも交えつつ、太平洋を挟んだEAST MEETS WESTの視点から広く深く考察する大人向けカルチャー分析コラム! 橋のない河に橋をかける行為こそ、文化のクロスオーバーなのである!!

民族的音楽性の追求と進化が繰り返されたブラックミュージックの底力

ロックンロールを主題としたドキュメンタリー映画/映像を、極私的な観点から5本チョイスしてレビューを試みるシリーズも第3回目。今回は、これまでのパンクロック~ヘヴィーメタルの流れをぶった斬り、ググッと視点を変えてブラックミュージックのドキュメンタリー作品にスポットを当ててみたい。

そもそもの話として、ロックンロールの始祖は(諸説あるが)、南北戦争に従軍していたアフリカ系アメリカ人、アフロアメリカンの兵士たちが戦場で興じた音楽、いわゆるジャズ・ミュージックやリズム&ブルースが源流にあると云われていることは、過日、惜しまれつつも長寿を全うしたチャック・ベリーを例に出すまでもないだろう。

ロックはエルビス・プレスリーからビートルズ、ベンチャーズに引き継がれ、第二次世界大戦後に誕生した白人音楽文化として今日まで定着した感があるが、その源流を辿ればブラックミュージックに行き着くのは、多くの評論家や研究者の意見としても共通していることだ。しかし、別の観点もある。ブラックミュージックが白人に奪われたという見方だ。奴隷としてアフリカ大陸から強制的にアメリカに連行された人々が、望郷の思いと民族、人種としてのアイデンティティを忘れないため、そして辛い労働と差別に立ち向かい、自らの誇りを鼓舞すべく生まれた音楽がロックの原点であるならば、その魂を「奪われた」と捉えるのは当然かもしれない。そこで更なる民族的音楽性の追求と進化が繰り返され、本来のブラックミュージックであるリズム&ブルースやジャズが、主にアフロアメリカンの通う教会で演奏されていたゴスペル・ミュージックと融合。その結果、決して白人には真似できないジャンルに行き着いた……それがソウル/ファンクミュージックの背骨ではないかと、筆者は解釈している。

また、ソウル/ファンクミュージックを理解するには、北米大陸における地域性も重要だ。北部、南部、そして西部で生まれたソウルミュージックには、どれも非常にオリジナリティがあり、それを一括りに語ってしまうのは些か乱暴ではあるし、もっと言えば抑圧や差別に対する抵抗や反逆のメッセージが込められていても、基本的にはポップミュージックであることが前提となるのが、パンクやヘヴィーメタルといった白人音楽とは決定的に違う部分である。これは、後に誕生するHIP HOPにも共通しているが、そこに関して筆者はやや門外漢であるため言及は退けておきたい。

またしても長い前置きになり恐縮だが、ソウル/ファンクミュージックの背景には、そのような歴史とアイデンティティが流れていることを踏まえつつ、これより紹介するドキュメンタリー作品に向き合ってほしいと願う次第であります!

 

『永遠のモータウン』(2002年)

 

多くのブラックミュージックのヒットナンバーと歴史に残るアーティストたちを送り出してきたレーベルであるモータウン・レコード。ミシガン州はデトロイトにて、1959年にベリー・ゴーディJRによって設立されたこのレーベルは、アフロアメリカンのアーティストに拘らず、人種間の音楽的融合を積極的に行うことでミュージックシーンに多大なる功績を残している。

所属アーティストたちの名を挙げればキリがないが、言わずと知れたジャクソン5、ライオネル・リッチー、スモーキー・ロビンソン、ダイアナ・ロス(の在籍していたスプリームス)、実父によって射殺という非業の死を遂げた天才シンガー、マーヴィン・ゲイ、少年時代よりその類稀なる才能を開花させていたスティービー・ワンダー、ギャンブル依存症により破産宣告も経験したグラディス・ナイト率いるグラディス・ナイト&ザ・ピップスなどなど錚々たるメンバーであり、まさにソウル/ファンクミュージックの中心部といえる。残念ながら80年代に映画製作ビジネスに乗り出して以降、失速が始まり1998年にユニバーサル・ミュージックに買収されたことで、レーベルの歴史は終焉するが、40年以上に渡りアメリカン・ポップスの歴史を支え続けた功績は、決して忘れられることはない。

 

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2002年に公開されたドキュメンタリー映画『永遠のモータウン』(原題『Standing in the shadow of MOTOWN』)は、レーベルの裏方として活躍していたレコーディングバンドであるファンク・ブラザーズにスポットを当て、如何にして"モータウン・サウンド"と呼ばれる独自の音楽性が作り上げられたかを、当時関わったスタッフやアーティストたちの証言を交えつつ検証する。作りとしては映画作品というよりは「プロジェクトX」のようなTVドキュメンタリーのようなノリだが、これまで表に出て語られる機会が極端に少なかったファンク・ブラザーズの存在を、世に知らしめたのは大きい。

モータウンを取り扱った映画としては、ドキュメンタリーではないが、スプリームスの偉業をテーマにした『ドリームガールズ』(2006年/元はブロードウェイのミュージカル)もオススメしておきたい。登場人物は架空の設定ながら絶叫系ソウルシンガー、ジェームス"サンダー"アーリー役のエディー・マーフィーの熱演に注目だ。かつてはエディーも、モータウンのアーティストであるリック・ジェームスのプロデュースにより「Party All The Time」という迷曲をリリースしている蛇足情報も付け加えておきたい。

 

Party All the Time
Eddie Murphy
 
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『永遠のモータウン コレクターズ・エディション』
発売元:ジェットリンク
販売元:ポニーキャニオン
価格:DVD¥3,800(本体)+税、Blu-ray¥4,800(本体)+税
©2002 Elliot Scott Productions LLC ALL RIGHTS RESERVED
 

『SOUL TO SOUL 魂の詩』(1972年)

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1971年、西アフリカのガーナにて開催されたビッグイベントの模様を収録したソウルミュージック系ドキュメンタリー映画の傑作だが、長らくソフト化されておらず“幻の映画”と呼ばれていたのが、この『SOUL TO SOUL 魂の詩』である。コンサートに出演したアーティストは、アイク&ティナ・ターナー、ウィルソン・ピケット、カルロス・サンタナ&ジプシー・クィーン、エディ・ハリス&レス・マッキャン、親子グループとして知られるザ・スティップル・シンガーズなどなど。演奏時間は10時間に及び、遠いアメリカ大陸に凱旋してきたブラック・ミュージシャンたちの魂の叫びは、ロック、そしてソウルミュージックに初めて触れる人々が大半だったガーナの地に刻み込まれるに至る。もちろんコンサート映像だけでなく、アーティストたちへのインタビューや、彼らを歓迎するガーナの現地民による民族音楽、それに釣られて仕事そっちのけで踊り出すセキュリティなど、音楽が異国の人々の心を一つにする光景には、単なる感動を超えるサムシングがある。

ロックバンドとして参加したサンタナによる「Black Magic Woman」の演奏は、現地の空気感や観客たちの土着的かつ熱狂的なダンスと混じり合って呪術の如き雰囲気を醸し出し、アイク&ティナ・ターナーは、ミニスカートばりばりのハイテンションなダンスとバックコーラスを披露するThe Ikettesと共にステージに登場し、名曲「River deep - Mountain high」を文字通り熱唱。これは、伝説のパフォーマンスと断言できる。

 

Black Magic Woman / Gypsy Queen
Santana
 
River Deep Mountain High
Ike And Tina Turner

 

トリを飾るウィルソン・ピケットが「Land of 1000 Dance」を歌えば、観客たちのボルテージも最高潮に達し、アーティストとオーディエンスが入り乱れて踊るピースかつアグレッシブなステージングでコンサートは幕を閉じる。およそ数あるソウルミュージックのドキュメンタリー映画の中でも、最高で最強の作品の1つと筆者は考えているが、残念ながら日本語版DVDは現在廃盤。かろうじて海外版なら入手可能であるものの、やはり字幕付きで観てナンボの映画でもあるので、1日も早く再発してほしいと願う次第である。

 

『SOUL POWER ザイール'74 伝説の音楽祭』(2008年)

 

もう1本アフリカが舞台の作品を取り上げよう。時は1974年。ボクシング史上に残る世紀の対決として有名な、ザイールの都市キンシャサで開催されたモハメド・アリ対ジョージ・フォアマンの試合興行(プロデューサーはドン・キング)に先駆けて行われた、超豪華アーティストたちによる夢の饗宴を収録したドキュメンタリー映画だ。このフィルムはアリの怪我で世紀の対決の日程が延期したため長期間お蔵入りとなっており、コンサートのほんの一部分だけが、アリの自伝映画『モハメド・アリ かけがえのない日々』(1997年)に収録されただけになっていた。しかし、このフィルムの存在を知った同作の編集であるジェフリー・レヴィ=ヒントが、「このまま埋もれさせるわけにはいかない!」と立ち上がり、135時間の記録映像を再編集して完成させたのである。

 

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モハメド・アリやドン・キングら強面勢のハイテンションぶりも見物

 

出演アーティストは、超が付く全盛期の"ソウルの帝王"ジェームズ・ブラウンを筆頭に、B・B・キング、ザ・スピナーズ、ビル・ウィザース、ザ・クルセイダーズなどアメリカ合衆国からの招待アーティストに加え、地元アフリカからは、タブー・レイ・ロシュロー、ヒュー・マケセラ、ミリアム・マケバらが共演。さらに公民権運動家として活躍したストークリー・カーマイケルや今大会のプロモーターであるドン・キング、そしてモハメド・アリまで! もはや“豪華”とか“勢ぞろい”といった言葉が陳腐に聞こえるほどのメンツを前にして、震えるしかないのである。

 

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このような素晴らしい記録が、30年以上眠っていたことも驚きだが、それだけの年月を経て蘇るというのもまた現代の奇跡だ。本作で、ほぼ主役級の存在感を発揮するJBは、当時のヒットナンバーを惜しげもなく披露。表題曲でもある「Soul Power」を始め、「Payback」、「Cold Sweat」、「Say it Loud (I'm Black and I'm Proud)」など、超名曲を歌い上げ、ブルース・ギタリストの神、B・B・キングは「Thrill is Gone」をネットリと熱唱。アフリカのローカルミュージシャンたちのパフォーマンスも強烈なインパクトであり、まさにあの時起こったミラクルを鮮明に復活させている。当時は決して観ることが叶わなかった幻のコンサートと、試合までの舞台裏を語る関係者たちの証言は、北米の音楽史に残ると同時にアフリカの音楽史においても大変に貴重。ブラックミュージック好きは、必ず観るべき一本だと思う。

 

『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』(2014年)

©2014 Mr. Dynamite L.L.C.

 

JBの名前が出たところで取り上げるのは、帝王の生涯を追ったドキュメンタリー作品『ミスター・ダイナマイト』だ。JBのドキュメンタリーは生前から何本も存在するが、まさしく決定版といえるのが本作である。何しろプロデューサーにミック・ジャガー! 資料提供には、JBのあらゆる記録を保管するジェームズ・ブラウン・エステートが全面協力! また、本作が公開されたのが、JB没後10年という節目であることも重要だ。

 

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ソウル/ファンクのミュージシャンとしてのJBだけでなく、公民権運動の活動家としての側面にも注目。母親に捨てられ不遇の少年時代を過ごし、幾度も刑務所にブチ込まれながら、そこで音楽と出会い人生の意味を見出す流れは、単なる自伝映画を超えたスペクタクルに満ちていると言える。スーパー・ヒットナンバー「SEX MACHINE」でコーラスを務めた相棒ボビー・バードを始めとする関係者インタビューも実に興味深く、JBの生きた時代と音楽に映像を通してチャネリングできる。ソウル/ファンクミュージックに興味のない人にこそ観てほしい、近年稀に見る音楽ドキュメンタリー映画の傑作と太鼓判を押しまくりたい! ついでにカップヌードルのCM「ミソッパ!」も思い出してほしい次第である。

 

『ワッツタックス~スタックスコンサート』(1973年)

 

今回の原稿の大トリを飾るのは、数あるソウル/ファンクミュージック系ドキュメンタリー映画の中で筆者が最も愛する作品である。そのタイトルは『ワッツタックス〜スタックスコンサート』。1973年に公開されたアフロアメリカンたちの魂の咆哮を記録した、愛と怒りと悲しみ、そして希望が混在する超傑作だ。題名にある"ワッツ"とは、ロサンゼルスのゲットーと呼ばれる、主にアフロアメリカン系住民が暮らすエリアの名称である。

 

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そこにそびえ立つ象徴的なモニュメント、ワッツタワーを眺める光景がオープニングとなる本作は、1965年に公民権運動の真っ只中、白人警官による差別的逮捕事件をキッカケに発生した大暴動の舞台となったワッツ地区において、その7年後の1972年に開催されたスタックス・レコード主催のコンサートの模様を記録した内容となっている。

コンサートには、同レーベルに所属するアーティストたちが一堂に会し、「誰でも観れるように」と入場料は1ドルに抑えられ、約10万人の観客動員数を記録した。当時のメンフィス・ソウルを代表するレーベルであるスタックスの人気は絶大なるものがあり、応援に駆けつけたマーチン・ルーサー・キングJR暗殺後に公民権運動の旗手となったジェシー・ジャクソン師による感動的なシュプレヒコール"I am Somebody"や、それに続いて女性ソウルシンガー、キム・ウェストンの歌い上げるアフロアメリカンのためのアメリカ合衆国国歌「Lift Ev'ry Voice and Sing」に、思わず涙腺が緩んでしまうのは決して筆者だけではないはずだ。

 

 

出演アーティストは、テレビドラマ『SHAFT 黒いジャガー』のテーマソングで、アフロアメリカン初のグラミー賞を受賞したアイザック・ヘイズを筆頭に、ザ・スティップル・シンガーズ、アルバート・キング、ジョニー・テイラー、ルーファス・トーマスと愛娘カーラ・トーマス、禁じられた恋を情緒たっぷりに歌い上げるルーサー・イングラム、ド派手な衣装とアグレッシブな演奏で圧倒的なパフォーマンスを見せつけるBAR-KEYSなどなど。さらに映画監督のメルビン・ヴァン・ピープルズやコメディアンのリチャード・プライヤーが登場し、当時の社会背景やアフロアメリカンの置かれた状況を、痛烈なジョークを交えながら語ってくれる。本作は現在DVDで鑑賞可能だが、90年代にP-VINEからリリースされたVHSには歌詞にも対訳字幕が付いていたのに、DVDでは付いていないのが残念極まりない。できることならVHSバージョンの観賞を強くレコメンドしたい次第であります。

以上でソウル/ファンクミュージック編の5本のレビューは終わりだが、これはあくまで筆者が独断でセレクトしたタイトルに過ぎない。まだまだ素晴らしい作品はたくさんあるので、この記事を足がかりに更に多くのドキュメンタリー作品の存在を知る手助けになれば幸いである。


Text:Mask de UH a.k.a TAKESHI Uechi