第三十九回 源氏物語と音楽【名曲と美味しいお酒のマリアージュ】

 

音楽を気軽に楽しんでいただくため、毎回オススメの曲とそれに合わせたお酒をご紹介する連載【名曲と美味しいお酒のマリアージュ】。第三十九回は「源氏物語と音楽」、お酒は「朝芽生(アサヂヲ)」をご紹介します。

現在、放映中の大河ドラマ『光る君へ』は源氏物語の生みの親・紫式部を主人公に平安時代を時に華麗に、また時に残酷に描いています。ご存じのとおり『源氏物語』が誕生してから千年以上の年月が流れていますが、その間、この壮大な物語は数々の芸術作品を生み出すインスピレーションの元となってきました。

 

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(1)

 

古くは藤原定家による写本それ自体が一つの芸術作品とも呼べるものですし、能楽には『葵上』『夕顔』『野宮』など『源氏物語』に由来する作品が残されています。

1月末に国立劇場第208回邦楽公演『源氏物語音楽絵巻 ―演奏と朗読でたどる光源氏の生涯―』と題する公演が新国立劇場・小劇場で開催され、聴きに行ってきました。演目は次のようなものでした。

第七帖「紅葉賀」より舞楽「青海波」

第九帖「葵」より箏曲「葵の上」

第二十四帖「胡蝶」より管弦「皇麞急」、催馬楽「安名尊」

第三十四帖「若菜上」より箏曲「初若菜」

第四十帖「御法」より舞楽法会「陵王 ―法華経千部供養より―」

雅楽・箏曲・声明を朗読でつないだ公演で、その当時に奏でられていたであろう音楽を伝えるものから、近現代の創作曲までバラエティに富んだ内容で、つくづく『源氏物語』の影響の大きさを改めて思い知らされました。

その後4月には、第150回を迎えた、祇園甲部の公演「都をどり」の演目も『源氏物語』にちなみ『都をどり百五十回源氏物語舞扇』と題し行われました。「都をどりは、ヨーイヤサー」の掛け声で一斉に花道に登場する芸妓舞妓たち。その華やかさに春の訪れを感じます。第一景「置歌」から「多賀大社梅花香」「夕顔垣根納涼」「葵上」「須磨明石」「大原野神社紅葉彩」「雪景色鷺舞」「歌舞練場桜揃」まで全八景、その中で「夕顔垣根納涼」「葵上」「須磨明石」「大原野神社紅葉彩」が源氏物語にちなんだ演目となっていました。

過去の演目を遡ってみると、

第13回(明治17年)「八坂源氏」、第34回(明治36年)「源氏模様」、第82回(昭和30年)「舞扇源氏物語」、第94回(昭和41年)「舞扇源氏物語」、第136回(平成20年)「都今源氏面影」あたりが『源氏物語』にちなむ演目でしょうか。今回は昭和30年の「舞扇源氏物語」から第五景「須磨明石」を復活上演。祇園ゆかりの歌人・吉井勇の作詞、山田抄太郎の作曲、箏は富崎春昇の作調となっています。

 

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(2)

 

また5月に行われた先斗町の第185回『鴨川をどり』も今年は源氏物語を取り上げており、京都の花街は二月続きの「源氏もの」となりました。

第一部       紫の雲にもゆれば 五場

「青海波」「朧月夜」「須磨の浦風」「淡き月影」「絵合わせ」

第二部       うしろみ月 七景

という構成で、こちらは第一部に台詞があって舞踊劇仕立てになっているのが特色です。脚本・戸部和久、振付・尾上菊之丞、作曲・藤舎政十郎、笛作調・藤舎名生、作調・藤舎呂悦。こちらも過去の演目を遡ると、第4回(明治8年)「源氏のおもかげ」、第138回(昭和61年・秋)「葵の巻」、第141回(昭和63年・春)「浮舟の巻」、第149回(平成4年・秋)「若菜の巻」、第152回(平成6年・春)「華競べ源氏物語 上・葵 下・花の宴」、第179回(平成28年)「源氏物語 ―葵―」と『源氏物語』に題材を得た年が多くみられますが、割と近年にみられるのが「都をどり」との相違でしょう。

さて、その合間には、吹奏楽雑誌『バンドジャーナル』の取材で大河ドラマ『光る君へ』の音楽を作曲されている冬野ユミさんにインタビューする機会がありました。その模様は同誌6月号をお読みいただければと思いますが、とてもチャーミングなお人柄で、楽曲制作にまつわるたくさんの楽しいお話をしてくださいました。6月号付録楽譜は『光る君へ』テーマ曲の《Amethyst》の吹奏楽版です。僕の指揮で常葉大学短期大学部音楽科のウインド・オーケストラが演奏する参考音源が以下のYouTubeでご覧いただけます。冬野さんはバンド毎に異なる個性で、それぞれの《Amethyst》を奏でてほしいとおっしゃっていましたので、ぜひ皆さんも演奏してみてください。

 

 

吹奏楽つながりで、もう一曲ご紹介するのは、現代音楽の作曲家・田村文生による《Lady Mallow〜葵上〜》。非常に難解な作品を山形県の鶴岡東高等学校吹奏楽部の皆さんが見事に演奏したCDを、先日鶴岡にお邪魔した際にいただきました。顧問の森木茂先生は委嘱作品に力を入れており、同部を東日本学校吹奏楽大会や日本管楽合奏コンテスト全国大会へ導いている実力派です。

それにしても葵の上(と六条御息所)は人気ですね。単に美しいだけでなく、ドラマチックでドロドロとした物語展開が芸術家の創作意欲を刺激するのでしょう。

次にご紹介するのは、冨田勲の《源氏物語幻想交響絵巻》。今回聴いたのは冨田勲の指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン・ヴォイセズによる合唱に、邦楽器からは上原まりの琵琶と歌、野坂恵子の二十五絃箏、西川浩平の篠笛、竜笛、能管、西原祐二の笙、篳篥、さらには篠田元一のシンセサイザー、キーボード、姫路高等学校放送部の明珍火箸から生み出される澄んだサウンドが加わる編成の初稿版。こちらも曲の中心に据えられた「葵の上と六条の御息所」と「浮遊する生き霊」が演奏時間も合わせて20分弱と1時間ほどの作品の3分の1を占めています。その後、中井和子による現代京ことば訳の源氏物語に触発された冨田は、その京ことばによる語りを取り入れた改訂版を作っていますが、そちらはまだ未聴です。

「『源氏物語』は音楽物語と言われているほど原作に音楽が満載されている。紫式部の、音楽や自然の音への感受性は現代の小説家のレベルを超え、素晴らしい聴覚能力を想像できる」と作曲家・三木稔は『オペラ「源氏物語」ができるまで』で書いています。オペラ『源氏物語』も未聴ですが、上演の機会があればぜひ観て(聴いて)みたいと思っている作品の一つです。

 

 

~今月の一本~

 

朝芽生(アサヂヲ)

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(3)

 

滋賀の石山寺には、紫式部が参籠した際に、琵琶湖に映る十五夜の月を見て『源氏物語』の着想を得たという伝説が残っています。また、堅田には浮御堂があり、父・為時とともに越前へ向かう際には道中の安全を祈願したかもしれません。このところ『源氏物語』づいているので、滋賀は大津の造り酒屋が醸す「朝芽生(アサヂヲ)」を飲みながら、はるか昔へと思いを馳せてみようと思います。

 

 

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Text&Photo:野津如弘

 

参考文献 

・『オペラ「源氏物語」ができるまで』

三木稔 著
中央アート出版社(2001年)

・『源氏物語と音楽』

中川正美 著
和泉書院(2007年)

・DVD《源氏物語幻想交響絵巻》

冨田勲 作曲
コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社(2004年)

・CD《Lady Mallow〜葵上〜》

田村文生 作曲
森木茂 指揮
鶴岡東高等学校吹奏楽部 演奏
CAFUAレコード(2021年4月)

 

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