脇役のダンディズム♪ グルーヴ・ギタリスト10選【百歌繚乱・五里夢中 第1回】


皆さま、お初にお目にかかります。自称「いい音研究家」の福岡智彦と申します。「いい音=ハイファイ」ではなく、心技体3拍子揃った音楽をそう呼びたいと思っています。古今東西の、百花繚乱ならぬ「百歌繚乱」の「いい音」を、いろんなテーマの下に切り分けて、五里霧中の音楽の森を「夢中」で探っていきますので、どうかお付き合いくださいませ。

「グルーヴ・ギター」とは?

さてまずは、エレキ・ギターについて語ろうと思うのですが、いきなりですが、あれって他に呼び方はないんですかね。「エレキ・ギター!」って口に出すの、ちょっと気恥ずかしく感じるのは私だけでしょうか?その昔、映画「エレキの若大将」が流行って、寺内タケシがテケテケやってた時代はたしかに「エレキ・ギター」だったんですが……。たとえば「スチュワーデス」はすっかり「CA」「客室乗務員」とかに替わりましたけど。だって「電気」のことをもう「エレキ」とは言わないですよね。そう言ってたのはたしか平賀源内の江戸中期……。

と言うのも、いろいろ楽器がある中で、私が迷いなくいちばん好きなのが「エレキ・ギター」なんです。何かいい呼び名ないのかな、ホント。とは言え、プレーヤーではありません。私は”おやじバンド”でドラムを担当していますが、ギターはちゃんと弾けません。なのでエレキ・ギターの音の作り方とか奏法とかには全然詳しくないのですが、傍で見ていて聴いていて、実におもしろい、すごい楽器だなと思うのです。

まず、マイクとかボリュームとかトーン・コントロールとか、その先にアンプとかエフェクターとか、電気回路を介して音が出てくるところと、だけどその元は弦を弾くという、人の随意的運動であるところ。人と機械の協働作業によって音楽が生み出される点が大きな特徴です。電気を使わない楽器も、それぞれに味わいを持っておりますが、やはり人力でできることの限界を超えることはできません。一方、シンセサイザーだと機械が強すぎて、人力の入る余地があまりありません。ハモンド・オルガンやエレピは形態としては近いのですが、奏法の多彩さや電気的処理の多様さにおいてはエレキ・ギターの足元にもおよびません。

このような楽器としての特質によって、プレイヤーはそれぞれの個性を充分に発揮することができ、ポップス、特にロック・ミュージックの花形パートとして、今なお君臨し続けることができているのだと思います。エレキ・ギターは奏法や音響処理によって、メロディ楽器にもリズム楽器にもなります。しかも単音もコードも自由自在。よって、プレイヤーの趣くままにソロを奏でることもできれば、ひたすらリフを刻んでビートの要となることもできます。

ギター・ソロはロックの華ということで、大好きなギター・ソロもたくさんあるのですが、実は私、リズム・ギターあるいはサイド・ギターと呼ばれるカッティング系のギター・プレイがとても好きなのです。ソロのように目立つことはありませんが、でもよく聴くとそれがサウンドの推進力となって、その音楽のスピード感を制御している、そんなところにとてもかっこよさを感じてしまいます。ところで、この「リズム・ギター」とか「サイド・ギター」という呼称もなんだかね。なんだか一段低く見ているようで、ちっともかっこよくない。なので私は勝手に「グルーヴ・ギター」と呼んでいます。グルーヴを作り出しているギター・プレイだから。たいしたネーミングじゃないですが、少しはマシ?

 

グルーヴ・ギタリスト10選


ロック・バンドのギタリストでもソロなんかより、バッキングの妙にこだわっている人たちがいますね。たとえば、The Policeのアンディ・サマーズ(Andy Summers)
 

#1:The Police「Message In A Bottle(孤独のメッセージ)」(1979年9月)
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これはポリスの中でも特に好きな作品ですが、アルペジオとコード弾きを融合したような2小節パターンのギター・リフがこの曲のキモですよね。サマーズは1941年生まれ。スティングよりも9つも年長で、プログレ・バンドの”Soft Machine”などに在籍するとともにセッション・プレイヤーとして活躍し、ポリスに参加した時は既に34歳のベテラン・ギタリストでした。それにしても、ロック・トリオのギタリストでこんなにソロを弾かない人は他にいないんじゃないですかね?


#2:The Rolling Stones「Brown Sugar」(1971年5月)
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キース・リチャーズ(Keith Richards)も間違いなくソロよりバッキングが好きですね。かっこいいリフを作らせたら天下一品です。ジミー・ペイジ(Jimmy Page)もリフ名人ですが、彼はもっと知的な感じ。キースはエモーショナル。だからより直感的にノッてしまう。
この曲は、2拍目のダウン・ストロークから始まる2小節パターンのギター・リフからスタートするので、最初は2拍目を頭に感じてしまうというギミックがにくいね。


#3:The Rolling Stones「Jumpin' Jack Flash」(1968年5月)
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キースはもう1曲いっときましょうか。ギター・キッズでこのギターを通らないヤツはいなかった。今はどうか知りませんけど。と言うかこの曲でみんな、ロックってなんてかっこいいんだ、とショックを受けたんじゃないでしょうか?私はそうですよ。

 

#4:The Allman Brothers Band「In Memory Of Elizabeth Reed (Live At the Filmore East)」(1971年7月)
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弱冠24歳でオートバイ事故により亡くなった天才ギタリストデュエイン・オールマン(Duane Allman)(先ごろ弟のグレッグ(Greg Allman)も亡くなり、デュエイン亡きあとも延々続けてきた”The Allman Brothers Band”も遂に終わりましたが……)は、ソロを弾かせても抜群でしたが、カッティングもまた素晴らしかった。
このライブ・テイクの神がかり的なギター・ソロは有名ですが、グレッグが弾くオルガン・ソロのバックにおけるデュエインのカッティング(ステレオの左側)は、その繊細なタッチと完璧なグルーヴに思わずうなってしまいます。


#5:Earth, Wind & Fire「September」(1978年11月)
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もう少しファンキー方面に行ってみましょう。「Earth, Wind & Fire」のアル・マッケイ(Al McKay)が生み出すグルーヴには思わず腰が動いちゃいます。
マッケイはこの曲の作曲にも参加しています。ディスコ・ブームの最盛期に大ヒットしましたし、ブームを一層盛り上げた1曲でもあります。


#6:James Brown「Give It Up or Turnit a Loose」(1969年)
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このマッケイが最も影響を受けたのが、ジェームズ・ブラウン(James Brown)のバックバンドにいたジミー・ノーレン(Jimmy Nolen)
その独特の鋭いピッキング・スタイルは「チキン・スクラッチ(chicken scratch)」と呼ばれました。サビ以外は単音のフレーズ、それもおんなじことを延々繰り返すのみなのですが、ベース、ドラムと絶妙に絡み合い、スカスカなのにすごいグルーヴを生み出しています。ファンク・ミュージックのギタリストは多少なりとも彼のスタイルの影響下にあると言っても過言ではないようです。

ジェームス・ブラウンのバンドはこのあと1970年に、給与の不満などが原因でほとんどのメンバーが去ってしまいます。そこに入ってきたのが、後にファンクの大スターとなるブーツィ・コリンズ(William "Bootsy" Collins)<bass>と、その兄のフェルプス・コリンズ(Phelps "Catfish" Collins)<guitar>。新しいバック・バンドは”The J.B.’s”と命名され、単体でもアルバムをリリースするほどの人気を得ますが、コリンズ兄弟は1年ほどで脱退することに。

 

#7:James Brown「Super Bad (LIVE)」(1971年3月)
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この音源は2014年8月に公開されたジェームス・ブラウンの伝記映画「Get On Up(ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男)」のサウンド・トラックで使用されているものですが、1971年3月のパリのオリンピア劇場でのライブ・テイクで、コリンズ兄弟が演奏しています。フェルプスのギターが堪能できます。

 

#8:The Meters「People Say」(1974年7月)
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ファンクと言えばニューオリンズのバンド「The Meters」のギタリスト、レオ・ノセンテリ(Leo Nocentelli)も忘れてはなりません。
おもむろにギター・カッティングだけで始まり、それだけでも身体が動きますが、そこにズドンとドラムが入ってきた時のカッコよさったら。ジェームス・ブラウンよりさらに粘っこいノリです。濃厚豚骨スープって感じ。

 

#9:Tower Of Power「What Is Hip?」(1973年)
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同じ頃、ウエスト・コーストでは「Tower Of Power」という、強力なホーン・セクションとリズムが売りの超絶ファンキーなバンドが活躍していました。そこでギターを弾いていたのがブルース・コント(Bruce Conte) です。
ドラムのデヴィッド・ガリバルディ(Gavid Garibaldi)とベースのロッコ(Francis‘Rocco’Prestia)によるめちゃタイトでグルーヴィな16ビートの隙間に、チャカポコと絶妙な間合いで見え隠れするコントの軽やかなギター・カッティング。この3人のアンサンブルは無敵です。

 

#10:鈴木茂「砂の女」(1975年)

そのガリバルディが参加した鈴木茂のアルバム『BAND WAGON』。彼の最初のソロ・アルバムで、サンフランシスコとロスでレコーディングされました。ジェームス・ギャドソン(James Gadson)というドラマーをブッキングするよう依頼していたのだが、現地に着いてみると誰も押さえられてなかったので、急遽ミュージシャンを集めたそうです。その中にガリバルディもいました。結果オーライとはこのことです。名盤です。
和音でリズミックなフレーズを作っていくやり方が、いちばん最初に取り上げたアンディ・サマーズの手法に近いようにも思います。これを彼はピックでなく指で弾いているそうです。柔らかい独特なカッティングができるんだそうです。

 

#11:Chic「Le Freak(おしゃれフリーク)」(1978年9月)
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東海岸には、プロデューサーとして大成しながらもグルーヴ・ギタリストとしての存在感も色褪せないナイル・ロジャース(Nile Rodgers)がいます。2014年のグラミー賞を総なめにしたDaft Punkの「Get Lucky」のプロデュース&ギター・ワークが記憶に新しいところですが、彼の出発点はディスコ・バンド「Chic」。
中でもこの曲は全米5週連続1位。アトランティック・レコード史上、最も売れたシングルだそうです。カウントからの掛け声に続いて、鋭利な斧を振り下ろすようにかき鳴らされる、飛び跳ねるようなギター・リフは、グルーヴ・ギター界における屈指の名プレイとして聴き継がれてきました。


時代も変わり、ギター・ソロをグリグリ弾きまくるような曲はすっかり流行らなくなりましたが、ビートは益々重視される傾向にあり、グルーヴ・ギターはむしろ需要が拡大しているように感じます。また、ほとんどの楽器は今やコンピュータでほぼシミュレーション可能になりましたが、ギター・プレイにおける人のニュアンスはおそらく機械には表現できないでしょう(できるとしても意味ないでしょう)。いち早く機械の助けを借りながら、最後まで人力なしには成立し得ない、そこがまた、私がこの楽器を好きな理由のひとつなんです。

今回は10人のグルーヴ・ギタリストをピックアップしてみました。もちろんまだまだたくさんいますが、またの機会に譲ることにしましょう。

いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪


Text:福岡 智彦