妄想系アルバム鑑賞法「利きジャケ」のすゝめ 第2回

妄想系アルバム鑑賞法「利きジャケ」のすゝめ

「利きジャケ」へようこそ。
古今東西の名盤を紹介する当コーナーは、いわゆるアルバムレビューではない。
ならば何をするのか? ……「利く」のだ。「聴く」ではなく、「利く」のだ。一枚のジャケットをじっと凝視し、アルバムの“顏”から名盤を味わい尽くす。流浪の妄想コーナー、それが「利きジャケ」だ。
 

ヒーローを利く

mysound読者の皆さん。こんにちは。ヴィンセント秋山です。私はもう、かれこれ10年以上、様々な媒体を通じひとつの“遊び”に取り憑かれている。インターネットを介し音楽がより身近になった昨今に、ただただ一枚のジャケットを凝視する、そんな“遊び”だ。音楽的要素はあえて封印し、ジャケットのアートワークだけから妄想を広げ、そのアルバムを味わい尽くす。それが「利き酒」ならぬ「利きジャケ」だ。……写真でボケて? 大喜利? いや、違う。それは断然違う! アルバムジャケットというアート作品を純粋に楽しむという、これは崇高な遊びなのだ。

さて今回、第2回目の利きジャケとして私は二人のヒーローの作品を紹介することにした。洋ジャケからの2枚。ともに1970年代から活躍したヒーロー/英雄たちだ。かたやギターヒーロー、かたやドラムヒーロー。果たしてめくるめくヒーローたちの妄想ワールドに苦笑していただければ幸いだ。なお、当コーナーではアルバム名を「銘柄」、アーティスト名を「蔵元」と表記する。ではいざ利く前に、利きジャケ唯一のルールもお伝えしておこう。音楽的要素は一切ない利きジャケであるが、音楽を愛するものとしての唯一のルールがある。それは…………

「利いたからには、聴かねばならない」

 

「ジャンケンでパーに負けた」

銘柄:ザ・ローナー - "The Loner" 
~アルバム「ワイルド・フロンティア」より~
蔵元:ゲイリー・ムーア

「ジャンケンでパーに負けた」(1)

ゲイリー・ムーア
『ワイルド・フロンティア』
ヴァージン(ユニバーサル ミュージック)


まずはギターヒーローの登場。
今回取り上げる銘柄はギタークレイジーの異名をとり、ギターを泣かせることにかけては最高峰の男、泣きのギターの代名詞、ギターキッズが憧れるヒーローの中のヒーロー……ゲイリー・ムーアだ。
そんな彼による泣きのギターの名盤から、インストルメンタルの一曲を紹介する。
ちなみにこちらの「ザ・ローナー」が入ったアルバム「ワイルド・フロンティア」は、ゲイリー8作目のアルバムであり、アイルランドの伝統音楽へのオマージュとして作られ、亡くなった旧友フィル・ライノット(元シン・リジィ)に捧げられた一枚なのであった………とかなんとか。
いやはや、そんなアルバム内容はまずは封印。そんな豆知識など北の大地にかなぐり捨ててしまおうではないか。北アイルランド出身だとか、人間国宝の異名とか、ソチ五輪で羽生結弦選手がゲイリーの曲を使ったとか、そんな豆知識も、ぜんぶかなぐり捨てようじゃないか。

なぜなら「利きジャケ」は
ジャケットだけ、その絵だけを味わうものだから! そう。これは音楽情報には一切触れず、ジャケのみを楽しむという崇高な遊びなのであるから。
では、いざ利いていこう。

さあ。そこのあなた。
このジャケットを凝視していただきたい。じっと凝視していただきたい。
準備はできただろうか?
それでは一緒に「利きジャケポイント」(以下KJポイント)を探していこう。確実なKJポイントを探し当てることが、まずは大切なのである。

海を背に佇む男。
鋭いまなざしで佇む男。
そうだ、今回のKJポイントは
「佇む男の鋭いまなざし」である。
 

「ジャンケンでパーに負けた」(2)


ふむ。ではここでひとつ疑問が浮かぶ。ギターを抱えた男は、
なぜこんな場所に立っているのか?
しかも、たったひとりで。
ん? ……いや、違う。とんだ思い違いをしていた。こ、こ、これはひとりではないゾ。
なぜならこの強い視線だ。そうか。これは、誰かを見つめるまなざしだったのか!
誰を見つめている? 誰だ? 誰?

それは、…………あなただ。
 

「ジャンケンでパーに負けた」(3)
ゲイリーはあなたを見つめている。


ゲイリーはあなたとふたりで海に来た。いったい何をしに来たというのか?
間違いない。これは……勝負をしに来たのだ。
 

「ジャンケンでパーに負けた」(4)
だってこの真剣なまなざし


戦いに挑む男の目である。
ゲイリーはあなたと戦うために海に来たとしか思えない。決闘の場にふさわしい海に。

果たして
戦いには「賭けるモノ」が必要。
自分の最も大切なモノを賭ける行為こそが、
真剣勝負の証なのである。
というわけで、ゲイリーはギターを持ってきたのだ。
さあ、
あなたは何を賭けますか?
あなたもいちばん大切にしているモノを抱き、
ゲイリーの前に立ってください。
「サイン色紙」「子供」「お金」「車」「ドラムスティック」
「妻」「誇り」「やさしさ」「自分の才能」……
カタチをともなわないモノでも構わない。

イメージするのだ。
あなたは今、
いちばん大切なモノを抱いてゲイリーの前に立っている。
ああ……抜き差しならないこの緊迫感。
あなただって真剣な顔を余儀なくされるだろう。勝負に負ければソレを失うのだから。

さて、
いよいよ戦いがはじまる。

男同士の戦いは、公平で潔いものでなければならない。
明確な勝敗がつくものでなければならない。
外国人との決戦であるからして言語の壁を超越した戦闘ルールでなければならない。簡素にして道具を必要としない戦いでなければならない。
そして、決戦とは言えども紳士的で痛みを伴わない戦い方であることが望ましい。

そんな戦い方があるのだろうか……?

ある。
それは……
ジャンケンだ。
かくして戦いの火ぶたは切って落とされた……。
ふたりの男(あなたとムーア)の「ジャンケンポン」の声が波打ち際に響き渡ると
それはたちまち大海原へと吸い込まれていく。
勝敗は、一瞬にしてついた。

……おめでとう。
あなたは、勝負に勝った。
大切なモノは守られたのだ。あなたが出したのは、
間違いなく「パー」だった。
つまり……
 

「ジャンケンでパーに負けた」(5)
これはジャンケンに負けた瞬間のゲイリー・ムーア。


なのである。思わず出してしまった「グー」を握りしめ敗北をかみしめるゲイリー・ムーア。
もう一度言おう。

「ジャンケンでパーに負けた」(6)
これはジャンケンに負けた瞬間のゲイリー・ムーア。


ジャケをよーく見ながら、もう一度。
 

「ジャンケンでパーに負けた」(7)
グーを出して負けたゲイリー・ムーア。


もう一回。
 

「ジャンケンでパーに負けた」(8)
ジャンケンでパーに負けたゲイリー・ムーア。


果たして……負けてしまったゲイリーがこの後どうなるのか。
そこから先は各自の妄想にお任せしよう。
あなたがギターを貰うのか、
すねたゲイリーがギターを海に投げ捨てるのか、
もしくはギターを抱いてゲイリーが海に飛び込むのか。
お好みの妄想を膨らませていただきたい。

ともかく、あなたは勝った。
パーで勝った。ジャンケン一発で大切なモノを守り抜いた。
そして……
私が本当に言いたいのはここからである。

どうぞ皆さん、
たったいま守り抜いたその宝物をいつまでも大切にしてください。

おろそかにしてはいけないよ。
粗末にしてしまっては、今回の妄想で負け役に徹していただいたゲイリー・ムーアに申し訳が立たないというものだ。
さあ、ゲイリー・ムーアのために、そしてあなた自身のために、
大切なモノを大切に。

ということで、今回の利きジャケ1枚目存分に利かせていただきました。ゲイリー・ムーアを通しみなさんに私が言いたいことは過不足なく書き終えたわけだ。
それでは2枚目のジャケに移ろうか……と。そう思った瞬間。

ふと目をあげる……
相変わらずのPCモニタが目の前にある。
その中で、ゲイリーがまだ
 

「ジャンケンでパーに負けた」(9)
この佇まいで私を睨んでいるではないか。


声が聞こえた。

「ジャンケンでパーに負けた」(10)
「……三回勝負にしてくれ」


え?
 

「ジャンケンでパーに負けた」(11)
「先に三回勝ったら勝利ということで」


な、なにをいまさら……。
 

「ジャンケンでパーに負けた」(12)
「次は負けない」


め、女々しいぞ、ギターヒーロー!
 

「ジャンケンでパーに負けた」(13)
「いくぞ、ジャンケン……」


そして………

私は迷わず「パー」を出し、PCの電源を落とした………。


以上、ゲイリーの“泣き”が入ったところで
『ワイルド・フロンティア 』からの一曲、「ザ・ローナー」を利かせていただきました。
そしてもちろん
利いたからには、聴かねばなるまい!!

The Loner

Gary Moore
 

さて、つづいて今回はもう1枚利く。
ギターヒーローに対するは、ロックキッズの憧れ、唯一無二の存在、
それまで地味だったドラマーの存在を華やかなプレイで一変させた永遠のドラムヒーロー。まさに先駆者の中の先駆者!
コージー・パウエルだ。
 

「研究熱心なキノコ農家の若旦那」

銘柄:ザ・ローナー - "The Loner" 
~アルバム「ヴェリー・ベスト・オブ・コージー・パウエル」より~
蔵元:コージー・パウエル

 

「研究熱心なキノコ農家の若旦那」(1)

コージー・パウエル
『ヴェリー・ベスト・オブ・コージー・パウエル』
ポリドール(ユニバーサル ミュージック)


果たしてこちらは、ジェフ・ベック・グループやレインボー、ブラック・サバスなど数々のバンドを渡り歩いた孤高の天才コージー・パウエルのベスト盤だ。現役時代、ドラマーでありながら3枚のソロアルバムをリリースした前代未聞のドラムヒーロー。その3枚からのベスト盤がこれで……と。ん? いや違う! そんな音楽的解説など一切いらないのだった! 危ない。またまた血迷ってしまうところだった。
果たして、ジャケをただただ凝視し、利く。ただそれだけの崇高なる行為、それが利きジャケだ。いかなる雑念にも囚われるなかれ。あえて音楽的要素を排除しジャケだけを見つめ妄想することが大事。
そう、この腕組みをする男が「コージー・パウエルであること」すら、忘れ去らねばならない。そんな過酷な掟……それが利きジャケなのだった。

ということでまずは凝視。そしてKJポイント(利きジャケポイント)を探す。

男がひとり佇む(これはコージーじゃない)。
腕組みをして佇む優しげな男がいる(これはコージーじゃない)。
腕組みしてこっち見てる優男(やさおとこ)(コージーじゃない)。
すなわち、
今回のKJポイントは「腕組みした優男の正体」だ。
ならばただただ、凝視して、妄想を膨らませるのみだ。
では質問。果たして……

「お前は誰だ?」
 

「研究熱心なキノコ農家の若旦那」(2)
「優しい万引きGメン」


「ちょっと。お客さんいいかな(微笑)?」 と、スーパーの出口付近で声をかける腕組み男。「さっきからぜんぶ、見てたヨ(微笑)」。「嘘ついたら、これで叩くよ」その甘いマスクで、優しい物言いながら、すべてはお見通しだ、というその視線。あぁたとえ無実であっても思わず誰もが白状するだろう。ごめんなさい、僕がやりました。

……。

いや、なんか違う気もするなあ。この革ジャン、革パンであることの意味を見過ごしていたかもしれない。ということは……

「お前は誰だ?」
 

「研究熱心なキノコ農家の若旦那」(3)
「黒い天使」


暗闇に腕を組んで待つ男。「細けえこたぁ、いいんだよ!」「ド外道! 地獄へ落ちろ!」法で裁けぬ悪を裁く。闇に生き、闇に潜む、闇の男。自転車のスポークならぬ、ドラムスティックで悪を撃つ。黒い天使の参上だ。平松伸二先生の漫画「ブラックエンジェル」の登場人物。

……。
んん…。なんかこれも違う。これもイマイチ、すっきりしない。ではこんなのは?

「お前は誰だ?」
 

「研究熱心なキノコ農家の若旦那」(4)
「ボクのクラスの担任は、型破りな熱血先生です!」


荒れたうちの中学校に赴任した先生は、革ジャン革パンで、なんだか先生っぽくない型破り先生だ。学級崩壊のクラスを黒板の前で、腕を組み眺める熱血先生。生徒のためなら校長とだってやりあうぜ。このスティックで叩いちゃうぜ! いくぞーーー! 1年B組~~ パウ八せんせいー!

……。おっ? なんかいいかも? いや、待てよ? そうか。このスティック、スティックじゃなかったとしたら……。よくみれば、先っちょはなんだか丸くて黒っぽいし? そうか! ということは

「お前は誰だ?」
 

「研究熱心なキノコ農家の若旦那」(5)
「ついに! こんな長~~い新種のシメジができたんだよ!」


研究熱心なキノコ農家の若旦那。大切そうに腕に抱えるのは、やっとできた新種のシメジ。長くて立派なシメジがとれたよ! これ一本で、お鍋一回分だよ! なんだか若旦那の顔つきもうれしそう!

利ける。いくらでも利ける! 彼の正体を妄想すれば、無限に広がる妄想世界。
他にも「イケメンのマッチの妖精」「訪問販売の宝石商(熟女相手専門)」「昭和のホスト」「イメチェンに失敗した演歌歌手」などなど。
大喜利とは違う、答えの面白さは関係ない、これが利きジャケ。めくるめくジャケの裏に広がる世界を想像できただろうか?
それでは最後に、すこしだけ趣の異なる利きを……。

お前は誰だ?
 

「研究熱心なキノコ農家の若旦那」(6)
「大切にしているモノを抱き、ゲイリー・ムーアの前に立つ男」


やはり、この男は「コージー・パウエル」だったのだ。
そして本日一枚目の利き、ゲイリー・ムーアをここで見返していただきたい。
海を背にし、鋭いまなざしで佇む男と、ジャンケン勝負をしたのは誰あろう天才コージー・パウエルだったのだ!
お気づきだったであろうか? 今回、利きジャケで取り上げた一曲。ゲイリーの「ザ・ローナー」 。そしてコージーもまた「ザ・ローナー」。果たして、ゲイリー・ムーアのその曲。じつは1979年度作、コージー・パウエル「オーヴァー・ザ・トップ・ロープ」に収録された一曲こそが、オリジナルなのだった。
名曲「ザ・ローナー」を挟み、対峙するふたりのヒーロー。その真剣勝負こそが、今回の利きジャケのテーマだ。
大切なギターを抱え勝負を挑むゲイリーに対し、コージーの差し出す大切なもの。それこそが「特徴的な太く重いドラムスティック」だった。そして、もちろん。そのスティックが叩くのは、もちろん! 生涯に渡り使用し続けたYAMAHAのドラムセット! YAMAHA最高!
 

The Loner

Cozy Powell
 


いかがだったろうか? 今回の利きジャケ。

ところで……話変わるけど。
このmysoundってサイト、YAMAHAさんのサイトでしたっけ? どうだったかな? よくわかんないけどまあともかく。私、ヴィンセントも声を大にして言わせてください。
…………YAMAHA最高!

以上、これが音楽的要素を介さず、ときにあからさまな媚も売りつつ、ジャケットを鑑賞する方法「利きジャケ」なのであった。
さあ、あなたも一緒に名盤を利いてみてはいかがだろうか? これまでとは違った新しい世界が広がるはず。

そして最後に、

利いたからには……聴かねばなるまい!
 

今回の逸品

The Loner

Gary Moore
 

The Loner

Cozy Powell
 

そして今回も、快くジャケの使用を許してくれた太っ腹なユニバーサル ミュージックに感謝。ありがとう。


Edit&Text:ヴィンセント秋山

ヴィンセント秋山のその他の記事