Californian Grave Digger ~極私的ロック映画セレクション(ヘビメタ編) ロン毛とホラーのラウドかつポップな融合~


ポップカルチャーの世界は常にファッションやアート、そして映画と有機的にリンクし、温故知新を繰り返しながら変化し続ける。そして、その変化と進化が最も顕著に表現される大衆娯楽=ポップカルチャーから見えてくる新たな価値観とは何かを探るべく、日本とアメリカ西海岸、時に東南アジアやヨーロッパも交えつつ、太平洋を挟んだEAST MEETS WESTの視点から広く深く考察する大人向けカルチャー分析コラム! 橋のない河に橋をかける行為こそ、文化のクロスオーバーなのである!

B級ホラー映画をも包括するヘビメタという大海

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まだまだ続くロック映画シリーズ、ドキュメンタリーにてパンク、メタル、そしてブラックミュージックをレビューの流れから、フィクション中心の商業映画において出演を果たしたロックバンド、アーティスト、もしくはミュージシャンに注目。しかし、普通に俳優として演技されても、観ている側としてはツマラない場合も多いのも事実なので、ちょこっと範囲を広げてサントラ参加やカメオ出演も含めるという弱腰ルールを起用。

前回はパンクロック(がテーマの)映画を取り上げたので、今回は当然ヘヴィ・メタル(以下ヘビメタ)である。
ドキュメンタリー映画編でも触れているが、発展型音楽でテクニックを掘り下げるヘビメタは、パンクの反抗心や無政府主義的思想の影響も受けつつも、ラウドでありながらも大衆に受け入れられる、ポップミュージックというジャンル内で最も過激な存在であり、ヘビメタという生態系から派生したサブジャンルの多さはダントツ。
単なるメタルのみならず、ブラックメタル、スラッシュメタル、デスメタルに、メタルコア(そこから分離したグラインドコア)にシンフォニックメタルなどなど、この調子だとまだ筆者の知らないメタルのサブジャンルが登場しても何も不思議ではないし、事実アフリカ大陸ではいま、現地部族の若者たちがブラック/デスメタルに傾倒。「デスメタル・イン・アフリカ」として我が国にも紹介されているし、日本とは全く違う音楽史を歩んでいたお隣の国・韓国では、軍事政権下の時代にパンクやレゲエが反政府的音楽とみなされ流通禁止になるが、ヘビメタとHIP-HOPはオッケーというレーティングによって発展。インドネシアやタイなど東南アジア各地でも宗教的生活や社会主義体制も多いため、反抗的なパンクよりも過激なスタイルのメタルのほうが好まれる模様。それはともかく、大衆からの支持を得ているヘビメタは、当然エンタメ業界でも有能な存在であり、バンドやミュージシャンが出演している映画は、パンクに比べると非常に多く感じる。
また、あくまでもバンドが本業だからして、サントラ参加も含めると膨大な数になってしまうので、今回もいつも通りに筆者個人の趣向と独断でセレクトしてみた。1980年代の作品が多いが、それはヘビメタが最も活発だったのが'80sだった名残りである(もちろん筆者の年齢も関係あるが)。
さらにヘビメタミュージシャンは何故だかホラー映画との相性が良く、一般作品よりB級ホラー映画への参加が他のジャンルのミュージシャンと比較しても突出して多いという謎についても迫ってみたい。それでは早速、"ロックな映画ヘビメタ編"の作品レビューを開始しよう!

 

アリス・クーパーと『モンスタードッグ』~メタル系ホラー映画の始祖~

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ハードロック/グラムロックを経て独自のホラー路線を産み出し、後のメタル業界のみならずパンクなど他ジャンルの形成にも多大なる影響を与えたアリス・クーパー御大。2017年現在69歳と、最高にロックな御大だが、一時期は引退状態だった。しかし、とあるホラー映画にサントラ参加したのを機にシーンの表舞台に復活を果たし、モーターヘッドのレミー亡きいま、オジー・オズボーンと並ぶハードロック第一世代のサバイバーとして現役で活躍中である。そんなアリス御大は、70年代から表現主義を取り入れたステージングを展開しており、かの芸術家サルバドール・ダリからコラボ依頼されるほどのセンスの持ち主。その才能は大仕掛けのコンサートをフルで収録したライブビデオ『ウェルカム・トゥ・マイ・ナイトメア』(1976年)で確認できる。これは、ホラー趣味全開のアリス節を堪能するには最適の作品である。
また大変マイナーな映画だが、アリス出演作品として筆者的には大好きなのが、歌手ミート・ローフ主演、アリス御大にデボラ・ハリー、ハンク・ウィリアムスJr.といった個性派ミュージシャンが友情出演したロック映画『ROADIE(ローディー)』(1980年)である。基本はコメディドラマだが、ミート・ローフ以外のミュージシャンは基本的に本人役で出演しているのが筆者的にはポイントが高い。日本版DVDもリリースされているので、ご興味ある方は是非チェックされたし!
 

この頃人気絶頂だったアリス御大だが、以降急激に失速したのは前述の通り。アルコール中毒により活動停滞を余儀なくされていたが、1986年に突然復活。なんと『13日の金曜日PART6 ジェイソンは生きていた!』(1986年)のサントラにアリス御大が鳴り物入りで参加したのである。映画本編にこそ出演していないが、ここから怒涛の復活祭の開始である。俳優としてジョン・カーペンター監督作品『パラダイム』に謎のホームレス役で出演したのを皮切りに、『13金』からの『エルム街の悪夢 ザ・ファイナル・ナイトメア』(1991年)にサントラ参加。ジェイソン&フレディらとコンボで共演を果たしてしまうんだから侮れない。
しかし忘れてはならないのがサントラ参加やカメオ出演などでお茶を濁さない、アリス御大主演によるホラー映画の存在である。
その名は『モンスター・ドッグ』(1980年)
アリス御大が呪われた野犬に襲撃されて"犬男"に変身するという、あからさまにもほどがあるB級映画なのだ。
 

しかも、である。特殊メイクによってボコボコと顔面や体躯を変形させながら犬男にメタモルフォーゼする様は、ぶっちゃっけマイケル・ジャクソンの『スリラー』そっくりで、物語の内容は『狼男アメリカン』そっくりという徹底ぶりで、いま改めて再鑑賞すると色々感慨深い気持ちにさせられる。
 

しかし、アリス御大の活動歴を紐解くことにより、メタル系ミュージシャンとホラー映画の親和性が証明された(ような気がする)。

アリス・クーパーとキャラは若干被るが、ヘビメタというサウンドとビジュアル、そのステージングを狂気のレベルまで押し上げたバンドといえば、W.A.S.P.である。80年代LAメタルのムーブメントの先駆けとなったバンドであり、フロントマンであるヴォーカル/ベーシスト(後にギターに転向)のブラッキー・ローレスは、ワイルド感全開のルックスと鎖・鞭・革といったアイテムを駆使してヘビメタ的な男尊女卑的世界観を表現したツワモノだが、その人気絶頂期に低予算SFファンタジー映画に出演していた事実は意外と知られていない。
その作品は『SFダンジョンマスター 魔界からの脱出』(1985年)。
 

パソコンおたくの青年がパソコン内部の世界に住む電脳悪魔メステマに魅入られ、様々な試練を与えられるという内容だが、いきなりブラッキー率いるW.A.S.P.のコンサート会場にテレポートさせられるというシーンが登場する。全くそんな展開は想像していなかったため、初見時にはひっくり返るほど驚いたが、ブラッキーのためだけに2度観るような映画ではないことだけは断言しておきたい。

 

スティーブン・キング × AC/DC =『地獄のデビルトラック』

アリス・クーパー御大にしても、ブラッキーにしても、そのキャラの特徴が悪魔的なのが最大の売りであることは明白だし、ルックスも突出しているので"素"の状態でもホラー映画には即戦力である。その観点からすると少し脱線するが、映画の監督や原作者がヘビメタファンで、自分の趣味を全開にしてしまう稀なケースもある。
それが『地獄のデビルトラック』(1986年)だ!

原作者はモダンホラー小説の大御所スティーブン・キング! 近年では小説『IT』が、殺人ピエロビジュアルのトラウマの源流とされ話題になり、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』が自分の原作無視の内容と激怒した過去もニュースになっていたが、キングが自ら監督に乗り出した背景には『シャイニング』の経験あってこそ。そして映画史に残るトンデモSFを自ら送り出すこととなる。謎の彗星が大気圏外で爆発して謎の宇宙線が地球に降り注ぎ、その結果あらゆる機械が突然意識を持って人間を襲い始める! と、プロットだけなら相当面白そうなのだが、実際はド田舎のドライブインが舞台。無人のトラックに囲まれて右往左往する人々が面白おかしく機械に殺されるという牧歌的かつ陰惨な内容なのだが、ここで響くのがサントラ担当のAC/DCである。原作者にして監督のキングが最も好きなロックバンドとして起用されたそうだが、赤茶けた田舎のドライブインの砂埃に被るAC/DCのサウンドは相性バッチリ! まるでホヤとキュウリの如きマリアージュだが、だからと言って映画が面白くなるかというと、全然そんなことはなかったりするのでご安心ください。

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サントラ参加までカウントするとすれば、『エルム街の悪夢3 惨劇の館』(1986年)のDOKKENも忘れてはいけない。

映画原題のサブタイトルである『THE DREAM WARRIORS』の楽曲を担当し、映画本編にはチラッとしか登場しないが、PVも製作されているので一見の価値ありだ。
同じくサントラ参加としては、エアロスミスの『アルマゲドン』サントラ&主題歌(ついでにスティーブン・タイラーの愛娘リブ・タイラーも出演)が有名だが、ヘビメタと括るには少々強引なので、ここは敢えて『ターミネーター2 ジャッジメント・デイ』(1991年)のガンズ・アンド・ローゼスによる主題歌"You Could be Mine"を推しておこう。

PVにおいて当時のガンズのフルメンバーがシュワちゃん演じるターミネーターに"識別"されるという特別待遇が実現し、映画もサントラもダブルでヒットしたのが記憶にあるが、後にターミネーターが州知事に、ジョン・コナー役のエドワード・ファーロング君は麻薬中毒患者に、そしてアクセル・ローズは激太りと、四半世紀前を回顧するとロクでもない現実にしかブチ当たらない。そんなやるせない気持ちを解消してくれる音楽は、DOKKENでもガンズでもなく、モーターヘッドだ! 本稿のトリを飾るのは、やはりレミーしかいないのだ!

レミーmeets 毒々モンスター!!??

ロックドキュメンタリー映画編でも登場したモーターヘッドのバンマスにして孤高の男レミー・キルミスター。2015年に惜しくも急逝されてしまったが、その音楽性は永遠に不滅だ。
ロックミュージシャンとしての活動歴が突出して長いレミーは、映画出演も多くイギリス時代を経てカルフォルニアに移住して亡くなるまでに相当数の作品にカメオ出演。なぜかコメディー作品が多いのだが、その中でも最も出演時間が長い…というかほぼ出ずっぱりなのが、なんとアメリカンB級映画の寄せ場こと、トロマ社の代表シリーズ『悪魔の毒々モンスター』の目下のところ最新ナンバリングタイトルとなる『悪魔の毒々モンスターIV 新世紀絶叫バトル』(2000年)なのである。

そのタイトル(原題の方)こそ、オーソン・ウェルズの『市民ケーン』のパロディだが、中身はいつものトロマ映画。景気よく人体が破壊され、内臓と汚物が飛び散り、ストーリーなどあってないような状態だが、レミーはなんと最初から最後まで要所でキーマンとして登場する特別待遇。さらに出演当時のレミーは長い活動歴でもレアな"ヒゲ剃りバージョン"であることも考慮すると、「ホラー&コメディー&レミー」という、ちょっとありえない図式が成り立ってしまうから、本当に気が抜けない……。世の中には、こんな映画が無造作に転がっているのである。

以上、駆け足で"ヘビメタ×ホラー映画"という未知に近いカテゴリーの考察と作品レビューをお届けしたが、ここで紹介したネタは、ほんのごく一部。まだまだロック映画の世界は深く濃く、漆黒の沼のようなジャンルである…だからこそ、掘る! 次回もまた掘りまくるのでご期待くださいませ!

Text :Mask de UH a.k.a TAKESHI Uechi