ワールドミュージック編 【マニアが集う“注文の多すぎる料理店”】


今回やって来たのは「ワールドキッチン バオバブ」。「ワールド」の名の通り、世界中のメニューが楽しめる飲食店ですが、この「ワールド」にはもう一つの意味が。それはワールドミュージックの「ワールド」。そう、ここは都内屈指のワールドミュージックが楽しめるお店でもあるのです。では早速入ってみましょう!

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場所は吉祥寺の弁天通り。半地下となっている扉を開けると、店内には中南米やアフリカ、アジアなどの雑貨やポスターなどが、ずらり。アフリカのお面や楽器も置かれていて、なんだか日本じゃないみたい。 

店内をうろついていると、奥から店長の池端陽介さんが登場!明るいラテンノリの池端さん。飲食店のマスターというより、ミュージシャンのよう。早速、話を聞いてみた!


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「ずっと吉祥寺の音楽バーで働いてたんですけど、音楽と外国に旅行するのがとにかく好きで。いつか、その二つが楽しめるお店をやりたいなと思って、7年前にオープンしました」

店内を賑やかに飾るのはワールドミュージックのアナログレコード。ブラジル、レゲエ、ラテン、クンビア、アフロ……。どれもエスニックなデザインで、眺めているだけで旅行気分になってくる。これらはすべて池端さんが旅する中で手に入れたもの。20代後半に映画『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ』を見て、キューバへ出かけ一気にワールドミュージックに取り憑かれてしまっている。
 


「現地に行ったら誰もがフレンドリーで飯、酒をご馳走してくれる上、みんな一緒に踊ったりする。そんな陽気な雰囲気が楽しくて。一気にラテンにハマっちゃった。そこからいろんな国へ行き、カーニバルやライブに行ったり現地の音楽を楽しむようになりました」

現在までに訪問した国は、ジャマイカ、ブラジル、メキシコなどの中南米から西アフリカ~エチオピアなど約40カ国。ここ数年はレコード探しを旅の目的に。ワールドミュージックへの愛情はさらに増した。

「レコードを探すことでより多くの人と接することができるし、知らない音楽とも出会える。それがすごく面白くって。
どんな風に買うか? まずは普通にレコード屋を訪ねるんですけど、ない場所も多いんで。楽器屋や電気屋、古道具屋、ラジオ局を訪ねて、あとは道端でいろんな人に直接聞きますね。現地の言葉で『レコードを探してます』って書いた7インチのジャケを持って。そうすると何人かは『俺の家にあるよ』って声をかけてくれる人がいるんです」

池端さんによれば「レコード探しはリアルRPGな宝探し」だとか。予想の出来ない破天荒な出来事でいっぱいなのだ。


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「パナマに行った時のこと。収穫ゼロで、もう諦めて帰ろうってタクシーに乗ったら、運ちゃんが『俺の家にあるよ』って。で1時間かけて彼の家に連れていってもらったら、納屋の隅っこに7インチの箱がいっぱい!しかも全てスーパーお宝!話を聞くと母ちゃんがラジオDJだったらしくてね。300枚、一気買いしましたよ。


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あとは、ペナンで、タクシーの運ちゃんの手ほどきで1時間かけて行った先が、道も舗装されてないような辺鄙な村。『ここにレコードがあるのかよ』と思ったら、近所のおっちゃんたちがぞろぞろレコードを抱えて集まってくれてね。俺のポータブルプレイヤーで聴きながら『おーっ、これ、久々に聴いたよ!』なんて言いながら、騒いだり、踊りだしたり。何の会だかわからなくなっちゃった(笑)。そう言えば、これもペナンの話だけど、タクシーに何時間も乗って案内されたところがめちゃくちゃ山奥。家はどこも土壁だし、上半身裸のお姉ちゃんがぶらついてるみたいな。『さすがにここはないだろう!』って思ったら、『ほら!』ってレコードを出されて……と言っても砂だらけで化石状態だったから、さすがに買わなかったけど(笑)。でも、こんな場所にもレコードってあるんだなって驚きました。

旅の目的をレコード探しにしてからは、気軽に普通の家に行けるようにもなったし、それまでより一歩踏み込んだところで現地の人と接せられるようになった。暮らしを身近に感じられるようになったというか」 


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そんな池端さんの旅の写真はパネルにして店内に飾ってある。またアルバムにまとめて置いてあるのでそれを眺めるのも楽しい。

では、そろそろここでお食事を。
メニューを眺めるとジャマイカ、カリブ、アフリカなどの料理から、各国料理に独自のアイデアを加えたオリジナル料理がいっぱい。この日、池端さんが出してくれたのは、タイ風パクチー油そばとジャークチキン。ともにお店の看板メニューだ。 


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左から、「タイ風パクチー油そば」(790円)トムヤンクン風の味付け。海老とひき肉の味わいが絶品。油そばにも関わらずスッキリしていて病みつきになる。「ジャークチキン」(780円)ジャマイカで料理修行した友人による、自家製ソースで焼いたジャークチキン。


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料理のお供に各国のビールを。左はジャマイカの「レッドストライプ」さっぱりとしていて、ジャークチキンのお供に最適だ。中はケニアの「タスカー」炭酸は強めだが、しっかりとした味わい。右は自家製サングリア。食器やグラスも雰囲気満点。


「料理は、向こうの仲良くなった店のキッチンに入らせてもらったこともあったけど、基本的には旅の途中で自分で食べて覚えたものが多いですね。アフリカ人の友達に教えてもらったものもありますよ」

現在、お店では、週1度程度のペースでライブイベントも開催。レゲエ、ラテン、ブラジル、アフロビート、民謡~ファンクなどの様々なアーティストが出演する。ここで初めてライブをやり、その後、次第に頭角を表すようになったバンドも。イベントなどを除き、料金は投げ銭制も多く、気軽な気分で生演奏を楽しめるのも嬉しい。


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また店では、池端さんが買ったレコードも一部販売。そちらは1000円から一万円越えと幅広い。日本中でここでしか絶対に買えない貴重盤やレア盤もある。

「ライブにしてもレコードにしても、最初から気合いを入れて始めたわけじゃなく、旅でレコードを多く買うようになったり、ライブをやっていくうちに知り合いが増えていったりで、自然とこうなったというか。まぁいろんな形で音楽が楽しめればいいなぁと思っています」

最近は海外からの音楽ファンも来店し、池端さんと旅行の話、ワールドミュージックの話に花を咲かせることもあるとか。

「外国人向けのサイトに載ってるらしくて、それを見たワールドミュージックが好きな人が来てくれますね。自分も海外に行ったら、好きな音楽が聴けるお店を調べていくから、気持ちはよくわかるというか。すごく嬉しいですよ」


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長年海外に出かけて、無数の音楽好きと出会った池端さん。旅で学んだものはなんだろう?

「う~ん。なんだろうなぁ。あんまりそういう難しいことは考えないから。でも言っちゃえば、『みんないい奴』ってことかな。もちろん、すごい不当な値段をふっかけられたり、探しとくって言われてお金を払ったのにレコードが届かないとか、ひどい思いをしたことはそれなりにあるけど、でもそんなのは稀。特に音楽好きなやつに悪い奴はいないですね!」

ちなみに店名のバオバブは、池端さんがセネガルに行った時に考えたとか。

「バオバブって現地では聖なる木と呼ばれて、みんな親しみを持ってるんですよね。で、向こうでは暑いから、木陰に入ろうとバオバブの下に集まって、みんなくっちゃべってる。そんな光景を見て、店を作るなら絶対、これだなって。ウチもいろんな人たちが立ち寄ってくれるような場所でありたいなって思っていますね」


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【SHOP INFO】

●ワールドキッチン バオバブ
東京都武蔵野市吉祥寺南町2-4-6 小原ビルB1
0422-76-2430
18:00~1:00(金曜・土曜・祝日前4:00)
無休
http://wk-baobab.com/


Text:大野 智己
Photo:渡邊 眞朗