ハイレゾで味わうクラシック vol.7 ~熱さの秘められた北欧の音楽~


北欧といえば、オーロラが見られるほど寒い地域ということで、とても遠いところ、なかなか縁のない場所……というイメージを持っているかたも多いのではないでしょうか。でもじつはIKEAにマリメッコ、フライングタイガーなどのオシャレでかわいい雑貨店はみんな北欧からのブランドですし、あのムーミンだってフィンランドからやってきたキャラクター。日本人にとってはとても身近な国なんですよ。そして音楽でも、聴いたことのある曲がじつは北欧の作曲家の作品だった……ということがたくさんあるのです。今回は寒い寒い北欧生まれの作曲家の、寒さを忘れてしまうようなあたたかい作品や、厳しい寒さを知っているからこそ生まれる魅力的な作品をご紹介します。

シベリウス:悲しきワルツ 

戯曲『クオレマ』の劇付随音楽として書かれた曲の一部を編曲したものです。森や夢の中といった場を舞台に展開される物語はとても幻想的で、それを音楽で描写したシベリウスの音楽は、聴いているだけでも内容が鮮やかに浮かんでくるような気がしてきます。じつはこの物語はとても悲しいストーリーで、「悲しきワルツ」はその雰囲気が凝縮したような、胸が締め付けられる哀しさに満ちています。カラヤン率いるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の雄大な演奏をぜひハイレゾでお楽しみください。 

悲しきワルツ 作品44
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ヘルベルト・フォン・カラヤン

 

シベリウス:フィンランディア 

19世紀末から20世紀初頭、フィンランドが圧政に対する独立運動を進めていたときに、シベリウスがフィンランドに対する熱い愛国心を込めて書いた作品です。“勝利”へのまっすぐな想いが込められており、金管楽器と打楽器による戦いを思わせる力強い音楽を経て到達するクライマックスの「フィンランディア賛歌」は感動的です。こちらもカラヤン率いるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を迫力のサウンドでお聴きください。

Finlandia, Op.26, No.7: フィンランディア 作品26の7
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ヘルベルト・フォン・カラヤン

 

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 

シベリウス唯一の協奏曲です。ヴァイオリンの超絶技巧、北欧の雄大な大地を感じさせる息の長い旋律が随所で聞けるのはもちろん、室内楽を思わせる、独奏楽器とオーケストラの緊密な関係も楽しめる作品となっています。とくに第3楽章はティンパニや低弦の刻むリズムに乗って独奏楽器が技巧性を発揮していく舞曲風の作品で、ハイレゾで聴くことで身体全体に踊りのリズムが響いてくるような気がしてくるはずです。 

ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47: 第1楽章: Allegro moderato

ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47: 第2楽章: Adagio di molto

ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47: 第3楽章: Allegro ma non tanto
諏訪内晶子/バーミンガム市交響楽団/サカリ・オラモ
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グリーグ:『抒情小曲集』より「春に寄す」 ​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

ノルウェーを代表する作曲家であるグリーグの、春の息吹と自然の美しい情景が目に浮かぶような、童話を読んでいるような気分になれる作品です。この曲はグリーグがデンマークに旅行中ホームシックになり、祖国の美しい自然を讃えて書いたといわれています。あたたかい太陽の光があたりをつつみ、雪がゆっくりと溶けていく様や、氷や水に光が反射していく優しい輝きが描かれていきます。寒い冬のあとに訪れる春のすばらしさを感じながらぜひお聴きください。アリス=紗良・オットさんの透明感あふれる音色がハイレゾでよりクリアに楽しめるでしょう。 

抒情小曲集 第3巻 作品43 春に寄す
Alice Sara Ott

 

グリーグ:『抒情小曲集』より「トロルドハウゲンの婚礼の日」 ​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

グリーグが、結婚記念日に妻のニーナに贈った曲です。明るく華やかな行進曲のリズムにのって、愛する人への熱い思いが奏されていきます。右手と左手がメロディを模倣しあうことで、仲睦まじい夫婦が愛を語り合っているかのような様子が見えてきます。祝祭感に満ちた輝かしいピアノ曲は、聴いていると幸せな気持ちになるはずです。こちらもアリス=紗良・オットさんの輝かしいタッチによる演奏でお楽しみください。ハイレゾ・サウンドがさらにその輝かしさを盛り上げてくれます。

抒情小曲集 第8集 作品65 トロルドハウゲンの婚礼の日
Alice Sara Ott

 

グリーグ:『ペール・ギュント』より「ソルヴェイグの歌」(聞き比べ) 

ノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンの戯曲『ペール・ギュント』の劇音楽のうちの1曲で、主人公ペール・ギュントが村の結婚式で出会った少女、ヒロインのソルヴェイグが歌います。放浪の旅に出たペール・ギュントを待ち続け、戻ってきた彼に彼女が歌った子守歌です。子守歌とはいっても、そこには愛する者への信頼、強い愛情、そして哀しみも込められており、“大人の”子守歌になっています。今回はピアノ編曲版と、三宅由佳莉さんの透き通るようなボーカル版でお楽しみいただき、優しい気持ちに浸ってください。 

抒情小曲集 第2集 作品55 ソルヴェイグの歌
Alice Sara Ott

劇音楽《ペール・ギュント》 ソルヴェイグの歌
三宅由佳莉(海上自衛隊東京音楽隊所属)/海上自衛隊 東京音楽隊/手塚裕之

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グリーグ:ピアノ協奏曲 ​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

愛するノルウェーの民謡や舞踏のリズムを作品のなかに自然と溶け込ませ、心に優しくしみ込んでくる音楽、とくに小品をたくさん残したグリーグですが、それは規模の大きなピアノ協奏曲でも同様です。地鳴りのように響く打楽器のトレモロに導かれて、力強いピアノの和音、そしてオクターブによる下行音型が奏されるこの曲を、耳にしたことのあるかたも多いと思います。あらゆる感情や情景が錯綜するようなこの作品は、北欧に生きる人々の生活や熱い感情を存分に感じることができるはずです。こちらも演奏者はアリス=紗良・オットさん。旋律やリズムの変化とともに多彩に音色を変化させ、ドラマティックに音楽を創り上げていく演奏を、低音の迫力、高音のきらめきを詳細に伝えてくれるハイレゾ・サウンドでお楽しみください。 

ピアノ協奏曲 イ短調 作品16 第1楽章: Allegro molto moderato (2015年 ライヴ・イン・ミュンヘン)

ピアノ協奏曲 イ短調 作品16 第2楽章: Adagio (2015年 ライヴ・イン・ミュンヘン)

ピアノ協奏曲 イ短調 作品16 第3楽章: Allegro moderato molto e marcato (2015年 ライヴ・イン・ミュンヘン)
Alice Sara Ott/Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks/Esa-Pekka Salonen ​​​​​​

 

カスキ:激流 

カスキという作曲家はあまりなじみがないかもしれません。シベリウスと同じくフィンランドの作曲家で、ピアニストでもありました。彼はグリーグと同じように優しさにあふれた小品を多く作曲した人で、日本のピアニスト、舘野泉さんが楽譜を発掘して演奏し、知られるようになりました。「激流」はカスキの故郷、フィンランドのカレリア地方に流れる川を描写した音楽です。日本の川とはまったく違う雰囲気を丁寧に描写したこの作品は、聴いていると心が洗われていくような気分になるはずです。カスキの発掘者、舘野泉さんと水月恵美子さんのピアノ・デュオによる、みずみずしさと輝きにあふれたカスキの音楽をぜひお楽しみください。ハイレゾ・サウンドで聴くことで、きらめく水の輝きがよりリアルに伝わってきます。

カスキ:激流 作品48-1
舘野泉 ​​​​​​

 

いかがでしたか? 北欧というとかわいいものや童話、ファンタジーのイメージがあり、実際そういった雰囲気の小品がたくさんありますが、かなりドラマティックでアツいものが込められた作品もたくさんありますね。いつかオーロラを見ながら今回挙げたような曲を聴いてみたいなぁと思っています。ぜひ北欧にお出かけのご予定があるかたは、旅のお供にしてくださいね。

連載第8回からは、シーンや気分ごとにぴったりのクラシック音楽をご紹介していきます。次回は2018年2月2日(金)、“キレイを応援する曲”をテーマに、年末年始でお疲れのみなさまへ身も心もキレイにしてくれそうな美しい曲をお届けの予定です。