DATS/yahyel・大井一彌とTempalay・藤本夏樹が語る。今までよりもっと音楽が好きになるドラムの魅力


エレクトロニックと生演奏の境界線を壊すように、ほぼ全編打ち込みで作られたDATSとyahyelの音源を、ステージ上では生で叩く大井一彌と、摩訶不思議なタイムトリップ感を持つTempalayの音楽を支える、独特のフレ―ジングが印象的な藤本夏樹。
 


現在の国内ポップミュージックを一歩前に進める、若手ドラマー二人の対談が実現した。フィジカルからダウンロード、ストリーミングへ、より広く自由に音楽を聴くことができるようになった環境の変化を、多感な10代から20代に跨ぐことで、ジャンル固有のマナーへのリスペクトとそれぞれに線を引かない柔軟性を併せ持ち、独自の創造性を発揮する彼ら。そんな平成生まれの新世代が思う、ドラムの魅力について、ドラムを始めた頃の話、憧れのドラマー/ドラムの楽しみ方/機材や練習へのこだわりといった、さまざまな角度から話してもらった。

平成生まれの新世代が思う、ドラムの魅力とは?

平成生まれの新世代が思う、ドラムの魅力とは?(1)

(L:大井一彌、R:藤本夏樹)

 

―まずは、ドラムを始めた頃の話から、訊かせていただけますか?

大井一彌:中学生活は卓球一筋。プロになりたかったんです。でもなんかしらけちゃって、高校では軽音楽部に入りました。一瞬で“ドラムが一番カッコいい”と思って、本格的に始めたんです。

藤本夏樹:その頃はどんな音楽をやってたの?

大井:そこの高校には60年代の音楽好きが集まってて、モッズ系とかサイケデリック音楽とか。

藤本:高校生でモッズって、かっこいいな。

大井:そんな感じで、60年代の音楽、なかでもサイケが僕のすべてだったんです。

―60年代のイギリス。多くのビート・バンドがサイケデリックへと移行していった流れを汲んでいたんですね。そのなかでも好きなドラマーは誰ですか?

大井:Keith Moon(The Who)、Kenny Jones(Small Faces)、で、やっぱりRingo Starr(The Beatles)ですね。

―Ringo Starrのどんなところが好きなんですか?

大井:パターンで言えば「Tomorrow Never Knows」は象徴的です。ロックンロールやR&Bのシンプルな8ビートとはまた異なるもの、例えばラテン音楽の要素などを、かなり早い段階でロックやポップスに持ち込んだ人。そういう実験的な姿勢もですし、あとは、あのドタドタ感ですよね。“ヘタウマ”とか言われますけど、あれはわざとやってると思うんです。あえて絶妙な”揺れ感”を演出してる。僕は夏樹にもそれを感じていて。

藤本:ありがとう。僕もRingo Starrは狂信的に好きで、一彌と同じ意見。あの揺れ感は何なのか。グリットに沿わないスネアの位置とか、すごく研究してます。

大井:僕の持ち味はある意味その逆。どっちかっていうと完全にオンタイムで、同期ものとかに対して器用なタイプ。だから夏樹のセンスが羨ましくもあります。

藤本:僕が一彌と出会った頃は、Radioheadみたいな音楽が好きだったから、同期とかに入り込むような生ドラムがかっこいいと思ってたんですけど、一彌のプレイを観て「これ無理だわ」って思いました。それで自分なりのやり方を考えてたのがちょうどTempalayを始めたくらいの時期。だから、そこを理解してもらえてるのは嬉しいです。

 

平成生まれの新世代が思う、ドラムの魅力とは?	(2)

 

―そういうRingo Starrの実験性やスキルもそうですし、音楽の歴史や進化を追ってみると、モータウンしかり、トラップしかり、ビートを基準に語られることも多い。特に、近年のポップミュージックって、とりわけビートがその自由度を示す肝になっているので、今からドラムをやることって、めちゃくちゃカッコいいと思うんです。

大井:なるほど。確かに、時代を象徴することをビートが担えるようになっていると思います。ストリーミングもあるし、いつの時代のどんなジャンルの音楽も、以前より自然に入ってくる。そこをもっとも自由に往来できる楽器はドラムかもしれないですね。

藤本:ジャンルを括ってるのがドラムのリズムパターンだったと言っても過言でもないし、ノージャンルのカオスな時代に入ったいま、1曲という囲いのなかでも、いろんなことをいくらでも自由に組み合わせられる。それはドラムの大きな特徴だと思います。だからより多くの音楽に触れがいがある。シンプルに言うと、ドラムを始めれば、今までよりもっと音楽が好きになると思います。

大井:僕らが始めた頃はまだ、基本のルーディメンツとかをひたすら繰り返し練習して、メトロノームを使ってズレないように演奏することこそが正解だったんですけど、今はそれだけじゃない。なんでもできる時代だからこそ、グルーヴの時代感や新しい機材、いろんな要素をいかに自分なりに取り入れるかが、手先がどれだけ器用で早く動くかとか、そういうことよりも重視されている気はするんです。だから、僕とか夏樹みたいなタイプが取り上げてもらえるんだとも思いますし。

―はい、まさしく。

大井:今は打ち込みで生の音も再現できるから、正確性を求めるならドラマーはいらない。“人間だからこそ”の価値ですよね。僕はそれこそスポーツのように、正確性における精度をいかに高めて、ズレないように叩けるかみたいな価値観の中で育った。そういう音楽的でないことが音楽的なことを生み出せる楽器でもあるんで、それも必要なことではあります。加えて、これからドラムを始める人は、最初からドラムがクリエイティブで歌える楽器だっていう認識でできるから、きっとすごくおもしろいんだろうなって。だから羨ましくもあります。

―DATSもyahyelも音源は打ち込み。それをライブでは、人間だからこその味やスキルで体感させてくれる。逆に音源側から見ても、例えばDATSの場合、”ロックは生”みたいな固定概念を広げる魅力がある。そこでもはやエレクトロニックと生演奏の境界線がなくなった瞬間を感じる気持ち良さですよね。

大井:それは僕がまさにやりたいこと。両者には共存できる道があると思ってるんで。そういった現代のドラマーの在り方については、これからドラムを始める人たちとも話し合いたいんです。人間のドラマーがどうやって価値を担保していくか、僕も分からないことだらけなので。

藤本:やっぱりライブで直感的に“カッコいい”と思えるかどうかなんじゃないかな。俺は人間味のある音楽が好き。その人以上のものが出てるとあまり好きじゃないなあ。

大井:そうだよね。それが価値なんだって答えが、一番しっくりくる。このあいだテレビで観た、AIが作った料理のレシピがほんとに微妙で。結局、人間が空腹を満たしたいっていう根源的な欲求のもとに作ったものが直感的にうまそうみたいな。そこに機械が入り込む余地はないですから。それは楽器にも当てはまると思うんです。でもそれだけだと心配というか・・・。

藤本:わかるよ。それ言ったら話が終わっちゃうしね。

―今はマシンを使えば正確性はもちろん、人が叩くより良い音が出せたりもしますしね。でも、人が叩く価値も絶対的なもの。だからこそこれからどうしていくか、考えていけることもまた楽しみですよね。

藤本:まさにそうですね。

大井:僕らより若い人はもっと柔軟なはずだし、一緒にどんなことをやっていけるか、本当に楽しみです。

 

平成生まれの新世代が思う、ドラムの魅力とは?	(3)

 

―ここまではお二人のドラムにたいする考え方を中心に話していただきましたが、ここからは具体的な練習方法や機材について訊いていきたいと思います。まずは、いざドラムを始めようと思ったときに、どうやって練習すればいいのか。

藤本:僕はやりたいことにたいして感覚的に近付けていくんで、あまりおすすめできないです(笑)。叩けるんだけどそれが何ていう技なのか、知らないこともよくあります。

大井:僕はひたすら基礎を繰り返すんです。ドラムは歌と違って構造がはっきりしてるから、そこを理解すれば叩けるようになる。でもそれは、僕がさっきも言ったような“理屈の前に基礎”みたいな体育会系にいたから、向いている方法なのかもしれません。要するにその人の性格。最初から個性や実験精神を持っている人は、夏樹みたいなルートで、センスがあれば技術はあとからついてくる。

―では、部屋にドラムセットが置ける人はほとんどいないと思うのですが、まずは何を用意して練習すればいいですか?

藤本:スティックを持っていれば十分です。で、膝を叩く。

大井:どこでもできる。それがドラムのいいところ。たしかBuddy Richの言葉だったと思います。椅子に座ってテーブルをスティックで叩いて灰皿を足で踏む。それでドラムになるって。

―スティックにこだわりはありますか?

藤本:僕はもう超スタンダードです。VIC FIRTH(ビックファース)の5A。

 

平成生まれの新世代が思う、ドラムの魅力とは?	(4)

▲VIC FIRTH 5A

 

大井:僕は何十種類も試してVATER(ベータ)のものに辿り着きました。普通はヒッコリーなんですけど、メイプルでできていて、軽くて柔らかいんですよ。

 

平成生まれの新世代が思う、ドラムの魅力とは?	(5)

▲VATER

 

―ほかに、シンバルやスネアなど、ライブに持っていくものへのこだわりを訊かせてください。

藤本:一彌に「ハイハット大きくした方がいいんじゃない?」って言われたことあったよね?で、普通は14インチなんですけど、今は16インチのものを使ってます。“チキチキ”というより、下の音が豊かで立体感が出る。

大井:一つ一つの音の秒間にある情報が多いというか。だからムラが多くて難しい気が・・・。

藤本:そこに挑むことで、生きてる実感が湧くんだよね。

大井:なるほどね。僕はその逆で、ハイハットは12インチ。エレクトロのハットの裏打ちみたいな、均一で硬質で、あまり人間味のないことができるようなものです。DATSでもyahyelでも、音源だと打ち込みのビートをいかに生演奏で再解釈、再構築するか。そこに今の自分の価値があります。

藤本:でも、クラッシュとかライド系のシンバルは意外とでかいよね?

大井:うん。エレクトロとの親和性は考えつつ、シンバルはトラッシーだね。詳しいことを言うと、普通のクラッシュシンバルとチャイナシンバルを混ぜたような、ちょっとジャリッとした味を含んだ音。今使ってるシンバルはフジロックで観たThe Internetに影響されて、Bosphorus(ボスフォラス)のTRASH CRASH(トラッシュクラッシュ)っていう、20インチのものなんです。

―スネアはどうですか?

藤本:最近新しいのを買いました。現行のAcrophonic(アクロフォニック)。

大井:へぇ!どんな感じ?

藤本:Ludwig(ラディック)のAcrolite(アクロライト)のアルミ胴に、Supraphonic(スープラフォニック)のラグとか付いてて、けっこう音が鳴る。Acrolite(アクロライト)だと、レコーディングはいいんだけど、ライブだとちょっと音量足りないかなと思って。

大井:僕のは13インチで胴も浅い。かなり鋭くて帯域も狭くて高い音が出るんです。

―なるほど。音楽性による見た目にもはっきりわかる違い。話しは尽きませんね。

藤本:最初は「何を喋ろう」とか思ってたんですけど、話し足りないですね。

大井:第2弾、やりたいです。よろしくお願いします!

 

平成生まれの新世代が思う、ドラムの魅力とは?	(6)

平成生まれの新世代が思う、ドラムの魅力とは?	(7)

 

Interview&Text:TAISHI IWAMI
Photo:大石隼土