ピンク・フロイド演奏の魅力。トリビュートバンド「原始神母」の木暮"shake"武彦が語る10曲

PINK FLOYD(以降、フロイド)の曲を演奏したいと思ったのはまだ30代前半、アメリカのロスアンジェルスにいた頃。20代でまだレッド・ウォーリアーズをやっていた頃、自分の周りにフロイドファンはいなかった。当時のロックンロール好きの人間からすると、フロイドの音楽は「哲学的で難しい」というのが口癖だった。
LAのローズボウルで2日間Division Bellのツアーを見た後、大きな会場でやれば好きな人も喜んでくれるし、わからない人もわかってくれるのではないかと思った。本物に比べたら、何百分の一だが、気づいてみたらそれは実現していた。
魔法のようなフロイドの音楽も実際に解明して演奏してみると、ほぼどう作られているかが分かる。テクニカルな演奏ではないし、小さなひらめきと努力の積み重ねだと感じる。特に初期の曲にはハッタリの大風呂敷を感じる曲もあるが、不思議さや驚きの音、恐ろしい音の連続の後に確実にやってくる幸せな気持ち。フロイドを入りこんで聴いたときに感じる、とてつもなく大きな感動の理由が未だにわからない。神秘体験のような種類のものだと感じる。

#1. Astronomy Domine

フロイドデビュー当時のリーダー、シドバレット。シドといえばこの曲というイメージ。まだ人類が月に到達する前に、POP音楽の世界で宇宙を視野に入れていたのはジミヘンとシドだけだと思う。フロイドの記念すべき1stアルバムの1曲目。迷宮のようなコード進行とともに、意識が危険な気分を伴って上昇していく。シドの曲を演奏していていつも表現したいと思うのは、危なさと美しさ、そして意識と無意識のスレスレなライン。このまま向こうの世界に行ってしまいたいという気持ちにさせられる。

 

Astronomy Domine
Pink Floyd

 

#2. A Saucerful of Secrets

今に続くフロイドのイメージを作った曲、第1号だと思う。シドが狂気の世界に旅立ってしまった後、同じ穴を通って、向こうの世界を見たのはロジャー。
不協和音がゆっくりとじわじわ攻めてくる、恐ろしくて、気持ちのいい音の連続。そして最後には昇天。地獄や、天国を表現するダンテの神曲のようだと感じる。とことん自由な想像力、ハッタリと無鉄砲さが生んだ幸運な恐怖の音楽だ。よくぞ、こんな曲を作ってくれたと思う。ポンペイのライブのように、床に置いたギターをスライドバーでこする時、何かがきていると感じる。

 

A Saucerful of Secrets
Pink Floyd

 

#3. Cymbaline

映画『MORE』のサントラ盤収録の曲だが、本人たちもライブでよくやっていた曲。ライブではギターソロを入れたりして、長く伸ばして演奏するのがほとんどだと思うが、自分はリスナーとして何年もこのスタジオ盤を聴いてきて、まずライブバージョンをやろうという気持ちにはなれない。ギターがどうこうよりも、スタジオ盤で感じる雰囲気がとてつもなく好きなのだ。特に最後のサビの後、そっけないボンゴが響く中、オルガンの恍惚なメロディーがマイナーからメジャーに変わる瞬間がたまらない。雲の向こうから夕日が差してきたという感じがする。

 

Cymbaline
Pink Floyd​​​​​​​

 

#4. Atom Heart Mother

フロイドをトリビュートしようと思った時にどうしてもやりたかったのはこの曲。ブラスセクション入りの曲をロックバンドが演奏するのは、昔は不可能だったが、機材の向上で現代では可能になった。これもロジャーのハッタリと誇大妄想が魔法を生んでいる。曲の前半に出てくる、こもったトーンのスライドギターの音を感じた時にフロイドの音楽を理解したと感じた。そしてその後に出てくる5分を超えるスキャットのセクション。自分も観客としていつかライブで体験してみたい。

 

Atom Heart Mother
Pink Floyd​​​​​​​

 

#5. One of These Days

これぞ、無鉄砲な想像力の極致。こんな曲を名曲として知らしめたフロイドは本当に感動する。ディレイをかけたベースの音の不穏で大胆なビート、凶暴なスライドギター、殺人鬼がやってきたかのようなドラムのフィル。暴力とはこういうものなのだと音で語っている。自分でも演奏する時に暴力にとりつかれたような気分になる。

 

One of These Days
Pink Floyd​​​​​​​

 

#6. Echoes

3分で終わるフォークソングにもなりえた曲を、よくも25分もの曲にしてくれたと思う。前半とラストのフォークソング的な部分、そして、中間部のフロイドならではのグルーヴのジャムセクション、そして一番のポイントはその後の”ダンテの煉獄編”のようなセクション。ギターやベースの演奏とは言えない音と、その後の神の光を見るような結末。やるたびに浄化される感じがあるが、当たり前になんともない気持ちで演奏したくないので、フルで演奏はたまにしている。

 

Echoes
Pink Floyd​​​​​​​

 

#7. Time

初めてコピーしたフロイドの曲。この曲のギターソロに感動したのは多分、エレキギターを弾き始めて1年ぐらい経った頃だったと思う。それまで聴いたロックにはないギターの音による宇宙的な広がり、激しさとともにある美しさに感動した。そんな感情はこの曲を聴くまで自分の中にはないものだった。弾いてみれば割と普通のブルースなのだが、いつどの音をチョーキングすれば、人がノックアウトされるのかギルモアは本能的にわかっているのだと感じる。とにかく、的への当て方がすごい。

 

Time
Pink Floyd​​​​​​​

 

#8. The Great Ging in the Sky

『狂気』のアルバムでは、「タイム」のギターソロから一息ついた後で、またこの曲で宇宙に逆戻りだ。原始神母のライブをやる時、一番のポイントだと感じるのはこの曲のイントロかもしれない。弾いていてとても気持ちがいい。しかも、イントロだけでギターは終わりというのがすごい。自分では絶対考えつかない。ロジャーのインタビューなどを読むと、これは誕生から死の歌だという事だが、女の人の叫びなので自分ではSEXの音楽だと何年も勝手に思っていた。音楽の形も全く独自だし、動から静かへと、完璧なメロディーとエモーション。歌った本人も直前まで何をやるか知らなかったという奇跡の1曲。

 

The Great Gig in the Sky
Pink Floyd​​​​​​​
 

#9. Shine On You Diamond(LIVE)

炎のアルバムが出た時には高校1年。『狂気』でフロイドを理解してすぐにこのアルバムを聴いた。特に印象に残ったのは2分過ぎに出てくる、ギターの1音目。コンプレッサーというエフェクターは後から知ったが、それまで聴いたことがない、こもったクリントーンで「プックーン」と鳴る悲しい音に心を奪われた。曲全編を通して、ギターのフレーズはどれも決まりすぎている。無駄な音は1音もなく、大昔からそれはあったかのようだ。どっしりとした隙のないプレイ。ギルモアとはどんな人間なのかわかる気がする。

 

Shine On You Crazy Diamond (Live)
Pink Floyd​​​​​​​

 

#10. Wish You Were Here

アルバム『炎』の中で一番驚いたのが、この曲のイントロ。ラジオから流れてきた音に対して、ギターを弾き始め、そのまま曲突入。それがまたニールヤングのようなフォーキーな普通に良い曲だった事に「こんな曲もやるんだ」と恐れ入った。とにかく12弦ギターのリフが良い。12弦ギターを持ったらこのリフを弾くという人は多いのではないか。そして歌いたくなる。歌詞は男の友情を描いて、抽象的だがシドバレットの事も頭をよぎって、胸にくる。

 

Wish You Were Here
Pink Floyd​​​​​​​

 

主要メンバーは生きているが、もうやることはないと言われているフロイドを本格的にライブでやろうというのはいい本当にアイデアだった。どう考えても一生聴くことのできない素晴らしい曲の数々を演奏できて、たくさんの人が集まり、喜んでくれて、自分も毎回驚きや感動と共に演奏することができる。感謝しかない。


木暮”shake”武彦[原始神母]

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