妄想系アルバム鑑賞法「利きジャケ」のすゝめ 第4回

妄想系アルバム鑑賞法「利きジャケ」のすゝめ 第4回 「利きジャケ」へようこそ。 古今東西の名盤を紹介する当コーナーは、いわゆるアルバムレビューではない。 ならば何をするのか? ……「利く」のだ。「聴く」ではなく、「利く」のだ。一枚のジャケットをじっと凝視し、アルバムの“顏”から名盤を味わい尽くす。流浪の妄想コーナー、それが「利きジャケ」だ。

「利きジャケ」へようこそ。
古今東西の名盤を紹介する当コーナーは、いわゆるアルバムレビューではない。
ならば何をするのか? ……「利く」のだ。「聴く」ではなく、「利く」のだ。一枚のジャケットをじっと凝視し、アルバムの“顏”から名盤を味わい尽くす。流浪の妄想コーナー、それが「利きジャケ」だ。
 

妄想系アルバム鑑賞法「利きジャケ」のすゝめ 第4回

「利きジャケ」へようこそ。
古今東西の名盤を紹介する当コーナーは、いわゆるアルバムレビューではない。
ならば何をするのか? ……「利く」のだ。「聴く」ではなく、「利く」のだ。一枚のジャケットをじっと凝視し、アルバムの“顏”から名盤を味わい尽くす。流浪の妄想コーナー、それが「利きジャケ」だ。
 

「妄想世界はリンクする」

mysound読者の皆さん。今年もよろしく。ヴィンセント秋山です。私はもう、かれこれ10年以上、様々な媒体を通じひとつの“遊び”に取り憑かれている。一枚のジャケットを凝視し、ジャケットのアートワークだけから妄想を広げそのアルバムを味わい尽くす遊び。音楽的要素はあえて封印。それが「利き酒」ならぬ「利きジャケ」だ。……写真でボケて? 断然違う! アルバムジャケットというアート作品を純粋に楽しむという、これは崇高な遊びなのだ。

さて今回は洗練されたAORサウンドを代表する逸品2枚を利く。
メローでアダルトで正統派な“大人の利き”をご堪能いただこう。

なお、当コーナーではアルバム名を「銘柄」、アーティスト名を「蔵元」と表記する。ではいざ利く前に、利きジャケ唯一のルールもお伝えしておこう。音楽的要素は一切ない利きジャケであるが、音楽を愛するものとしての唯一のルールがある。それは…………

「利いたからには、聴かねばならない」
 

「だるまさんがころんだ」

「だるまさんがころんだ」(1)

銘柄:シルク・ディグリーズ
蔵元:ボズ・スキャッグス


AORの代表格。ボズ・スキャッグス。
その代表曲「ウィア・オール・アローン」も収録する、ボズの最高傑作の一枚だ。
オシャレで落ち着いていてメローで大人の雰囲気のボズ。
AORといえばボズ・スキャッグス。ボズといえばAOR! ボズ! AOR! ボズ! AOR! ボズ=AOR!
………で。あらためて。
今更聞くのもあれだけど。AORってそもそもなんだっけ? とお嘆きの諸兄。すなわち「アダルト・オリエンテッド・ロック」の略だ。「オシャレで落ち着いていてメローで大人の雰囲気」の音楽ジャンルのこと。しかしこの呼び名って日本だけだったりするの知ってた?
アメリカではAC(アダルト・コンテンポラリー)とか、MOR(ミドル・オブ・ザ・ロード)などと呼ばれているんだって! 欧米でAORと言えば「アルバム・オリエンテッド・ロック」で、プログレとかハード・ロックを示したりしちゃうんでそのへん気をつけないとかなんとか。
いや~~~。しかし、

日本と欧米で同じモノなのに意味が全く違うことってあるよね………って。

はっ! いけない! な、な、何を私は言っているのだ! そんなクソの役にも立たない音楽的要素をこれ見よがしに披露するなど言語道断だった。さらに日本と欧米の違いにまで話を広げるなどゲスの極み。
いやはや音楽的要素は徹底排除。ただただ純粋に、ジャケのアートワークだけから妄想を広げること、それこそが利きジャケであるのだから……。
 

「だるまさんがころんだ」(2)

 


気を取り直し。
それではあらためてこのジャケットを凝視していこう。じっと凝視して。
準備はできただろうか?
ではおなじみ「利きジャケポイント」(以下KJポイント)を探していく。確実なKJポイントを探し当てることが利きジャケにとってまずは大切なのである。

海辺のベンチに男が一人で座っている。それも変な色のベンチに。

男はうつむいた仕草。ひとりぼっちの男なんて謎が深まるばかり。いいぞ。妄想が広がりそうだ。
ということは、
「男が一人海に来た目的」
それが今回のKJポイントに違いない。

男は何のためにここに来たのか?

「だるまさんがころんだ」(3)

「釣りにきた」

海に来るとしたら、これしかあるまい。
仕事はできない万年ヒラ社員のこの男だが釣りの腕だけは天下一品。仕事をサボってスーツ姿のままで釣りざんまい。ひょんなことから知り合った「スーさん」という初老の男性と繰り広げる、釣りバカ男の珍騒動の物語。
おやおや、今日はなんと、大事なものを忘れてしまったみたいですよ、ハマちゃんったら。

「あっ、しまった釣竿忘れた! ガックシ」

の瞬間が、これ。↑
よし、利けた。次行ってみよう。

男は何のためにここに来たのか?

「だるまさんがころんだ」(4)

「身代金の受け取りに」

“山下公園の左から三つ目の変な色のベンチの下に、身代金を置け。紙袋にピン札で1億円”……という誘拐犯からの要求が! だが警察も抜け目はない。
身代金受け渡しの場所に現れた犯人の男がこいつ。↑

「あれ? ベンチの下にお金ないじゃん! しまった。警察にハメられた! ガックシ」

という瞬間が、これ。↑
よし利けた。次。

男は何のためにここに来たのか?

「だるまさんがころんだ」(5)

「ベンチの座り心地を確かめにきた」

老舗のベンチ会社で定年を迎えたベンチ職人。ベンチを作り続け四十年。自分が作った最後のベンチの座り心地を確かめに……う〜ん、カッチカチの座り心地!
これ。↑

うむ。
どれもこれも利けるには利ける、しかし……………

なんか違うんだよなあ。メローでもアダルトでもないし。何が違うんだろう? 大事な何かを見落としているような気がするんだ? そういう時は、さらに凝視! 
おぉ! こ、これは! こいつはうっかり見落とすところだったじゃないか。
 

「だるまさんがころんだ」(6)

ジャケの端に赤いマニキュアの指!

ベンチの下にはヒールの足も見えている。これはひとりではない。少なくとも、画面には写っていないけれどもう一人。ここにはいるわけだ。
ということは、
すなわち、今回のKJポイントは、

「隠れた女の存在」

主人公は「男」ではない。ジャケに映らぬ「女」こそが、
主人公だったのだ。ならば、二人で何をしているのか?
片方がそっぽを向き、片方がそっと近づくその仕草。それこそ………
 

「だるまさんがころんだ」(7)

「“だるまさんがころんだ”をしている」

「だーるーまさーんがーーーーーーーー」
あっ、近づいてるよ! 女の人が近づいてるよ!
「ころんだーーーーー! 百合子ちゃん動いたー! アウトー!」

………って。

違う。
ぜったいに違うぞ、この「利き」は! なんだ「だるまさんがころんだ」って!
ダメダメ! そんなときはさらに注目。さらに凝視だ。
すると……
おお!

そこで私はようやく己が目の節穴に気づいた。
女性の指の形! よく見て欲しい。
その人差し指と中指を交差する、その形。これは……

「エンガチョじゃないか!」

女の人! エンガチョしてるよー!
 

「だるまさんがころんだ」(8)


酔いつぶれ最終電車で男はこの街に着いた。
海辺のベンチでウトウトし、すっかり酔いも覚めた明け方。
よく見れば、自分の吐いたゲロまみれ。
いいことばかりはありゃしない。
ボズ、しけてるぜ。ボズ。そして、そんなしけた男の脇に謎の女。
そこで一言。

「あんた………エンガチョだよ」

利ける。いくらでも利ける。そのほかに……

「ペンキ塗りたてに座っちゃった男に、エンガチョ!」
「犬のフン踏んでいて、エンガチョ!」
「黒くてやばい虫を踏み潰して。エンガチョ!」

おお、いくらでも利ける。

だがしかし………。
やっぱり、どれもちっともアダルトじゃないなあ。
オシャレでも、メローでもないなあ。
果たして、今一度、この女の指の形に注目してみよう。

# クロスド・フィンガーズ
【片手の人差し指と中指を交差させる行為。西洋においては「君の成功を祈る、頑張って」という意味で用いられる。元々は初期キリスト教において指の交差は十字架を意味し、「神はあなたと共にいる」という意味を表した。グッドラック。あなたに幸運を。】(wikipediaより)
 

「だるまさんがころんだ」(9)


そこは二人の思い出の場所だった。思い出のベンチ。肩を落としうつむく男の姿が、冷えた潮風と女の視線に晒される。別れを切り出したのは女の方。
男が悪いんじゃない。女が悪いわけでもない。互いに愛し合っていても、
別れなくてはならないことはわかっているんだ。
アダルトで、メローな大人の恋。明日から新しい人生を歩み出す女が一言。

「さよなら。あなたにも幸せを…」

いかがだろう。ようやく最後に「アダルト」に「メロー」に利くことができた気がする。私は満足だ。
しかし、ホントに、

日本と欧米で同じモノなのに意味が全く違うことってあるよね。

以上、ボズ・スキャッグス「シルク・ディグリーズ」。わりと正当に利かせていただきました。
そしてもちろん
利いたからには、聴かねばなるまい

 

Silk Degrees

Boz Scaggs
 

では、つづいて。
こちらの銘柄。同じく、AORの代表的バンド。TOTO
 

「東京オリンピック新種目の審判」

「東京オリンピック新種目の審判」(1)

銘柄:Mindfields
蔵元:TOTO


さてこちらのジャケ。双眼鏡で何かをのぞいている。何を見ているのか?
ではおなじみ「利きジャケポイント」(以下KJポイント)を探していこう。確実なKJポイントを探し当てることが利きジャケにとってまずは大切なのだから。
そして今回のKJポイントほど、簡単なものはあるまい。
ズバリ!

「何を見ている?」
 

「東京オリンピック新種目の審判」(2)

「ダメ社員を見張っている」

↑この人。人事部の人。
「まったくうちの万年平社員ったら、何かにつけてサボってるんだよ。だからこうして見張ってるってわけさ。おやおや、やっぱり来たぞ。この釣り場に。
あの釣りバカ社員め。またまたサボって釣り三昧か! 今日こそ社長に告げ口だ!」
 

「東京オリンピック新種目の審判」(3)

「誘拐犯を見張ってる」

↑この人、刑事。
「ここ、山下公園で身代金の受け渡し。必ず犯人は来るはず。ベンチの下の身代金は、すでに安全な場所に移動済みだ。おっ! 来たぞ! 間抜けな犯人め! 一同、確保に向かえ! タイホー!!」
 

「東京オリンピック新種目の審判」(4)

「引退する師匠の最後を見守っている」

↑この人、職人の弟子。
「師匠の源さんには、こう言われてんだ。“俺は何も教えねえ。学びたければ、俺から盗め。俺の一挙手一投足を盗み見続けろ!”ってね。源さん! 師匠の最後の生き様、しかとこの目に焼き付けましたぜ。おいら、日本一のベンチ職人になってみせやすぜ!」


ふむふむ。まあ、それなりに「利け」ました。
う~ん、でもなんかまだ物足りないんだよなあ。もっと、もっと異次元空間に! 妄想の地平線のそのまたむこうに! 私は行きたい。
こういうときは、再度、凝視。よーく凝視。見落としているところや、拾える部分を見定めよ。うまくなんてなくていい。面白さだって無用だ。ただただ、妄想を広げようじゃないか。それが利きジャケなのだから。

「帽子の文字は何を意味する?」
 

「東京オリンピック新種目の審判」(5)

と、するとやっぱりこの帽子の文字だよな。ここを無視することはできないよ。
えーっと。T…O………T……O……? いやいや、これじゃあまりに当たり前だ。
TOTOのアルバムに「TOTO」の文字って。
よし! ここは一旦、こいつを「TOTO」ではないことにしよう。
目を細めて。なんなら画面から遠ざかってみて。もう、いっそ薄目で見ちゃおう! すると…
あっ! これは「T」じゃないぞ? こ、こ、こ、これは? 見えた!! 
これは、「2」だよ!
数字の「2」! 
(※ 力技的に見間違うことも利きジャケには大事なポイントです)
これは「2」。
お願い! どうか「2」ってことにして。そんなわけでつまり、これは「2020」!
オリンピックの帽子なのだ!
 

「東京オリンピック新種目の審判」(6)

「東京オリンピック新種目の審判をしている」

山高帽に「2020」の文字も誇らしげに、男は双眼鏡で見続ける。
一瞬たりとも目を離すことなく見続ける。それが選ばれしジャッジマンとしての矜持だった。男が見つめる新競技。それは「2020東京オリンピック」において、はじめて追加された新種目。もちろん、正式競技ではない。
「日本」を知ってもらうために。
「日本」ならではの「遊び」を世界に紹介するために。
知事の独断でエントリーされたわけだ。
果たして、
その「日本ならではの」「遊び」をもとにした新種目がこちら。
緑のベンチに座る、鬼さんがこちら!
 

「だるまさんがころんだ」(10)

「だるまさんがころんだ」

場所は豊洲です。たぶん………。

果たして。いかがだったろうか?
「妄想」は自在に空間をリンクする。あっちに行ったと思えばこっちに移動。こっちに行ったと思えばあっちに移動。
自由気ままな妄想飛行こそが、利きジャケの醍醐味なのである。ぜひ、皆様も、
己が妄想の翼を広げていただきたい。TOTOかと思えばボズ・スキャッグス。ボズ・スキャッグスと思えばTOTO。
そんなわけで本日の利きは、このへんで。

ちなみに………
こちら今回の一枚目、ボズ・スキャッグスによる「シルク・ディグリーズ」。そのレコーディングに参加した精鋭ミュージシャンたちを中心として1976年に結成されたバンドが、TOTOだったりするのは、ちょっとした無駄情報である。
ご存知でした? 
そんなつもりで、今回のアダルトな2枚の逸品を味わい尽くしていただいても面白いかもよ?

以上、アダルトにメローに、存分に利かせていただきました。

利いたからには……聴かねばなるまい!

 

Mindfields

Toto
 

今回の逸品

Silk Degrees

Boz Scaggs

 

Mindfields

Toto

そして今回も、快くジャケの使用を許してくれた太っ腹なレーベルたちに感謝。ありがとう。


Tex>t:ヴィンセント秋山

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