新しいライブセッション BLACK DIAMONDS(黒田卓也+大林武司+NOVOL)が創る音楽×ペイントというグルーヴ

ニューヨークを拠点に活躍するジャズトランペット奏者の黒田卓也とジャズピアニストの大林武司。個々のバンドでの活動はもちろんこと、共にJose JamesMISIAのバックバンドも務め、さらにニューヨーク在住の若手日本人ジャズメンで結成されたJ-SQUADでの活動でも知られる彼らが、東京を拠点とするペインター/デザイナーのNOVOLと結成した<音楽×アート>バンドがBLACK DIAMONDSだ。
ジャズに多大な影響を受け、さらにヒップホップやレゲエなど様々なジャンルの人たちともコラボレーションを行なってきたNOVOL。二人の一流ミュージシャンの演奏と共にライブペインティングを行なうという世界的にも珍しいスタイルのこのバンドが、昨年末にツアー『BLACK DIAMONDS SESSION TOUR 2017』を敢行。そのツアー最終日の静岡公演にお邪魔し、リハーサル直後の三人に話を訊いた。

試行錯誤で築き上げてきた、ジャズ&ペインティングのライブセッション

 

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―まず、最初にBLACK DIAMONDS結成の経緯を教えてください。

NOVOL:共通の友達を通じて、横浜のGRASSROOTSで毎月やっている『CONCORD』というセッションイベントに(黒田)卓也君にゲストとして来てもらって。そこで一緒にやったのが最初です。そのセッションが良い感じだったので、同じ年(2015年)の年末に二人でツアーをやりました。

黒田:そのツアーの後、NOVOL君がニューヨークへ遊びにきた時に、僕と(大林)武司が自宅でデュオしてるのを聴いて、NOVOL君が「一緒にやりたい」って。

NOVOL:次の年のツアーからは武司君も呼んで今の三人での形になって、より厚みが増しましたね。2016年は卓也君が自分のアルバムのリリースツアーがあったのでお休みして。今回が2年ぶり、3回目のツアーです。

―BLACK DIAMONDSという名前はどこからきたんでしょうか?

黒田:昔からやっている、年末や大晦日に友達だけを集めたビッグバンドの名前に“BLACK DIAMOND BIG BAND”っていう名前を付けていて、それが元になってます。そもそもの“BLACK DIAMOND”っていう言葉はアメリカの友達とアホみたいな話をしてる時に出てきたものなんですけども、人前で言えるような内容ではないのでここでは内緒で(笑)。

 

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―基本的には即興だと思うのですが、どういうスタイルでやるかっていうのは、お二人の中である程度決まっていたんですか?

黒田:いえ、全然決まってなかったです。

NOVOL:最初の二人でのツアーの時は、何も打ち合わせもしてなかったですし。

黒田:一人ではずっとトランペットを吹き続けられないから、“ちょっとDJをしながらトランペットも吹く”みたいのが出来たらと思って、Reasonっていう音楽ソフトを使ってプログラムを組んでやってみたんです。ツアーの一発目が札幌で、90分くらいやることになってたんですけど、用意していたものを全部出し切ったのに、まだ40分しか経ってなくて(笑)。汗がブワーって吹き出して『一人でここからどうしよう?!』って、かなり焦りましたね……。

NOVOL:そこから俺もバケツを叩いてみたり、ペイントする時に出す音をその場でマイクで拾ってそれをループさせたりし始めたんです。

 

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黒田:「(ループが)失敗したらもう一回やって」とかね(笑)。あの手この手を使って、なんとか時間を埋めようとしてて。あの頃の苦労を思うと、今はめっちゃ楽ですね。武司とデュオをやれば、いくらでも出来ることはある。前回のツアーと比べて、今回は武司の機材も増えて、相互でプログラムしたものを使ったりとか。チームワーク的にもさらに面白いものになってる手応えがある。

―最初の頃のお客さんや会場の雰囲気は?

NOVOL:二人だけのシュールな世界で(笑)。自分がセッションに参加するために、邪魔だろうが何だろうが、描きながら音を出してる感じをやりたくて。とりあえず何でも良いからノイズ音をバシバシ音を出すんですけど、それがまたシュールというか。

―先ほどリハーサルでもキャンバスを叩いて音を出してましたけど、あれが音での参加ということですね?

NOVOL:そうですね。別にドラムをやっているわけじゃないし、リズム感があるわけじゃないけど、なんか(音のほうでも)参加したかったんですよね。

大林:ステージでは一人一人が独立して個々のパーツを作っているんですが、それぞれ音を即興的に出していった結果、一つの作品が出来上がるっていうプロセスで。

 

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NOVOL:もちろん普通に絵を描くのは簡単なんですけど。金属製のヘラを使って音を出しながら描いたらどうなるんだろ?ってやってみたんですよ。ヘラだけで描いた絵が、今までの自分のタッチとはまた違ってて。それをツアーで何箇所もやることによって慣れてきて、「これ良いやん」って。

黒田:NOVOL君が音を発した瞬間に、それは全体の音の中に入るから、その時はNOVOL君もミュージシャンになる。けど、セッション中、たまに「この音、なんだ?!」って、びっくりする時もある(笑)。

NOVOL:自分的には恐縮ですよ。別に音楽を本気で習ってきたわけでもないし、俺はテンションだけで音を出しているわけだから。二人にはちょっと迷惑かかってるのかな~?って。

黒田:その遠慮感とかも伝わってくる(笑)。

―NOVOLさんは『CONCORD』でこれまでいろんなアーティストとセッションされてきたわけですけど、このお二人とやるのは他の人とはまた違うわけですか?

NOVOL:やっぱり違いますね。もともと二人の音楽が好きだから、テンションも上がるし。ジャズから映画音楽、ヒップホップとかいろんなカバーを演奏してくれるんですけど、好きな音楽を聴きながら、それに合わせて絵を描いて。自分的には楽しい以外のなにものでもないです。

 

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―セッションの前に「今日はこういう感じでいこう」とか、事前に打ち合わせはされるんですか?

NOVOL:一応、『今日は誰を描く』っていうのは二人に言っていて。あとは二人にお任せで、二人が出す自分たちの音に俺が後ろからついていってるみたいな感覚ですね。自分の中では構成が決まっていて、最初は音を出しながらキャンバス全面に色をつけて。半分過ぎたあたり、彼ら二人がデュオしている間に、顔が出てくるように筆で描く。最初は色しかなかったのが、いきなり顔がドーンと出てみたいなスタイルで。そして、最後にまた音出してっていう流れで。

黒田:演奏の中に今日描く人のヒントを入れたりはします。あとは事前に組んでいる部分も多いんですけど、思いつきでパッとやってみる部分もあったり。それから、毎回どっちの方向で行ったら良いか?っていうのを探る作業というか。ジャズっぽいアプローチとしてデュオの演奏を増やしたほうが喜んでくれるのか? あるいは、もうちょっとビートを効かせて、踊らせたたほうが良いのか?って考えながらやってますね。その時々でお客さんの雰囲気が結構違うので。

NOVOL:今回のツアーだと加古川がすごく良い例というか。ファーストステージ、セカンドステージって分かれていたんですけど、ファーストでは結構、お客さんが大人しかったんですよ。けど、セカンドは爆発したみたいに「ワ~!」って盛り上がって。

―その違いはどこからくるんでしょうか?

NOVOL:ファーストは年配の方もいっぱいいて、セカンドは若い子たちが盛り上げてくれて。あとはお酒もありますね(笑)。みなさん、お酒が進んで。

黒田:NOVOL君のお客さんはどちらかと言うとヒップホップ関係とかストリートカルチャーの人が多くて。僕とか武司とかを観に来てくれる人はジャズのファンが多くて。その割合によって、場の雰囲気が全然違うんですよ。

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NOVOL:特に今回のツアーの会場はいわゆるジャズ箱じゃなくて、クラブとかいろんな場所でやって。二人が普段演奏している場所とはまた違う雰囲気だったので、お客さんも皆さん、それぞれのスタイルで楽しんでましたね。

―NOVOLさんが絵を描いていることによって、お二人の演奏も何か影響を受けることはありますか?

大林:そうですね。普段から演奏する場所やお客さん常に影響されるんですけど、それに加えて、視覚的に色とかが入ってくると、やっぱり影響される部分はあると思います。

NOVOL:演奏しながら、絵とか見てるの?

大林:常に見てますよ。

NOVOL:ずっと二人に背中を向けて描いてるから、知らなかった(笑)。

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黒田:絵の進行具合はよく見ているよ。あとどのくらいで描き終わる!? みたいなところはもちろん気になるし。ペースとか。

大林:一番最初に描き始める時って、卓也君のアイディアで、あまり決まった曲とかをやらないんですよ。なので、音と絵のテクスチャを楽しみながら、だんだんと音楽に発展していく瞬間っていうのがあって。そこはすごくインスピレーションを受けますね。だから、ツアー中は毎日、今日はどういう風になるんだろう?って僕自身が楽しみにしています。あと、ひょっとしたらお客さんにとっても、新しい音楽の聴き方を提示しているのかもしれませんね。ただ音を聴くだけじゃなくて、色であったりとか、自分の中でイメージを作ってもらえれば良いと思います。

NOVOL:音楽聴く時に目をつぶって、体を揺らす人もいるけど、俺のコンセプトは、絵と一緒にステージを観て欲しい。そうやって、目と耳で楽しめるのが良いのかなって思うんですよね。音とシンクロしながら、絵がライブ中に出来上がっていくっていうのは面白いだろうなって。

―BLACK DIAMONDSとしての将来的な展望は?

黒田:今はツアーでも毎回、ライブの時間も違うし、前後半2回に分けてやったりとか…、会場や主催者側の要望に合わせている部分がまだ多くて。けど、最終的には「僕らは絶対に70分なんで」とかきっちり決めて、一枚を描きあげて、その中に涙あり、笑いありじゃないけど、起承転結をつけられるようにしたい。まだまだ伸びしろのあるプロジェクトだと思うし、今後、そういった楽しみはありますね。

NOVOL:俺がブラシで擦っている音をサンプリングして、それをネタに使ってトランペットを吹いてみたりとか。そういう、音源的な広がりも出来たらちょっと面白いかなって思ってます。

黒田:機材とか整えば、もっと面白いことが出来るだろうね。

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―海外でもライブセッションをする予定はありますか?

NOVOL:実は一回、ブルックリンでやったことがあるんですよ。

黒田:ちゃんとしたショウというよりは、仲間内のプライベートパーティみたいなノリで。アメリカでもこういうことをやっている人はいないから、喜んでくれる人は多いと思いますね。

NOVOL:ニューヨークでライブペインティングをやった時に、『なんでここで絵を描いてるの?』みたいな見方をするお客さんもいたり…、同じアートなんだけどやっぱり音楽と絵を同時に楽しむって感覚はまだそんなに浸透していないと思うんです。だけど、日本で少しずつ手応えを感じているので、海外でBLACK DIAMONDSという形でショウとしてやった場合に、どういう反応が返ってくるのか? どうなるかは分かりませんが、是非やってみたいと思いますね。
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インタビュー後、静岡駅からも近いBLUE BOOKS cafe SHIZUOKAにて行なわれたBLACK DIAMONDSのショウには、彼らの話にも出てきたように、幅広い年齢層の熱心なジャズファンから、ストリートの匂いのするファッショナブルな若い音楽ファン、アートファンまで実に様々なタイプのオーディエンスが集まった。この日のセッションは約90分ほどの構成で、まずは黒田卓也が2014年にリリースしたデビューアルバムのタイトル曲「Rising Son」からスタートし、NOVOLは手にした金属製のブラシを真っ白なキャンバスに叩きつけて音の面でのセッションを繰り広げながらも、同時にカラフルな色をキャンバスの上へ次々と乗せていく。

少し驚いたのは、思った以上にNOVOLの出す音の存在感が大きかったことだ。キャンバスの裏にはマイクが仕込まれ、金属製のブラシやヘラで叩きつけることによって生まれたミディアムなサウンドは黒田卓也の吹くパワフルなトランペットと、大林武司の奏でる美しいピアノやキーボードに巧みに融合していく。さらにバケツや後半にはスプレー缶などをまるでパーカッションの一部のように使って、リズムを奏でる姿も。見ようによっては非常にシュールな世界観ではあるけども、それらの音はしっかりとBLACK DIAMONDSのバンドサウンドの一部としてステージ上で一体化していた。

曲間に黒田卓也がMCとしてマイクを握ってオーディエンスとコミュニケーションを取りながら、オリジナル曲だけではなく、ジャズのスタンダード曲やGrant GreenJoe Hendersonといった巨匠たちの曲なども交え、三人のセッションは進行。この日の選曲の中で面白かったのが、ヒップホップのサンプリングソースとして有名なDonald Byrd「Think Twice」を演ったことだ。実は生粋のジャズ畑の二人には馴染みの薄かったというこの曲だが、NOVOLからのリクエストによってプレイリストに加えられたとのことで、ヒップホップファンと思われる若いオーディエンスからもダイレクトな反応が感じ取れた。

 

Think Twice (featuring Kay Haith)

Donald Byrd

そういった選曲の妙も作用してか、最初は様子見だった観客側の雰囲気も、後半につれて徐々に盛り上がっていき、気が付けば彼らのセッションもフィナーレへ。キャンバスには偉大なジャズピアニスト、Thelonius Monkの姿が浮かび上がり、1990年公開の映画『Mo' Better Blues』のテーマ曲をアンコールにBLACK DIAMONDSの今回のツアーは無事に終了した。

 

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余談だが、この後、打ち上げ代わりに行った静岡の老舗ジャズクラブにて、黒田卓也、大林武司の両名は急きょ、再びステージに上がり地元ミュージシャンとも即興のセッションを披露。素晴らしいサプライズに偶然居合わせたお客さんも多いに盛り上がり、最後まで濃厚なジャズで満たされた一夜となった。

 


<Profile>
黒田卓也
https://www.takuyakuroda.com/
最新アルバム:Takuya Kuroda『Zigzagger』

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Zigzagger

黒田卓也

 

大林武司
https://takeshi.online/
最新アルバム:Takeshi Ohbayashi Trio『Manhattan』

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Manhattan

Takeshi Ohbayashi Trio​​​​​​​

 

NOVOL
http://www.novol.jp/
作品集『ten.』(2017年12月15日発売)

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<取材協力>
BLUE BOOKS cafe SHIZUOKA
http://www.bluebookscafe.jp/shizuoka/


Text & Photo:大前 至
Edit:仲田 舞衣