YOUに聴かせたいニッポンのオンガク 【知られざるワールドミュージックの世界】


海外に行って現地で友人ができると、必ず聞かれることがある。それは、「ニッポンのクールな音楽を教えてくれよ」という質問だ。そういった時に、どんな音楽を勧めればいいのかは非常に悩むところ。いわゆる流行りのJ-POPだとなんだか大いに誤解されそうな気がするし、かといってコテコテの雅楽を選んでも、日頃自分が耳にしていないのでリアリティがない。まあ、日本語の歌詞というだけで外国人には面白いようだが、それではなんとも芸がない。

この時、日本らしさを取り入れた現代のポップ・ミュージックをさらりと差し出すことができると、とてもスマートだ。民謡や祭り囃子のような「日本的」な音色やメロディを、今のフォーマットで構築した音楽なら、自信を持って外国人に勧められるだろう。そして、実はこういった土着的ながらポップな音楽が、最近非常に増えてきている。一昔前までは、「民謡なんてダサい」と思われていたものだが、今はクールな音楽として受け入れられているのだ。ここでは、そういった現在進行系の日本的な音楽を紹介しよう。

ポップス、ジャズ、ファンク、レゲエ、パンク…と変幻自在! 現代に蘇る民謡というソウルミュージック

まずは、本格派民謡歌手の木津茂里をピックアップ。日本国内だけでなく、世界各地に日本の民謡を広める活動をしてきた彼女は、グローバルな視点を持っているだけに交友関係も幅広い。この「SHIGERI BUSHI」は、一聴するとオーソドックスな民謡のようであるが、実は作詞が青柳拓次(リトル・クリーチャーズ)、作曲が細野晴臣という豪華布陣による楽曲。彼女の作品には、こういった新感覚の民謡が多く、入門編にはぴったりだろう。
 

 

文筆家としてもしられるシンガー・ソングライターの寺尾紗穂。彼女は基本的に自身のオリジナル・ナンバーを歌うスタイルだが、2016年に発表したアルバム『わたしの好きなわらべうた』は、タイトル通り全国に伝わるわらべうたを彼女なりに解釈した秀逸な作品集。この曲も熊本の子守唄だが、ピアノをメインにしたリリカルなアレンジと、透明感のある歌声で新鮮な感覚で聴くことができる。
 

 

世界中を旅しながら、各国の音楽家と共演し、その土地の歌を歌い綴ってきた松田美緒。アフリカ、ヨーロッパ、中南米と興味の対象は尽きないが、日本に目を向けたCDブック『クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する』(2014年)は非常に興味深い作品だった。寒村から八丈島まで知られざる民謡を多数掘り起こし、独自のアレンジで歌っているが、中でもユニークなのがこの「移民節」。東北からブラジルに移住した日本人によって書かれた歌詞と、ジャズやブラジル音楽がミックスされたサウンドとの調和が独創的だ。
 


近年、民謡を取り入れたバンド形式のグループが続々と登場しているが、その先駆けとなったのがアラゲホンジだろう。2007年に結成され、オリジナルから古来の民謡までをファンクやレゲエといったブラック・ミュージックと合体させるという手法が話題を呼び、各地のライブハウスや音楽フェスを揺らし続けている。この「でたらめ神楽」という曲も、秋田と青森の民謡をベースにしながら独自のエッセンスをふりかけて、これまでになかったグルーヴを生み出している。
 


アラゲホンジと並んでこのシーンの代表選手ともいえるのが、馬喰町バンドだ。“ゼロから始める民俗音楽”というコンセプトで結成された彼らは、メンバー・チェンジを重ねて現在は2人組。この曲もよく聴くと歌詞やメロディはポップで、他のJ-POPと並べても違和感はまったくないのだが、笛や太鼓の音や、どこかお囃子っぽいコーラスなどで民謡っぽさを醸し出しているのが、民謡を今風に演奏するのとは逆転の発想で新鮮。
 


今もっとも旬な民謡バンドといえば、なんといっても民謡クルセイダーズだろう。レゲエやブーガルーといったラテンや、エチオピアン・ファンクなどのアフロ・サウンドと日本の民謡とのミクスチャーぶりは、とにかく吹っ切れていてかっこいい。ライ・クーダーがツイッターでつぶやき、音楽評論家のピーター・バラカンも絶賛するというから、その実力も本物。ここでは和歌山の民謡「串本節」をクンビアで味付けしたライブ・テイクを聴いてみてほしい。
 

 

パンクと祭囃子の融合を軽々と行い、お祭り会場から脱原発デモに至るまでどこに行ってもその場を熱狂の渦に巻き込むのが、神出鬼没のグループ、切腹ピストルズ。祭り太鼓の連打をメインとしたサウンドの圧倒的な迫力は、動画を通しても伝わってくるから、実際はさらにすごいはず。東京を江戸、Tシャツを西洋肌着と呼ぶなど、音楽だけでなく発言や姿勢、そしてデザインに至るまで徹底しており、まさにパンクの中のパンクといってもいいバンドだ。
 


最後におまけとして紹介したいのが、イスラエルのグループ、クォーター・トゥ・アフリカ。アラブ音楽とアフロ・サウンドを合体させた音楽性で話題を呼んでいる。そんな彼らが、なぜか「炭坑節」をカバーしているのだが、のんびりしたメロディが徐々に盛り上がっていき、これがまたなんともいえないいい味を醸し出している。先日行われた日本と韓国でのツアーの様子を収めた動画とともに聴いてみてほしい。
 

 

こうやって聴いてみると、日本の民謡に対する固定観念がぐらぐらと崩れていったのではないだろうか。今最も面白いジャンルは、民謡なのだといっても決して間違いではない。もしも外国人に音楽を勧める機会があれば、こういった音楽こそ、今日本で一番クールなのだということを伝えてみてほしい。



Text:栗本 斉
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣