ナイス・リフ/ギター編 10選【百歌繚乱・五里夢中 第5回】


前回まで”イントロ”について語ってきました。お断りしたように、取り上げなかった”ナイス・イントロ”がまだまだあるでしょうが、たとえば、”Led Zeppelin”の「Whole Lotta Love」や”Chicago”の「長い夜 (25 or 6 to 4)」や”Deep Purple”の「Smoke on the Water」は、あえて外しました。いずれも曲が始まった瞬間それだと判る、イントロクイズなら超初心者コースなんですが、これらのイントロ・フレーズ、歌に入ってもそのまま続いていきます。つまりこれらは”リフ”なんですね。”リフ”をそのままイントロにも使っているだけなのです。
ということで、今回は”リフ”というものにフォーカスしてみます。ただやはり、ナイスなリフもたくさんありますので、楽器による”シバリ”をかけることにしました。まずはギター編といきましょう。

なんでリフ?

一連のフレーズが繰り返し演奏されるとき、そのフレーズを“リフ”と呼びます。
実は私、これは”リフレイン(=繰り返し)”の略だと、そして英米人が、たとえば”テレビジョン”を”TV”と略しても決して”テレビ”とは言わないように、和製英語だと思っていたのですが、改めて調べてみたら、ちゃんと”リフ”という言葉がありました。しかも”refrain”に対して”riff”と綴りもしっかり違います。元々は”refrain”から派生しているんでしょうが、”riff”は”(音楽の)反復楽節”という名詞と、”リフを演奏する”という動詞としても使われる、れっきとした単語でした。
さて、ロックやポップスには盛大にリフが使われます。なぜ人はリフが好きなんでしょうか?
それは人間が”楽ちん”を求めるからだと思います。同じものが繰り返されると安心で楽ちんですよね。でも一寸先の展開が読めないと不安で疲れてしまいます。だから繰り返されるフレーズ=”リフ”を望むのです。
もちろん繰り返しに耐えうるリフでないといけません。新鮮かつ美味なリフ。オリジナリティとクオリティが求められます。
また、繰り返しは好きなのですが、繰り返しだけだとすぐ飽きてしまうのもまた人間です。欲張りですね。ですから曲の中には別の展開も必要です。サビとかブリッジでリフから離れて、その後にまたリフに戻ってくると、ホッとしてうれしい。これがリフ活用の標準形(^^)。
ともかくそんなわけで、音楽クリエイターたちはいつも、ナイスなリフを作るために頭を悩ませているのです。

ナイス・リフ/ギター編


#1:Led Zeppelin「Whole Lotta Love(胸いっぱいの愛を)」
(from 2nd アルバム『Led Zeppelin II』:1969年10月22日発売)
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ジミー・ペイジはギター・リフ作り名人の一人ですね。まぁ、エレキ・ギターが歪んだハードな音を出せるようになって間もない頃ですから、まだあまり人が手をつけていない未開拓の分野ということで、時代的にもラッキーだったのでしょうが、それにしても60年代に、すでにこんなカッコいいリフを作ってしまうなんて、とてつもないことです。しかも、中間と終盤のどよーんとしたところ以外はすべてこのリフで押し切る、押し切れてしまうのですから、すばらしい。
やはり、と言うか、この曲はまずこのリフありきで作ったようです。で、ロバート・プラントが適当に唄ったのが、62年にマディ・ウォーターズがリリースした「You Need Love」から失敬した歌詞とフレーズ。85年になって作者のウィリー・ディクソン (Willie Dixon)から訴訟を起こされて、それ以降はディクソンの名前もクレジットされています。


#2:Led Zeppelin「Black Dog」
(from 4th アルバム『Led Zeppelin IV』:1971年11月8日発売)
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もう1曲ツェッペリンからいいですか。なんせリフ名人なんで。
冒頭、リフは”繰り返しの安心感”を与えてくれるんだ、なんて言いましたが、この曲のリフは安心感どころか、「えー、どこにいっちゃうの?!」と気をもませずにはいません。だって、ギターとベースのユニゾンのリフが、ドラムとどんどんずれていってしまうんですから。構造的にはどうやら、ギター+ベースは16分音符9つ分でひとかたまりのフレーズの繰り返しだけれど、ドラムは4分の4拍子で進んでいき、最後の打ち放しで帳尻を合わせている、ということなんですが、まさに常識破りのリフです。よくこんなこと考えますよね。
そして、こんな変なことやっているにも関わらず、全体としてはカッコいい、ポップ・ミュージックの領域にちゃんと収まっているところがすばらしい。
こんなすごいことを70年代の初めにやられちゃったら、あとの人は困っちゃうよね、ほんと。


#3:Cactus「Evil」
(from 3rd アルバム『Restrictions』:1971年10月18日発売)
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リフというもの、同じ(ような)音形を繰り返すものなので、やはりコードがあまり変わらないほうが作りやすいわけです。とすると”ブルース”形式の曲なんかうってつけなのですね。I度が続いて定期的にIV度やV度に行っては戻るだけですから。
この曲もブルースのスタンダード曲のカバー。ウィリー・ディクソン(また登場!)の作曲で、オリジナルはハウリング・ウルフが1954年にリリースしました。そのシブ~いブルースに、大胆なギターとベースのユニゾン・リフを組み込んで、すっかりハードロックに仕立てたのがこの作品。歌のメロディよりもリフのほうが全然目立っています。
“カクタス”はカーマイン・アピス (drums)とティム・ボガート (bass)が、”ヴァニラ・ファッジ”と”BBA”の間に作ったバンドで、なにか”つなぎ”のように言われたりしますが、私は”米国のツェッペリン”と呼んでもいいんじゃないかと思うくらい高く評価しております。


#4:The Temptations「My Girl」
(シングル:1964年12月21日発売)
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1961年にデビューした“テンプテーションズ”、なかなかヒットが出ませんでしたが、64年1月にデヴィッド・ラフィン (David Ruffin)が加入してから風向きが変わります。初めてラフィンがリード・ボーカルを務めたこの曲はぐんぐんチャートを上り、発売3ヶ月後にはついに全米1位をゲット!
曲のよさにラフィンの色気のある歌唱がうまくハマったのでしょうが、単音ギターの”ドーレミソラド”という印象的なリフもヒットに一役かっていると思います。このフレーズは、モータウンの専属スタジオ・バンド、”The Funk Brothers”のギタリスト、ロバート・ホワイトがレコーディング中に考え出したそうです。たぶんアレンジ料はもらってないと思います(^^;)。


#5:Marvin Gaye & Tammi Terrell「Your Precious Love」
(シングル:1967年8月22日発売)
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ザ・テンプテーションズと同じくモータウンのアーティスト、マーヴィン・ゲイとタミー・テレルによるソウル・バラード。8分の6拍子だと、ギターは単純なアルペジオということが多いですが、この曲は4小節パターンのほっこりとしたメロディ・リフが印象的です。やはり演奏は”The Funk Brothers”なので、「My Girl」と同じくロバート・ホワイトが作ったのかもしれませんが、そこまでは分かりません。
タミー・テレルはこのシングルの発売間もない67年10月にステージ上で倒れ、そのまま復帰することなく、70年3月に脳腫瘍で他界しました。ショックでしばらく活動を停止してしまったマーヴィン・ゲイですが、ようやく立ち直った後には、それまでとは全然作風が違い、音楽市場にも社会にも大きな影響を与える名作、「What’s Going On」を生み出すのです。


#6:The Rolling Stones「Jumpin’ Jack Flash」
(シングル:1968年5月24日発売)
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昔はこの曲のリフを弾いてみたことのないギター少年はいなかったのですが、今はどうなんでしょうか?ともかくそれくらい有名なリフですが、意外な逸話が2つあります。
ひとつはこれはエレキギターではなく生ギターであるらしいこと。同時期に録音された「Street Fighting Man」と同様、「ギブソンの”Hummingbird”というアコースティックギターで、フィリップスのカセット・レコーダーに適度にオーバーロード(過大入力)して録音してやるとまるでエレキギターみたいな感じになるんだ……」とキース・リチャードが語っているのですが、これがほんとに生ギター?「Street Fighting Man」のほうは確かに生ギターだと判りますが。サビの高音のフレーズなんかエレキにしか聞こえないんだけど、これもキース自身はアコースティックと言っております。まあ本人が言うんですから疑ってもしょうがないですけど。
もうひとつはこのリフを考えたのはベースのビル・ワイマンであるらしいこと。これもビル自身が「ピアノで遊んでいるうちに思いついた……」と語っているだけで、キースは認めてないのですが。
ちなみに、この曲はベースもキースがやっていて、ビルはオルガンのみということですが、これは事実みたい。


#7:Van Morrison「Wild Night」
(シングル:1971年10月発売/from 5th アルバム『Tupelo Honey』:1971年10月15日発売)
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“ミ・ソミレシレ”を基調にEm→Gに合わせた4小節パターンのギター・リフを軽快に弾いているのは、ハードロック・バンド”モントローズ”を結成する前のロニー・モントローズ (Ronnie Montrose)。
ヴァン・モリソンがコンサートでは常に演ってきたというこの曲、オリジナルのモリソン盤は全米28位止まりですが、1994年に発売された、ジョン・メレンキャンプ (John Mellencamp)とミシェル・ンデゲオチェロ (Meshell Ndegeocello)のデュエットによるカバーは全米3位のヒットとなりました。こちらはンデゲオチェロがベースでこのリフを弾いていて、これも実にカッコいい!今もって色褪せない超ナイス・リフです。


#8:Toto「Girl Goodbye」
(from 1st アルバム『TOTO(宇宙の騎士)』:1978年10月15日発売)
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TOTOのデビュー・アルバムの中で最も長尺、6分を超えるこの曲の、1部を除いて全編に渡り、これでもかこれでもかと繰り返される、スティーヴ・ルカサー (Steve Lukather)のギターとデヴィッド・ハンゲイト (David Hungate)のベースが一体になった個性的なリフ。2小節にシンコペーションが7回、そこにすべてドラマー、ジェフ・ポーカロ (Jeff Porcaro)がキックを合わせるというアグレッシブさで、リフ愛好家はもう興奮の坩堝ですね(^^)。


#9:The Police「Every Breath You Take(見つめていたい)」
(シングル:1983 年5月20日発売/from 5th アルバム『Synchronicity』:1983年6月17日発売)
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邦題からしても、”君の息づかいまで見つめていたい”恋の歌だと思われがちですが、ホントは独占欲の強過ぎる恋人(当時別れたばかりの奥さん)のことを語っており、ひいては映画「1984」の”ビッグ・ブラザー”のような監視・管理社会の恐ろしさにまで思い及んでいたそうです。
いずれにせよ、詞曲はスティングが30分ほどで書き上げたようですが、ギターは難産だったみたい。6週間も試行錯誤したとアンディ・サマーズは語っています。結局、バルトークのバイオリン曲からインスピレーションを得て、例の印象的なリフを思いつきました。
曲ももちろんよいですが、あのリフはこの作品をさらにスペシャルなものに押し上げたと思います。おかげで全米8週連続1位という、バンド最大のヒットにもなりました。悩んだ甲斐がありましたね。


#10:Matchbox Twenty「She's So Mean」
(シングル:2012年6月12日発売/from 4th アルバム『North』:2012年9月4日発売)
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1曲くらいは新しいのも、と思いまして。と言っても6年前ですが。
“Kinks”なんかを彷彿とさせる、カッコいいギター・リフがサウンドの要になっていて、曲はいろんな展開をしますが、節目節目でスッとそのギター・リフに戻るという、”正しいリフ・ミュージックの姿”(^^)をしています。エンディングもきちんとリフに戻って”シメ”です。
でもこういうのをやると、「70年代っぽい」とか「レトロ」とか言われるみたいですね。おそらくギター・リフ自体、”70年代”というイメージなんでしょうねぇ。
ただ、この曲はバンドにとって10年ぶりのオリジナル・アルバム『North』の先行シングルで、アルバムは見事全米初登場1位を獲得しましたから、ナイス・ギター・リフはまだまだ現役ってことなんじゃないでしょうか?


以上10曲、ナイスなギター・リフをご紹介しました。残念ながら日本の曲は思いつきませんでした。日本にはオリジナルなナイス・リフ、少ないような気がします。その理由については、あくまで私の考えですが、次回書いてみようと思います。
さて、次回はベース編ですかね。今回もギターとベースがいっしょになって、というのがいくつかありましたが。また読んでいただけたらうれしいです。

いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪


Text:福岡 智彦