SUGIZO×ART ~ソロ活動20年を支えるインスピレーションの源泉~


LUNA SEA、X JAPAN、演劇や映画のサウンドトラックと、多岐にわたる制作活動に加え、昨年ソロ20周年でのアルバムリリースラッシュ…と、多忙を極めるSUGIZO。インスピレーションの源泉であるお気に入りの映画、絵画、美術館についてのインタビュー。

「劇場や美術館に何度も足を運ぶのは、アルバムを何度も繰り返し聴くのと同じこと」

─LUNA SEA & X JAPAN 、そしてソロと異なった形態のプロジェクトをほぼ同時期に手がける場面も多かったと思います。それぞれのコンセプトやアイデアはSUGIZOさんの中でどのように棲み分けされていたのでしょうか。

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LUNA SEAとX JAPANは「ロックバンド」という形態でのポテンシャルが最大限に発揮出来るという事が重要で、ソロ名義の場合は「エレクトロニック・ミュージック」という部分にフォーカスをしている表現部分が明確に違います。でも、音楽の形態、すなわち装いが違うだけで、本質的には余り違わない。
本当に自然に自分の中で区分け整理、というかカテゴリー毎に分類されているみたいですね。勿論、自分が生きている上で見たり体験したりした事が思考に影響を与えている部分はあるでしょうが、特にアイデアやテーマを考えたりせずに、自然とやりたい事が湧き出てきます。

─音楽以外の刺激が作品に影響を与えるような事はありましたか?

映画はどんなに忙しくても劇場に足を運ぶほど好きですね。と言っても、影響を与えてもらうというよりは「この曲を作る時のテンションには、この映画が合うよね」というように、自身の曲のイメージに近い感覚の作品を作業中のBGVとして流すことが多い。「この曲はバイオレンスなイメージが合うから『時計じかけのオレンジ』を流そう」とか「この曲は深い海のようなイメージだから『アトランティス』を」みたいな。
 


─いつも制作中のスタジオではBGVとして映画が流れているのですか?

もちろん無音ですが、常に作業中は何かしらの映像を流しています。これまでの20年間で、一番流している映像は『ブレードランナー』と『2001年宇宙の旅』。また、一昨年のアルバム『音』の作業中に最重要なBGVであり、改めてきちんと観直したのが、アンドレイ・タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』と、SF映画の原点とも言えるドイツ映画『メトロポリス』でした。
 


あと、今回のアルバム『ONENESS M』の作業現場では『I Dream of Wires』というモジュラーシンセのドキュメンタリー映画や『ガンダムUC』がとても重要なエレメントでした。特にRYUICHIに歌ってもらった『永遠』という曲は、作詞の依頼の際に仮タイトルが『宇宙世紀』である事や曲のイメージ、コンセプトをかなり細かく伝えました。
彼が素晴らしいのは、この楽曲に限らずLUNA SEAの時も常に僕がつけたメロディをほぼ触ることなく忠実に歌詞を充てて戻して来るんです。こちらが提示したメロディやアレンジを忠実に最大限の表現が出来る人が一流の「プロ」だと思います。
 


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─ライブの現場でも「この映画のこのシーンのような世界観でお願いします」といった説明で、照明さんやVJへの空間演出を指示されていますよね。

「照明という仕事に就く上で、例えば、リドリー・スコットのライティングや霧と影の演出の妙を解っているのは当然」という最低基準ありきでの会話になってしまうので(笑)。「『2001年宇宙の旅』を観ていない!? それで君は映像作家と言えるのかい?」という……。その道のプロフェッショナルになる上で、必ず通過しておかなければならない先人の仕事や歴史を学んでいないような人と仕事をしたいとは思わないんですよね。
画家を名乗る人がピカソやゴッホを知っていなければ話にならないのと同じように、音楽に携わる仕事を志す人は、過去の偉大な作曲家や音楽家の事をある程度は知っておくべきです。
また、僕はファンにも自分の作品がどういったものに影響を受けたかを積極的に伝えたいタイプなので、ファンクラブの会報に『SUGIZO’s favourite』と言うコーナーを設け、私生活の中やレコーディングの最中に影響を受けた映画や音楽が何だったのか!?というのを脚注付きで皆に提示しています。

─「先人に学べ」というのは、SUGIZOさんの音楽ルーツがクラシックであるが故の考え方なのでしょうか?

そうかもしれませんが、間違いなく言えるのは、人より抜きん出ている人、表現力が強力な人、ボキャブラリーを多く持ち合わせている人。そういう人達は必ず努力し相当量の勉強をしていますね。外部からの刺激、観るモノ聴くモノの中から学んでいないと、表現の幅を広げることは難しいと思っています。

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─映画に限らずアート全般と、そのように対峙されているようですね。

例えば昨年のデヴィッド・ボウイ大回顧展『DAVID BOWIE is』で知ったのですが、彼が生前に影響を受けていた映画や文学作品は、僕が影響を受けたものとそっくりだったんですよね。当時はそうした事は知らずにボウイに魅了されていたんですが、知らず知らずのうちに感性が共鳴していたんだなあ…と。最終的に5回会場に足を運びました。本当はもっと行きたかったのですが。
 


─5回も!? ボウイに限らず、同じ展示や映画に何度も足を運ぶのですか?

最近だと『ブレードランナー2049』には7回。最低10回は観たかったんですけど。『スターウォーズ / 最後のジェダイ』は現時点で5回観ています。
 


─同じ作品の劇場公開に繰り返し足を運ぶのはなぜでしょう?

一度観ただけでは解らなかったモノを理解しに行くというか…。アルバムを何度も繰り返し聴いているのと同じ感覚です。スクリーンと音響設備共に可能な限り最高の状態で何回も鑑賞したいんです。最近はドゥニ・ヴィルヌーヴ作品が大好きで。今の自分の感性のツボに一番嵌るみたいですね。映像美や音響が飛び抜けて良いわけではない作品でも、例えば『グッド・ライ ~いちばん優しい嘘~』という映画は本当に素晴らしくて、何回も劇場で観ています。
 

「本物の絵画鑑賞はライブと同じ!」SUGIZOのクリエイティブを支える「映画・音楽・美術」

─レコーディング作業時間以外、殆ど映画館に行っているんじゃないか? という印象です。

映画以外にライブや美術館にもよく行きます。「映画・音楽・美術」この3つは僕にとって重要な要素です。一昨年の『宇宙と芸術展』は本当に素晴らしくて何度も森美術館に行きました。まさに僕のために開催されたような内容でね(笑)。本当に感動でした。
 


あとは同じ年の新国立美術館での『ダリ展』は3回足を運んでいます。目前でアーティストが演奏しているコンサート、演劇や舞台と同様に、伝説の画家が描いた絵具の肉厚やキャンバスの質感を肉眼で観る事が出来る。美術展で作家の生の原画を観る感覚って、僕にとってはライブと同じように思えるんですよね。

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─そうして映画だけでなく様々なアートに触れ貪欲に吸収していくことが、ご自身のライブでの空間演出のこだわりへとつながっている。

ライブにおいて音楽と空間演出は僕にとっては同義語というか、ライブという表現でステージに立つのであれば、単純に音楽を聴かせるだけでなく、映像も照明も演出も全てのエレメンツに全力を注いでお観せできなければ意味が半減してしまう。
とはいえ、僕もまだまだ大先輩がたの素晴らしい作品と比べてしまうと力及ばずな気がしています。

─まだまだ満足されていない、ということですか?

これまでに素晴らしい仕事を目の当たりにしているので。以前一緒にお仕事をさせてもらっていた「H・アール・カオス」というコンテンポラリー・ダンス集団の舞台演出の精密な徹底姿勢は僕の比ではないです。彼女達の舞台演出中の照明さんとのやりとりを見ていても、あそこまで説明できるスキルや専門用語も持ち合わせていないですし…。自分ももっと専門的なことを勉強しなければなあ…と痛感しています。
あと、単純にまず自分自身が「凄い!これは一体どうなっているんだ!?」という未体験を味わいたい。常にそこを目指して試行錯誤しているんだと思います。
 


─昨年はソロアルバムとして『音』と『ONENESS M』を立て続けにリリースされました。更に『音』のリミックスアルバム『SWITCHED-ON OTO』の準備もあるようですね。

『音』に関しては、社会性のようなものは一切排除して制作しました。この作品を第三者に好きになってもらおうとか、ヒットさせよう!という考えは皆無。自分の中にあるピュアな真実と向き合って湧き出てくる表現欲求を極力純度の高い状態のままを収めたような作品です。

─3月リリース予定のリミックスアルバム『SWITCHED-ON OTO』の人選も同様のコンセプトですか?

ええ。リミキサー人選も、(セールスを主眼に置くのではなく)毎回その時自分の中で最も熱いと思うクリエイターに依頼をしています。

─一方の『ONENESS M』では、これまでのソロアルバムと異なり、全編ボーカルの構成となっていますが、こちらに関しては?

シンガー1人ひとりに最高の歌を唄ってもらう事、彼らに最高のポテンシャルを発揮してもらえるような楽曲を用意しプロデュースすることがコンセプトでした。もちろん、音楽はあくまでエレクトロニクス中心のコアなSGZミュージックで。それと彼らとの高次元の化学反応を求めました。そうなると自ずと「歌モノ」中心となりますし、メロディーが引き立つ音楽になりました。よって『音』とは印象の異なるアルバムになりましたが、サウンドプロダクションは共通する部分が多いと思います。本作もリスナーの反応を意識して制作する事は殆どなかったです。

─昨今は映画や舞台のサウンドトラックを手がける機会も増えてきているようですが、そのあたりに関しても今後比重は増えていくのでは?

元々子供の頃から映画が好きで、デビュー当時のインタビューでも「いつかはサントラ作家として成功したい」と言って来ていたので、現状のように映画や舞台のお仕事の話を頂けるのは非常に有難いと感じています。しかし自分がサントラ作家として認められるような存在になれているのか?というと、残念ながらその域には達せていない。夢半ばという状態です。
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─映画プロデューサーの審美眼次第で素晴らしい作品に引き合わせてもらえそうな気がしますね。そもそもSUGIZOさん自身がそうしたプロデューサー的な審美眼を持ち合わせているようにも思えます。

この人とこの人を組み合わせれば絶対に面白い事になる!というような審美眼はあるかもしれませんが、プロデューサーにはもう一つ重要な役割があって、資金集め。そこは僕には出来ない部分ですね。

─なるほど。

こんな話をしていて思ったんですが、オリジナルの『ブレードランナー』って明確な決定権を持つ人物がいたわけではなかったみたいなんですよね。監督だけでなく、皆が力を持っていたみたいで。なので、良しにつけ悪しきにつけ制作現場はグシャグシャだったようなんですけれど、制作陣がそれぞれ発言する力と自由を持っていた。それってLUNA SEAっぽいんですよ。メンバー全員が平等に力を持っていて、より良き方向に進んでいこうとする。
逆に『スター・ウォーズ』はジョージ・ルーカスという中心人物がいて、その人の意見にスタッフ全員が従う形で作品が仕上がっていく。おそらく『スター・ウォーズ』のような作り方の方が作品に濁りが無いものが出来るメリットがある反面、ダメな時はとことんダメになってしまうという、危うい部分も持っている。そういう事でいうと、X JAPANは『スター・ウォーズ』に近いのかなあ…。

─YOSHIKIさんがルーカス的な!? なんだか、予想もしていなかった方向に話が進んでしまいました。

このインタビュー中もずっと『ブレードランナー』流しちゃってましたからね(笑)。


Text, Photo & Edit : KOTARO MANABE
 


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