次世代バンド・羊文学。平均年齢20歳、オルタナティヴの根源を探る“ルーツ”のプレイリスト


mysoundイチ押しのアーティストにテーマに合わせた楽曲をピックアップしてもらい、その曲にまつわるエピソードから本質を掘り下げていくプレイリスト企画。今回は昨年10月にEP『トンネルを抜けたら』でデビューし、2月7日(水)に早くも2nd EP『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』をリリースした平均年齢20歳の羊文学が登場です。90年代のオルタナティヴロックの影響を随所に感じさせながら、それを日本のユースとして昇華し、どこでもないどこかをイメージさせるリリカルな歌と相まって独特な空間を作り出しています。今回のテーマはズバリ「ルーツの曲」。羊文学の音楽性やセンスの背景をプレイリストから探ります。



次世代バンド・羊文学。平均年齢20歳、オルタナティヴの根源を探る“ルーツ”のプレイリスト(1)L→R:ゆりか(Ba)、福田ひろ(Dr)、塩塚モエカ(Gt,Vo)
 

塩塚モエカ“永遠にたどり着けないんだけど、そこまでの途中にいるっていうイメージ”

─羊文学の音楽はいい意味で「作った」感じがないというか、この自然さの理由はなんでしょうね。

塩塚モエカ(Gt,Vo):曲を1日でガッと書いたりするので、シンプルというか、いい意味でも悪い意味でも作り込まれてないからかもしれないです。ギターを弾きながら、メロディも歌詞も大体同時に出てくるんです。歌詞も自分の気持ちを押し付けたいっていうより、いろんなバンドを聴いたり、ライブを見たりして、この人かっこいいなとか、こういう音楽かっこいいなと思ったことをそのまま素直に出してるからなのかなと思います。

─歌いたいことの内容と曲調が最初から一致している?

塩塚:そうですね。例えば、見た映画が良かったとか、そこでイメージがあって、イメージに曲をつけたいとかっていう感じですかね。

─今回のEPに映画を見て自分の中に残った感覚で書いた曲はありますか?

塩塚:1曲目の「ハイウェイ」が、『東京オアシス』って映画の最初のシーンがすごい残ってて、それをイメージして書きました。内容そのままじゃないですけど、自分の気持ちとかも混ぜて書きました。

─EPのタイトルは『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』という小説のタイトルを思わせるもので。

塩塚:これは、イメージの話なんですけど、ここじゃなくていいところに逃げ出したいとか、現実逃避したい感じの曲というか。ちょっと異国感がある曲が入ったなと思うんです。で、『オレンジチョコレートハウス』っていうのは、幻の場所で実在しないけど、すごくいい匂いとか甘い匂いとか、素敵な場所のイメージで、永遠にたどり着けないんだけど、そこまでの途中にいるっていうイメージですかね。

─さて、今回は「ルーツの曲」というテーマでプレイリストを作っていただいたんですが、お一人ずつ選曲した理由や自分の音楽への影響などを聞かせてください。まず、塩塚さんから。

塩塚:高校生ぐらいの時に聴いてた曲を3曲とも選んだんですけど、洋楽を聴き始めるぐらいの時期だったなと思って。その頃Yuckが来日したのかな?タワレコで特集されて、それでたまたま手に取ったら「なんだこの音は」と(笑)。高校生の時はあんまりエフェクターとか持ってなかったんですけど、大学入ってからちゃんと音作りやろうと思って、その時にすごい参考にもしたし、この「Get Away」はめちゃめちゃ影響受けてる曲だと思います。

Get Away
Yuck

─シガーロスはどんなきっかけで?

塩塚:高校生の時に、『たまたま』っていう蒼井優さんが出てる映画のエンディングで聴いてびっくりしたんですね。J-POPとかじゃなくてもストリングスとかホーンとか入ってて、いろんな音が入ってるのにかっこいいし、バンドって感じがしないし、綺麗だし。「こんな曲がやりたい」と思って、高校生の時にやってたバンドの入場SEでずっと流してた曲です。

─喜びにあふれてますよね。

塩塚:うん。すごい幸せになりますよね。春とかに聴きたくなる曲。散歩する時に聴いたりしてました。

Inni mer syngur vitleysingur
Sigur Ros

─アジカンは意外でしたが、透明感のある曲ですね。

塩塚:イントロのコードを鳴らすところがすごい綺麗だなと思って。当時はどのコードを使えばいいのかわからなかったんですけど、そのコードがCadd9thだと分かってから、「Cadd9thめっちゃかっこいい!」と思って(笑)。今もめっちゃ使うんですけど、そういうところまで影響を受けた曲だと思います。

或る街の群青
ASIAN KUNG-FU GENERATION

─ではゆりかさんの選曲を教えてください。

ゆりか(Ba):最初オアシスが好きで、オアシスはすごくローゼス(ザ・ストーン・ローゼス)に影響を受けたバンドで、そこから聴くようになったんです。最初はボーカルとか(笑)、すごい変なバンドだなと思って(笑)。でもギターは超かっこいい。ルーツとなってるところとしてはベースはシンプルだけど、ちょっとトライブ感があったりするとことか結構影響受けてるかな。

I Wanna Be Adored
The Stone Roses

─そしてそもそも好きだというオアシスはなぜこの曲を?

ゆりか:オアシスはこの曲を聴いて、なんかかっこいいと思ってギターをやりたいと思って。私、最初はギターやってたんですけど、この曲のミュージックビデオって、ノエル(・ギャラガー)がレスポール弾いてるんですけど、それでおんなじようなギター買ったっていう思い出があります(笑)。ギターを始めるきっかけになったって感じの曲です。

塩塚:私より全然ギター上手なんです。めちゃめちゃ上手。

─ギターがわかってる上でベースのフレーズを考えられる?

ゆりか:そうですね。ギターやってたから結構自由に弾ける感じはありますね。

スーパーソニック
Oasis

─もう1曲はブランキーの中では可愛い曲ですよね。

ゆりか:あの人たちは見た目めちゃくちゃ怖いのにいい曲を書いてて。歌詞はちょっと悲しくなる感じがあって。歌詞をちゃんと見るようになった人たちですね。

─羊文学と同じ3ピースですね。

ゆりか:そう!3ピースもこの人たちで好きになったところはあります。個性が全員見えるから、3ピースっていいなと思ったバンドだと思います。

ダンデライオン
BLANKY JET CITY

─では最後に福田さんの選曲理由を聞かせてください。

福田ひろ(Dr):日本のインディーズバンドを中学3年生ぐらいから下北沢のライブハウスに通って、色々見させていただいて、そこからほんとにのめり込んでいったんです。だからここにはあんまり自分がバンドやりたいとか、決め手になったバンドは選んでないんですけど、当時、PENs+ってバンドとPELICAN FANCLUBってバンドがいて、メンバーの方がどういうジャンルに影響受けてるんだろうな?と思って色々聞いたりして、辿っていくと自分の好きな音楽やジャンルが分かったんです。

─それが分かってくるとさらに音楽を聴くのが楽しくなりますね。

福田:そうですね。USインディだったり、イギリスの音楽だったり、環境音楽やシューゲイザー、サイケデリックとか、マスロックとか色々あったんです。だから変拍子もそうですけど、いろんなものが好きな時期があって。高校1年生の頃、リーガルリリーのサポートをさせていただいてたんですけど、このアメリカン・フットボールの曲はその時のSEで使っていて、とても思い入れがあったんで選ばせていただきました。

The Summer Ends
American Football

─下北沢のインディーズシーンという意味でいうとthe cabsはズバリなのでは?

福田:そうですね。ドラムの中村一太さんがめちゃめちゃ好きで。ドラムのセットを写真に撮って、それを真似して自分でセッティングしてみたりですね。日本のドラマーで、変拍子でかつBPMも速くてセットもかっこいい、三拍子揃ってるドラマーだなと思って。一太さんが好きでcabsは選ばせていただきました。

anschluss
the cabs​​​​​​​

─indigo la Endは当時から曲がいいですね。

福田:はい。ポストロックの影響も受けつつ、ちゃんと歌モノになってて、いろんな人からの支持も得てる、いろんな人が好きって言える。シューゲイザーとかが分かってないと聴けないとかじゃなく、知らなくても聴けるんですよね。

素晴らしい世界
indigo la End​​​​​​​

─シューゲイザー好きな福田さんの中でもSlowdiveは一番好きなんですか?

福田:そうですね。90年代で一番僕が好きだなと思うのがSlowdiveで。見た目とか全部を合わせて好きですね。温度感や空間も全て利用して、儚さが詰まっているバンドだと思います。

─この曲はインストですね。落ち着けます。

福田:そうなんですよ。環境音楽もそうなんですけど落ち着いたアンビエント的なのが好きなので、この曲にしました。

Erik's Song
Slowdive​​​​​​​

─今回、お互いのプレイリストを見て発見はありましたか?

塩塚:大体わかってたけど、その人っぽいというか。でも全部いい曲。

─センスの共有がなされているんですね。ところで今年はどんな活動をしていきたいですか?

塩塚:・・・夏に外でライブしたいです。

─野外とか苦手そうに見えますが(笑)。

塩塚:いや?以前、野音でやらせてもらえたんですけど、めっちゃ楽しかったので、外でライブしたいし、うまくいったらフェスに出たい(笑)。でも、まずは曲をいっぱい作りたいです。もっといっぱい音楽を聴いて、音楽的にも成長したいです。
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<PROFILE>
羊文学
2011年9月、5人組コピーバンドとして結成。受験の為に活動休止と数回のメンバーチェンジにより、現在のメンバーとなる。多くの音楽から影響を受けた重厚なバンドサウンドと、意思のある歌声が特徴的なオルタナティブロックバンドである。

羊文学『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』
2018.02.07(水)Release
https://mysound.jp/album/200618/