Californian Grave Digger ~極私的ロック映画セレクション(日本映画編)~

Californian Grave Digger ~極私的ロック映画セレクション(日本映画編)~

©KADOKAWA 1979

ポップカルチャーの世界は常にファッションやアート、そして映画と有機的にリンクし、温故知新を繰り返しながら変化し続ける。そして、その変化と進化が最も顕著に表現される大衆娯楽=ポップカルチャーから見えてくる新たな価値観とは何かを探るべく、日本とアメリカ西海岸、時に東南アジアやヨーロッパも交えつつ、太平洋を挟んだEAST MEETS WESTの視点から広く深く考察する大人向けカルチャー分析コラム! 橋のない河に橋をかける行為こそ、文化のクロスオーバーなのである!
 

狂気の沙汰! アツすぎる1970年代の日本のロック映画

ロックンロール並びにバンド周辺を題材に取り込んだ"ロック映画"シリーズも、いつの間にやら4回目に突入。パンクなアクション映画、メタルとホラー映画、ソウルミュージックと黒人搾取映画に続くのは、これまでロック映画としてほとんど扱われる機会の無かった禁断のジャンル…ロックバンドの出演する日本映画(邦画)について、極私的な観点でレビューを書き飛ばすことを試みたい。

しかし、我が国のロックの歴史もそれなり長い。普通にセレクトしていては文字数オーバー間違いないので、ここは筆者が個人的に追いかけているジャンル、即ち"1970年代の日本のロック映画"に的を絞ってみた。
70年代のロック映画と80年代の作品が決定的に違うのは、ビデオ文化がまだ発生していなかった点に尽きるだろう。プロモーションビデオ、もといPVが百花繚乱の時代を迎える以前は、レンタルといえば貸しレコード、庶民の娯楽はもっぱら映画館の3本立てプログラムで、家庭で観られる映画はもっぱら8ミリフィルムの類しかなかった。テレビの歌番組にもグループサウンズ(GS)の時代から様々なバンドが出演していたが、まだ一般家庭にビデオデッキが普及していないので、見逃したらそれっきりの時代である。その点、映画は期間中なら何度でも観られるし、入れ替え制も無い。何よりも現在と比べて入場料も安かった!娯楽の中心である映画作品は、全国津々浦々で公開される。人気のロックバンドの出演はPV以前のPVの役割を果たすと同時に、物語に華を添えるパターンは非常に多かったのである。70年代以前にも、日本のロック映画の素地としてGS映画が多数製作されていたが、これはロック映画というよりアイドル映画の近似ジャンルなので、今回のテーマからは敢えて除外した。

戦国自衛隊(1979年/KADOKAWA)

また、ロック映画とは少し脱線するが、千葉真一主演、鈴木ヒロミツ、かまやつひろし宇崎竜童らロックミュージシャン大量出演、エンディング・テーマはジョー山中が担当した『戦国自衛隊』(1979年)も、筆者にとっては立派なロック映画である。松村とおるによる主題歌「戦国自衛隊のテーマ」を筆頭に、千葉真一と夏八木勲がフンドシ一丁で海岸線を馬でツーリングするシーンで流れる元ザ・スパイダースのギタリスト、井上堯之による「DREAMER」は最高に盛り上がるし、エンディング・テーマのジョー山中がソウルフルに歌い上げる「ララバイ・オブ・ユー」はロックと邦画の奇跡的なマリアージュ。誰がなんと言おうと必見である。また落武者の宇崎竜童が自衛官の鈴木ヒロミツを残虐に殺害するなどロック映画的な見どころ盛り沢山。ちなみに千葉真一は、『魔界転生』(1981年/監督・深作欣二)ではジュリーこと沢田研二と。『爆発!暴走族』(1975年/監督・石井輝男)では岩城滉一と共に主演を務め、ロック映画史的に避けて通れない、というか、なぜか立ちはだかる存在であることも付け加えておきたい。
 

戦国自衛隊

『戦国自衛隊 角川映画 THE BEST』
価格 ¥1,800+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

 


それでは、いつものように前置きが長くなってしまったが、これより極私的セレクションによるロック映画・邦画編の本題に突入しよう。なお、今回は内容が濃い目なので筆者のオールタイム・ベスト3として、タイトルを3本に絞って執筆させていただいた次第である。

『暴力戦士』(1979年/東映)

暴力戦士

『暴力戦士』
価格:4,860円
発売元:東映ビデオ 販売元:東映
https://www.toei-video.co.jp/catalog/dstd02924/


日本映画史が誇る鬼才、というか奇人で知られる石井輝男監督が東映所属時代の末期に撮り上げた異色のロック映画。神戸六甲山で開催されたヤングロックフェスティバルで、東京と神戸の不良グループ同士でイザコザが発生。東京の不良グループのリーダーであるケン(田中健)と、敵対した神戸の不良グループのリーダーの妹マリア(岡田奈々)が、互いに手錠で繋がれたまま逃避行を繰り広げるという物語。ここまで読めば本作が、同年に公開されたウォルター・ヒル監督の不良映画『ウォリアーズ』の、あからさまなパク…おっとオマージュ作品なのは間違いない。当時の東映を率いていた岡田茂社長が、アメリカで『ウォリアーズ』を観て「こういうヤング向けの不良映画を作れ」と石井監督を指名。言われた仕事はソツなくこなす石井監督にも、さすがに難題だったらしくキャスティングやシナリオは相当に難航した。

形だけでもウォリアーズをなぞるべく、野球のユニフォームを着用したチーム"球殺団"(笑)や、当時流行の都市伝説を元ネタにした"口裂け女団"などなど東映らしい独自解釈が炸裂した珍グループが登場するが、やはりロック映画的観点から注目すべきは、映画冒頭のロックフェスティバルに登場する"ARB"の出演だ。当時ARBは、その人気がブレイクする以前であり、プロデューサーからバンドに出演依頼された時点では「楽曲は5曲は必ず使うから」という約束だったが、実際には1曲しか使用されておらず、後に石橋凌は「騙された。僕の中では永遠に葬りたい作品」と語っている。
 


そうは言っても、この時代の動くARBの姿が拝めるのはファンにとってもジャパニーズ・ロックの歴史においても重要であり、バンドにとっては色々な思いがあるかもしれないが、今となっては日本のロック映画の記録として非常に貴重であると断言できる。ビデオは長らくリリースされていなかったものの、現在は東映ビデオよりDVDがリリースされている。和製ウォリアーズのケレン味と若かりし日のARBの勇姿を是非確かめてほしい次第である。
 

『バカ政ホラ政トッパ政』(1976年/東映)

バカ政ホラ政トッパ政

『バカ政ホラ政トッパ政』
価格:3,024円
発売元:東映ビデオ 販売元:東映
https://www.toei-video.co.jp/catalog/dutd03383/


ロック映画という以前に、本作は純然たるヤクザ映画だ、当時の東映は『仁義なき戦い』から始まった実録路線に陰りが見え始め、ネクスト・ジェネレーションに向けた作品を模索していた時代。菅原文太は『トラック野郎』シリーズのヒットにより、コワモテ路線からコミカルな三枚目路線へのシフトに成功していたため、この『バカ政ホラ政トッパ政』は、実録路線にも関わらずコミカルな描写が盛り込まれた異色の仕上がりとなっている。実録路線であるために、菅原文太演じる主人公バカ政には当然モデルとなる実在の人物がおり、舞台となるのも方言で怒鳴り合うような従来の実録路線とは違い、モダンでアーバンな銀座が舞台。モデルとなった人物の持ち込み企画だったために急遽製作が決まったため、シナリオは監督の中島貞夫と『仁義なき戦い』シリーズの笠原和夫と鳥居元宏(代表作は若山富三郎の『極道』シリーズ)の3人が徹夜で書き上げ、撮影も僅か1週間程度という超スピードで作られた映画だが、実際見てみると、そんな突貫工事は全く感じさせないどころか結構面白かったりするのだから、さすが東映。

粋でイナセで人情溢れるモダンな街・銀座。そこで巡り会い、生まれたところは違っても死ぬ時は一緒と誓い合った3人の男たちが織り成す人生劇場が本作の物語だ。対立組織の大物を刺殺した罪で服役後、出所して銀座に戻って来た"ザギンのバカ政"こと橋本政人(菅原文太)と、バンドの興行を手配するトッパ政(ケーシー高峰。"トッパ"とは"取っ払いの意)、そしてバンドが出演するパーティーを仕切るセイガク(学生)ヤクザのホラ政(松山仁)の3人は、その結束力で音楽興行会社"太陽カンパニー"を設立するが、それを快く思わない上部組織の嫌がらせにより、出演バンドの奪い合いをキッカケに銀座を血に染める抗争事件に発展してしまうのだった…。
音楽興行がシノギのメインということで、ここで奪い合いに巻き込まれるバンドが、なんと宇崎竜童率いるダウン・タウン・ブギウギ・バンド! DTBWBといえば同時期に『トラック野郎』においても、菅原文太が唄う「一番星ブルース」のバックバンドを務めつつ、ガソリンスタンドの店員役でも出演を果たしているが、本作ではバンドとしての出演。しっとりとしたバラードロックを聴かせてくれる。他にも美輪(丸山)明宏や、フォークシンガーにして落語作家の北村謙が率いるバンド"ばっくすばにぃ"の演奏シーンなども収録されており、地方の泥臭いヤクザ抗争を扱った他の実録路線作品とは、ひと味違うモダンな東京ヤクザ映画に仕上がっている。
 

『狂走セックス族』(1973年/東映)

実録路線と同時に不良性感度路線を全面に押し出していた70年代の東映は、同じく不良の音楽とレッテルを貼られていたロックバンドと相性が良かった。とにかくタイトルが凄い『狂走セックス族』だが、中身は硬派な青春暴走映画だったりするから侮ってはいけない。しかも公開当時は『仁義なき戦い 広島死闘篇』の併映作品だった。

主演は、当時東映の大部屋俳優…ピラニア軍団の一員としてくすぶっていた白井孝史(現・白井滋郎)。本当は白石襄が主演となるはずだったが、本作のクランクイン直後に撮影事故で降板。代役として白井が抜擢されたものの、結局白井の主演作はこの1本だけとなる。それだけに作品のインパクトは強烈だ。白井が演じるのは裕福な両親の庇護のもとで暴走にかまけるボンボン不良役で、それを執念で追いかける白バイ警官役には渡瀬恒彦、刹那的な青春の生き様に惚れるヒロイン役に杉本美樹というキャスティングによって、コミカルでありながらシリアスな展開を迎える本作最大の特徴といえる。そのタイトル故にキワモノ作品と思われがちだが、暴走族映画にも関わらずコメディ路線一辺倒だった『不良番長』シリーズと、後にヒットシリーズとなる岩城滉一主演の『暴走族』シリーズの間をつなぐミッシングリンク的なポジションにある作品と筆者は解釈している。ちなみに監督の皆川隆之は本作が監督デビュー作。脚本は『トラック野郎』シリーズの鈴木則文が手がけている。

ロック映画としての見どころは、渡瀬恒彦の恋人・文子(伊佐山ひろ子)が、ひょんなことからマネージャーを務めるようになったバンドの存在である。そのバンドなんと"上田正樹とMZA"なのだ! 後に結成される"上田正樹とサウス・トゥ・サウス"の前身にあたるバンドなのだが、映像が残っているには極めて稀であり、しかも楽曲もたっぷり聴かせてくれる。
 


そんな希少映像が収録されているにも関わらず、この事実は上田正樹のウィキペディアには全く触れられていない。なんということだ! 上田正樹は本作のサントラそのものを担当しており、クレジットにも大きく記載されている。しかし残念なことに本作はVHSもDVDも未発売。これまで幾度かCS放送の東映チャンネルでは放映されているので、鑑賞するには東映チャンネルと契約するか、DVDかブルーレイのリリースを当て所なく待つしかない。

以上、ロック映画邦画編というより、東映ロック映画ベスト3といった趣きになってしまったが、もちろん他にも語るべき作品は沢山ある。キャロルが出演しているものの、ライセンス問題がこじれにこじれてソフト化が見送られ続けている幻の東映スケ番映画にして封印映画『番格ロック』(1973年/監督・内藤誠)や、東映以外でも日活の『野良猫ロック』シリーズ(1970年~71年)には、鈴木ヒロミツ率いるザ・モップスが出演。ザ・モップスは東宝による勝新太郎主演の成人向けポルノ時代劇『御用牙』シリーズ(1972年~1974年)でも、時代劇でありながら主題歌"牙のテーマ"を担当するなど、先述の『戦国自衛隊』も含めて日本ロック史においても映画史においても特異な活躍をしていた事実は、もっと評価されなければならないことを高らかに宣言しつつ、本稿の締めとさせていただきます! (文章中敬称略)


Text:Mask de UH a.k.a TAKESHI Uech