101年目のジャズ vol.4 ~ライブ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード 追体験~


気持ちのいい季節ですね。お元気でしたか? ラジオ番組のナビゲーター気分でお届している『101年目のジャズ』、今回はニューヨーク・マンハッタンにある老舗ジャズ・クラブ“ヴィレッジ・ヴァンガード”でのライブ音源をご紹介していきます。ヴィレッジ・ヴァンガードといえば1935年にオープン、世界中にあるジャズ・クラブの中で最も有名といっても過言ではないスポットです。歴史あるこの店で多くの名演が生まれ、その一部が今も聴けます。時空を越えた追体験、楽しんでくださいね。

#1. Joshua Redman Quartet - Just In Time

オープニングは5月にニュー・アルバム『スティル・ドリーミング』をリリースするサックス奏者、ジョシュア・レッドマンの演奏にしました。彼は1969年生まれ、ハーバード大学を主席で卒業という秀才。その姿は1996年公開の映画『カンザス・シティ』で見ることができます。1934年の“カンザスシティ”を舞台にレスター・ヤング役で演奏しているジョシュア、一見の価値ありです! その映画が公開になる1年前の1995年、ジョシュア・レッドマンはヴィレッジ・ヴァンガードでライブ・レコーディングを行ないました。ステージではスタンダード・ナンバー「ジャスト・イン・タイム」を演奏していて、それがコレ! ジャケットをクリックすると曲のサワリが試聴できること、ご存じですよね?

Just In Time (Live)
Joshua Redman Quartet

 

#2. Christian McBride Trio - Cherokee

さきほど触れた映画『カンザス・シティ』には飛ぶ鳥落とす勢いのベース奏者、クリスチャン・マクブライドも出演しています。最新作『ブリンギン・イット』が第60回グラミー賞「ベスト・ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム」を獲得、今年6月にはニュー・プロジェクトによる来日公演も決定、チェック、チェックのトップ・ベーシストですが、2015年に行なったヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ・レコーディング作品もまたとんでもなく格好いい! 収録曲もバラエティに富んでいてマイケル・ジャクソンの「ザ・レディ・イン・マイ・ライフ」などもカバーしています。とはいえ、このアルバムでどれか1曲といわれたら、やっぱり私は「チェロキー」かなあ。クリスチャン・サンズもどうしちゃったの? っていうぐらいピアノを弾きまくっていて笑えるほど(褒め言葉です)。とにかく、白熱に次ぐ白熱、プレイヤーと観客が一体化している会場の様子がバーンと見えてきますよ。

Cherokee
クリスチャン・マクブライド・トリオ

 

#3. Sonny Rollins ‐ I’ll Remember April

お次はジョン・コルトレーンのアルバムから選ぶつもりでいました。というのも、先程触れた映画『カンザス・シティ』には2017年6月27日、60歳の若さで他界したピアニストのジェリ・アレンも出演していたからです。ジェリ・アレンとジョン・コルトレーン、そしてヴィレッジ・ヴァンガードがどう繋がるのか。実はワタクシ、彼女が逝ってしまった約1ヵ月半後の昨年8月、彼の地でジェリ・アレンのトリビュート・ライブを体感したんです。その時のメンバーがテリ・リン・キャリントン、エスペランサ・スポルディング、そして、ジョン・コルトレーンの息子さんであるラヴィ・コルトレーンでした。いうまでもなく本当に素晴らしい時間で、帰国しすぐさまジャズ仲間に自慢したぐらいです。ねっ、ジェリ・アレンとコルトレーン、そしてヴィレッジ・ヴァンガードが繋がったでしょ。でも、思い直してソニー・ロリンズの音源にします。やはり、この店で最初にライブ・レコーディングをしたとされるアルバムから1曲選びたくなったんです。今の季節にぴったりな曲も収録されていますしね。では、1957年11月3日のヴィレッジ・ヴァンガードにレッツ・ゴー!

I'll Remember April (Live At The Village Vanguard / 1957 / Evening Take)
Sonny Rollins

 

#4. Chris Connor - Lover Come Back to Me

「バードランドの子守唄」のヒットで知られる女性ジャズ・ボーカリスト、クリス・コナーもヴィレッジ・ヴァンガードでライブ録音を行ない、アルバム『クリス・イン・パーソン』にまとめました。これがね、どのトラックも聴き応えがあって素晴らしい。繰り返し聴いていると自分でも歌えるんじゃないかって気になるから不思議。このアルバムから通称“ラヴァカン”、「ラヴァー・カム・バック・トゥ・ミー」を選びました。ジャズ・ボーカリストなら一度は歌ったことがあるはずの超有名曲ですが、ここでのバージョンはアレンジも凝っていて何度も“おっ!”と思う瞬間があります。しかも、クリス・コナーのアプローチが実に音楽性に富んでいて聴き終わると拍手したくなる。こんな風に歌えたら気持ちいいでしょうねぇ。

Lover Come Back To Me (Live At The Village Vanguard)
Chris Connor

 

#5. Bill Evance Trio - My Foolish Heart

ヴィレッジ・ヴァンガードで収録したライブ盤の中で最も人気作といえば、ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビー』ではないでしょうか。ピアノ・トリオによる傑作でもあり、このアルバムをきっかけにジャズ好きになった方も多いようです。作品にまつわるエピソードはいろいろありますが、すでに様々な場所で語り尽くされているのでここでは割愛しますね。興味のある方は是非、ご自身で調べてみてください。さて、アルバムから1曲セレクトしたバラード「マイ・フーリッシュ・ハート」はなんともロマンティックな気持ちにさせる演奏です。そして切ない。本当に切ない。本来付いている歌詞の内容を知ると、なぜエヴァンスがこのような演奏したのかがわかり、さらに胸がキュンとなります。音の向こうに言葉が浮かんで、その世界に浸っているうちに涙線が緩んでしまう。だから私は時々しか聴きません。そして時々無性に聴きたくなるんです。

My Foolish Heart
Bill Evans Trio

 

#6. J.J.Johnson ‐ Lament

次はトロンボーン奏者、J.J.ジョンソンのリーダー作から、彼が作曲した「ラメント」です。J.J.ジョンソンは、通称、J.J.と呼ばれていて、モダン・ジャズ界を代表するミュージシャンのひとりです。以前、彼の来日ライブに行った時、たまたまエントランスにいたご本人に挨拶することができました。恐る恐る緊張しながら声をかけた私に、とても優しい眼差しでゆっくり丁寧に言葉を返してくれたJ.J.。2001年、みずから命を絶ったと知った時は本当にやりきれなくてね、生演奏を聴けたということを自分への慰めにしました。では、歌心あふれるJ.J.の演奏をお聴きください。

Lament
J.J. Johnson

 

#7. Woody Shaw - Days of Wine and Roses

“酒バラ”こと「酒とバラの日々」というスタンダード・ナンバーがあります。ヘンリー・マンシーニが書いたこの曲はジャズを聞く聞かないは関係なく、多くの人がご存じのはず。でも、曲が生まれるきっかけとなった映画『酒とバラの日々』をご覧になっていない方は結構いるようですね。私自身も曲を知ってからビデオで観たひとりです。そして驚きました。メロディの美しさやタイトルの雰囲気からイメージしていた内容とは真逆のシビアなストーリーでしたから。それはさておき、この曲をヴィレッジ・ヴァンガードで演奏しているのがウッディ・ショウ。アルバムに収録されている他の曲もご機嫌な演奏は多々あるのですが、今回は「酒バラ」で時を刻んでください。

Days of Wine and Roses (Live Village Vanguard, NY August 1978)
Woody Shaw

 

#8. Brad Mehldau ‐ Secret Love

ラストは精力的にアルバムをリリースし、ファンに歓喜されているジャズ・ピアニスト、ブラッド・メルドーのライブ音源です。曲はサミー・フェインが書いた「シークレット・ラヴ」。サミー・フェインといえば映画『慕情』のテーマ曲を書いた作曲家として有名で、ジャズ・ミュージシャンがよく演奏する「ハッシャバイ」も彼の作品です。どちらも大好きなナンバーでサミー・フェインという人がメロディ・メイカーであることを伝えているなあと思いますし、それは「シークレット・ラヴ」も同様。曲の美しさをブラッド・メルドー・トリオはこんな風に表現しています。

Secret Love (Live)
Brad Mehldau

 

さて、ヴィレッジ・ヴァンガードでは毎週月曜日にレギュラーのビッグ・バンドが演奏しています。その名も“ヴァンガード・ジャズ・オーケストラ”。ライブ盤もリリースされていますし、定期的に来日もしています。このバンドの歴史についてもお話したいところですが、ひと言ではちょっと難しいし長くなりそうなのでまたいつかのお楽しみということで。では、来月最終金曜日、5月25日に再会しましょう。