マイ・フェイバリット♪ ドラマー 10選【百歌繚乱・五里夢中 第8回】


今回はドラマーですが、「ナイス♪ドラマー」っていうととても10人には絞りきれないだろうと思い、シンプルに”私が好き”という基準で選ばせてもらいました。
ところで、ドラム奏者はなんで”ドラマー”なんでしょうね?ギターはギタリスト、ベースはベーシスト、ピアノもオルガンもパーカッションも”ist”をつけるのに、ドラムは”ドラミスト”とは言いません。プレイヤー、コンダクター、マネージャー……、”er”か”or”をつけると”~する人”となるのは動詞ですね。”drum”は”太鼓を叩く”という動詞でもあるからでしょうか?……ま、いいか。

とっつきやすいが、深い

私は大学に入ってからロックバンドを始め、ブランクを挟みつつも今なお”おやじバンド”で遊んでいるのですが、ドラムを担当しております。前回ちょっと書きましたが、バンドを始めるというその時点で、何の楽器経験もなかったので、ドラムならできるかもと思ったのですね。だってとりあえず叩いたら音は出ますし。
そう、ドラムはとても単純な楽器です。人類初の楽器はやっぱり打楽器でしょう。木切れが2本あったら打楽器になりますから。
だからドラムはとっつきやすい。
だけど奥は深い。とっても深い。
リズムの中心となる楽器ですからいちばん重要なのはグルーヴですが、他にも音色、フレーズの巧みさなど、求めるものはいろいろあって、それらがほんの少しのサジ加減によって全然違ってきます。サジ加減とは演奏のニュアンス、手足の動きの違いということです。
人の振る舞いが出音を左右するのは、他の生楽器にも言えることでしょうが、誰がやってもとにかく音は出るという究極の単純さゆえに、よりプレイヤーの力量や個性がストレートに現れるような気がします。
譜面にしたら同じリズム、フレーズを叩いたとしても、たとえばジョン・ボーナムとジェフ・ポーカロのプレイはまったく違います。まったく違うけれど、どちらも素晴らしい。
80年代、シンセサイザーやシーケンサーがどんどん進歩して、ドラマーは要らなくなっちゃうんじゃないの、なんて心配されたこともありましたが、笑い話です。
名ドラマーは機械なんぞには決して負けません。
 

マイ・フェイバリット♪ ドラマー


#1:Carmine Appice
曲:Cactus「Let Me Swim」(from 1st アルバム『Cactus』:1970年7月1日発売)
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私が初めてファンになったドラマーがこの人です。
1966年に始めた“Vanilla Fudge”を69年9月に脱退し、ジェフ・ベックとバンドを組もうとした矢先、ベックが交通事故にあって白紙に。73年にやっと”BBA”を結成することになりますが、その間、盟友ティム・ボガート(Tim Bogert / bass)らと作ったのが”Cactus"というハードロック・バンド。その場繋ぎみたいな存在だと思いきや、売行きこそ足元にも及びませんが、USA版レッド・ツェッペリンと言っても過言ではないその音楽はもっと高く評価されるべきだと思っています。また実際アピスは、ジョン・ボーナムにドラム・メーカーのラディック社を紹介したり、かなり影響も与えているんです。
でも実は、この”カクタス”、なんだかバタバタしてうるさくて、初めは馴染めませんでした。だけど大学時代のバンドでコピーをしようということになったので、しょうがなく、ドラムが何をやっているのか何度も何度も聴いて憶えました。そうするうちにいつのまにか、カクタスにもカーマイン・アピスにも愛着を感じるようになったんですねー。
この人のドラムの魅力は、ジャズの基本も会得した上での、はみ出しそうにパワフルでダイナミックなプレイですね。
カクタスの曲はどれも好きですが、この曲は、普通のロックンロールなのに、アピスが叩くとネバっこい独特のグルーヴになってしまうところが面白いので選びました。ボガートのベースもあってこそのグルーヴですけどね。

 

#2:John Bonham
曲:Led Zeppelin「Good Times Bad Times」
(from 1st アルバム『Led Zeppelin I』:1969年1月12日発売)
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レッド・ツェッペリンの記念すべきデビューアルバムの第1曲目。残念ながら私自身はリアルタイムで聴いたわけじゃありませんが、当時これを初めて聴いた人は衝撃を受けたでしょうね。ハードロックという概念もまだはっきりしていなかった時代にそれを明確に打ち出した、という音楽性のことも大きいですが、”音のよさ”も画期的だったと思うのです。それ以前、ジミ・ヘンドリックスやクリームはどうも音がモコモコしている。60年代ではビートルズがやはり音がよかった。”音のよさ”は、意識するしないに関わらず、脳にプラスイメージを与える、と私は信じております。
で、エンジニアもがんばったんでしょうが、プレイヤーの力ももちろん必要です。こんな迫力あるドラム・サウンドが録音されたのはこれが初めてじゃないかと思うのですが、ジョン・ボーナムのドラム、圧倒的です。
パワーもすごいんですが、小技もすごい。特にキックの”16分3連符の頭抜き”。言葉で分からない人は実際聴いてみましょうね(^^)。これをシングル・キック(バスドラム1台)でやっています。ウワサでは、ボーナムが”Vanilla Fudge”を聴いて、カーマイン・アピスがダブル・キック(バスドラム2台)でやっているのを知らずに、練習してシングルでできるようになった、なんて言われていますが、上記に書いたようにボーナムはアピスに会っているし、ラディック社も紹介されて、アピスと同じダブル・キックのセットを買おうとしてジミー・ペイジからカッコ悪いからシングルにしろと言われた、という話もあるくらいですから、ダブル・キックのことを知らなかったというのはたぶんウソですね。


#3:David Garibaldi
曲:Tower of Power「Squib Cakes」
(from 4th アルバム『Back to Oakland』:1974年5月発売)

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アピスやボーナムとまったく違うタイプのドラマーです。ボクシングで言うとヘビー級の彼らに対し、ガリバルディはフェザー級。軽やかで小気味よく、ドラム・セットもタムがハイとローの2つだけというシンプルさ。音色もナチュラルできれいです。そんでもってすごくタイトで、リズムの縦の線がビシッと決まる。”Tower of Power”というと強力なホーン・セクションが看板ですが、それもこのガリバルディと、ベースのフランシス・ロッコ・プレスティア (Francis 'Rocco' Prestia)が生み出すファンキーそのもののグルーヴがあってこそ。
70年代がまあ最盛期ですが、一度も解散することなく今も活動中で、2017年にも来日してビルボードで公演を行いました。ところがこの時はガリバルディが列車事故で来れず。その後どうしているのでしょうか?

 

#4:Harvey Mason
曲:Herbie Hancock「Sly」
(from 12th アルバム『Head Hunters』:1973年10月26日発売)
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ともかく上手い!たとえばヴィニー・カリウタ (Vinnie Colaiuta)なんかも、もの凄い超絶テクニシャンですが、ハーヴィ・メイソンの一味違うところは音色が美しいこと。超絶技巧系は、すごいなーとは思いますが、それだけでは好きになれません。
強く叩くと音が大きいのは当たり前ですが、ふつう音が汚くなってしまいます。余計な響きが加わるんでしょうね。だけどこの人はきれいなまま。チューニングもいいんでしょうけど、いちばんきれいに響くところを極めて正確に叩いているのだと思います。どんなに速いパッセージでもそれは変わりません。シンバルも美しい。ハイハット技で、オープンで叩いてある長さで閉じる”シュイッ”と鳴るヤツ(分かりますよね?)なんて、この人よりきれいな音のものを私は聴いたことがありません。
さらにグルーヴが常にゆったりしている。テンポがいくら速くてもそのタイム感の中でもっとも絶妙なタイミングで音が鳴るのです。
人々がパニックを起こしている危機的状況にあっても、冷静沈着に正しい判断を下し、滑舌のよい美声で理路整然と指示を出し、活路を切り開いていく人がいたとしたら、そのカッコよさに感動してしまうでしょうが、メイソンのドラムはそんな感じです(^^)。
 

#5:Phil Collins
曲:Phil Collins「In the Air Tonight(夜の囁き)」
(1st シングル:1981年1月5日/from 1st アルバム『Face Value』:1981年2月13日発売)
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“顔面どアップ”がトレードマークのフィル・コリンズのアルバム・ジャケットですが、まさにこの1stはタイトルも『Face Value』。”顔の価値”?どういうこと?……極めて個人的なことがアルバムのテーマなので、リスナーがまるでコリンズの頭の中に入っていくようなイメージを出そうとしたそうです……。
時とともにボーカリストとしての比重が大きくなっていったコリンズですが、もちろんドラマーとしても超一流。”二刀流”ですね(^^)。
この曲は始まってから3分40秒!、ずーっとあえてドラムレス(リズムボックスのみ)で、ほとんど「あれ、このままドラム出てこないの?」と疑ってしまった頃、いきなりカミナリが空を切り裂くような勢いでタムの連打が襲いかかります。初めて聴いた時はビックリしましたねー。
さてこの強烈なドラム・サウンドは当時一斉を風靡した「ゲート・リバーブ」というエフェクト処理がされたもの。他でもないコリンズさんが元祖で、ピーター・ゲイブリエルの3rd アルバムで、プロデューサーのスティーヴ・リリーホワイト、エンジニアのヒュー・パジャムとコリンズの3人で発明したとのことです。


#6:村上”ポンタ”秀一
曲:吉田美奈子「朝は君に」
(from 4th アルバム『Flapper』:1976年3月25日発売)
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昔からずっと日本を代表するドラマーであり続けている人。盤石のテクニックに裏打ちされた個性的でダイナミックがプレイが魅力です。セッション・ミュージシャンとして数え切れないほどの作品に参加し、あまたの名プレイを残しているので、どれか1曲を選ぶのはムリ。とりあえず歌ものとしても素晴らしい作品ということでこの曲にしておきます。
私がいちばんポンタさんらしいと思っているのはタム回しのフィルイン。個々の打音のタイミングと強弱の流れが見事で、まるで歌っているようです。この曲でも3分10秒あたりとか、3分44秒あたりとか。こんなふうにタムを回せる人、世界にもあまりいないんじゃないかなぁ。
あまり知られていないポンタさんの弱点は、曲のテンポをなかなか覚えないこと(^^)。ライブではドラマーのカウントから始める曲が多いので、ドラマーは曲の最適テンポを把握しておく必要がありますが、遊佐未森のバックを大村憲司さんらとやってもらっていた頃、リハーサルで、やる度に遅かったり早かったりするので、音楽ディレクターだった私は度々それを指摘し、ポンタさんはムッとしていたものです。だけど本番は何も問題なかった。そこはさすがです。


#7:青山純
曲:遊佐未森「Floria」
(from 7th アルバム『アルヒハレノヒ』:1994年9月21日発売)
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遊佐未森の2nd アルバム『空耳の丘』はロンドンでミックスを行いました。その折、ナイジェル・ウォーカー (Nigel Walker)というエンジニアがこのアルバムについて唯一褒めてくれたのが、ドラマーがよいということ(^^)。青山純のことです。ジョージ・マーティンのエア・スタジオで働き、世界中の一流ミュージシャンと仕事をしてきたナイジェルが褒めたのですから、彼は世界レベルのドラマーということです。
残念なことに56歳の若さで早逝してしまった”青ちゃん”ですが、彼もやはりセッションの仕事が多かったので膨大な参加作品があります。『空耳の丘』のナイジェルのミックスは青ちゃんもとても気に入っていたので、ぜひ聴いてもらいたいですが、今回は「Floria」という曲を選んでおきます。
「一つ打ちの真髄」なんて教則ビデオを残しているくらいで、彼のスタイルは、細かいことはあまりせず、あくまで1拍目のキックと2拍4拍のスネアを大切にすることでグルーヴを生み出していくものでした。「スネアが鳴る寸前にスティックが空気を切り裂く音がする」と表現したのは遊佐未森です。ほんとにそんな音がするか、「Floria」でチェックしてみてください。


#8:Jeff Porcaro
曲:Eric Carmen「Haven’t We Come a Long Way(二人のラヴ・ウェイ)」
(シングル:1978年発売/from 3rd アルバム『Change of Heart』:1978年9月発売)
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セッション・ドラマーで早逝と言えばジェフ・ポーカロもそう。1992年にわずか38歳で亡くなりました。しかし残した仕事は量的に膨大、質的に至高。いまだに日本にも熱いファンが多い人で、2015年に「ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事」という彼が参加した505枚のレコードを解説した分厚い本が、日本独自で出版されたほどです。
抜群のテクニックとどんな音楽スタイルでもこなしてしまう柔軟性が、多くのプロデューサーやアーティストから重宝された大きな理由でしょうが、私が好きなのは彼のプレイが常に溌剌としているところです。スタジオに入ってから譜面を渡されて、短時間で要求された演奏を提供しなければならないのがセッション仕事というものですが、彼のドラミングからは「楽しくてしょうがない感」がヒシヒシと伝わってきます。聴くだけで元気をもらえます。
彼の得意技である”ハーフタイム・シャッフル”(撥ねる16ビート)がほんとに素晴らしい”Toto”の「Rosanna」にしようかとも思いましたが、始まった瞬間にジェフ・ポーカロだ!と判る、弾けるようなドラミングが嬉しいこのエリック・カルメンの曲を選んでみました。

 

#9:Stewart Copeland
曲:The Police「Driven to Tears(世界は悲しすぎる)」
(from 3rd アルバム『Zenyatta Mondatta』:1980年10月3日発売)

ここに挙げたドラマー達はいずれも個性派だと思いますが、中でも最も個性的なのはこのスチュアート・コープランドではないでしょうか?
彼のドラミングの特徴としては、スネアのフラム打ち(両スティックを若干のタイミング差でパラッと打つ)の多用、リムショット(スティックをスネアに寝かせるようにしてリムをカツンと鳴らす)の多用、変則的なハイハット・ワーク、パワフルなのに”レギュラー・グリップ”(左のスティックを親指のつけ根で挟む。ジャズの人に多い。対して両手同じように持つのは”マッチド・グリップ”)であることなどなど。
そして曲をグイグイ引っ張っていくような前のめりなグルーヴが、”ポリス”・サウンドの面白さ&魅力の大きな要因となっています。
この曲はポリスの楽曲の中では地味目ですが、上記の彼の特徴が全部入っていて、ドラムを聴いているだけでも楽しいと思います。

 

#10:Chad Smith
曲:Red Hot Chili Peppers「Parallel Universe」
(from 7th アルバム『Californication』:1999年6月8日発売)
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やろうと思えば何でもできてしまう現代のレコーディング業界にあって、ほぼメンバーだけで、極力ダビング(重ね録り)も余分なエフェクトも少なく、素の演奏で勝負しているところがいい。まぁ最新作『The Getaway』ではだいぶおしゃれになってしまっていますが、この『Californication』やその次の『By the Way』という2大傑作アルバムでは、その辺のバンドなら物足りなく感じるであろうくらいのシンプルさ。これでいい、これがいいと言わせるのが”レッチリ”の実力でしょう。
この曲、出だしのギターのカッティングはちょいとリズムがよれてますが、これもご愛嬌、というかリズム・キープ用の”クリック”も使ってないということですよね!16分刻みのベースも指弾きです(ライブで見ました)。たいへんだろうなぁ(^^)。ドラムはスネアの余韻がかなり響いていて、こういうのは他の楽音の邪魔になるからと、レコーディングではよくカットしたりするんですが、そのまんま放置。それが却って臨場感というプラス要素に転化しています。
チャド・スミス、パワフルでワイルドなんで、繊細な小技とかは苦手かも、なんて思いがちなんですが、実は各地でドラム・クリニックをやるようなテクニシャン。ドラム・ソロやドラム・アンサンブルの映像もYouTubeなどに上がっていて、実に多彩なドラミングを披露しています。


以上、私が大好きなドラマー10人でした。しかし古い人や亡くなった人ばかりですね。最近は魅力的なドラマーが少ないような気がします。上手くて個性的な若いドラマーの登場を心待ちにしております。

いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪


Text:福岡 智彦