オリエンタルR&B 【知られざるワールドミュージックの世界】


ブラック・ミュージックは黒人だけのもの。という時代はもはや過去のもの。今では、ブルースもファンクもヒップホップも世界中で演奏され、そして親しまれている。なかでも、R&Bがもはや世界共通語といっていいほどなのは、日本のR&Bシーンを見てもおわかりだろう。

そして、アジアでR&Bが盛り上がっているのは日本だけではない。東アジアから西アジア一帯にかけてどこに行ってもR&Bのアーティストは存在する。ただ、それぞれクオリティは高いとはいえ、どことなくご当地感が漂うのも味わい深いところ。ここでは、欧米に負けない黄色人種のソウルフルなグルーヴを感じてもらいたい。

オリエンタルR&Bでアジア一周の旅に出かけよう!

最初に紹介しておきたいのは、やはり韓国だ。全米No.1を獲得したBTS(防弾少年団)を筆頭に、この国の音楽シーンは世界トップ・レベルだが、R&Bのアーティストも才能溢れるメンツが多数世界を見据えている。2015年から本格的に活動をスタートしたディーンもそのひとり。憂いのある声だけでなく、ソングライターとしても才能があり、楽曲提供も数多い。インスタグラムをテーマにしたこの曲は、韓国のガオンチャートで1位を獲得し、さらにファン層を拡大した。
 

 

マレーシアと聞いてもピンとこないかも知れないが、ワールド・デビューを果たしているユナの経歴はすごい。2012年にファレル・ウィリアムスのプロデュースでデビュー。日本でもリリースされたアルバム『Chapters』(2016年)は、名門ヴァーヴからリリースされ、アッシャー、ジェネイ・アイコ、DJプレミアなども参加した本格派。R&Bといっても声を張り上げるのではなく、シャーデーにも通じるソフトでムーディーな歌い口が魅力だ。自国のシンガー兼ラッパーのソナワンをフィーチャーしたこの曲も完成度が高い。
 

 

熱帯雨林のイメージが強いインドネシアに、こんなクール・ビューティーがいるというのも嬉しい。ニキことニコル・ゼファーニャはジャカルタ出身の19歳。アリーヤやデスティニーズ・チャイルドに憧れて歌い始め、テイラー・スウィフトのオープニング・アクトも務めた実力の持ち主。まだ2018年に初のアルバムが出たばかりなのでその才能は未知数だが、世界に羽ばたける逸材に成長する可能性は高い。
 

 

中国のR&Bといわれてもあまりイメージは沸かないが、世界中にいる中華系のアーティストには驚くべき才能が多い。方大同(カリル・フォン)は、ハワイで生まれ、上海や広州などを経て香港で活動中のシンガー・ソングライター。2005年にデビューした彼の特徴は、北京語と英語をミックスして使い分ける独特の歌詞と、ウェットになりすぎないソウルフルな歌声。他の「R&B風」とは違うスタンスがクールだ。
 

 

同じく中国系のヴォーカリストだが、ジェン・ネオ(梁根荣)は中華系シンガポール人。やはり国際派のひとりで、K-POPシーンでも高く評価されており、シンガポールや中華圏だけでなく韓国でも人気が高いのが強みだ。自身のソロ作品でもソングライターとしての才能を発揮しており、精緻なメロディとスケールの大きなアレンジ、そしてエモーショナルなヴォーカルに魅了される。
 

 

エスニックR&B、高地R&B、大草原R&B……なんというバリエーション!

さらに西へ進み、インドのR&Bを聴いてみよう。といっても、このザ・プロフェシーは両親がパンジャーブ系シーク教徒のカナダ移民。北米で生まれ育ったインド系アーティストだけに、バックトラックは洗練されているが、そのボーカル・スタイルはエスニックな薫りがたっぷり。パンジャーブ音楽やバングラなどを消化した独特のスタイルは唯一無二で、近年進化を深めるインド系R&Bのなかでもユニークな存在のひとりだ。
 

 

高山に囲まれたネパールにもR&Bはあるのだが、欧米文化からは距離があるため、これまた独自のジャンルとして変化している。NKサムラートはネパールの音楽シーンでは珍しい、シンガー兼ラッパーとして活躍するアーティスト。この曲は彼のラップがフィーチャーされているとはいえ、アコースティックなトラックと気だるい女性シンガーとのミックス具合がなんとも個性的。ミュージックビデオの衝撃的な結末にも驚かされる。
 

 

最後は大平原が広がる大国モンゴルのR&Bを聴いていただこう。バンドをバックにして歌うのは、テルメンというオーディション番組で人気を得たシンガー。トラック自体はそれなりにグルーヴを感じさせるが、どこか歌謡曲風のメロディを熱唱する様子は、クールなR&Bとはかなり程遠い。ただ、聴いているうちにかなりクセになってくる。まさにアジアならではのR&B、ソウル・ミュージックといえるだろう。
 

 

このように、アジアは広いだけにそこで育まれたR&Bシーンも層が厚い。ブラック・ミュージック・ファンは欧米だけでなく、アジアにも目を向けるべきなのだ。



Text:栗本 斉
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣