ベーシスト・ナガイケジョー(SCOOBIE DO)のフェンダー Jazz Bass 【人生を変えた楽器】

ミュージシャンには、人生を変えるような楽器との出会いがある。運命的な出会いや、楽器とともに切磋琢磨したストーリー…。このシリーズでは毎回、さまざまなミュージシャンを迎え、各々のキャリアにもっとも大きな影響を与えた楽器を紹介してもらう。
第二回目のゲストはスクービードゥーのベーシスト、ナガイケジョー。
バンド加入時から現在まで、ビンテージのフェンダー・ジャズ・ベース一本を愛用しつづけている。楽器に刻まれた傷や塗装の剥がれからも、ただならぬ風格を漂わせるこのベースは、ナガイケのミュージシャン人生の伴侶として活躍してきた。彼にとって相棒とも言えるこの楽器について、大いに語ってもらった。
最初に弾いたときに“これだ!”って思ったわけでもなかった
─今日持って来てもらったフェンダーのジャズ・ベースは、いつ頃入手したのですか?
2001年頃ですね。中学から高校までベースをやっていたんですが、受験生のときにバイトもできなくてCDを買うお金がなくなったので、もうベースはいいやって売ってしまって。大学に入ったらギターを弾いて歌ったりしようかなとも思っていたんですよ。でも、結局大学に入ったらまたベースをやることになって、人から借りてライブも何本かやっていました。 それで、大学一年生のときにスクービードゥーに加入するかもって話があって、年明けにリハスタに入ろうというときに、 さすがにスクービードゥーに入るかもしれないのに自分のベースがないというのもかっこ悪いなと思って、楽器屋に行ったらこれを見つけました。
─どういうベースを買いたいかイメージしていましたか? ジャズ・ベースを選んだ理由は?
自分のなかで、買うならフェンダーのジャズ・ベースかプレシジョン・ベースかっていうのが頭にありました。
スクービードゥーの前任の人がジャズベだったのでそれがいいのかなと思いながらも、ビンテージを扱っている楽器屋に行きました。サンバーストか、白でべっ甲のピックガードが付いたジャズベか、プレベかな……と思っていたら、一軒目に入ってすぐ、友達が“この色はなかなかないからかっこ良いぞ”って言い出して。でも、自分のイメージと違ってピックカードも黒色だし、ボディのカラーもブロンドでその時は全然ピンとこなくって、“これかぁ……”って思いながら試奏したら、楽器屋のおじさんまで“いい音だね〜”って。で、この場にいる二人がいいって言っているんだから、そうなのかなぁって、勢いで買っちゃいました(笑)。
─プレベと弾き比べたりは?
僕もまだ19歳だったし、弾き比べてどうこう言えるレベルじゃなかったんですよね。だから最初に弾いたときに“これだ!”って思ったわけでもなくて……。
─最初から高価なビンテージを手に入れようと思っていたのですか?
はい。なんかビンテージがかっこいいかなと思っていたし、値段も30万円もしないくらいでしたから。
─19歳で30万!
でも楽器をやる人から見て、30万ってひとつのラインのような気がするんですよ。国産のいい楽器でも25万~30万くらいはするから、それくらいは出そうかなって思ってました。だから楽器としては決して高いほうじゃなく、むしろ安いくらいだと思います。
─ということは、買いに行ったときからベーシストとしてやっていこうという意気込みがあったということですね。
このくらいのものを手に入れればある程度のものは弾けると思ったし、学生とはいえスクービーとしてのツアーやレコーディングも決まっていたので、生半可な気持ちではやれないなという強い気持ちはありました。ベーシストとしてのキャリアも実際ここからスタートしましたから。
「汗まみれでガシャガシャのライブをやるのがかっこいいと思っていた」
─ナガイケさんのベーシストとしてのスタイルもこの楽器とともに確立されてきたのでしょうか?
どうだろう……。ベースを始めてまだ3、4年しか経っていないのに、急にメジャーでリリースすることになったから、最初はとにかく弾かなきゃっていう感じでした。だからスタイルがどう変わったとかを、自分で分析するのは難しいです。ただ、そのときの自分としては、ファンクというよりもロックンロールバンドをやるというイメージがありました。ロックに対する憧れや、パンクの前のめりな感じが自分の根っこにはあって、とりあえず“トンガッテおけ”っていうのが自分のスタイルとしてありましたね。レイドバックして、気持ちよくグルーヴして踊ろうぜ!って感じだけにはならないぞっていうか……。
─当初は衝動的にロックをやりたいって気持ちが強かったけれど、だんだんファンクなどのグルーヴ的な要素が入る余地がでてきた。
そうですね。僕にとってはスクービードゥー=ロックンロール・バンドという認識がありました。その頃はガレージ・ロックのシーンがあって、スクービーはその中のソウル/ファンクよりのバンドってイメージでしたね。天井から水滴が落ちてくるような100人くらいのライブハウスで、汗まみれでガシャガシャのライブをやるのがかっこいいと思ってやってましたし、だから、ベースもこんな見た目になっちゃったのかな(笑)。
─今のスクービーの音楽はもっとファンクよりだと思いますが、そういう変化も自分のベース・プレイの変化と同調してきたのでしょうか?
2005~6年くらいからダンス・ミュージックのシーンとも関わるようになって、RHYMESTERや犬式、FIRE BALLが出るようなイベントを自分たちで企画するようになったのもあり、いろんな演奏を見て刺激を受け、おのずと変わっていきました。
自分たちの音楽を“ロックとファンクの最高沸点=Funk-a-lismo!(ファンカリズモ)”って言い始めたのもちょうどその頃ですね。最初のころは、気を失う直前まで激しくやらないとライブで本気を出したことにはならないと思ってたのが、そうじゃない自分も許せるようになってきた。
─その痕跡がベースの見た目に現れていますね。
ええ、その痕跡で怨念のような見た目になっています(笑)。
最近はほんと笑えないんですが……特に海外アーティストには信じられないって顔をされます。THE NEW MASTERSOUNDSのベースのピート・シャンドには、「まだあの楽器使ってるのか!?」って言われたりもして、顔よりもベースで覚えられています。Vintage Troubleのベースの人(リック・バリオ・ディル)も僕の楽器を二度見して、貸してみろって弾き始めて……信じられないって顔をしていました。
─(笑)。
楽器屋で試奏するときにも、ケースから出すのを一瞬ためらっちゃいますね……このベースを見るとみんな“えっ?!”って顔をするので、なんだか“申し訳ございません!”って感じになっちゃいます。
─15年間使ってきたとはいえ、なかなかここまでの見た目にはならないですよね。
ライブになると尋常じゃないくらい汗をかくし、もともと塗装がやわらかいってこともあるのかな。塗装が溶けて汗やライブハウスのホコリとか空気を吸収して、おかしなことになってきちゃったというか。
─スクービーには後から最年少で加入して、当時は必死だったと思いますが、その後ベーシストとしての自我が出てきて、例えば、アクティブのベースを使って、もっと目立ちたいと思うことはありませんでしたか?
これが難しくて……バンドの中で音が混ざるとアクティブだから音が派手になるってわけでもないんです。この間もレコーディングのときにフェンダーのアクティブ・ベースを借りて弾いてみたら、今までにはないテイストになったなって感じはあるんですけど……バンドの活動歴が長いせいか、各メンバーの音ができあがってしまっているから、逆にいつものジャズ・ベースで音色をブライトにするというアプローチの方が派手に感じて、アンサンブルの中で目立つ印象でした。それに、アクティブ・ベースのギラギラした音でスラップしても、自分のなかでピンとこないっていうのもあるかもしれない。結局コレの音が好みになっちゃっているんでしょうね。
思い通りにならないところも含めて一緒にいるのが好き
─これだけベースの見た目が変化してくると、楽器の音も変わってきたのではないですか?
昔はもうちょっと音が軽かったけど、重心がどんどん低くなってきていますね。 長くやってもらっているPAさんにも「昔よりローが出るようになった」って言われるから、楽器が鳴るようになってきたんでしょうね。イメージとしては輪郭がはっきりと出るという感じよりも、木の振動が“モン!”って震えて出るようになったというか。それで逆にPAさんに、“なんかボヤっとするから、もうちょっとローを削ってラインを見せた方がいいかも”って言われて、そっち寄りの音作りにすると今度は音が細くなったような気がして自分の中で不安になって、同じような音に戻ってきちゃったりして。結局こういう音が好きみたいです。
─そうは言っても、ライブやCDではベース・ラインがはっきり聴こえてきます。
そうなんですよね。自分が思う以上にちゃんと聴こえているみたいです。ずっと使っているわりに、この楽器を信じ切れていない部分があって……よく分からないところがあるのが好きなんですよ。自分が使っている楽器がいいかどうかわからないまま使っているというか。『果たしてこの楽器はいいのだろうか!?』って(笑)。
─15年も使って思い通りの音が出せているのに?
うーん、やっぱりこの楽器といることが好きなんでしょうけどね。結果的にずっと一緒にやってきているんだし。
─人に例えるとこのベースはどんな存在ですか?
年代的には自分よりも先輩ですが……そんなに意見が合わないけど、一緒にいたくなるような存在かな。なんでもかんでも共感できる感じじゃないけど、とりあえず居心地はいいみたいな(笑)。いいところも悪いところもひっくるめて好きですね。
─悪いところもありますか?
音の輪郭が曖昧なところですかね。人の音を聴いて、あれぐらいバッキバキに出る方がイマドキだよな、その方がやりたいアプローチに近づけるのかな、とか感じるふしもあるんですけど……。でも、そういう思い通りにならないところも含めて一緒にいるのが好きです。
─こっそり名前をつけていたり?
名前はないですね。呼ぶとしたら“コレ!”とか“このベース”。いつか付けよう、と思いながら、時間ばかりが経ってしまいました(笑)。
─ナガイケさんはずっとこのベース一本でやってきているから、“僕にとってはこのベースしかないんです!!” くらいの潔い発言が出るかと思ってたのですが、意外でした。
それは……奥さんのことがすごく好きだけど、外では“いやぁ、ウチのなんて話もわかってくれないし、全然”みたいな気持ちに近いんじゃないですか。
─それって、つまり、照れってこと!?
照れ、なのかな!? ベースに照れてどうするんでしょうね(笑)!
【Profile】
ナガイケジョー
1981年生まれのベーシスト。2001年にSCOOBIE DOに加入。同バンドはロックとファンクの最高沸点“Funk-a-lismo!”を貫いた、圧倒的なライブ・パフォーマンスで高い評価を得ている。著書にベース・マガジン(リットーミュージック刊)のコラムをまとめた『ベーシストの名盤巡り 低音DO』がある。
BLOG
http://www.scoobie-do.com/blog/nagaike/
Twitter
https://twitter.com/joenagaike
http://www.scoobie-do.com
https://twitter.com/SCOOBIE_DO
Photo&Text:堀田 芳香
Edit:伊藤 大輔/仲田 舞衣
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