ナイス♪シンコペーション 10選【百歌繚乱・五里夢中 第13回】

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こんにちは。今回も引き続き、リズムにおける音楽ワザのひとつについて掘り下げます。今度は「シンコペーション」。しつこいなんて言わないで。まだまだやるよー。

「シンコペーション」とは何か?

なんとなく分かるよ、という方は多いと思いますが、一応頭を整理しておきましょう。
とりあえず、辞書を引いてみますと、
「音楽で、拍節上の強弱の位置を本来の場所からずらしてリズムに変化を与えること」とあります。「広辞苑」です(ちと古い、第四版ですが)。
言葉で説明するのはやはり難しい、と言うか、この説明、ちゃんと言えてない。「本来の場所」ってどこだよ!って岩波さんに突っ込みたくなります(最新の第七版持っている方、ここ、どうなってます?)。
「強弱の位置」の「本来の場所」。まず、「強」の「本来の場所」は”拍の頭”です。4拍子なら、”1, 2, 3, 4,”と数えるその4つのポイント。で、「弱」はそれ以外。
だから、「本来の場所」からずらすってことは、拍の頭以外にアクセントを持ってきて、拍の頭は弱くすればいいんですね。
結論から言うと、世の中のほとんどの曲が、それ=シンコペーションをやっています。なーんだ。
シンコペーションがない曲は、たとえば童謡の「チューリップ」とか「きらきらぼし」とか。「あめふり」もそうですね。あーあーふーふーかーさーんがー……。アクセントがある太字の音はすべて拍頭に乗っています。
「鉄腕アトム」の主題歌で説明するのが解りやすい、とある人が教えてくれました。”そらをこーえてー”の”こ”がシンコペーションです。”こ”にアクセントがありますが、それは「本来の位置」=「拍頭」ではなく、半拍前にずれていますよね。
こうして、半拍、あるいは4分の1拍、前にずらすことが多いので、「食い込む」ってことからか、ミュージシャンたちの現場では「食う」という言い方をします。「ここは半拍食って」とか、「サビ頭は食わないで」とか。お寿司屋さんでこういう会話してるとややこしいですね。

 

ナイスなシンコペーション

ということで、シンコペーションを使っているというだけなら、たいていの曲がそうなのですが、だから今回楽しようってわけじゃありません。
ここでご紹介するのは、シンコペーションの中のシンコペーションと言いますか、シンコペーションを効果的に使っていて、それがその作品の看板になっているような、ナイスなシンコペーションばかりですから、ぜひ、実際に聴いてみてくださいね。

 

#1:Char「Smokey」
(from 4th アルバム『U.S.J.』:1981年2月発売)

“Char”こと竹中尚人の代表曲。そもそもデビュー・アルバム『Char』(1976年9月)に収録されていましたが、この『U.S.J.』というアルバムのバージョンのほうが、多少テンポが遅いんで、どういうシンコペーションなのかわかりやすいと思います。
ともかく、いきなり、最初の出音がシンコペーションなんです。通常の小節頭より16分音符ひとつ分、フライングして、つまり”食って”いて、それが音程を上げながら連続3発×2回、畳み掛けてきます。初めて聴くと、”頭”から始まっているように思ってしまいますから、しばらくは拍が取れなくて(のれなくて)、クラクラしてしまいます。そこが狙いなんでしょうね。
で、この特徴的なキメのフレーズは曲中に何度か繰り返されて、この曲の”顔”となっています。
『U.S.J.』ってくらいですから、このアルバムはロサンゼルス録音で、スティーヴ・ルカサー(Steve Lukather / guitar)、デヴィッド・フォスター(David Foster / keyboards)、ジェイ・グレイドン(Jay Graydon / guitar)、ジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro / drums)といった、当地の超人気ミュージシャンがずらりと参加した貴重な音源。この「Smoky」も貫禄の演奏で、オリジナルよりゆったりとしつつ、しっかりタイトなノリは私好み。

 

#2:Sheena & the Rokkets「レモンティー」
(from 1st アルバム『Sheena & the Rokkets #1』:1979年3月25日発売)

博多が生んだロックンローラー、鮎川誠。まさにロック一直線なギタリストなのに、細野さんはじめYMO人脈と親交が深いのは、父親が米国軍人なのにサムライ感あふれる佇まいと通底するのでしょうか。
彼が、”シーナ&ロケッツ”を作る前の”サンハウス”時代に作った曲です。
ブルース進行=”I→I→IV→I→V→I"の、V度のところで、8分裏のアクセントが4回連続するというシンコペーションが現れます。それ以外のリフのフレーズも含め、ギターとベースがユニゾンでグングン進んでいくところが、シンプルでありながら印象的でカッコよく、一度聴いたら、頭の中で2、3日はグルグル鳴り続けます。
とは言え、このアレンジは、ジェフ・ベック時代の”The Yardbirds”が1965年に発表した「The Train Kept A-Rollin’」とそっくりなんで、ここからいただいたんだと思いますが。
でも、ギター・ソロのところで、スタジオ録音なのに、リフ・ギターがなくなって、ベースとドラムだけでサウンドを支えるというストイックさが、実に鮎川誠らしいです。

 

#3:Swing Out Sister「Breakout」
(2nd シングル:1986年10月発売/from 1st アルバム『It's Better to Travel』:1987年5月11日発売)

彼らの2nd シングル。これが全英4位、全米6位とヒットして、グラミー賞の最優秀新人賞にもノミネート。デビュー間もなく人気アーティストの仲間入りを果たしました。後に2人組になりますが、この頃はまだ、女性シンガー、コリーン・ドリュリー (Corinne Drewery)と、アンディ・コーネル (Andy Connell / key)、マーティン・ジャクソン (Martin Jackson / dr)の3人。
ソウル/ファンクのテイスト香る、シンセ・ベース・リフとブラス・セクションが、コンピュータ・ドライヴのキビキビした演奏によって、そのシンコペーションを際立たせて、実に印象的です。
コリーンのキュートさ、そしてファッションセンスも相俟って、彼らの音楽は、それまでにはなかった、キラキラ感、オシャレ感に満ちていました。
その後の日本の”渋谷系”にも直結していますね。

 

#4:Toto「Girl Goodbye」
(from 1st アルバム『TOTO(宇宙の騎士)』:1978年10月15日発売)

セッション・ミュージシャンが集まって作ったバンドだから、巧いのは巧いんだけど……の「んだけど」が必要ないのが”Toto”ですね。巧いのはもちろんだし、その上、曲がよいし、アレンジも完璧。これには、創設メンバー6人のうち4人、デヴィッド・ペイチ、ジェフ・ポーカロ、スティーヴ・ルカサー、ジェフの弟、スティーヴが、同じ高校の同窓生(前2人、後2人がそれぞれ同学年)、つまりミュージシャンである以前に友人同士だったことが、大きく関係していると思います。それにしても、すごい高校ですね。ロスの「Grant High School」ってところです。
さてこの曲、全体を貫いて繰り返される2小節単位のユニークなリフが、シンコペーション満載フレーズです。ひとつのパターンの中にアクセントが12コありますが、そのうち7コがシンコペートしています。こういう感じが、まさに”Totoらしさ”ですね。
6分を超える長い曲ですが、普通フェイドアウトにしてしまいがちなところ、ちゃんと、エンディング用に特別なキメを作って、バシッと終わっているのがすばらしい。思わず拍手してしまいます。

 

#5:Earth, Wind & Fire「Getaway」
(シングル:1976年7月7日発売/from 7th アルバム『Spirit(魂)』:1976年9月発売)

“アース・ウィンド・アンド・ファイアー”のシンコペーションのキレのよさと言ったら、もう天下一品であります。
日本人だって、一本締めは得意ですから、”せーのー・パン!”は大勢でも合わせられますが、それを16分(音符)食って合わせられるかと言うと、それはほぼムリ。キレのよいシンコペーションを決めるには、全員のリズム感がそうとうよくないと。
“EW&F”は、バンドとしてのリズム感が抜群です。なので、ナイス・シンコペーションな曲もいっぱいあって、ディスコブームに乗って、日本でも大ヒットした「宇宙のファンタジー」や「Boogie Wonderland」なども、びしびしシンコペートしていますが、そのへんはね、ちょっと”売れ線狙い”過ぎと言うか、はしたないと言うか……やはりそのちょっと前の、ファンク色の強いこの「Getaway」あたりが、味わい深いし、演奏にも最も勢いがあったように思います。
75年の「Shining Star」(初の全米1位)と76年のこの曲が、EW&Fの人気を決定づけたのです。

 

#6:Tower Of Power「What Is Hip?」
(from 3rd アルバム『Tower Of Power』:1973年5月発売)

バンド構成としてはほぼ同様、音楽カテゴリーも同じファンク/ソウル系、そしてどちらもバンドとしてのグルーヴ力が鉄壁、という”Earth, Wind & Fire”と”Tower of Power”ですが、そのグルーヴのニュアンスは、やはり全然違うんですなー。その違いを言葉で表わすのは至難の技なんですが。
この曲は彼らを世間に知らしめた代表曲。
ドラムのデヴィッド・ガリバルディ(David Garibaldi)とベースのフランシス・ロッコ・プレスティア(Francis "Rocco" Prestia)の一糸乱れぬアンサンブルが、ほぼ全編、速めの16ビートを刻み続け(ベースは指弾きですから!)、随所に16分(音符)食いのシンコペーションを配し、そこにブラス・セクションが鋭く合わせてくるという、緊張感で手に汗握ってしまうくらいのパフォーマンスが展開されます。
ちなみに、このアレンジをいい感じに拝借しているのが、キャンディーズの「危ない土曜日」。これ、1974年4月発売なんです。この時点で”T.O.P.”に目をつけたのは素晴らしいセンスだと思いますし、演奏もよくて、◎。

 

#7:Jason Mraz「Butterfly」
(from 3rd アルバム『We Sing. We Dance. We Steal Things.』:2008年5月12日発売)

たまには新しいのもいっとかないとね。と言っても、もう10年前か!
ジェイソン・ムラーズ。1977年6月23日、米国ヴァージニア州メカニックスビル生まれ。チェコとスロヴァキアの血を引く……チェコとスロヴァキアって昔は「チェコスロヴァキア」っていうひとつの国だったんだけどなー。
しょうもないことを言ってないで聴きましょう。まず、音がいいですねぇ。ここ10年くらいの洋楽は、低音の量感が違いますね。ベースとキックの音が実に心地よい。
で、イントロの1小節目の最後の16分(音符)から早くもシンコペーション。”EW&F”や”T.O.P.”のように、この曲でもブラスが活躍しています。ブラス・セクションとシンコペーションは相性がいいですね。サウンドがぐっと派手になり、勢いづく。
そこにムラーズの、軽やかでエッジのある声が、舞うように歌って、極上のポップ・ソウルが完成です。

 

#8:寺尾聰「ルビーの指環」
(6th シングル:1981年2月5日発売/from 2nd アルバム『Reflections』(1981年4月5日発売)

ここからは、歌のメロディ自体がシンコペートしている作品を。
前述のChar『U.S.J.』と同年&同月に発売されたこの曲、人気俳優がいきなり歌でも大ヒットを飛ばした、というのが当時の印象です。宇野重吉さんの息子さん、と言っても、今や、宇野さんを知らない人のほうが多いか。
ともかくすごいヒットで、オリコン10週連続1位、年間でも1位。第23回日本レコード大賞では大賞とともに、松本隆が作詞賞、寺尾が作曲賞、井上鑑が編曲賞を受賞するという”総ナメ”状態。結果、寺尾聰は、「日本アカデミー賞最優秀主演男優賞」と「日本レコード大賞」の両方を獲得している唯一の人間なのであります。
そのヒットの秘密がシンコペーション……とは言いませんが、本格的な16ビートを歌謡曲に持ち込んだサウンドは、当時は新鮮に響いたと思います。
“くーもーりーガーラスのむーこおはかーぜのまち……”の太字部分がすべて、16分(音符)食いの”シンコペーションです。ヴァースはこのメロディが何度も何度も繰り返されます。
この曲を発売する前に、マネージメント事務所だった石原プロモーションの専務さんが、「こんなお経みたいな曲が売れるわけがない」と断言したそうです。お経はシンコペーションしてないので、この予想は見事にはずれました。

 

#9:Derek and the Dominos「I Am Yours」
(from 1st アルバム『Layla and Other Assorted Love Songs』:1970年11月9日発売)

エリック・クラプトンが、”Blind Faith”のアメリカ・ツアー時に前座を務めた”Delaney & Bonnie and Friends”のメンバーと新たに作ったのが”デレク・アンド・ザ・ドミノス”ですが、”Blind Faith”と同様、このバンドも1枚の(2枚組ですが)アルバムを作っただけで解散してしまいました。でも、印象的なジャケットとともに、歴史に残る名盤ですね。
この曲の歌詞は、なんと、12世紀のペルシャの詩人”NIzami”の詩の英訳。それにクラプトンが曲をつけました。このアルバム自体が、「Layla and Majnun」というNIzami作の悲恋物語が発想の元になっているのです。
アコースティック・ギターで、カッコよく、気持ちよく始まるのですが、歌の頭が、いきなり1拍目の8分裏、という変わったメロディ。そしてこの歌メロ、ほとんどが半拍食う形になっています。つまりシンコペーションしまくっているメロディなのです。
それを意識して聴いていると、頭が捻れてきますので、考えないほうが楽しめます……が、私はもう意識しないでは聴けない(^^;)。

 

#10:ブレッド&バター「ピンク・シャドウ」
(シングル:1974年8月1日発売/from 3rd アルバム『Barbecue』:1974年9月25日発売)

※セルフ・カバー音源になります。オリジナル音源は現在取り扱いがございません。

茅ヶ崎生まれの、岩沢幸矢(さつや)と岩沢二弓(ふゆみ)の兄弟ユニットが”ブレッド&バター”。1972年のデビューですから、もう45周年を超えた超ベテランです。
この曲は、山下達郎が、1978年のライブ・アルバム『It’s A Poppin’ Time』の中でカヴァーをしていることでも有名な、”ブレバタ”の代表曲。まぁその時点では、達郎さんも売れる前ですから、そんなに話題にはならなかったでしょうが。
サビの「愛してるよ」ってところが、1小節目の1拍目の16分裏から始まります。で、「い・し・て」まで連続で裏。意表をついているし、カッコいいです。
このシンコペーション・メロディのおかげで、この曲が忘れられないものになっていますね。これがもしなかったら、達郎さんもきっとカヴァーはしていないでしょう。
別にシンコペーションを使ってやれ、なんて意識して作ったわけじゃないでしょうが、日本のポップスのメロディで、ここまで大胆にシンコペーションを使い、しかもそれが見事にハマった例は他に思いつきません。
何が「ピンク・シャドウ」なのか、歌詞はなんだかよくわかりませんけど。

 

以上、”ナイス♪シンコペーション”な10曲、いかがでしたか。
1945年という昔に、ルロイ・アンダーソン(Leroy Anderson)という人が作った「Syncopated Clock」という曲があります。曲タイトルに”シンコペーテッド”なんて入ってるんだから、どんなにシンコペーションしているんだろう、と思って聴くと、時計を模したパーカッションが、”カッカッカッカッ”と一定のリズムで鳴っているのが、最後のほうで、”◯カッカカ”(◯は半拍休み)と変わるだけの、「規則正しく刻むはずの時計が、なぜかずれるんです。おもしろいでしょ?」と言いたいらしい、とても素朴なシンコペーションでした。

いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪


Text:福岡 智彦