照明デザイナー・平山和裕が語る チームサカナクション的ライブ演出の極意【Behind the scenes】


サカナクションの山口一郎は、世に言う裏方スタッフを「チームサカナクション」と呼び、「彼らの存在無しにサカナクションは成立しない!」と公言している。ステージに立つメンバーだけでライブが成立する訳では無い。大勢のスタッフが力を合わせることでライブが成立するのは、サカナクションに限ったことでは無い。しかし彼らはこれまで「裏方」であったスタッフを、アーティストと同列に位置付けている。

そんな「チームサカナクション」の中から、今回は「照明デザイナー」の平山和裕さんにライブ空間における照明演出の極意を伺った。

プログラミングに縛られず 楽器のように照明卓を操作する!

平山和裕氏

平山和裕(BAGS GROOVE/Lighting Director):大学在学中に活動を開始し卒業と同時にフリーランサーの照明となる。ライブ、演劇、ダンス、舞踏の現場で活躍し、90 年代後半からはクラブ、レイブシーン(SOLSTICE MUSIC FES.METAMORPHOSE 等)にも参加。 APHEX TWIN(SUMMER SONIC),ASIAN DUB FOUNDATION(FUJI ROCK) の オ ペ レ ー ト や FISHMANS、EGO-WRAPPIN'、clammbonn、SOIL&"PIMP"SESSIONS など多様なアーティストのツア ーに参加。 ミュージシャンと音楽とオーディエンスを繋ぐ照明デザイナーとして活動。https://twitter.com/bags_groove

 

ーまず、照明デザイナーになろうと思ったきっかけを教えてください。

大学1年の時に演劇をやっていたんです。出る側で…………。
仲の良かった友人が照明担当になり「今度、照明の人に付いて勉強させてもらうんだ」と言う話を聞き「面白そうだから一緒についていく!」と言う軽い気持ちで照明というものに触れる機会を得たんです。
もともと絵描きにもなりたかったので、照明の現場を見させてもらった際に「直線だけの表現ではあるけれど、3Dで空間全体を使って絵を描いているような感覚」に面白さを感じてしまったんですよね。

手伝っているうちに仕事が気に入られ、様々な現場に駆り出されるようになり、気がつくと大学2年生の頃には全国ツアーを廻るような状況になっていました。卒業と同時にそのまま“フリーランスの照明”になって、現在に至るまで続いている感じです。

ー当時はまだインターネットも普及していない時代。お仕事の依頼はどのように?

全部クチコミですよね。
20代は、いわゆる“人工仕事”という感じで、人の現場に駆り出されてのお手伝いも沢山しましたし、あるミュージシャンのライブ現場での僕の仕事を見て気に入ってくれた人が、「うちでもやってもらえませんか?」と、言うように……とにかく人との出逢いで仕事が成り立っていました。

そのうち「新しくプロデュースするバンドのライブの空間演出やプランニングを、立ち上げのところから関わってもらえないか?」というオファーが増え、他人の現場の手伝いを辞めて自分のプロジェクトのみに専念するようになっていきました。

 

プログラミングに縛られず 楽器のように照明卓を操作する!(2)

 

ーサカナクションからは、どういう経緯で声がかかったのですか?

10年ぐらい前かな? 彼らがメジャーデビューをするタイミングで「サカナクションのプロデューサーがクラブ・シーンとバンド・シーン、両方のテイストが解っている照明デザイナーを探している」という紹介を受けたんです。

ーなるほど。平山さんは2000年代前半あたりから数々のダンス・ミュージックシーンの現場を担当されていたので、適任だったと。

彼らと会って話してみると「クラブ・ミュージックをはじめとする四つ打ちやエレクトリック・ミュージックに興味がある」というので、色々と意気投合する要素が多かったんです。

ーサカナクション以外にも、そうした形で新しいバンドにデビューから関わるようなケースは多いのですか?

比較的、初めてツアーを組むタイミングで「照明を探さなければ!」という状況になる事が多いので、新人バンドのツアーに参加する事はこれまでにも多くありました。女王蜂のデビューライブだったり、挙げるとキリがないですが、ガッチリとタッグを組んでやらせてもらっているのはクラムボン、Ego-Wrappin‘、フィッシュマンズ、OGRE YOU ASSHOLL、SOIL & "PIMP" SESSIONSなど……他にも沢山います。​​​​​​​

ーいずれもアンダーグラウンド寄りのテイストも持ち合わせた本物志向のアーティストばかりですね。平山さんに照明を依頼される共通性が見える気がします。​​​​​​​

でも、最近の若手のバントを担当するときにはものすごくポップなものが多いですよ。そうしたシーンからも依頼が来るのは、サカナクションで照明をやっていることの影響が大きいのだと感じます。
サカナクションのライブって、照明や演出に凝っている部分が大きいので、それを観た人たちから惹かれるというのは、とても嬉しい。​​​​​​​

ー平山さんご自身は最初からフリーランスとしてお仕事をされているとのことですが、それは一般的なことなのですか?​​​​​​​

一般的には、舞台照明全般を請け負う会社があり、そこからスタッフとして現場に送り込まれます。以前は照明会社の社員でも、ある程度キャリアを積むと独立して自分で照明プロダクションを起業する人々を見てきましたが、最近は会社を飛び出す人たちも少なくなりました。ずっと会社に留まっている。「自分がやりたい事」よりも「安定」を優先してしまうんでしょうかね……。​​​​​​​

ーそうしたなか、サカナクションが音響や照明のスタッフの重要性をお客さんたちに紹介している事は、裏方業種界隈が変わるきっかけにもなっているのでは? とも感じるのですが。​​​​​​​

たしかにそういう事で言えば、最近、ライブ会場で専門学校生が「一緒にお仕事させてください」と自作の名刺を手に挨拶に来ることがあります。
あと、びっくりするのは「うちの息子が照明をやってみたいと言っているのですが……」と、母親がやってくるケースもありました。​​​​​​​

ー親が(笑)!?​​​​​​​

「あぁ、そうですか……頑張ってくださいね」としか言えないですよね。
何もしてあげられない(苦笑)。 怖くて……。​​​​​​​

 

プログラミングに縛られず 楽器のように照明卓を操作する!(3)

 

ー平山さんご自身は、ほぼ独学でここまできている。

様々な現場を経験するなかで、先輩方の仕事を観て1・2・3と押した操作手順を一度3・2・1と戻してから自分で1・2・3とやり直してみて、「あぁ、こうすれば出来るんだ!」みたいな感じでした。
今は専門学校のような場所で基礎から教えて貰える環境が揃っているんでしょうけれど、学校を出て現場に入って来ても、もう一度現場での勉強をやり直さなければならない子達も多いです。

ー音楽機材含め、照明も光源がLEDになって、機材のデジタル化は著しいわけですよね?​​​​​​​

今まで出来なかった事が出来るようになり、顕著に表現の幅が増えています。機材が軽量化されたり、有線だったものが無線になったり、動かなかったものが動くようになったという変化は大きい。
今まではフィルターを入れないと色を変えられなかったのが、LEDではボタン操作で自由に色を変える事が出来る。ただ、そうした利便性を優先することによって、簡単にいうと“プログラミングに縛られてしまう”。
生で演奏している音楽って、同じ曲でも毎回同じにはならず、演者の感情や観客のノリも含めてピークが変わってくるわけです。
照明の動きを予めプログラムして「ボタンを押して終わり!」というのがすごく嫌いだし、全然面白くないんですよね……。​​​​​​​
 

機材が乏しい現場ほど燃える 手元にあるもの以上のモノを作り出す!

機材が乏しい現場ほど燃える 手元にあるもの以上のモノを作り出す! (1)機材が乏しい現場ほど燃える 手元にあるもの以上のモノを作り出す! (2)

 

ーライブで照明さばきを近くで取材させて頂いたので、今言われている事の意味や重要性がとても理解できます。卓を触る手さばきが、まるで楽器を演奏しているような動きに見えました。ある意味、PAよりも操作するチャンネルは多い?

ライトは、増やそうと思えばいくらでも増やせてしまいますからね。​​​​​​​

ー会場の大きさにもよると思いますが、どのくらいのライトを使用されるんですか?​​​​​​​

今回のEXシアターの場合だと、500球ぐらいじゃないですかね?
ただ、その中には一つの球の中に赤、青、緑、白の各LEDが仕込まれてひとつになっているものもあったり、それが12連になっていたり……、さらにそれぞれが別の動きをするので、それを含めるとチャンネル数は膨大になってしまっています。自分が使いやすいモノであることも重要なので、毎回会場に機材を持ち込んで対応しています。​​​​​​​

ーライブでの曲毎の照明演出は、どのように決めているのですか?​​​​​​​

「この曲ではこんな演出」「この曲のイメージに合うのはこんな感じ」と、イメージを予め作った上で、メンバーに提案します。ただ、曲毎に使うライトが変わってくるし、その一曲にしか使わないライトというものも少なくないんです。
そこで、「最大限やらせて貰えるならば、この程度。ある程度絞ってまとめるならこの程度」という、最大公約数と最小公倍数の間で使用する機材の数を決めていきます。​​​​​​​

ーその規模の照明となると、予算も相当かかるのでは?​​​​​​​

「予算がないので照明にあまり予算をかけられないのですが……」というオファーのされ方をする事もありますし、「10個しかライトが使えない現場でも、カッコいい照明にしますよ!」というのが僕の仕事のウリのひとつだったりするわけです。
そりゃスポットを1000個使える会場であれば、やりたい事をそこそこ不自由なく出来るし、誰がやったってそれなりに仕上がるのは当たり前。機材が乏しい所で、手元にあるもの以上のモノを作り出せるほうが、個性が出ると思うんです。僕自身、そういう現場の方がある意味燃えますしね……。​​​​​​​

穿った見方をすれば、最新の機材を使えば、そりゃいい仕事に見えますよ。
自分もよくそういう捉え方をされる事がありますが……。
大事なことは、その最新機材をどう工夫して使うのか? どう良い意味で期待を裏切るのか? そうした空間演出全体の域で照明をコントロール出来るか? という力だと思うんですよね……。​​​​​​​

 

機材が乏しい現場ほど燃える 手元にあるもの以上のモノを作り出す! (3)

 

ー平山さんの照明演出は、影や闇が印象的です。「絵描きになりたかった」というだけあって、闇という黒いキャンバスに光という色を当ててゆく、その光の強さの調整や、配色、発光させるタイミングの全てが絶妙なさじ加減なんだろうな……と。

そういう風に見てもらえているのは嬉しいですね。​​​​​​​

ーこれは特に、自分のフォトグラファーとしての興味なのですが、LEDの光源をどのようにお考えですか?

正直言って好きではないですね。すごく便利なのは確かです。上手に使えば様々な事が出来るのですが、艶やかさに欠けるというか、ペタっとした色味で味気ないというか……。
ただ、LEDの利点としては消費電力が少なくて済むし、軽くて小さくなったことは大きい。

一時期、ライブ収録が入るような現場ではLEDの使用を控えたりする事もありましたが、考え過ぎちゃうと演出が成立しなくなってしまう。
照明のLED化がスタンダードな状況に変わって来ているなか、最近は会場のお客様が喜んでくれる方法を最優先で、という考え方に切り替えてやっています。

ー体感的には気がつかない差異ではありますが、会場内で一番最初にお客さんに届く刺激は音ではなく光ですよね。大きな会場で、音と光のタイミングがズレてしまうような事は?

今回のEXシアター程度の規模ではなんの問題もないですし、基本的には演出上影響の出るようなレベルではないと思います。
僕は照明演出をする際ヘッドホンでメンバーのイヤモニ同様に「クリック音」を聴いているので、そのクリックのタイミングに合わせて、照明を操作している時もある。ただ、クリックに合わせて照明を操作していると、ものすごく大きな会場の場合、確かにおっしゃるように他の演出担当部署のどこよりも早く照明が点いてしまう事があるんです。
ただでさえ音よりも光の方が早いのに、クリックに合わせてスイッチングしてしまうと演出と音がズレてしまうので、大きな会場ではヘッドホンをせずに会場のサウンドを頼りに操作する工夫が必要になる場合もあります。​​​​​​​​​​​​​​

 

週末2日間のLIVEのために、7日前から会場を借りて作業とリハーサル

週末2日間のLIVEのために、7日前から会場を借りて作業とリハーサル(1)

 

ー「チームサカナクション」と呼ばれるようになって、何か変化を実感することはありますか?

​​​​​​​本番中にものすごく観られている感がありますね。
会場だけでなく、三作前に出したDVDの編集では、照明が切り替わる場面で、僕の手元の映像がワイプで挿入されていたり、PAがフェーダーやツマミを操作している映像を映しながら、画面の音が変わって行く様を見せていたり……。そうしたことにも意識が向くお客さん達が増えつつあるのを実感しています。

ーそれってシーンにとってもすごく良い効果ですよね。PAや照明に限らず、どんどん見せていったほうが、日本の音楽業界のレベルアップや成熟に繋がっていくと思います。​​​​​​​

ですね。僕もそれは悪いことではないな!と思っています。
それによってお客さんの目や耳が肥えるというよりは、音楽に対する見方や感じ方が変わってくるのではないかなと思うので。​​​​​​​

ー例えば、原作や出演者、監督以外のスタッフに注目して映画を観にいく人って少数だと思いますが、映画の良し悪しを最終的に決定づけている要因って、実は撮影監督の撮り方や編集といった、職人の力にあったりするわけですよね。「チームサカナクション」の見せ方って、ソレに近い感覚のような気がしますね。​​​​​​​

以前、ライブのMCで山口一郎が「PAを佐々木さんがやっているから。とか、平山さんが照明を担当しているバンドのライブであれば、ちょっと面白いんじゃないかな? というのが、ライブを観に行くきっかけになってくれたら楽しいね!」というようなことを言ってくれたことがあって……。​​​​​​​

ーそれは責任重大ですね!!​​​​​​​

全ての現場にプレッシャーがかかって来ます……(苦笑)。
別に手を抜いている現場があるわけではなく、常に全力でやっていますし「若いバンドだからコレ位でいいや……」みたいな事は絶対にしません。でも、ますます仕事に磨きをかけなければいけない状況には立たされた感じですね。​​​​​​​

ーあれだけ大規模な照明演出は、どこまでリハーサルしたり、それ以前にアーティスト達に演出構成の仕上がりを事前に伝えたりしているんですか?

最近はいくらか便利な時代になって、3Dのシュミレーションソフトに自分のセットアップした照明プランを流し込むと、何となく雰囲気を確認する事は出来ます。​​​​​​​

ーシミュレーションをアーティストと共有しながらの確認作業を?​​​​​​​

いや、それはしないです。あくまでも画面上だけのものなので、それをアーティストに見せるのは意味がないと思っています。
これはサカナクションだから出来ることと言うか、特別な環境である事は間違いないんですが、今回のEXシアター公演では、事前に一度別の会場で映像と照明をフルセットで組んで技術的なリハーサルを2日間行っています。
また、昨年の幕張メッセでのライブでは、週末2日間のLIVEのために7日前から会場を借りて作業とリハーサルに充てていました。
通常、そこまでってのはありえないことなので、サカナクションがいかにライブでの音響や演出に注力しているのか?が、解って頂けるとのではないかと思います。​​​​​​​

ーでは最後に、サカナクションの照明をするなかで、自分の一番の自信作というか、お気に入りの一曲があれば教えてください。​​​​​​​

究極な話になってしまうんですけれど、僕は「壁」という曲でやらせてもらった演出が一番印象的で気に入っていて、「自殺」をテーマに唄ったこの曲の世界観を表せたと感じているんです。​​​​​​​
​​​​​​​


メンバーに「この曲は暗転でやりたいです」とプレゼンして、「真っ暗でやりたい」という突飛な提案を彼らが呑んでくれた。
前の曲が終わる頃になると、PAブースのメモリや電球など光を少しでも発している機材に黒いテープが貼られ始めるんです。
会場内を完全に暗くするために、一切の光源を遮断して本当の暗闇を会場に作った。僕らの作業の手元も暗くする必要があるので、皆機材を布で覆ったり……。

ースゲぇ!照明を担当している人が一番の仕事に「暗転演出」をチョイスって……。哲学的美学を感じます!

この方法が一番、曲のメッセージをお客さんに伝えられると思ったんですよね。

ーそんな平山さんにとって「照明」とは何でしょう?​​​​​​​

演奏しているミュージシャンと音楽を聴いているお客さんを繋げる“接着剤”ですかね!? 出ている音と演奏している姿を繋げる為のモノ……。
もちろん、照明演出としての個性を出すために我を張る部分もあるけれど、それ以外の所では、ライブ空間のあらゆるモノを繋ぎ合わせる役割なんだと思っています。​​​​​​​

 

週末2日間のLIVEのために、7日前から会場を借りて作業とリハーサル(2)

 


<Profile>

平山和裕(BAGS GROOVE/Lighting Director)
https://twitter.com/bags_groove
 

 

Text & Photo : KOTARO MANABE

 

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