辺境ジャズ【知られざるワールドミュージックの世界】


ブームとまで言っていいのかわからないが、ここ数年改めてジャズが活性化している。一昔前まではジャズというと、煙が立ち込めるジャズ喫茶でしかめっ面をしながら聴くようなイメージが強かったが、新世代のジャズ・ミュージシャンはR&Bやヒップホップなどとも密に交わりながらユニークなシーンを作り上げている。

こういったジャズの新しい流れと付かず離れず、各国ではジャズ・ミュージシャンが独自路線を突き進んでいることもまた事実。もともとジャズというジャンル自体、近年に限らずいろんな音楽を取り入れながら進化してきたわけだし、欧米以外からも優秀なジャズ・ミュージシャンが登場している。ここではそんな数多のジャズの中から、地域色の強い音楽を紹介していこう。

中東、南米、アフリカ、北欧……独特のリズムを取り入れた各地のジャズ・シーン


まずはレバノン出身のトランペット奏者、イブラヒム・マーロフから。フランスで本格的クラシックを学んだ正統派ではあるが、父親が開発したという微分音の出る楽器を用いて独特のニュアンスを醸し出すのが特徴。アラブ音楽特有のコブシ回しをトランペットで表現できる世界で唯一の存在として脚光を浴びている。エキゾチックでクールな演奏はとにかくかっこいい!

Ibrahim Maalouf

 

南米ウルグアイには、黒人からの影響が色濃いカンドンベという独特のリズムがあるのだが、そのリズムを絶妙にジャズやフュージョンに取り入れて世界的に認められたのが、シンガー・ソングライターでありキーボード奏者でもあるウーゴ・ファットルーソ。彼は多数のプロジェクトを抱えた売れっ子だが、カンドンベに特化したレイ・タンボールはもっともウルグアイ的。細かく刻むリズムと歌と即興演奏のミックスがユニークだ。

Hugo Fattoruso y Rey Tambor

 

コアな音楽ファンなら、アフリカのエチオピアで生まれたエチオ・ジャズはおなじみだろう。アフリカとジャズがミックスされたサウンドと、まるで演歌のような節回しはとにかくインパクトが強い。そのエチオ・ジャズのレジェンドが、ヴィブラフォン奏者のムラトゥ・アスタトゥケだ。哀愁を帯びたエチオピア特有のメロディを、ラテン・ジャズ風のサウンドに乗せて、独特の雰囲気を作り出していく様子は、初めて聴いてもどこか懐かしさを感じさせる。

Mulatu Astatke

 

北欧はもともとヨーロピアン・ジャズの聖地的な場所ではあるが、デンマークの離れ小島であるフェロー諸島にもジャズ・シーンがあるというと少し驚くだろう。ピアニストのクリスティアン・ブラックが率いるユグドラシルは、現地のトラッド音楽とジャズを融合しながら活動を行っている。ヴァイオリンやサックスを交えた演奏は、北欧らしい透明感に満ちていて辺境というイメージは薄いが、それでも他では聴けないジャズであることは確かだ。

Kristian Blak & Yggdrasil

 

アフリカン×アジアン、イタリア×アルバニア、フランス×ミャンマー ボーダレスに混ざり合うジャズの音色


「コンドルは飛んでいく」に代表されるアンデス音楽は日本でもおなじみだが、これをジャズにするというイメージはあまりないだろう。南米ボリビアで活動するボリビアン・ジャズは、まさに民謡とジャズの合体がコンセプト。シーク(サンポーニャともいう)という竹笛ならではの牧歌的な音色と、もったりとしたジャズの演奏のミックスは、非常に辺境度が高い。最先端とは無縁のジャズ・サウンドを楽しんでもらいたい。

Bolivian Jazz

 

アフリカ南東沖に浮かぶ大きな島マダガスカル。バオバブやキツネザルといった自然の宝庫だが、実は東南アジアから渡ってきた民族がいるなど、文化的にもユニークな場所。ここで発達したジャズも、やはりアフリカンにアジアンテイストが盛り込まれているような印象だ。このマダジャズというグループは、民族楽器を用いるだけでなく、ダンサーを交えてステージを行うなど、なんとも不思議な音楽を聞かせてくれる。

Le groupe MadaJazz

 

イタリアのロベルト・ビシャは、現代音楽やアヴァンギャルド・ジャズを得意とするピアニスト。彼は様々なプロジェクトを行っているが、この動画はアルバニアの同音多声合唱といわれる独特の男声コーラスと共演したもの。荘厳な雰囲気と才気溢れる演奏のミックスはなんとも不思議だ。少し短いので物足りないが、エキゾチックな音楽の片鱗は感じられるだろう。

Robert Bisha & Albanian Iso-Polyphonic Choir

 

最後はフランスの先鋭的なトランペット奏者エリック・トラファズ率いる四重奏団が、ミャンマーの楽団と共演したもの。アジアとヨーロッパの邂逅というと聞こえはいいが、お互い探りながらの演奏といった印象だ。はっきりいって合っているのかどうかもよくわからないが、この噛み合わないヘンテコな感じこそ辺境ジャズの醍醐味といってもいいかもしれない。そして、聴いているうちに心地よくなってくるから面白い。

Erik Truffaz Quartet & Hein Tint Hsiang Waing

 

どんどんボーダレス化が進む昨今、民族色の強いジャズはまだまだ出てくるだろう。こういう有象無象の状態から、ずば抜けた才能のスターが生まれてくることを期待したい。

 

Text:風 奏陽
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣


関連リンク(mysoundサイトへ)

イブラヒム・マーロフ
ムラトゥ・アスタトゥケ

 

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