日々是鍛錬 ~私の練習遍歴:押尾コータロー編~


実力のあるミュージシャンたちに“楽器練習”テーマに語ってもらう連載、日々是鍛錬。今回のゲストは、ギター演奏家の押尾コータローだ。口ずさみたくなるようなポップなメロディから、超絶技巧なパーカッシブ・サウンドまで、変幻自在なギター・インストゥルメンタルを生み出す演奏家の押尾は、今でも一日数時間のギター練習を欠かさない。そんな彼に独自の演奏技術を培うに至ったさまざまな練習方法から、現在やっているトレーニングまでを詳しく聞いた。それに加えて取材時に押尾奏法の練習法を披露した必見の動画も収録。映像と合わせて記事を読み進めてほしい。

「ベースのスラップが好きでラリー・グラハムみたいな、ああいうイナタイ感じが好みでした」


ー押尾さんが最初にギターを持ったきっかけは何でしたか?

中学校2年生のときに友達が弾いているのを見て、“カッコイイな”と思ったのがきっかけでしたね。そのときはフォーク・ソングをやっていました。

ーでは、最初からアコースティック・ギターだった?

そうですね。歌本を見ながら弾いていて、高校生になる頃にはロックバンドがやりたくなって、エレキ・ギターを持っていました。でも本格的にバンドをやるようになったのは20歳くらいのときで、そのときはギターをやりたかったけど、メンバーが足りなくて、ベースに回ったんです。

ー楽器を替えるのは、なかなか勇気がいることだと思います。

それよりもとにかくバンドがやりたかったんです。ベースが弾ける人を探すよりも、ギターを探すほうが早いだろっていうね。ぜんぜん弾けなかったけど、ベースのスラップが好きでラリー・グラハムみたいな、ああいうイナタイ感じが好みでした。ピックで弾くよりもパーカッシブに弾いていましたね。

ーなるほど、スラップの奏法スタイルは、今の押尾さんのギター奏法にも生かされているんですね。

そうなんです。

 

「ベースのスラップが好きでラリー・グラハムみたいな、ああいうイナタイ感じが好みでした」(1)

 

ー一番ギターを練習していたのはいつ頃?

うーん、僕はいつでも練習しているからなぁ……。その時期ごとにいろんな練習をずっとしています。

ーギターをはじめた頃は、どういう練習をしていましたか?

最初はコードを覚えることですよね。例えば、EマイナーからAマイナーへのコード・チェンジが難しかったことを覚えています。ギターをはじめた頃ってスムーズにポジションを移動できないし、ワン・ツー・スリー・フォーのタイミングでサッとコードを変えられないじゃないですか。力まかせに弦を押さえていたら、友達に「そんなに力んだら次のコードに移動できないよ」って言われて、そうかといって、今度は力を抜いたらちゃんと音が出なかったりして……そういう力加減を掴むのに時間がかかりましたね。コードチェンジを練習をするうちに。4拍目のときに一度左手を弦から離してから次のコードを押さえると、それっぽくも聞こえるし、楽だということに気がついたり。

ーそれ、分かりますね。​​​​​​​

そうやって左手が楽できると、今度は右手のほうに意識がいくじゃないですか。そうしたら今度は右手のストロークのバリエーションを増やすような練習をしていました。​​​​​​​

 

「誰でもそういう才能があって、毎日続けられるかどうかってこと」


ー押尾さんは中川イサトさんに師事するようになりますが、それよりも前に好きだったギタリストって誰でしたか?

ギターで言うと長渕剛さんですね。歌もスゴイんですが、ギターと歌のバランス感に影響を受けました。フォーク・ソングで使われる奏法を網羅していて、例えばカントリーのバンジョーなんかで使われる3フィンガーの高速アルペジオを歌いながらやられていたりもして。あと、開放弦の使い方も巧みだし、ピックを持ったストロークでも右手でボディを叩いたり、空ピックを使ったり、あとは人差し指で弦をはじいたりと……かなり多彩な奏法があってそういったところに憧れていました。​​​​​​​

ー若い頃からそういった、ギターのテクニックに魅力を感じていたんですね。​​​​​​​

そうですね。最初は長渕さんの音楽に憧れていたんですが、それと同時にギターの音がすごく綺麗だなと思うようになって、ギターだけの音楽もいいなって思うようになっていきました。​​​​​​​

ーギター・インストゥルメンタルの世界へ入っていったのは、どんな経緯でしたか?​​​​​​​

中川イサトさんはもちろん、あとはマイケル・ヘッジスの影響が大きかったです。彼から派生した海外のインスト系ギタリストたちを聞くようになりましたね。​​​​​​​

ーマイケル・ヘッジスのように弾くとなると、相当の技術が必要になりますが、先ほどの初歩的な練習に続いては、どんなトレーニングを行ったのですか?​​​​​​​

ピックでアルペジオを弾く練習はけっこうやりましたね。アルペジオとストロークを一緒にやりたい曲があっていちいちピックを置いたりするのは難しいので、6弦→3弦→2弦→3弦とか、1弦→3弦→2弦→3弦というモーションをダウンピッキングで弾けるようにしたりとか、けっこう難しいんですけど、アルペジオからストロークへチャカチャカってつなげられると、やっぱりカッコイイんですよ。​​​​​​​

 

「誰でもそういう才能があって、毎日続けられるかどうかってこと」(1)

 

ー一日の練習量はどれくらいですか?

僕は容赦ないですねぇ(笑)。弾き始めると5~6時間とか、ずっと。レコーディングのときもスタジオに入りっぱなしになっちゃいますから。​​​​​​​

ーギターをはじめた頃からずっとですか?​​​​​​​

そうですね。今でもそれくらい弾いてます。やっぱり弾けるようになると、楽しくなってくるんですよ。​​​​​​​

ー確かにそれはありますよね。特に技術力が必要な演奏は、しっかりと練習しないと弾けないですから。​​​​​​​

ええ、身体に覚え込ませるというか。でも、練習すれば絶対にできるんですよ。そこにアマチュアだからとか、プロだからどうっていうものはなくて、続けるということなんです。よく、あの人にはそういう才能があったからなんて言いますが、そういうことではなくて。誰でもそういう才能があって、毎日続けられるかどうかってことなんです。​​​​​​​

それって、言葉と同じで、日本語だったら自由に話せるけど、海外の言語を習得するとなったら、毎日やらないとしゃべるようにはならないじゃないですか。ギターもそれと同じだと思うんです。練習の積み重ねで絶対弾けるようになりますから。​​​​​​​

 

ストロークが主体なギターインストが“押尾奏法”なのかなと、自分でも分かり始めた

ストロークが主体なギターインストが“押尾奏法”なのかなと、自分でも分かり始めた(1)

 

ー押尾さんがこれまでギターを練習してきたなかで、習得に時間がかかったテクニックは何でしたか?

タッピング・ハーモニクスですね。もっともベーシックなやり方だと、人差し指をバーのようにして12フレット付近をパンって叩くのですが、叩き方が悪いと“パーン”っていう綺麗な倍音が鳴らなくて、ただ“バチッ!”っていう音だけになってしまう。その力加減を体得するのが難しかったですね。そこから発展すると、例えば開放弦が多いGのコードだと12フレットあたりを叩きますが、Aのコードだと4弦~2弦が2フレットを押弦しているから、14フレット付近を叩くといい感じに鳴ります。つまり、常に左手の押弦ポイントからの12フレットの距離を保つということなのですが、その感覚を掴むための練習もけっこうやりました。で、それができたら今度は19フレット付近にも違うハーモニクスが出るポイントがあって、これらを組み合わせるとなかなか良いサウンドが得られるんですよね。​​​​​​​

 

演奏動画①「タッピング・ハーモニクス」


ーそのあたりは押尾さんがギターインストを指向するようになってからの技術になると思うのですが、ご自身のプレイ・スタイルが出来上がってきたと感じるようになったのはいつ頃でしたか?

3枚目のアルバム『Be HAPPY』を出した頃なので、2004年くらいですね。わりとストロークが主体なギターインストが“押尾奏法”なのかなと、自分でも分かり始めたんですよ。ギターインストってフィンガーピッキングでベース音とメロディを鳴らして弾くというカントリーのスタイルが多かったりしますが、よくまわりの人からも“押尾君ってけっこうジャカジャカやりながら曲を作るんだね”って言われて。それで“あ、たしかにそうかも”って思うようになった。それが定着していきました。

 

「僕の奏法の左手はそんなに難しくない」


ーそういった押尾さんならではの奏法を確立するうえでは、どんな練習を重ねたのですか?

ジャカジャカっていうのはつまり、解放弦を鳴らしながら弾くということなんですが、例えばノーマル・チューニングで5弦の7フレットと3弦の9フレットを押さえて4弦はミュートして、6弦、2弦、1弦は開放を鳴らすと、ジャラーンっていうEのブリリアントな響きがします。このポジションを押さえたまま、左手を5弦9フレット、3弦11フレット、残りの3本の弦(6弦、2弦、1弦)は開放を鳴らしながら、ジャカジャカと平行移動させてながら弾くと、メロディを動かしながらも少し民族っぽいテイストも出る。これをいろんなパターンで研究しましたね。僕はこの1弦と2弦の開放を鳴らしながら、弾くことが多いんです。例えばEのコードを5弦と4弦2フレットと3弦の1フレットを押さえたまま、そのまま2フレットぶんポジションを上にズラすと、コードはF♯になるけど開放弦が混ざることで少し不思議な響きになって、そのままもう1フレットズラすとGになって……理論的に言うと分数コードになるのですが、どの響きが気持ち良いかを探ったりしていました。音楽の理論が分からなくてもいい響きかどうか、すぐに分かります。これは濁って汚いけど、こっちはすごく魅力的な響きがするとか。だから、僕の奏法の左手はそんなに難しくないんですよね。

ーそこに押尾さんならではの右手のさまざまなコンビネーションが加わっていくという。

そうです。まずはパームといって右手の掌でボディを叩いたり、それとスネアという右手の指で指板をポンって叩きパーカッションっぽい音を出すやり方があります。スネアはいけますが、パームはピックを持ったままだと難しいので、押尾ワールドに浸るならまずはピックを置いていただき、爪を補強してもらうと、より楽しんでもらえると思います(笑)。そこにタッピングハーモニクスを加えることで、それっぽく聞こえるようになります。

 

演奏動画②「ピッキング」


どのピッキングの組み合わせが一番理に適っているか


ー新作『Encounter』のテクニック面でこだわったポイントはありますか?

「Harmonia」っていう曲はもともと朴葵姫さんのために書いた曲で、レニー・ブロウっていうギタリストなんかがよくやるハーモニクスと実音をまぜて出す奏法があるんです。これは右手の人差し指で6弦の12フレットに触れて、親指でピッキングして、薬指で4弦の開放を鳴らし、これを5弦&3弦、4弦&2弦、3弦&1弦と弾いていく……そうするとハープみたいな音が得られるんですが、これが案外難しくて。もともと僕が自分で演奏するつもりがなくて書いた曲だったから、やってみたらなかなか音量のつぶを揃えるのが大変だぞって……(笑)。で、いろいろ試してみたら開放弦を薬指よりも中指で弾いたようが音量を出しやすいことに気がついたり。

 

演奏動画③「ハーモニクス+実音のコンビネーション」


ー押尾さんはこれまですでに、さまざまなテクニックを披露しているのに、まだまだ学ぶことがたくさんあるのですね。

そうなんですよ。今体得したいと思っているのは、フラメンコギターの奏法ですね。それっぽい感じはすぐに出せるんですけど、リズムパターンの種類とか歌モノのバックとインストのときの奏法の違いもあるし、そもそも4拍子では捉えないリズムだったりと、奥が深くてまだ触りくらいしか学べていません。あとは若いプレイヤーだとループを駆使していろんな表現をしているじゃないですか? ああいったやり方にも憧れがありますね。でも、僕はけっこうステージ上で動いちゃうから、然るべきタイミングでフットスイッチを踏みそこねるような気がしていて……(笑)。

ー最近はどのような練習をやっているのですか?

最近だとアーネスト・ケーラーっていう方のフルートの教則本をギターで弾いていますね。クラシックの人が教材としてやるものなんですが、音域的にもフルートのために書かれていて、ギターでやるとすごく難しい。でも、良い運指練習になるし、あとは曲がとても良いので弾きたくなるんですよ。これまでにもいろんな楽器の練習用の教材をギターでやっていて、例えばヴァイオリンだと弓のマークとかが、ギタリスト的には見にくかったりもするんです。その点、この本はすごく譜面が見やすいんですよね。

ー確かに単音楽器をギターで弾くのは難しいですよね。

同時にたくさんの音が鳴ることはないので、まずミュートが必須ですよね。それに加えて僕は指で弾いているので、どういうローテーションでピッキングするか……これに関してはまだ今も開発している段階で、僕は人差し指のダウン&アップをするときもあるし、親指~人差し指~中指で弾くこともある。どのピッキングの組み合わせが一番理に適っているかというね。

ー尽きることはなさそうですね。押尾さんにとっての演奏テクニックとはどういうものですか?

さっき言ったこととも被るのですが、例えば“好きだよ”っていう言葉にもいろんな言い方や単語があって、このタイミングでこういう言い方のがよかったなぁとか、違ういい回しのがいいなって思うことがあるのと同じで、音楽にもたくさんの表現があって、僕はそれを知っておきたいから練習をしているんですよね。もちろん“俺はお前が好きだ~!”っていう表現しかしないって人もいますが、この記事を最後まで読んでくれている人は、いろんな表現の仕方を知りたいタイプの方だと思っていて。で、そういう人に知っておいて欲しいのは、いろんな音楽の表現方法のなかから、自分にあったものをチョイスすればいいということなんですね。それに今はいろんな教材があって、自分に合った練習方法がのっている教材と必ず出会えると思うから、そういう教材探しも面白いと思います。

 

どのピッキングの組み合わせが一番理に適っているか​​​​​​​​​​​​​​

 


【Profile】

押尾コータロー

アコースティックギタリスト。

2002年メジャーデビューし、同年10月全米メジャーデビューを果たす。
また、スイスの「モントルージャズフェスティバル」へは2002年から3年連続出演。
近年ではアジア各地での活動も拡げ、韓国や中国でのソロライブを開催するなど海外での評価も高い。
オープンチューニングやタッピング奏法などのテクニックを駆使し、1本のギターで弾いているとは思えない鮮やかで迫力あるギターアレンジや、あたたかく繊細なギタープレイは世代を超えて多くの人々に支持を受けている。

ラジオではMBSでレギュラー番組「押尾コータローの押しても弾いても」が放送中。

ソロアーティストとして全国ツアーなどのライブ活動を中心に、映画音楽、番組テーマ曲、CM音楽などの作曲も手掛けるなど幅広いスタンスで活躍中。

2019年2月20日にメジャー通算15枚目となるフルオリジナルアルバム『Encounter』をリリースし、3月8日NHK大阪ホールを皮切りに押尾コータローコンサートツアー2019“Encounter”と題した全国ツアーを開催中。

http://www.kotaro-oshio.com/

<押尾コータローのテクニックポイント講座開講中!>
押尾ナンバーで特に人気の高い楽曲、押尾奏法の代名詞となったあの名曲を厳選セレクト!
各楽曲の「ここが知りたい!」を取り上げ、本人自らが解説する究極のテクニックポイント講座!

http://sonicacademy.jp/mm/online/oshio-tech-point/

 

【New Release】
押尾コータロー『Encounter』
2019.02.20 Release

Encounter

mysoundで試聴

 

Text&Movie:伊藤 大輔
Photo:堀田 芳香

 


ミュージシャンたちが現在のスキルを培うまでの“楽器練習”テーマに語ってもらう連載!
「日々是鍛錬」シリーズ一覧へ