変拍子で独自の世界観を切り拓く・空間現代×坂本龍一 初のコラボレーション『ZURERU』ができるまで


結成から10 余年。東京から京都へと拠点を移し、自らが運営するスタジオ「外」を中心に、芝居やさまざまなジャンルとの共演など意欲的な音楽活動が注目されるバンド・空間現代。
昨年11月には、ニューヨークを拠点に活躍するアーティスト・坂本龍一との初めてのコラボレーションLP『ZURERU』の発表を果たし、さらなる新境地を切り拓いています。
坂本龍一は、そんな彼らの魅力を
 「非常にユニークな音楽性で、ほかに似たようなことをやっているアーティストを知りません。同時期にぼくが試みていた『async』にも重なる部分があったので、とても興味をそそられました。どうやって、あのような音楽をやろうというレベルにたどり着いたのか、知りたいと思いました」
と、話します。互いのリスペクトがあってこそ実現した『ZURERU』が生まれるまでのストーリーを、今春、オリジナルアルバムの発表を控える空間現代に伺いました。

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ(1)

写真左から、空間現代の古谷野慶輔(Bass)、山田英晶(Drums)、野口順哉(Guitar, Vocal)。スリーピースバンドの形態から生まれるアナログのリズムを編集・再構築した楽曲群をライブパフォーマンスとして展開する。

 

古谷野:今回『ZURERU』をつくる前に、坂本さんが2017年に発表した『async』というアルバムに入っているリミックスを空間現代でつくったことがあるんです。『ZURE』という曲なんですけど、その時の依頼内容が、”『async』を聴いてバンドでリミックスを”というものと、"原曲の音を生かしてほしい"というものでした。だから、まず『ZURE』の原曲を聴いて、それに対してまた別の曲を3人で作って、そのリミックス版をラップトップ上で編集して、自分たちの演奏している曲と坂本さんの原曲を混ぜるという方法で完成させました。

2017年に発表した坂本龍一によるオリジナルアルバム『async』(公式サイトにて毎日1作品ずつ公開されていた収録曲の映像を全楽曲分まとめた映像)。“非同期な音楽を作る”というテーマのもと、数多くのデジタル機材を撤廃し、アナログ機材を中心とした環境で制作された。また、同年12月に発表した『ASYNC - REMODELS』(https://www.skmtcommmons.com/remodels/)は、空間現代がリミックスとして参加した、『async』のリミックスアルバム。

 

古谷野:その翌年、坂本さんと仕事を一緒にする機会があって、坂本さんとセッションしたんです。坂本さんの『ZURE』に対して空間現代がつくった曲を演奏したんですけど、その演奏に坂本さんが即興で音を乗せていったんです。ぼくたちは、断片的なリズムで“隙間”の多い曲をつくっているんですけど、その隙間に、坂本さんの音が絶妙に重なり合っていくような演奏でした。

 

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ(2)

 

—その“きっかけ”が、1枚のレコードに?

古谷野:『ZURERU』を発表することになったのって、坂本さんが京都にある「外」というぼくたちのスタジオに立ち寄ってくれた時に、セッションの音源を「自由に使ってもらっていいよ」と提案してくれたからなんです。

 

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ(3)

 

野口:その音源を自分たちで出したいと思っていることを話したら、もちろん全然使ってくれて構わないって言ってくださって。その時、どういうものにするか制作する媒体までは考えられなかったんですけど、坂本さんから「レコードいいよねぇ」って提案してくださったんで、「じゃあ、レコードにしますっ!」と、お話ししたんですよね。

古谷野:「あれ良かったから出そうよ!」みたいな、自然な流れですね。

—坂本さんが“彼らの音楽を知りたい!”と、空間現代の音楽に素直に魅了されていることを伺いました。

古谷野:同期することと、そこから外れるということが、音楽のなかにはあると思うんです。自分たちは、ギター、ベース、ドラムのスリーピースで同じ音を出すということをやってきているんですけど、同期しているなかにも“外れる瞬間”がやっぱりあるんです。それが、「良い外れ方と、そうじゃない外れ方があるよね」って、楽譜ではない正解がどこかにあるんじゃないかと思いながらずっと曲作りをやってきて、きっと坂本さんはそういうところに反応してくれたんじゃないかと思っています。

野口:まず、僕たちは、楽譜を書けないし、読めないので、音楽の出発地点が坂本さんとは違うと思うんです。僕たちの音楽は、整頓されないっていうか、整頓できないっていうか、音楽の作り方を振り返ると、そういうところを仰っているのかなあと思います。

 

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ(4)

 

—空間現代の楽曲を聴いていると、良い感じでリズムがズレていく感じがするんです。楽曲は、どうやって制作しているのでしょうか?

野口:まず、手がかりというか、お題を挙げて話し合うところから始めるんです。たとえば、「空白が多い曲にしよう」とか、「陽気な曲にしよう」とか、キーワードを1つ挙げて、それに対して音を出してみるというのが作り方で、それでできたフレーズを曲としてどう展開させていくかを考えます。

 

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ(5)

 

古谷野:「こういうリズムを作ろう」って机を叩いて始めることもありますし、最近は3人で音を出すところから始めるんですけど、このドラムのこの響きがおもしろいから、このドラムの音に対してギターとベースでどう反応するのかっていうのをドラムだけずっと叩いていたり……。そうやって“良い素材”だと思えるフレーズが1つできあがったら、今度はそれをどうやって曲にするか、音を切り貼りしていくようなところがあります。

 

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ(6)

 

野口:1つフレーズができたけど、それがずっと繰り返されたら飽きてきたり、だから途中でそのフレーズが短くなって、でもまたもとに戻って……っていうのを1度試してみるんです。1つできたフレーズに対して、「どう編集を加えたら楽しくなるのかな?」っていう感覚で曲に向き合うのがぼくたちのやり方です。

—実際の演奏でフレーズを重ねていって、1曲が完成するんですね。

野口:実際に3人でフレーズを演奏して、録音したものを3人でもう1回聴きながら、「ここはカット、音数が多いからシンプルに」っていう意見を出して、音数が多いなら抜いてみようっていうのをやってみるんです。このドラムのハイハットを抜いて、ここのベースを抜いて、ここのギターを抜いて……、「でも、ここは残して!」ってなると、音のカタチがちょっとずつ変わってくるじゃないですか。それをそのまま反復させるのか、また途中で音のカタチを変えさせるのかっていうのを、録音した音源を聴きながら調整していく。

 

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ(6)

 

—音数を減らすというのは、リズムを変えるということ?

古谷野:そうですね、リズムが変わったように聞こえます。たとえば、ドンドンドンドンっていう4拍子のリズムの真ん中だけ引いてみようみたいな。そうすると、プレイヤーはちゃんと数えているけど、聴き手の聴感としては、「ドンッドンドン」に聴こえるんですよね。だから、ドラムもわざと空振りしているんです。

山田:実際に空振りしないとそういうリズムに聴こえないし、まず、プレイできないです。必死に練習して演奏できるようになっても、途中で「ここの一音だけ抜いてくれ」って言われると、空振りしちゃったほうが早いんです。空振りしたほうが、“音を抜く”ということに忠実だから。実際、リズムのカウントをサボったりすると音が変わるんですよ。それなら、空振りしたほうがいいなって思うんです。そんな空白の中でも、ただの空白なのか、空振りが入っているのかっていうので、曲の質が違うんです。やっているほうも違うし、それを聴いてる方にもきっと伝わるんじゃないかっていう感覚はあります。

—空間現代の音楽は本当にユニークだと思いますが、今回の『ZURERU』は、音に丸みがあるというか、いつもの空間現代とは違う印象を受けました。

古谷野:もともと曲の作り方自体、坂本さんの『ZURE』に音の個性をぶつけるというよりかは、「どっちがどっちの演奏か、わからない状態につくる」ということを考えながらリミックスをしたところがありました。そういう意味では、3人ともいつもより演奏がアグレッシブじゃないと思うんです。

山田:坂本さんの『ZURE』をリミックスの時に使うという前提があったから、普段の空間現代の質感だとソリッドすぎて、坂本さんの曲とうまく交わらない気がしたんです。だから、坂本さんの『ZURE』と同じような質感みたいなものを考えながらつくりました。

古谷野:あと、今回の録音とミックスは、レコーディング・エンジニアのオノ セイゲンさんにしていただいたんですけど、、これまでの自分たちの録音とはだいぶ違う音の膨らみや空気感があって、それも良く作用していると思うんです。もちろん、スタジオ自体のこともあると思うんですけど。​​​​​​​

 

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ(7)

2019年1月、今はなきスペース、六本木「スーパーデラックス」での演奏

 

—『ZURERU』に対して、坂本さんからのリクエストはあったんですか?

全員:全然、なかったんです。​​​​​​​

古谷野:もう本当に、「せーの」で演奏を始めて、リテイクも何もしなかったんで……。『ZURE』のリミックスのオファーをいただいた時も、「好きにやって欲しい」と言ってくださったんです。本当に、嬉しいですね。​​​​​​​

 

坂本龍一の『ZURE』から空間現代の『ZURERU』へ(8)

 

—これからの空間現代の活躍に期待を寄せる坂本龍一さんから、メッセージを預かりました。


坂本龍一


「もちろん、今後、共演の可能性はあります。もともと、空間現代には日本以外でもたくさん公演をして欲しいと思っていたので、ニューヨークの知人に相談をしていました。2018年のロンドンでの『MODE2018』に彼らを招いたのも同じ理由です。彼らの演奏を見た聴衆は、どこの国でも衝撃を受けると思います。積極的に海外でのライブの機会を増やしていって欲しいと思っています」


—まさに、今年の春はアメリカでのツアーもありますね。

山田:嬉しいですね。『ZURERU』は坂本さんとの曲なので空間現代だけでは演奏はしませんが、ツアーでは、ニューヨークの「Pioneer works」をはじめ、国外の各所で公演できることを楽しみにしています!

 


空間現代(くうかんげんだい)

<PROFILE>

空間現代prof

2006年結成。編集・複製・反復・エラー的な発想で制作された楽曲をスリーピースバンドの形態で演奏。2016年、活動の場を東京から京都へ移し、自身の制作および公演の拠点としてライブハウス「外」を左京区・錦林車庫前に開場。
2019年度京都市芸術文化特別奨励者。
http://kukangendai.com

 

<INFORMATION>
空間現代『Palm』4月26日(金)発売

Palm

Format: LP / Digital
Label: Ideologic Organ / Editions MEGO
Cat no: SOMA032
発売日: 2019年4月26日
http://editionsmego.com/release/SOMA032
3月下旬より空間現代オンラインストアにて予約受付開始!

https://soundcloud.com/editionsmego/kukangendai-singou-soma032

 

坂本龍一(さかもとりゅういち)

<PROFILE>坂本龍一prof

1952年東京生まれ。3歳からピアノを、10歳から作曲を学ぶ。東京芸術大学大学院修士課程修了。1978年『千のナイフ』でソロデビュー。同年、細野晴臣、高橋幸宏と「YMO」を結成、1983年に散開。出演し音楽を手がけた映画『戦場のメリークリスマス』(1983年)で英国アカデミー賞音楽賞を、『ラストエンペラー』(1987年)でアカデミー賞作曲賞、ゴールデングローブ賞最優秀作曲賞、グラミー賞映画・テレビ音楽賞を受賞。その他、受賞多数。1999年制作のオペラ『LIFE』以降、環境・平和活動に関わることも多く、論考集『非戦』の監修、森づくりを推進する「more trees」の設立など、活動は多岐にわたっている。2006年には、「音楽の共有地」創出を目指す新しい音楽レーベル「commmons」を立ち上げた。

<INFORMATION>
コンピレーションアルバム『坂本龍一 選 耳の記憶 』(前編/後編)発売中

ハースト婦人画報社刊「婦人画報」誌で2011年5月号から2018年4月号まで48回に渡り連載された、坂本龍一コラム『耳の記憶(12の調べが奏でる音楽の贈りもの)』。坂本龍一が各回1曲をテーマに選曲し、幼少期からの体験を織り交ぜながら耳の記憶を綴ります。この連載掲載文と田島一成氏の写真を添えてCD化。48コラムを前編・後編に分けてリリース。

DVDトールサイズBOX仕様(3CDリパック+ブックレット)
各5,184円(税込価格)

 

Text:草深 早希
Photo:当山 礼子