元超え♪カバー 10選【百歌繚乱・五里夢中 第18回】


数年前の日本の音楽マーケットは、やたらカバー作品が溢れていましたね。

ただあまり、高い”志(こころざし)”から生まれた傾向とは思えませんでした。目新しいオリジナルを作り出す能力や気力が低下したのか、あるいは、音楽に対する財布の紐が固くなってしまったリスナーに、既知の曲ということで少しでも購入ハードルを下げたかっただけ、と感じてしまうような”デモシカ・カバー”が多くて、もうウンザリ。

記憶に残る作品と言えば、由紀さおりさんの『1961』とか、八代亜紀さんの『夜のアルバム』、太田裕美の『tutumikko』くらいかな。最後のは自分が制作に関わっているからだけどね(^^)。

元を超えるのが心意気


日本に較べて欧米は、昔からコンスタントに、カバーは盛んでした。

50年代の米国では、黒人アーティストがリリースした曲が売れそうだと見ると、即座に白人アーティストでカバーして、より大きな白人マーケットで売りまくり、しかも印税などはまともに払わないというような非道千万な振舞いがひんぱんに行われたりもしたようですが、そういうケースを除けば概ね、いい楽曲だから演りましょうという素朴な理由で、気軽にカバーする文化が、欧米には根付いている気がします。

で、大ヒット曲のカバーにも、あの曲が別の歌唱・別のアレンジでどんなふうになったのか、という面白さはもちろんあるでしょうが、やはり、名曲なのに様々な理由でさほど売れなかった曲、隠れた名曲ってやつを発掘し、そこに新たな生命を吹き込んでくれるのが、カバーの醍醐味と言えるのではないでしょうか。

オリジナルよりヒットした、成功した、あるいは(個人の嗜好だけど)よりカッコいい……そういうカバー作品を、私は「元超え♪カバー」と呼んでいます。カバーをするなら、元を超える心意気で、挑戦してほしいものです。

今回はそんなカバー作品を10曲、選んでみましたよ。

 

元超え♪カバー、10曲


①Peter, Paul and Mary「Blowin’ in the Wind(風に吹かれて)」(シングル:1963年6月発売/from 3rd アルバム『In the Wind』:1963年10月発売)
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60年代のフォーク・ブームを最初に牽引し、当時日本でフォークを志した人たちは、誰もがその”スリー・フィンガー・ピッキング”をコピーして練習したという”ピーター・ポール&マリー”、通称”PPM”。

そんな彼らより、今やボブ・ディランのほうが遥かに有名ですが、最初に人々の目をディランに向けさせたのは、彼らなんですね。
1962年3月にリリースされたディランのデビュー・アルバム『Bob Dylan』はレコード会社のコロムビアの期待をはるかに下回る5,000枚しか売れなかったそうです。そこで2nd アルバム『The Freewheelin' Bob Dylan』のときに考えられたのがカバー作戦。既に人気があり、同じマネージメント会社に所属していたPPMに、収録曲「風に吹かれて」をカバーさせました。ディランのアルバムの発売が1963年5月。PPM版シングル「風に吹かれて」は6月にリリースされ、7月には、狙い通り全米2位の大ヒット。同月、”ニューポート・フォーク・フェスティヴァル”に出演したディランは大喝采を博し、その後アルバムは1週間で1万枚も売れたといいます。
作戦大成功というわけです。

やがてお馴染みになるディランのあの独特の歌い回しが、当時はちょっととっつきにくかったんじゃないかな。ナチュラルに歌うPPMがカバーすることによって、メロディのよさが際立ち、その評価がうまくディランにフィードバックしたと思います。


<オリジナル>
Bob Dylan「Blowin' in the Wind」
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②SANTANA「Black Magic Woman / Gypsy Queen」(1st シングル:1972年5月1日発売/from 2nd アルバム『Abraxas(天の守護神)』:1972年6月1日発売)
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サンタナの最初のシングルにして代表曲のひとつですが、”Fleetwood Mac”が1968年3月にシングルとしてリリースした曲のカバーです。と言っても、70年後半にビッグ・ヒットを連発するあのバンドとは、名前と、その名の由来であるドラマーとベーシスト以外は全くと言っていいほど違う、ブリティッシュ・ブルースバンドだったフリートウッド・マックですが。当時のリーダーでギタリストのピーター・グリーンが作った曲で、その時は全英37位という成績でした。

実はこの曲、マックの1st アルバム『Fleetwood Mac』に収録されている「I Loved Another Woman」にそっくり。こちらもグリーンの曲なんで何も文句はないのですが、発表してみたけど、やっぱりちょっと直そうかな……なんて気持ちだったんですかね。
ちなみに、サンタナ版は「Gypsy Queen」という曲とメドレーになっておりますが、こちらもまたカバー。オリジナルはハンガリー出身のギタリスト、ガボール・ザボ (Gábor Szabó)。1966年に発売された彼のデビュー・ソロ・アルバム『Spellbinder』に収録されています。こちらもやはり”元超え”ですね。


<オリジナル>
Fleetwood Mac「Black Magic Woman」
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Gábor Szabó「Gypsy Queen」
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③Rita Coolidge「You」(シングル:1978年6月発売/from 7th アルバム『Love Me Again』:1978年5月発売)
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リンダ・ロンシュタットやカーリー・サイモンと同年代。この頃の米国女性シンガーって、特に歌が上手いってわけじゃないんだけど、ナチュラルでほっとする感じの人が人気だったような気がします。アルバムでいうとこれの前作『Anytime...Anywhere』というのがいちばん売れたようだけど、個人的にはこの『Love Me Again』をよく聴きました。

その1曲目に入っているのが「You」で、私はすっかりこの人がオリジナルだと思いこんでいたのですが、実はカバーでした。それも3代目。

オリジナルは作者でもあるトム・スノウ (Tom Snow)で1975年。それをオーストラリアの黒人シンガーマルシア・ハインズ (Marcia Hines)が77年にカバーし、シングルがオーストラリアで2位まで上がりました。

クーリッジ版は全米25位、ACチャート3位と、はっきり”元超え”と言えるほどではないかもしれませんが、作品としてはいちばん洗練されていると思います。グルーヴィなギターのリフとちょっと憂いを含んだヴォーカル、光と影の絶妙なコントラストが魅力で、原曲のよさを最大限に引き出しているんじゃないかな。

 

 

④Carpenters「Superstar」(シングル:1971年8月12日発売/from 3rd アルバム『Carpenters』:1971年5月14日発売)
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この曲、レオン・ラッセルと、”デラニー&ボニー”のボニー・ブラムレットが作者で、デラニー&ボニーがオリジナル。1969年に発売したシングル「Comin' Home」のB面でした。タイトルも「Groupie (Superstar)」と違っていました。”Groupie”とは、そう、スターを追い回す熱烈なファンのこと。そういう歌だったんですね。

それを70年に、ジョー・コッカーがライブ・アルバム『Mad Dogs & Englishmen』の中でカバー、ここから「Superstar」となりますが、これを歌っているのがなんと、先ほどのリタ・クーリッジなんです。ソロ・デビュー前ですね。このアルバムは全米2位のヒットでした。

そしてさらに、71年にカーペンターズがカバー。シングル・チャートで全米2位、世界中の誰もが知るスタンダードとなりました。
ただし、2番の歌詞の「I can hardly wait to sleep with you again」が、カレンには直接的過ぎると感じたリチャードが、「I can hardly wait to be with you again」と変えて唄わせました。アメリカにもこんな堅物がいたんだね(^^)。

ところで、カーペンターズは”元超えカバー名人”ですね。「(They Long to Be) Close to You(遙かなる影)」、「We've Only Just Begun(愛のプレリュード)」、「A Song for You」などなど。ビートルズの「Ticket to Ride(涙の乗車券)」はさすがに超えられなかったけど、「Please Mr. Postman」は微妙に超えていたかも。


<オリジナル>
Delaney & Bonnie & Friends「Groupie (Superstar)」
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Joe Cocker「Superstar (featuring Rita Coolidge/Live At The Fillmore East/1970)」
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⑤尾崎紀世彦「また逢う日まで」(シングル:1971年3月5日発売)
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これは、厳密に言うとカバーではないかもしれません。1970年、”ズー・ニー・ヴー”というバンドが、違う歌詞とタイトル、「ひとりの悲しみ」でリリースした作品の焼き直しです。

実は、さらにその原型がありまして、69年に、三洋電機のエアコンのCMソング候補として作られたのでした。作曲:筒美京平、作詞:やなせたかし。歌手は槇みちるでしたが、結局スポンサーの意向で採用されませんでした。

しかし、これをプロデュースした「日音」の村上司(まもる)は、この曲は売れるはずと、「白いサンゴ礁」(1969年)をヒットさせたズー・ニー・ヴーの4th シングルに採用し、その際、「白いサンゴ礁」と同じ阿久悠に作詞を依頼しました。それが「ひとりの悲しみ」ですが、残念ながらヒットには至りませんでした。

それでも諦めきれない村上は、新人の尾崎紀世彦のダイナミックな歌唱ならこの曲をもっと活かせるかもしれないと考えます。歌詞ももっとわかりやすくと、渋る阿久さんに再三頼み込んで書き換えてもらいました。

結果は見事に大ヒット。しかも日本レコード大賞の大賞を受賞(当時は大きな影響力がありましたね…)というオマケつき。

村上さんの株は大いに上がったでしょうね。

 

 

⑥園まり「逢いたくて逢いたくて」(19th シングル:1966年1月5日発売)
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もう1曲、同じような話、いいですか?

作詞:岩谷時子、作曲:宮川泰という巨匠ふたりの手になるこの曲も、最初は違う歌詞、「手編みの靴下」というタイトルで、”ザ・ピーナッツ”が1962年にリリースしました。同じ岩谷さんが書いたのですが、これはヒットせず。

で、歌詞を変え、園まりが66年にリリースすると今度は大ヒット。便乗して同タイトルの映画まで作られました。彼女の代表曲、そして長く愛される歌謡名曲になりました。

ピーナッツももちろん人気歌手でしたから、タイミングはあれど、やはり歌詞の違いが売上げの結果につながったのではないでしょうか。

”心をこめて、ひとりで編み込んだ靴下。あの人に履いてほしい……”なんてことを切々と歌い上げる、今なら思わずプッとなってしまう歌詞なんですけど、当時は「いいね!売れそうだね」と思われていたんですかね……?

隔世の感があります。

 

 

⑦Gladys Knight & the Pips「Midnight Train To Georgia(夜汽車よ! ジョージアへ)」(シングル:1973年8月発売/11th アルバム『Imagination』:1973年10月発売)
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またまた、3代目のカバーです。オリジナルは作者のジム・ウェザリー自身で1972年にリリース。でもその時のタイトルは「Midnight Plane to Houston」だったんです。乗り物も地名も違っていました(^^)。

この曲ができたきっかけも面白くて、女優のファラ・フォーセットが絡んでいます。ウェザリーの友人、リー・メジャーズ (Lee Majors)という人がファラと73年に結婚しまして(だからその時期、彼女は”ファラ・フォーセット・メジャーズ”と名乗っていましたね)、ウェザリーがある時リーに電話をすると、(結婚前だけど)ファラが出て、「何しているの?」と尋ねたら、「I’m taking the midnight plane to Houston」、彼女の実家のヒューストンに帰ろうとしているところでした。このフレーズにピンときて、曲ができたのだそうです。

それを73年に、ホイットニー・ヒューストンのお母さんであるシシィ・ヒューストン (Cissy Houston)がカバーしましたが、その時なぜか「飛行機」から「列車」に、「ヒューストン」から「ジョージア」に変えたいと言ったようです。自分の名前とかぶるのがイヤだったのでしょうか。

そのジョージア・バージョンをさらにグラディス・ナイトがカバー。MotownからBuddahに移籍したばかりだったグラディス、心機一転ということもあったでしょう。全米2週連続1位を獲得するという見事な結果を出しました。

 


⑧Whitney Houston「I Will Always Love You」(シングル:1992年11月3日発売/from アルバム『The Bodyguard: Original Soundtrack Album』(1992年11月17日発売)
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ご存知、ホイットニー・ヒューストンの初出演映画「ボディガード」の主題歌にして、14週連続全米1位という特大ヒット曲ですが、これも、3代目のカバーです。なんでだろう?三度目の正直ってやっぱあるのかな。

オリジナルはドリー・パートン。1974年6月6日、シングル発売。これもヒットし、カントリー・チャートの1位を獲得。82年に映画「The Best Little Whorehouse in Texas」のために録音し直し、それがまたカントリー1位となるという珍しい記録を作りましたが、さすがにホイットニー版にはかないません。

75年、リンダ・ロンシュタットがアルバム『Prisoner In Disguise』の中でカバーしました。ホイットニーが参考にしたのはこちら。映画で共演したケヴィン・コスナーがこれを持ってきて聴かせたそうです。

ちなみに、ドリーのオリジナルがヒットした74年、エルヴィス・プレスリーもこの曲をカバーしたいと言ってきたらしい。しかし、当時は著作権を半分以上プレスリー・サイドに渡すことが条件だったため(ヤクザ~)、ドリーはその申し出を断りました。断ってよかったですね。やはり理不尽な要求に屈してはいけません(^^)。

<オリジナル>

Dolly Parton「I Will Always Love You」
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Linda Ronstadt「I Will Always Love You」
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⑨Otis Redding「Try a Little Tenderness」(シングル:1966年11月14日発売/from 5th アルバム『Complete & Unbelievable: The Otis Redding Dictionary of Soul』:1966年10月15日発売)
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“The Big O”ことオーティス・レディングの代表曲のひとつですが、実はとても古いジャズ・ナンバーで、しかもイギリスの曲。”Ray Noble & His Orchestra”というイギリスのビッグバンドが1932年に録音したのがオリジナル。

以来、ビング・クロスビー(33年)、アレサ・フランクリン(62年)、サム・クック(64年)など、多くの名シンガーもカバーしていますが、それらはいずれも、原曲のジャズ・テイストを継承するもの。

ところがオーティスは全然違います。彼が得意とするシャウト唱法を活かし、まさにソウルフルな作品に作り変えてしまいました。特に、原曲では締めくくりとなる”Try a little tenderness”の歌詞のところから、改めて盛り上がって、激しいダンス・ビートと熱唱で大団円を迎えるというスケールの大きな展開は感動的です。

全米25位と売上的には大きくないかもしれませんが、音楽としてしっかり”元超え”していると思いますね。

なぜか(^^)、スリー・ドッグ・ナイトが69年に、このオーティス・バージョンでカバーをしています。

<オリジナル>
Aretha Franklin「Try a Little Tenderness」
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⑩Aretha Franklin「Respect」(シングル:1967年4月16日発売/from 10th アルバム『I Never Loved a Man the Way I Love You』:1967年3月10日発売)
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これは逆に、オーティス・レディング作詞・作曲。彼自身のシングルが1965年夏にリリースされました。

で、こちらはアレサが、カバーするにあたり、いろいろ工夫をしています。

まず歌詞。オーティス版は、男が女に対し、「何をやってもいいけど、俺が金を稼いで来た時くらいは敬意を払ってくれ」という内容なのに対し、アレサ版は、女が男に対し、「私はあなたに何も間違ったことはしないし、何も要求しないけど、いつも敬意を持って接してちょうだい」と、強く自立した女性像を歌い上げる形になっています。

また、”R-E-S-P-E-C-T”と”Sock It to Me”(さあ、どんと来い)というコーラスはオーティス版にはないオリジナルなもの。

Columbiaに長く在籍しつつ、今ひとつヒットに恵まれなかったアレサですが、Atlanticに移籍するや否や潮目が変わります。この曲を、移籍第1弾アルバムからの2枚目のシングルとして発売すると、彼女に初の全米1位をもたらしました。

カーペンターズほど”元超え”はしていませんが、アレサにも名カバーが多いですね。時に”アレサ節”が少々鼻につくのですが(^^)、好きなのは「I Say a Little Prayer」とか「What a Fool Believes」かな。


<オリジナル>
Otis Redding「Respect」
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以上、”元超え♪カバー”10曲でした。

メロディは音階の順列組み合わせ、と算数的に考えると、無限のパターンがあるのでしょうが、やはり、人の心の琴線をふるわせる”組み合わせ”って、限りがあるんじゃなかろうかと思ってしまいます。特に人が歌うことを考えると、せいぜい2オクターブくらいの音域の中でのことですし。

ですから今後は、カバーでいかにいいものを作るかということに、もっと注力してもいいだろうし、さらに一歩進めて、今は(”パクリ”とう裏街道以外には)ほとんどありませんが、”リメイク”なんてことも、あっていいんじゃないかなんて思う、今日この頃です。

いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪