【前編】ジャムセッションに行こう!憧れのジャズに挑戦


ビートルズを愛し、学生時代から社会人の今に至るまでギターを弾くアド美。30代も半ばに差しかかり、大人な雰囲気のジャズにも惹かれるように。セッションこそ音楽の醍醐味と思っている。片や、高校の吹奏楽部を経て市民吹奏楽団でオーボエを吹いていたリブ子。子育てで10年近くブランクが空いてしまったものの、地域の音楽祭でパパママらによるビッグバンドを聴いて“吹きたい熱”が再燃。こんな2人が、ひょんなことからジャズのジャムセッションに参加することに!

登場人物


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アド美

30代アパレルメーカー勤務。学生時代にバンドサークルでギターを担当。社会人になった今も時折、昔の仲間と練習に勤しむ。好きな音楽はフォーク、ロックだったが、最近はブルースやジャズにも惹かれている。

 

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リブ子

40代主婦、パート勤め。高校時代、吹奏楽部でオーボエを担当。以降、市民吹奏楽団でも吹き続けるが、出産を機に離れる。しかし子育てが落ち着いたのでまた“吹きたい熱”が再燃、なんと畑違いのジャズを吹いてみることに。

 

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講師K先生

プレイヤーとして活動する傍ら、都内のジャズライブハウスで、定期的にジャムセッションのホストを務めたりもしている。

 

 

いきなりセッションデビューする店を探す


共通の友人を介して知り合い、ジャムセッションに参加することになったアド美とリブ子はウキウキしながらインターネットでジャムセッションができるお店を検索していた。「ジャズ セッション」というワードを入れると、東京都内だけでもセッションを開催しているライブハウスやライブバーがかなりある。

店によって開催する頻度はさまざまだが、一般の楽器愛好者が参加できる「セッションデー」があり、そこに参加費を払うと出られるらしい。参加費はおおよそ2000円前後でワンドリンク付が多い。そしてセッションを仕切るプロミュージシャンによる「セッションホスト」が1人か2人(あるいはそれ以上)入っている。

 

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といって、どの店でもいいわけではない。いや、基本的にはどの店も参加はウェルカムで、「楽器経験○年以上」といった制約があるわけではないが、中にはプロに近い腕前を持つアマチュアが集うハイレベルなお店もあるという恐ろしい噂も。もしそんな店にジャズ超初心者が飛び込んでしまったら…と考えただけで冷や汗ものだ。

そこで「初心者」というワードも加えて検索してみると……「レッスンやレクチャーを受講してから、最終的に目指せセッションデビュー!!」という流れになっている店もあるみたい。なかには細かくレベル分けされているところもあって、「楽器はまあ演奏できるけどジャズは初めて」という私たちにはもってこいなのだけれど、レッスンを何回も、数か月もと受講しなければいけないのは、ちょっと滅入る。今!このセッションへの熱い気持ちが冷めないうちにデビューしたい!!
そうこう迷っていると、「初心者歓迎!!」と謳われたセッションを発見。不安もなくはないが、飛び込んでみることにした。(事前予約しました)

 

ジャズってなに?


その日2人は、K先生と向かい合っていた。ジャムセッションに参加申し込みをしたはいいけれど、このままよくわからずデビューするのはコワすぎる……ということで、あらゆるツテをたどって、ジャズミュージシャンのK先生に教えを請うことになったのだ。

「アド美はスタンダード・ナンバーなら1~2曲はコード進行がわかりますし、リブ子はコードは読めませんがメロディだけなら弾けます。これでいきなりデビューは無謀でしょうか?」

ギターとオーボエを持ったジャズ未経験者2名を前に、軽く苦笑いをしつつも、先生は優しく話し始めた。

「ジャズは“会話”なんですよ」

「……??」

「ジャズの醍醐味は、なんといってもアドリブ(即興演奏)。旋律(メロディ)を担う楽器やボーカリスト、和声(コード進行)を担う楽器、リズムを刻む楽器が、決まったテーマを元に、会話をするように音楽を進めていくんですね。といっても、それぞれの奏者が思うがまま適当にやりとりをしているわけではありません。基本的にジャズには“決まりごと(ルール)”があります」

 

ジャズのルール

 

ジャズの基本的な構成は、「(イントロ)→テーマ→ソロ→テーマ→エンディング」です。
テーマとはいわゆる「基本となる旋律(メロディ)」のこと。このテーマを元にいろいろな楽器が「ソロ」を演奏します。ソロとはつまりアドリブのこと。場合によってはメロディをフェイクすることだけで、ソロのようにすることもあります。

ソロを取るのは、もちろん編成によりますが、だいたい順番が決まっていて、まずはサックス、トランペットといった管楽器やギター(これらをフロントと呼ぶ)、次にピアノ、そしてベース。最後にドラムが入る場合もあります。

ギターやピアノは、メロディも弾けますが和音も出せますから、ソロ以外のときはコードを弾いてずっとバッキング=英語ではカンピング(伴奏)を担当。低音のベースはコードの土台を作り、一方でリズム隊としてドラムと共にグルーヴを生み出したりもしますね。

またソロ=アドリブというと、それぞれ好きなだけ演奏しているというイメージが強いですが、これもちゃんと長さが決まっていて、すべてメロディ部分のサイズが基準なんです。例えばメロディが32小節だったら、ソロも、それと同じコード進行での32小節で取るのが基本。そしてそれを、大体2~3回繰り返したりして、次の奏者に回します。

 

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基本的な曲の進行

 

「丁々発止の掛け合いや、カッコいいアドリブこそジャズの魅力。基本的なルールは押さえてからセッションに参加したほうが、絶対楽しめます。」

すべてきちんと理解できたわけではなかったが、ジャズのことが少し見えてきた。コードが弾ける、メロディが弾けるというだけでセッションに参加しようとしていたなんて、無謀だった……と反省しつつ、予約したセッション日まであとわずかであることを先生に告げると、

「アド美さん、ロックとジャズのコードは違うから(※)、とりあえずセッションデビューする曲を練習しよう。教本を見るのもいいけど、周りにジャズギターやっている人はいない? 初心者に教えられるくらいのレベルの人がいれば、その人から何回かレッスン受けるほうが早いかも。」

(※)ロックとジャズのコード
ジャズの場合、ロックに比べてテンション・コードが多い傾向がある。テンションとは「緊張」という意味。ものすごく簡単に言うと、基本のコード(三和音、四和音)に「9th」「11th」「13th」をプラスすることで、これだけでおしゃれなジャズの雰囲気が漂ったりする。

 

「そしてリブ子さん、オーボエでジャズのセッションに参加する人はほとんど聞いたことがないけど(苦笑)。まあフルートやクラリネットの人で、さすがに即興でのソロなんて無理なんで、ソロは吹かずに、書かれているテーマのメロディだけ吹きますっていう人もいるし。面白いかもね。」

 

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というわけで、お互いデビューする曲を1曲決め、セッション日までの限られた時間で練習することに。かつてライブハウスでジャズを演奏していたこともある元上司に頼み込んで、ジャズギターのレッスンも受けた。リブ子は長いブランクを後悔しつつ、オーボエでメロディの指をさらった。

そしていよいよセッションへ!

 

<後編へつづく>


監修:納 浩一(おさむ・こういち)ベース
https://www.osamukoichi.net/

京都大学卒業後バークリー音楽大学に留学。1985、86年度のバークリー・エディ・ゴメス・アウォード受賞。『ジャズスタンダード・バイブル1・2』(通称:黒本/リットーミュージック)ほか書籍・教則DVDの出版多数。以前ヤマハ銀座スタジオで開催されていた「GINZA de JAZZ セッション」ではホストリーダーを務めたセッションの達人。

 

Text:ひとま舎
Photo:bozzo
Illustration:津田蘭子