ゼネコン流“働き方改革”がバンド継続の秘訣! 加齢なる一族【ノンプロフェッショナル~おとなバンドの流儀~】


音楽は「プロ」だけのものではない。
誰であっても、いくつになっても、音楽は楽しめる。そう、世の中にはさまざまなカタチの「音楽」があるのだ。
いわゆる「おやじバンド」と呼ばれるジャンルがある。スポーツにノンプロがあるようにバンドにもノンプロがあり、そのひとつのカタチが「おやじバンド」だ。そこには当然、「おじいさん」や「お姉さん」も含まれる。我々は「おやじ」という言語、その響きに含まれる愉快さと哀愁、そしてある種のたくましさがある「愛すべきノンプロ」たちの背景を含めてのバンド活動をリスペクトしているのだ。ただ、昨今は特定のジェンダーを冠した名称に違和感を抱く方々が多いことも踏まえ、ここはシンプルに「おとなバンド」と呼ぶことにする。

近年、70年代後半から80年代の「ポプコン」ムーブメント、また平成の幕開けとなった「イカ天」バンドブームで育った世代が「いい大人」になり、バンド活動を再始動するようになっている。彼らは音楽のプロフェッショナルではない。彼らの人生において……仕事こそが「1番」。それぞれの道でのプロフェッショナルであり、バンド活動はあくまでも趣味だ。どんなに好きであっても、それは限りなく1番に近い「2番」。そんなノンプロおやじたちにとって「バンド」と「仕事」の両立はとても難しい。おとなバンドを取り巻く環境は、華々しいプロとは違うからだ。だがしかし、だからこそ、そこには彼らなりのやり方がある。
「バンド」があるから「仕事」ができ、「仕事」があるから「バンド」をやれる!
バンド活動への「本業」の活かし方、バンドをやることでの人生へのメリット、現役の「働く男たち・女たち」ならではの「生き様」を聞いてみた。

スカイツリー建設にも関わった大林組が生んだ、ソウル&ロック“ゼネコン”バンド「加齢なる一族」!

 

そのバンドは「加齢なる一族」という。「日経おとなのバンド大賞2010」で東京大会グランプリを獲得した華麗なキャリアを誇る「加齢なる一族」。まさに王道「おやじバンド」もとい「おとなバンド」的ネーミングセンス! だがライブをやれば、立ち見が出るほどの大盛況。
総勢12名の大所帯は、ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードに、女性コーラス、ホーンセクションと多彩だ。数多のおとなバンドの中でも、かなり活動的なノンプロバンドといえよう。そんな彼らにもまた、プロフェッショナルな普段の顔がある。彼らのもうひとつの異名、それはソウル&ロック“ゼネコン”バンド……。

えっ!? ゼ、ゼネコン!?

 

加齢なる一族(1)

 

「ご安全に!」

関東近郊のとある街——。
とある建物の建設現場で、今日も行われる朝礼。作業員の前に立ち、声を張り上げる男。「加齢なる一族」のフロントマン、山内 一王(53歳)だ。

 

加齢なる一族(2)

 

山内の現在の仕事は、施工管理いわゆる現場監督。大手ゼネコン大林組の現場で、多くの現場作業員を束ねる現場の所長だ。彼のバンド「加齢なる一族」のバンマスは、会社の上司、メンバーの多くも会社の仲間だ。
そんな山内は、言う。

 

加齢なる一族(3)

 

「趣味が充実してないと、良い仕事なんて出来ないんじゃないでしょうか?」

 

加齢なる一族(3)

加齢なる一族(4)

加齢なる一族(5)

 

都内某所。ある週末の夜、我々取材班は「加齢なる一族」のスタジオ練習に突撃した。多くは関東在住者だが、なんと名古屋在住のメンバーもいるという。それぞれ仕事が忙しく、メンバー揃ってのバンド練習に割ける時間は極めて少ない。

「だからこそ濃密にしなければいけない」

本番に沿ったナンバーをセッションしながら、アウトロをアルバムバージョンにするか?ライブバージョンにするか?など、細かいアレンジの調整を重ねていく。

 

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真剣な練習においての音楽的な部分はもちろん、取材班が気になったのは美しいスコアなど、紙資料のクオリティの高さだった。

あるときは、ライブのオープニングでパワーポイントを駆使し、あるときは緻密なスケジューリングを管理し、男はバンドを束ねていくという。ホウレンソウ(報告・連絡・相談)をこまめにし、バンドという「プロジェクト」を組み立てていく山内の生き様とは……。

 

加齢なる一族(9)

ライブでのバンド紹介はパワポで作成!

 

—まずは、バンド編成からお聞かせください。

現在はメンバー12人です。そのうち大林組6人。未婚既婚は半々(笑)。部署もバラバラ、年齢もさまざま、20代から60代まで在籍しています。

—会社に活動は知られているんですか? というか、そもそも社名(大林組)出してオッケーなんですか? なんでもスカイツリーにも関わっていたとか。

一応会社には報告しています(笑)。スカイツリーは、自分は直接関わってないんですが、バンドメンバーにはいます。もともと6人のブルーズバンドから始まったんですが、ホーン隊も入れて最近はロック&ソウルバンドになっています。僕自身は、転勤でいま北関東在住(取材当時)なんですよ。ライブや練習のために毎回、東京まで来て夜中に車を飛ばして帰る生活です(笑)。

—大変ですね! そもそも、なんでまた会社でバンドを?

うちのバンマス(ベース)と僕が、以前とあるショッピングモールの現場で一緒だったんですね。当時は直属の上司だったんですが、今はもっと偉くなっちゃって(笑)。で、その現場で「音楽好きなんですよ」みたいな話から「何聞いてんの?」って、音楽好きならよくある展開ですが、「楽器できるんだったら二人でセッションしようよ」と。ショッピングモールともなると敷地が広いので、資材倉庫の空きスペースで、業務後に夜な夜な二人でギターとベースの練習を始めたんです。「今日は、ブルーズ系の簡単なやつ=12小節のブルーズ進行をやりましょう」って感じで。僕自身は学生時代からギターをやっていて、歌うのも大好きだったから楽しかったですね。

 

加齢なる一族(10)

バンマスの三好さん(Ba)

 

—学生時代ぶりのバンド活動を再開したんですね。

いや、ギターは個人的な趣味でやっていましたが、バンドは今までやったことがなかったんです。

—えっ! それじゃ、はじめての?

ええ、人生初のバンド活動。スタジオではなく、建築現場のコンテナが最初のバンド練習場所でした(笑)。そんな感じで、上司と部下の関係から音楽仲間になり、色々なセッションに参加するようになりました。そのうちに自分達の実力を試したくなり、何かコンテストに出場してみようか、それならバンドを組もうよ!と自然な流れで結成されました。

 

バンド運営の秘訣は、現場監督として磨いたスケジュール管理術!

加齢なる一族(11)

 

—大所帯でメンバーも現場がバラバラだったり、他業種の方や遠方の方もいたり練習やライブのスケジュール調整が相当大変だと思うのですが、どうやって回してるんですか?

僕自身、このバンドとは別にバンドをもうひとつ組んでまして(笑)。さらにスケジュールいっぱいなんですけど……確かに、おやじバンドにとってはメンバーのスケジュール調整が何より大事ですね。本業がありますから、合同練習だってライブ前の数回しかできないんです。事前に曲のデータとスコアを個々に渡して個人練習をしてきてもらって、スタジオでは皆がある程度演奏できる状態で合わせると。貴重なスタジオでの合同練習は無駄にできませんから。

—「加齢なる一族」は結成から10年近くになるそうですね。長続きするコツってありますか?

おやじって、みんな、わがままなんですよ(笑)。だから誰かがまとめてメール配信とかしなくちゃいけない。練習のためにスタジオ押さえて、ライブのブッキングして、集客して、当日もお金の計算してって、地味な事務作業がたくさんある。
コツは、そうした細かい事務作業を好きでやってくれる人がいることですね。これ、非常に大事なポイント! 仕事をしているおやじバンドにとって、手配とか調整ってすごく大事なんです。バンドマンってそういうこと面倒でやりたがらない人、多いでしょ(笑)? 僕はそういうの、まったく面倒臭くないし、好きでやってるから。うちのバンドが長持ちしているのは、それもあると思います。たまに『イベンターとかになった方が良かったかなあ(笑)?』って思うこともあるぐらいで。

 

加齢なる一族(12)

山内さんが管理するメンバーの練習スケジュール。なんと4ヶ月分の週末スケジュールを一覧できる

 

—手配と調整がおやじバンドにとってすごく大事……! 確かに、言われてみればそうですよね。

2018年に「働き方改革関連法」が成立しましたけど、僕はもうかなり前から無駄な残業はなるべくしないようにしていますから(笑)。まぁ、管理職になったってこともありますけど、50代が一番楽しいですよ。これは僕の持論ですけど、趣味がある人は、相乗効果で仕事も充実していて、魅力的な人が多い。そして趣味を持つと仕事以外の視野が広くなり、この視野の広さが仕事に大変いい影響を与えてくれるんです。人間関係も多彩になりますしね。無趣味な人は何でもいいから趣味を持ちましょう! 仕事や人生に潤いを与えてくれます(笑)

 

加齢なる一族(13)

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ライブの候補曲は、全員が3曲ずつやりたい曲をあげ、それに対して投票を行う。取りまとめはもちろん山内さん。舞台のセッティング指示もこの通り

 

飲みニケーションよりも音楽! バンド活動がもたらす「仕事とプライベートのメリハリ」

 

—「ひとり働き方改革」を実践してきたと。バンド活動へのモチベーションが仕事にもフィードバックできてるってわけですね?

もちろん! 本当にそうですよ。まずは時間管理がうまくなります。バンドやるには仕事を上手くこなさなくちゃいけない。本業に迷惑かけたら本末転倒ですから。あとね、音楽をやっていると、いいアイディアが浮かぶんですよ、本当に。仕事とキッチリ脳を切り替えられる。あと自分はフロントマンだから、ステージ経験を積んで口八丁手八丁で、そのあたりうまくなったという自覚があります(笑)。パフォーマンス力とか。人前で話すのがうまくなりましたね。だから現場の朝礼で話すのがとても好き(笑)!

 

加齢なる一族(15)

加齢なる一族(16)

 

—おお! さすが、現場監督!

僕は新しく配属された部下には、趣味をまず聞くんですよ。それに対して「特にない」って答えたら、「まず趣味を持て」と常々言ってます。若い頃、自分も“飲みニケーション”がすごく苦手だったんで、今の子がそういうのを嫌がる気持ちも共感できるんですね。ただ、仕事においてコミュニケーションは絶対大事。幸い自分は上司とバンドを始めて、趣味を通して深いコミュニケーションがとれるようになった。別に全員が会社の人とバンドしなくても良いけど、趣味を通じて世代や職種を超えた人とコミュニケーションが取れる喜びを知って欲しいんですよね。

—今の日本社会、若者よりも下手したら現役世代のおやじたちの方が趣味を持っていない人多いかもしれないですよね。

そうなんですよ。趣味が仕事……みたいな。そんな寂しいこと言ってちゃダメだと思います。なんでもいいから趣味を持て! って言いたいです。お節介だってわかってるけど、すごく大事だから! 
もう、今や「働き方改革」とか「人生100年時代」なんですから。

—はい。めちゃくちゃ不安になります(笑)。

ですよね。昔よりも今の40代、50代って、今から定年後のセカンドライフを考えていると思うんですよ。「定年したらピアノ習おうかなあ」とか、「ギターもいつかは弾けるようになりたい」とか。いやいや、そんなんじゃ遅すぎるって! 人前に立てるレベルになる頃には死んじゃうよ(笑)! でも、せめて40代くらいからやっておけば、定年後は人前でセッションでもライブでも出来るくらいの実力が備わっているはず。この楽しさの違いは大きい。
どうせやるなら、家でチョコチョコやるより、人前で技を披露した方が絶対に楽しいと思います。自分の演奏で人が感動してくれたら、それは人間にとって一番尊い事なんですから。定年してから趣味を持とうと思った時にはもう遅いって、これは切に言いたいです。

—た、確かに。さすが「加齢なる一族」のフロントマン!!

だから、みんな趣味を持ちましょう。できたらバンドで!!  趣味が充実したら、加齢臭なんて気にならなくなりますよ(笑)。先日も、東京八重洲のHit Studio Tokyoでお客さん100名以上というライブを行ったんですが、本当に楽しかった。「令和のおとなバンドブーム」盛り上げていきましょう!

 

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—大勢でのチームプレイが肝の仕事ならではですね。素晴らしいモチベーションに、元気をもらいました。

ちなみにライブでは、現場の若い子が受付をやってくれたり、仕事関係の取引先の方々も応援に来てくれたり、みんなでライブを作り上げていくという充実感があります。まあ、ライブ終了後は反省会という名目で結局飲みニケーションになってしまいますが…(笑)。

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果たして、
ソウル&ロックバンド「加齢なる一族」山内一王さん(Vo./現場監督)による、おとなバンドならではの流儀を聞かせてもらった。
そして今宵も、男はヘルメットを外し「ライブ」という現場に立つのであった………。

 

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【PROFILE】

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加齢なる一族

「日経おとなのバンド大賞」出場を目的に、2010年結成。その後、初出場で「日経おとなのバンド大賞2010」東京大会グランプリを獲得。大林組他のメンバーからなる総勢12名のソウル&ロックバンドとしてコンスタントにライブ活動を行なっている。

【LIVE INFO】

加齢なる一族

●ワンマンライブ
日時:2020(令和2)年2月2日(日)
場所:Hit Studio Tokyo(東京都中央区日本橋3-2-17 三丁目ビルB1F)
http://big-echo.jp/hst/
 

加齢なる一族(22)

東京ブルーズ製作所(山内氏が所属する、もうひとつのブルーズバンド)

●8823 The Blues Band(酒井ちふみ/田中晴之/山田晴三/堀尾哲二)のオープニングアクトとして出演
日時:2019年6月15日(土)open:18:30 start:19:30
場所:湯島ファビュラスギターズ(東京都文京区湯島3-35-13 東家商会館B1F)
http://fabulous-guitars.com
予約 ¥3,500(+1D) 当日 ¥4,000(+1D)

●Mr.OH YEAH のフロントアクトとして出演
日時:7月21日(日)
場所:池袋エールハウス(東京都豊島区西池袋1-16-8 山口ビルB1F)
http://www.alehouse.jp

 


 

Text:ヴィンセント秋山
Photo:グレート・ザ・歌舞伎町
Edit:仲田舞衣