お国はどこ? ボーダレス時代の多国籍集団【知られざるワールドミュージックの世界】


今さらだけど、「ワールドミュージック」という言葉はもう古い。音楽は国境や言葉を超えて聴かれるようになっているし、英語圏だから英語の曲しか流行らないということもなくなった。日本のような閉鎖的な島国に住んでいると気付かないことも多いが、それでも日常的に外国人に接する機会はいくらでもある。今や、世界中の都市部を中心にどこも「人種のるつぼ化」が進んでいる。

そう考えると、言葉やジャンルを超えたいろんな音楽が生まれるのは当然だ。どこをどう区切れば「ワールドミュージック」というのかはどんどん曖昧になってきた。逆に言えば、様々な要素がミックスされた音楽こそ、音楽のメインストリームといえるのかもしれない。

ここでは、そんなボーダレス時代の象徴である多国籍集団に注目してみた。いろんな国から集まったバンドは、見た目にもユニークに思えるが、ここに挙げるのが追いつかないほど、続々と登場している。

ジプシー・パンク、フューチャー・ソウル、アフリカン×北欧……広がり続ける音楽の融合

 

そんな多国籍バンドの先駆けのひとつともいえるのが、ゴーゴル・ボルデロだ。1999年にニューヨークで結成された彼らは、ウクライナ出身のユージン・ハッツを中心としたジプシー・パンク・バンド。メンバーの出身国は、ロシア、エチオピア、エクアドルなど多岐に渡る。日本ではフジロックなどのフェスにも出演したことでお馴染みだ。この曲では、これまたロシア出身の人気ヴォーカリスト、レジーナ・スペクターと共演している。

Gogol Bordello (Feat. Regina Spektor)

 


ジョス・ストーンは英国のシンガーでありながら、ソウルやリズム&ブルースをディープに歌えるということだけでもインパクトのある存在だが、少し前に立ち上げたプロジェクト・ママ・アースはさらにユニークだ。インド系のサウンド・クリエイターであるニティン・ソーニーや、ジョン・マクラフリンなどジャズ・シーンで一癖あるプレイを聴かせるカメルーン出身のドラマー、エティエンヌ・ムバペなどが参加。エモーショナルな歌声はそのままに、どこか不思議な感覚を持つフューチャー・ソウルに仕上がっている。

Project Mama Earth

 


プリミティヴなアフリカ音楽と繊細な北欧ジャズの融合といわれても今ひとつピンとこないが、意外にも見事な融合性を見せてくれるグループがモノスウェージだ。ノルウェー。スウェーデン、モザンビーク、ジンバブエといった国籍のミュージシャンが集まり、クールかつディープなサウンドを繰り広げる。ヨーロピアン・ジャズやミニマル・ミュージックを基本にしながら、時にはアンビエントな雰囲気も生み出すのが魅力だが、この曲はなぜかインド風味なのも謎めいていて楽しい。

Monoswezi


北欧+アフリカ+インド

 

アルバ・グリオー・アンサンブルも、アフリカとヨーロッパの邂逅による新鮮な音楽。こちらは、ケルト民謡をベースに、西アフリカ音楽の響きを取り入れたものだ。基本はケルト風のフォーク・ソングを軽やかなハーモニーで聴かせるが、コラやンゴーニといった民族楽器のエキゾチックな音色がさらりと挿入されていく。メンバーは、スコットランド人が2人にベルギー人とマリ人という、これまた妙な組み合わせだが、違和感なく美しいサウンドを作り上げている。

Alba Griot Ensemble

 


米国西海岸のロサンゼルスは、人種的にかなり混沌としたエリアのひとつだが、ここで活動しているワッラというバンドはそのカオスを象徴するようなバンド。メンバーの国籍は、メキシコ、イタリア、インドネシア、韓国、ブラジルと多岐に渡り、しかも民族色を売りにしないエレクトロ・ポップが主体というのも面白い。しかもこの曲はアコースティックなサウンドを取り入れたスタジオ・ライヴなので、さらにどんなバンドが見え辛い。メンバー・チェンジも多いようで、現在どうなっているのかは不明。

Walla


多国籍バンドで活躍する日本人、日本で活躍する外国人バンドにも注目!

 

ここからは日本人の活躍ぶりも見ていただきたい。バンダ・マグダは、ギリシャ出身のヴォーカリスト、マグダ・ヤニクゥを中心としたミクスチャーなプロジェクト。ブルックリンを拠点に活動しているが、南米、ヨーロッパ、オーストラリアといった様々な出自を持つ強者ミュージシャンが集合。スナーキー・パピーのマイケル・リーグがプロデュースに絡んでいることもあり、日本からは国際的に活躍する天才ドラマー、小川慶太が参加。ストリングスを加えてブラジル音楽を演奏しているこの曲もなんだかシュールだ。

Banda Magda

 


こちらは日本が拠点の外国人バンド、ジョンソンズ・モーターカー。中心人物は、BRAHMANの別プロジェクトであるOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDのフロントマンとしても知られる、スコットランド系米国人のフィドル奏者マーティン。彼が、アイルランド人、オーストラリア人、そして日本人女性ドラマーという不思議なメンバーを集めて結成した。しかも、ケルト・ミュージックやジプシー・パンクをベースにしたロックンロールをパワフルに演奏していくので、国籍関係なく楽しめる。現在はメンバー2人が脱退し、2人組として活動中。

Johnsons Motorcar


アメリカ、アイルランド、オーストラリア、日本

 

多国籍バンドの最新型と言ってもいいのが、2017年に結成されたばかりのスーパーオーガニズムだ。もともとはロンドンのバンド、エヴァーソンズがジャパン・ツアーを行った際に、日本人シンガーのオロノと出会うことになり、その後インターネットでやり取りしながら楽曲制作を行い、デビューに至った。他のメンバーも、オーストラリア、ニュージーランド、韓国など出身もバラバラ。それぞれの感性が集まって個性的なバンドとなっている。

Superorganism

 


現在の音楽シーンでは、世界的にこういったジャンルや国境を横断するバンドやユニットが、日々当たり前のように増加している。多国籍だからといって珍しがっているのもバカバカしくなるような時代が、目前に迫っているのだ。


Text:栗本 斉
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣


関連リンク(mysoundサイトへ)

ゴーゴル・ボールデロ
プロジェクト・ママ・アース
バンダ・マグダ
ジョンソンズ・モーターカー
スーパーオーガニズム


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