6月にデビュー・アルバムを発表、現役の東大院生でユーチューバーの顔も持つ、角野隼斗とは?


2018年、ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリを受賞し、今年6月には初の公式アルバム『パッション』をリリース(デジタル限定配信発売)した角野隼斗。現在、東京大学大学院でAIの研究をしている現役の学生でもある。そしてCateen名義でYouTubeチャンネルを持つユーチューバーでもあるのだ。あらゆる音楽のジャンルを行き来しながらアクティブに活動している彼は、穏やかに、言葉を慎重に選びながらも、研究について、音楽について、興味深い話をいろいろと聞かせてくれた。

※ピティナとは、1966年に発足した、ピアノを中心とする音楽指導者の団体で、ピアノ指導者をはじめ、ピアノ学習者や音楽愛好者など、約16,000人の会員が所属する団体。
(ピティナHPより)

グランプリを受賞して、ピアノはただの趣味ではなくなった

 

―まずは、ピアノを始めたきっかけから教えてください。

角野:母がピアノの先生で、3歳頃から始めたみたいですが、最初の記憶は、4歳で初めてピティナのコンクールに出たことですね。当時は、A2級という幼稚園のクラスの下にA3級というクラスがあって、それが最初に出たコンクールです。5歳のときにはA2級で全国(決勝大会)まで行けて、その後ピティナには毎年出ていました。

―そして昨年はついに特級グランプリを受賞されて。

角野:よかったです、本当に。実は特級に出る前は、コンクールに出ることに対して、自分の中でマンネリ化というか、モチベーションが下がっていたんです。2016年の、大学3年のときには日本国内やアジアで行われた様々なコンクールに出たりしたんですけどコンクールに参加することの意味がわからなくなっていたんです。

―それは、なぜですか?

角野:音大生でもない人間が、コンクールなんか出て何の意味があるのかな、と思っていました。ピアノを弾くことは変わらず楽しいんですけど、目標というか、向き合い方がわからなくなっていたんです。そんなときに、特級に出ることを勧められて。これは大きな挑戦だし、しっかりやろうと。グランプリをとったことで、世界が一気に開けました。コンサートも爆発的に増えたし、こうやっていろいろなメディアで取材していただいたり。自分の中で、ピアノに対する思いが、ただの趣味ではなくなったというか、責任を持って音楽活動をしていこう、という覚悟ができました。

 

角野隼斗(1)

 

―開成中学・高校から東京大学に進まれたわけですが、音大に行こうと思ったことは?

角野:実は高校の頃は、ピアノというか、クラシックから気持ちが離れていたんです。部活でX JAPANのコピーバンドをやったりして。僕はドラムを叩いてまして。YOSHIKI、ですね(笑)。あと、音楽ゲームが好きで、jubeat(ユビート)というゲームの全国大会では、高3のときベスト8に入りました。これは、16個のマスから音が出てきて、それを正しいタイミングで指で叩くという、指でやるもぐらたたきみたいなゲームで、ピアノをやってる人はすぐ上手くなっちゃうんですよ(笑)。音ゲーは、音楽が電子音楽なので、エレクトロニカとかテクノとかも好きでしたね。

―そうして様々なジャンルを経由して、またクラシックに気持ちが戻ったわけですね。

角野:大学に入ってからですね、クラシックの楽しさを再認識したのは。再認識といっても、そもそも小学校の頃だって、クラシックをおもしろいと感じていたかどうか微妙です。おもしろいと感じる以前に、やっているのが当然、だったので。本番で弾くのは好きだったんですけど、練習は嫌いだったし。中学に入ってから、親から練習しろとあまり言われなくなったことで、開放感というか、ちょっと逃げというか、そんな感じになって。思春期にありがちな(笑)。でも、逃げる先は、ジャンルは違ってもやっぱり音楽でしたね。

―東大ではクラシックの「ピアノの会」とバンドサークル「POMP」の両方に所属されてたんですよね。

角野:はい、POMPではジャズもやってました。やっぱり、複雑に作りこまれているような音楽がおもしろいと思うようになって、ジャズを聴いたり、自分でも弾くようになって。そのうえでクラシックを聴くと、楽曲の構成や、ポリフォニックな和声、音色の美しさに改めて気がついて。アレンジ、作曲の勉強という意味でも、クラシックから学べることは本当に多いんです。

 

AIと音楽について研究中、AIと人間の演奏は“変さ”が違う!?

 

―アレンジといえば、YouTubeでチャンネルを持っているんですよね。米津玄師さんの曲なんかもピアノで演奏されてアップされてます。こういう活動はいつから?
 

youtube Cateen / Hayato Suminoチャンネル


角野:中学くらいからですね。ニコ動(ニコニコ動画)が盛り上がっていた頃で、自分でもやってみたいと思って、中3のとき初めてボカロとか音ゲーの曲をニコ動にアップしました。

―ほんとにジャンルの垣根がないですね~。自由!

角野:僕はジェイコブ・コリアーというアーティストが好きなのですが、彼もきっとジャンルのことなんか考えてないと思うんです。自分の表現したいものを突き詰めていった結果、新しい音楽が生まれた、ということだと思います。僕もジャンルのことは今はあまり考えてないです。もちろん、クラシックももっと勉強したいと思っていますが、最終的には自分で作った作品を自分の演奏を通して伝えたい、新しいものを表現したいなという思いがあるので、これからも編曲した曲や作曲した曲をYouTubeで公開していくつもりです。生配信も定期的にやっているので、ぜひ、チャットでリクエストなんかもしていただければ嬉しいです。

―昨年はフランスに留学されていたそうですね。

角野:フランス音響音楽研究所というところに、9月から5か月間行っていました。僕は音楽とAIの研究をやりたいと思っていて、今、院の研究室では自動採譜、自動編曲の研究をしているんです。音源を与えられたときに自動的にスコアに変換するというのは、ある程度は今の技術でもできるんですが、単純にスコアにするだけではあまりおもしろくないので、オーケストラの音源を、ピアノで演奏したときに近くなるようなスコアにする、要するに編曲が自動でできるような技術を研究しているんです。フランス音響音楽研究所はまさに僕がやりたいことを勉強できる場所でした。

―留学中、ピアノは?

角野:もちろん、ピアノも弾いていました。ご縁があって、ジャン=マルク・ルイサダ先生とクレール・テゼール先生につくことができて。ルイサダ先生にはショパンを、テゼール先生にはフランスものを主にレッスンしていただきました。パリでは何回かリサイタルもやりました。4月にはサール・コルトーというホールでやらせていただき、300人を超えるお客様にご来場いただけました。

 

角野隼斗(2)

 

―大学院を終えられあとは、どうされるんですか。

角野:研究もピアノも、どんな形にせよ両立させていきたいと思っています。すごく難しいことですけど、どちらも音楽のことなので、自分で音楽をやっている人間の視点は研究にも絶対メリットになると信じています。この前、とあるイベントでAIとジャズセッションしたんです。POMPの先輩にも参加してもらって、僕はピアノを弾いて。そのときおもしろいことがわかったのですが、AIと人間の演奏は“変さ”が違うんです。AIは人間をまねて作ってるのに、人間とは“ハズれ方”が違うんですよ。そこに、人間の下手な演奏を再現するよりはるかにおもしろい、新たな音楽があるんじゃないかと思いました。芸術の発展というのは、きっとそういうことなのかな、と。人間が予想できる範疇をちょっと超えたところ、それが新しいと感じられるんです。ものすごく遠いことをやると、なんだそりゃ、と理解されないんですよね。そういう“ちょっと超えたところ”をAIで探せるんじゃないかと、今、可能性を感じています。

より、ピアノに深く迫ったインタビューは、月刊ピアノ9月号(8月20日発売)に掲載。
https://www.ymm.co.jp/magazine/piano/


<PROFILE>
[角野隼斗(すみのはやと)]
1995年生まれ。2018年、ピティナピアノコンペティション特級グランプリ、及び文部科学大臣賞、スタインウェイ賞受賞。2002年、千葉音楽コンクール全部門最優秀賞を史上最年少(小1)にて受賞。2005年、ピティナピアノコンペティション全国大会にて、Jr.G 級金賞受賞。2011年および2017年、ショパン国際コンクール in ASIA 中学生の部および大学・一般部門アジア大会にてそれぞれ金賞受賞。これまでに国立ブラショフ・フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、千葉交響楽団等と共演。現在、東京大学大学院2年生。金子勝子、吉田友昭の各氏に師事。
2018年9月より半年間、フランス音響音楽研究所 (IRCAM) にて音楽情報処理の研究に従事。フランス留学中にクレール・テゼール、ジャン=マルク・ルイサダの各氏に師事。
2019年4月、パリにてソロリサイタルを開催し、好評を博す。国内外にてコンサート活動を行う他、自ら作編曲および演奏した動画をYouTubeにて発信し、総再生回数は500万回を突破している。

◆official HP https://hayatosum.com/
◆WARNER MUSIC JAPAN 角野隼斗 Webサイト https://wmg.jp/sumino-hayato/
◆youtubeチャンネル https://www.youtube.com/user/chopin8810
◆twitter https://twitter.com/880hz


<リリース情報>
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角野隼斗(すみのはやと) / パッション (Passion)
●仕様:SD/HD
●価格:¥800(税込)
●デジタル配信発売:2019年6月7日
[収録内容]
1 ショパン:スケルツォ 第1番 ロ短調 作品20
2 リスト:パガニーニ大練習曲集 S141 第3曲 嬰ト短調 「ラ・カンパネラ」
3 スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第5番 作品53
4-6 ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 作品36(1931年版)
角野隼斗(ピアノ)
録音:
2019年5月、東音ホール(ピティナ)
 

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<コンサート情報>
◆光が丘IMAプラチナコンサート 特別回 ~IMA音楽祭スペシャル~ 角野隼斗(ピアノ)
9月14日(土) 光が丘IMAホール 1部:11:30開演 / 2部:14:00開演
◆角野隼斗 ピアノ リサイタル
10月22日(火・祝) カワイ仙台 14:00開演

 


 

Interview&Text:手塚美和
Edit:オフィス41分