【レコにまつわるエトセトラ】第1回 レコード、オリジナル盤の魔力


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。中古レコードはもちろん、新品のアイテムも次々とリリースされています。
そのラインナップは往年の名作を再発したものもあれば、有名無名を問わず現行アーティスト/アイドルなどの新作や旧作もあり、単なる懐古趣味にとどまらない、現在進行系のムーブメントと言えるでしょう。

リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられていること。それこそが、現在のブームにつながっているように思います。
そういった流れもあり、レコードに興味を抱いている人が多い2019年の今。よりディープにこの世界の魅力をお伝えするべく、今回新たに始まるのが本連載【レコにまつわるエトセトラ】です。

音楽と音の専門店として、首都圏を中心にビギナーからマニアまで絶大な支持を誇るレコードチェーン、ディスクユニオン。その現・新宿プログレッシヴ・ロック館店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

記念すべき第1回は、“レコード、オリジナル盤の魔力”。一度ハマったら抜け出せない、蠱惑的な底なし沼への第一歩を踏み出してみては…?

“レコードを買う”という行為の魔力

レコにまつわるエトセトラ(1)

【KING CRIMSON『In The Court Of The Crimson King』(1969)ジャケット】

 

“オリジナル盤(俗称オリ)”、それは甘美な響き...。
レコードが好きな方にとって“オリジナル盤が欲しい”っていう気持ちは当たり前のように湧いて来るのですが、“好きな曲をもっと良い音で聴きたい”という純粋な気持ちもそこそこに、いざ集め始めるとそんなにスパッと竹を割ったような人ばかり、というわけにはいかなくなるようです。

愛も度を越して“偏愛”に変わり、レコード1枚で車1台買えるっていうぐらいのオリジナル盤を相当無理して買ったり、妙な使命感に燃えて細かいディティールが違うだけの同じアルバムを何十枚も買ってしまったり、仲間同士でのマウントの取り合いのためによりレアなレコードを探したり...まぁ私もレコード屋という職業上、色々な人を見てきました。

長年探していた夢の1枚を見つけた時にドバドバ溢れ出るアドレナリン、限定品を無事手に出来た時の安堵感、分不相応なレア盤を買った時の充足感と同時に襲ってくる自己嫌悪、はたまた奥さんに買い過ぎがバレて家庭崩壊一歩前の恐怖...もう楽しいんだか苦しいんだか、よく分からない禅問答を繰り返して立派な(?)コレクター道を歩むのです。

とまぁ、ここまでなんだか重めな話をしてしまいましたが、“レコードを買う”という行為にはそうやって人を狂わせるだけの魅力(ないし魔力)がギッシリ詰まっているということなんです。あしからず。

 

“オリジナル盤”って何?

レコにまつわるエトセトラ(2)

【レコードラベル例】

 

ということで始まりました、「レコにまつわるエトセトラ」。記念すべき第1回のテーマは、“結局オリジナル盤って何?”そんな素朴な疑問にお答えして行きましょう。

まず“オリジナル盤”と呼ばれるものには基本原則があります。
国や会社、そして作品そのものによっても複雑な事情が絡んでいるものもありますが、当時リリースされてからどこまでがオリジナルとみなされるかと言うと、基本は“見た目が変わるまで”です。
ラベル面に記載された住所が変わったり、ジャケットの取り出し口の位置が変わったり、クレームを受けてガラリとアートワークが変わったり、基本はリリース時から何かしらの見た目が変わった時点でオリジナルと呼ばれなくなるというわけです。

でもそれだけであれば、事がややこしくなったりしないんです。
今や長年の研究の積み重ねによりその条件付けは確立されてきたのですが、さらにここにオリジナルかどうかという話とは別軸でややこしい要素が加わってくるんです。それが“バリエーション”です。

音楽はアートであったとしても、レコードは大量生産品。ショービズが急激に成長を遂げた60~70年代、もうイケイケどんどんでレコードは増産されたのですが、複数のプレス工場で同時期に大量生産されていたということもあり、リリース当時に作られたいわゆる“オリジナル盤”判定のものであっても、様々なバリエーションが存在してしまったのです。

当時は今じゃとても考えられないですが、ある程度適当が許された実に平和な時代。曲名が間違っていたり、余っていたラベルを使い回したり、勝手にジャケットにラミネート加工を施したり、生産した工場によって色々なバリエーションが生まれてしまったわけです。
そのせいで数十年後に頭を悩ます人たちが山ほど現れてしまう、当時はそんな後世のコレクターたちのことなんて考えていなかったんです。そりゃそうだ。

 

コレクター泣かせでキケンな要素たっぷりの“マトリクス”

レコにまつわるエトセトラ(3)

【画像中心あたり、ピンク色のラベルと音溝の間に刻まれている記号と数字、「A//1」部分がマトリクス】

 

この意図しないバリエーションはエラーとも呼ばれていますが、意図されたバリエーションというものも存在します。それがコレクター泣かせで実にキケンな要素たっぷりの“マトリクス”と呼ばれるものです。

ちゃんと説明するとこの原稿1回分は必要なので細かい話はおいおいするとして、マトリクスとはオリジナル盤の下位概念っていうやつです。例えるならばオリジナル盤を“親”とすると“子供”っていうことですが、まぁこれが問題児なんですよ。

さらにもうちょっと具体的な話をすると、レコードの最内周部にはマトリクスをはじめとした情報が刻まれていて、見る人が見れば1枚のレコードの素性が分かるようになっているんです。
それがいつ、どこで、誰が作ったのか云々、分かってしまうのが運の尽き。コレクター足るもの、ただオリジナルっていうだけでは飽き足らず、もっと珍しいものを欲しくなるっていうのが性(さが)なんです。

ちなみに、皆さんご存知のプログレ代表作、KING CRIMSON『In The Court Of The Crimson King』(1969)の英国オリジナル盤は数万円はするお高い1枚なんですが、件のマトリクスによってはグーンとプライス・アップします。
言ってしまえばその条件って番号が1つ違うだけ(それが重要)なんですが、それを満たしさえすれば1枚100万円也。ああ恐ろしや。

さて“レコード、オリジナル盤の魔力”に迫った第1回、お楽しみいただけたでしょうか?
もし関心を持って頂けたなら、あなたの持っているレコード盤をじっくりと観察してみるのも一興かと。
次回以降も様々な【レコにまつわるエトセトラ】をお届けしていく予定ですので、お楽しみに!
 

 


 


Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千