『ジブリがいっぱいSPECIALショートショート 1992-2016』発売記念 座談会【前編】


7月17日発売の『ジブリがいっぱいSPECIALショートショート 1992-2016』のBlu-rayとDVD。スタジオジブリ制作のショートフィルムが75本入ったこのビデオには、ヤマハが制作した音楽が多く収録されている。そこで、「ヤマハとジブリの共同制作の歴史」に精通した者たちが一堂に会し、白熱の座談会を開催!

梅雨の晴れ間にジブリ社屋で開催されたこの座談会には、ヤマハから1人、ジブリから2人、スペシャルゲストの藤巻直哉の計4名が参加した(詳細プロフィールはページ最下部記載)。
佐多美保: ヤマハミュージックコミュニケーションズ所属。ジブリとヤマハの共同作業に、その発端から現在に至るまで関わり続けてきた。
渡邊宏行: スタジオジブリ制作部を経て、現在はジブリ美術館の事業部長。
古城環: スタジオジブリ歴25年以上。制作部副部長。
藤巻直哉: 博報堂の担当者としてジブリ作品の製作委員会に参加し、広告代理店としてタイアップを獲得し、さらに映画「崖の上のポニョ」では主題歌を歌ったりと、多面的にジブリ作品に関わってきた。

「これって劇場公開できないんじゃないか?」

ショートショート前編(1)

(左から 佐多美保、渡邊宏行、古城環、藤巻直哉)

 

—歴史順に話を進めるのが結局は分かりやすいと思うので古いものから順に話を始めます。ジブリとヤマハの関係の歴史は大半がジブリと佐多さんの歴史といえると思うのです。1995年のPV「On Your Mark」(CHAGE and ASKA)が、佐多さんとジブリが関わった一番古い作品ですよね。ちなみに、今回の「ショートショート 1992-2016」にも収録されています。最初の発売はヤマハではなくポニーキャニオンです。佐多さんは当時ポニーキャニオン所属だったんですよね。

佐多: はい、そうです。PV『On Your Mark』の制作をジブリにお願いした際のエピソードは、「ショートショート 1992-2016」のブックレットに掲載されているので割愛しますけど、ともかく、プロデューサーの鈴木(敏夫)さんも、それとおそらく監督の宮崎(駿)さんも、あのころ全盛期を迎えていたCHAGE and ASKAのことを全然知らなくて(笑)、でもなぜか引き受けてくれたんです。

古城: 現場はすごく大変だったんですよ。『On Your Mark』は、1995年7月公開の映画「耳をすませば」の併映作品になるわけですが、その前に、6月のCHAGE and ASKAのコンサートツアーで上映したいという話だったし。この話が来たのが1994年10月くらいです。111分の「耳をすませば」を作っている裏で、急に宮崎さんが6分の短編を作るぞ、と。「耳をすませば」だけですでにカツカツのスケジュールだったので、現場にはけっこう厳しい空気がありました。あの年は、阪神・淡路大震災(1995年1月17日)があって、社内からボランティアを派遣して、これでさらにスケジュールがきつくなったと思います。あと、制作中に地下鉄サリン事件(1995年3月20日)がありましたし……。『On Your Mark』って「何をしたのかはわからないけれど、宗教団体が警察と対峙することになる」内容じゃないですか。世間が事件で大騒ぎになっているときに、こちらはそんな内容のPVを作っている真っただ中なわけです。そんなことがあいまって、「これって劇場公開できないんじゃないか?」みたいな話も、社内の一部ではささやかれていました。

 

ショートショート前編(2)

Animation ©1995 Studio Ghibli
Music ©1994 by Yamaha Music Entertainment Holdings, Inc.
& Rockdom Artists Inc.


♪On Your Mark (CHAGE and ASKA)
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ショートショート前編(2)

 

「これ、ハウルには合わないけど、ハウスには合うかもしれない」

 

—こうしてポニーキャニオン時代の佐多さんとジブリの付き合いが始まったわけですが、2000年に佐多さんはヤマハに転職したんですね。その後、2004年までは、ヤマハとジブリは特に目立った交流はないようです。2004年にはまず、『ハウス食品「おうちで食べよう。」シリーズCM冬バージョン』が制作されます。この『冬バージョン』の音楽が、当時ヤマハに所属していたCAPSULE(中田ヤスタカ、こしじまとしこ)の「レトロメモリー」です。ちなみに、この一連のシリーズは全て、「ショートショート 1992-2016」に収録されています。

渡邊: 久石さんが曲を書き、上條恒彦さんが歌い、宮崎(駿)さんがイメージボードを描いて、百瀬(義行)さん(アニメーション映画監督)が演出した作品が最初に作った『夏バージョン』なんですけど、その後に、ハウス食品の新しいCMをまた作ることになって。今度は宮崎さんは関わらない、だから百瀬さんが絵コンテから描き下ろすという話になった。これが『冬バージョン』です。そのときに、百瀬さんが、『冬』に上條さんの曲を使うことに少し抵抗を示したんです。『冬』も同じく上條さんの曲だと、どうしても宮崎さんの前作に引きずられるところがあるでしょうから、できれば違う曲でやりかったのだと思うんです。

佐多: ちょうどそのころ、ジブリは映画「ハウルの動く城」の準備をしていました。それで、「ハウルの主題歌を探しています」という話があったので、いくつかプレゼンさせていただいたんですよ。その中で、「まあ、これは絶対にあり得ないだろうけど」って思いながら提案したのがCAPSULEだったんです。そしたら鈴木(敏夫)さんが、「ハウルには合わないけど、ハウスには合うかもしれない」って(笑)。さっそく翌日には、「使わせていただきます」とお返事をいただきました。

—中田ヤスタカさんは、当時はまだ有名にはなっていなかったですよね。

佐多: このころはまだ20代半ばですね。2004年ごろはもうPerfumeに曲は書いていましたが、Perfumeもまだそんなに売れていなかった。ですから、中田くんもまだそんなには有名じゃなかったです。ブレイクしたのはPerfumeの「ポリリズム」(2007年)を書いたころ。デビューから2、3作はその後のイメージとはだいぶ違う作風の曲を書いていたんです。

渡邊: たしかに今のCAPSULEとは全然違う、ちょっと歌謡曲的というか……。

古城: もうちょっと、懐メロっぽいというか。

佐多: 和風な……。

渡邊: そう、和風な感じでした。当時もめずらしかった。あんなに若いのにこんなに和風のメロディーをやっているというのが。最初に聴いたときは、「本当に百瀬さんはこれを気に入るのかなあ」みたいなことを思ったんですよ。そしたら、鈴木さんが、「いや絶対に気に入る」って。続けて、「おまえが好きかどうかは関係ない」と言われました。「作る百瀬さんが気に入るかどうかだ」と。すごく説教された(笑)。それで百瀬さんに聴かせたらあっさりと気に入ってくれたんですよね。

藤巻: 広告代理店の立場で担当していたのだけど、2016年に「おうちで食べよう。」キャンペーンを復活させたよね。そのバージョンは今回のビデオには入ってないの?

古城: それも入っています。シェリナ(ムナフ)さんが歌ったバージョンですね。いわゆる『「庭の千草」バージョン』です。

 

ショートショート前編(3)

©2004 Studio Ghibli

♪レトロメモリー(CAPSULE)
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「こんなに短い時間でタイアップが決まったのは初めてだ」

ショートショート前編(4)

 

—2004年と2005年は、ジブリとヤマハはかなり色々な作品を作っていますね。読売新聞企業CMの『瓦版編』と『どれどれ引越し編』、それから百瀬さんと中田ヤスタカさんのコンビの、いわゆるSF3部作と呼ばれる『ポータブル空港』『space station No.9』『空飛ぶ都市計画』。これらも全て、「ショートショート 1992-2016」に収録されています。

佐多: 『瓦版編』には、西村由紀江さんの「見果てぬ夢を探して」が収録されています。このCM、最初は音楽を使わない予定だったらしいのですが、急遽入れることになって、「何かないか」と言われたんですよね。で、その時ちょうどヤマハ社内で西村由紀江さんのニューアルバムを制作していて、しかもこのCMに合いそうだと。それでさっそく鈴木さんに聴いてもらったんです。そしたらその場で、「あ、もうこれにする!」って(笑)。うちの担当が、「こんなに短い時間でタイアップが決まったのは初めてだ」って言っていました(笑)。

—その次が『ポータブル空港』。「ショートショート 1992-2016」のブックレットを読むと、最初はもっと短い映像のつもりだったとか。

佐多: そうです。『On Your Mark』のときにだいぶお金がかかったのを知っていたので(笑)。最初は60秒だか90秒だかでお願いしたんです。ところが、最終的には180秒の作品になるわけです。

藤巻: 結局、お金がかかるわけですよね。

 

ショートショート前編(5)

Animation ©2004 STUDIO KAJINO
Music ©2004 by Yamaha Music Entertainment Holdings, Inc.


佐多: お金かかりました(笑)。

藤巻: 時間をかけ過ぎたから?

渡邊: そうですね。しょうがない。いや、しょうがないとか言っちゃいけない(笑)。単純にこの時期はスタッフが払底していたので……。百瀬さん以外のスタッフはほぼ全員、「ハウルの動く城」のほうにかかりっきりでした。それで百瀬さんと相談して、じゃあ少しCGを使って作ろうかという話になりました。外からCGアーティストを呼んできて、それで作り始めたんです。

—『ポータブル空港』ができて、これはいい感じだぞとなって、三部作になっていくわけですか?

佐多:  それはもう、私たちとしては提示されたものがあまりに素晴らしくて、ため息しか出なかった。あの曲をよくぞここまで広げてくださったっていうので、もう本当に感激しました。びっくりした。今見てもすごいと思う。

 

ショートショート前編(6)

(左:space station No.9  右:空飛ぶ都市計画)


Animation ©2005 STUDIO KAJINO
Music ©2005 by Yamaha Music Entertainment Holdings, Inc.


渡邊: 今見ても本当にすごい作品です。百瀬さんと中田くんがぴったり合ったんですよ。でもやっぱりね、最初はピリピリしてるんですよ(笑)。お互いのクリエイティブなものを、こう、ずっと測りあっているわけですから。だから、肩組んでわあわあ言うような感じにはなってない。でもそれがものすごく良かったと思います。

—時系列では、『ポータブル空港』のあとに『どれどれ引越し編』が出るのですが、SF三部作の流れでお話していただいたほうがスムーズかと思うので、『どれどれ引越し編』は一旦おきますね。

佐多: 『ポータブル空港』のあとに、ジブリさんの方から「次のやつやりましょう」とお声がけいただいて。「やらせていただけるんだったら是非!」という感じで。

渡邊: 最初は1本の予定でしたが、次の「space station No.9」をやるときにはもう3部作にしようという話があった。

佐多: はい、話は出ていましたね。映像を作るのは時間がかかるから、「space station No.9」は、(CAPSULEの)次の次のアルバムに入れるくらいの気持ちで待っていました。PVが完成するまで寝かせたわけです。

渡邊: 個人的な感想を言いますと、SF3部作はとにかくすべてがコンセプチュアルだったんですよ。親子ぐらいの年齢の差があった中田くんと百瀬さんがものすごくぴったりと合った。レトロフューチャーな世界観を中心にして、テクノライクな楽曲とCGライクなアニメーションがとてもエネルギーを持って混ざり合った作品になっているんです。特別にエネルギーを持ったのは、ふたりの年齢の差が大きく関係していると思っています。

♪ポータブル空港(CAPSULE)
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♪space station No.9(CAPSULE)
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「コオロギが、こう、車にビューンって轢かれたりとかするんですよ」

ショートショート前編(7)

Animation ©2005 Studio Ghibli
Music ©2005 by Yamaha Music Entertainment Holdings,Inc.


—2006年に、映画『ジュディ・ジェディ』が劇場公開されますね。押井守監督の「立喰師列伝」との同時上映です。こちらは、SF3部作を並べて、作品の間をつなぐ映像を百瀬さんが新たに作りました。つなぎ部分の音楽「SEQ24」も中田ヤスタカさんが新たに書いたものです。ここで、先ほど飛ばしてしまった『どれどれ引越し編』の話に戻りたいと思います。楽曲は拝郷メイコさんの『どれどれの唄』。『どれどれの唄』のPVを含め、「ショートショート 1992-2016」には、これらが全て収録されています。

古城: このPVは、かなりシュールなんですよね。

渡邊: シュール(笑)。

古城: コオロギが、こう、車にビューンって轢かれたりするんですよ。

全員: (笑)

古城: なんかダンゴムシがおしっこしてたりとか。かなりシュールなんだけど、すごい作品なの。

渡邊: そう! もうやっぱり天才田辺修しか作れない作品。

藤巻: これCMもPVも、ジブリにお任せで出来上がったものなの? つまり、こういう内容のものを作ってくださいという話から始まるのではなく。

佐多: そうです。まず先にCMが出来上がって、それを拝見させていただきました。PVのほうもこちらからお願いしたのではなくて、全編作りますっていう話で。それはもう、こちらとしては「ありがとうございまーす!」っていう(笑)。

※後編に続く。(後編は7月18日公開予定)

 >後編の記事はコチラ! 

 


 

<PROFILE>
佐多 美保(さた みほ)
1984年、キャニオンレコード(現ポニーキャニオン)入社。アーティストの音楽制作、原盤制作、A&Rを担当。2000年よりヤマハミュージックコミュニケーションズ勤務。以来、制作、宣伝、音楽出版、アーティストマネジメントに関連した仕事を担当。

渡邊 宏行(わたなべ ひろゆき)
1964年長野県生まれ。慶應大学文学部卒業。ワーナー・パイオニア、パイオニアLDC等に勤務。1999年にスタジオジブリに入社し制作業務を担当。「ハウルの動く城」(2004年)より制作担当として制作進行の管理を行う。2011年に三鷹の森ジブリ美術館へ異動。カフェ「麦わらぼうし」の店長、公益財団法人徳間記念アニメーション財団の事務局長を経て、現在、株式会社ジブリ美術館事業部長。

古城 環(こじょう たまき)
1976年東京都生まれ。1993年にスタジオジブリ入社し、「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994年)から「もののけ姫」(1997年)まで撮影を担当。「ホーホケキョとなりの山田くん」(1999年)で監督助手を担当し、「千と千尋の神隠し」(2001年)からは制作部ポストプロダクション班。2010年「借りぐらしのアリエッティ」では制作デスク。「コクリコ坂から」(2011年)から「思い出のマーニー」(2014年)は制作担当として制作進行の管理を行う。「かぐや姫の物語」(2013年)では、石上中納言役で声優も担当した。現在、制作部副部長。

藤巻直哉(ふじまき なおや)
1952年東京都生まれ。慶應大学法学部卒業。1974年に藤岡孝章らとバンド「まりちゃんズ」を結成。1977年に博報堂入社し、メディア・コンテンツカンパニーエンタテインメント・文化事業局の局長代理などを歴任。スタジオジブリ作品など数々の映画製作を手掛けた。2005年に音楽ユニット「藤岡藤巻」を結成。2012年に自身の会社である株式会社デスパを設立。2019年からはユーチューバーとしても活動中。
https://www.youtube.com/channel/UC3-sE1aPwf7DTY4E4u-2GTg


<リリース情報>
ジブリがいっぱいSPECIAL ショートショート 1992-2016

ショートショート前編(8)

 

『ジブリがいっぱいSPECIAL ショートショート』が装いも新たに新登場!スタジオジブリが2016年までに新たに制作した短編作品を追加収録した貴重な作品集!

2019年7月17日発売
ブルーレイ:4,700円+税
DVD:3,800円+税
商品の詳細は→http://www.ghibli.jp/info/013036/
https://www.disney.co.jp/studio/ghibli/1505.html


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https://www.disney.co.jp/studio/news/20190703_01.html

今回は特別に、こちらの記事をお読みいただいた読者の中から抽選で10名さまに、この<ジジのパスケースホルダー>をプレゼント!どなたでもご応募いただけます。

みなさまのご応募、おまちしております!
応募期間:7月18日(木)~8月8日(木)受付分まで
当選者の発表は、発送をもって代えさせていただきます。

ショートショート前編(9)

© 1989 角野栄子・Studio Ghibli・N

 

 

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Interview&Text:品川徹

Photo:上飯坂一