【レコにまつわるエトセトラ】第2回 レコード芸術~魅惑のジャケットの世界


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。
そういった流れの中でよりディープにこの世界の魅力をお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿プログレッシヴ・ロック館店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。


第2回のテーマは、“レコード芸術~魅惑のジャケットの世界”。レコードを単なる消耗品ではなく、“アート”たらしめる多種多様な意匠が施されたジャケットの魅力に迫ります。

ジャケット…そこには、フェティッシュな要素がてんこ盛り。

 

レコードはアナログ工芸品。
昨今のサブスクのようなデータ音源は言うまでもなく、CDを代表とするデジタル以降のメディアと、アナログ時代のレコードとを大きく隔てるもの、それはジャケットの存在。
別にそれはCDにだってあるじゃない、なんて思うかも知れませんが、単なる1枚の絵としての見た目だけの話ではないんです。
レコードの大きさだからこそ実現し得る変形ジャケットとバラエティーに飛んだ付属品、プラスチック一辺倒では表現出来ない多様な素材を用いた特殊ギミック、そして時代を経たからこそ帯びるヴィンテージな風合い...。
半ば採算度外視だって許された古き良きあの頃、レコード会社やアーティストたちは30cmx30cmの世界の中で競うかのようにアートしてたんです。

そんなこともあって、それぞれはっきりとした個性を持つようになったレコードたち。深く知れば知るほどその個性に気づき、人の蒐集欲を内側からえぐるようにくすぐる、そんなフェティッシュな要素がてんこ盛りになっています。
しかも1枚のレコードが持つその個性は永久不滅なものではなく、時代を経て増産や再発を繰り返す度に薄れていってしまうもの。
いわゆるオリジナル盤を皆が血眼になって探すのは、サウンドだけではなくこうしたジャケットの存在もまた大きいものです。

ちなみに365日レコードを触っている私ですが、そんなことを20年以上も続けていると、目をつぶっていてもある程度そのレコードの個性、つまるところ素性が分かるようになりました。
弁当屋のご飯よろしく手に持って重さを感じ取り、さながらエステティシャンのようにすべすべとジャケットの肌触りを確認し、果ては警察犬がごとくクンクンとジャケットの内側の臭いを嗅げば、もう決まり。
そのレコードがいつどこで生まれたのかが(ある程度)分かるんです。愛好家の中ではあるあるネタなんですが、それがなんの役に立つのかって? それは聞かない約束です...。

 

擦って匂えば、甘酸っぱい青春サウンドの香りが…。

 

それではそんな個性が溢れかえるジャケットたちの中から、厳選して2枚をご紹介しましょう。

 

レコにまつわるエトセトラ2(1)

 

まずトップバッターはRASPBERRIESの’72年デビュー作『Raspberries』。
パワーポップ名作として知られる1枚で、オープニング・ナンバー「Go All the Way」は誰もが一度は耳にしたことのある名曲でしょう。

 

RASPBERRIES / Go All the Way


そんなアルバムのジャケットは一見ごくごく普通の爽やかテイストなんですが、このタイトルが書かれたステッカー部分、擦るともっと爽やかなんです。

 

レコにまつわるエトセトラ2(1)

 

“SCRATCH THIS STICKER AND SNIFF!”と書かれている通り、擦って匂えばここからほんのりラズベリーの香りがするっていう、甘酸っぱい青春サウンドを香りでも表現した名作ジャケットです。
今やステッカーがなくなってしまっているものも多いので、お店で見つけた時は嬉しくなってついつい匂ってしまうのですが、あんまり必死になってクンクンしているとヤバイ人に思われるかもしれませんのでご注意を。

 

レコードさんがおパンティーを履く!?

 

ALICE COOPER / School's Out


そしてもう1枚紹介させていただきたいのは、ALICE COOPERの出世作でもある'72年作『School's Out』。
中でもタイトル・トラックの「School's Out」は、“永遠の夏休み”を描きスマッシュ・ヒットを果たした1曲です。
そしてその内容もさることながら、本作のジャケットはレコード芸術を地で行く素晴らしい作品なんです。

 

レコにまつわるエトセトラ2(3)

 

このジャケットをデザインしたのはデザイナーのクレイグ・ブラウン。ROLLING STONESのあの“ベロ”ロゴを生み出したクルーのうちの1人です。
本作ではメンバーたちがガリガリ名前を彫った学校の机をデザイン・ソースにして、ジャケット内面には机の中身も再現、そして裏側の羽根部分を立ち上げれば本物さながらの立体感が出る、そんなギミックたっぷりの変形ジャケットにデザインされています。
ただ、本作のデザインでさらに注目すべきはその中身でしょう。

 

レコにまつわるエトセトラ2(4)

 

なんとこんな紙製のおパンティーが付属してくるのです。
もちろんレコード専用なので履かせてみるとこんな感じ。

 

レコにまつわるエトセトラ2(5)

 

レコードさんがおパンティーを履く、なんともシュールな絵面です。

しかもこのパンティー、色やデザインが違ったりと各国盤含めると様々なバリエーションが存在するんです。
当時の人たちが妙なこだわりを見せた結果、今ではそれらを全部集めてやろうとするツワモノたちも現れました。
私も今まで数多くのパンティーを見たり触ったりしてきましたが、経年なのかどうなのか何やら薄汚れていたり変色していたりして、触るのをちょっと躊躇することもしばしば。
しかもなんならパンツだけが失くなっていたりするのを見ると、想像が膨らんで何やら複雑な気持ちになるものです...。

ちなみにRASPBERRIESとALICE COOPERのこのギミック、なんと国内盤紙ジャケットCDでもめでたく再現されています。もちろん香りもパンティーもです。
芸術たるレコード・ジャケットの世界をCDサイズでも忠実に再現するという、使命感にも似た心意気。
日本人のレコード愛がCDにも如何なく発揮された、素晴らしき好例ではないでしょうか。リスペクト。

 


 

Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千