異端のハードロックバンド「人間椅子」デビュー30周年記念ライブレポート


「人間椅子が最近“きてる”らしい」そんな話を聞いたのが3〜4年前。
「えっ? マジ? 人間椅子ってまだやってんの?」それが、その時の正直な感想だった。僕は、人間椅子と同世代のオーバー50歳。もちろん人間椅子とは面識などあるはずもなく、イカ天をテレビで学生時代に見ていた口だ。僕にはいま高校生と中学生という扱いの難しい年頃の息子と娘がいて、中央線沿線の高円寺の隣の隣あたりの駅に住んでいて、足腰の弱くなった親の問題も抱えている。そして後半の人生をそろそろ意識し始めなくちゃいけない。昔はちょっとだけバンドもやっていて、でもそれはすぐに諦めて。「生活」をとった。そんな中年だ……と、そもそもこんな出だしで自分語りを始めちゃうライブレポなんて普通はありえないんだけど。大丈夫、これはライブレポ。異端のハードロックバンドで、デビュー30周年記念アルバム『新青年』を発表した人間椅子のまごう事なきライブレポです。

人間椅子の30年と、夏休みの計画がクロスオーバー!!!

 

まず言っておかなければならないのは、僕は人間椅子の熱心なファンじゃないってこと。生の人間椅子を観るのは初めてだ。子供たちの夏休みが始まって数日後の7月26日(金)。我が家は今年の夏休み後半、嫁の親戚がいる宮城を起点に、「行ったことのない東北地方を1週間、車で回ってみよう!」という話になっていた。難しい年頃の子供たちと、おそらく最後になるであろう家族旅行。気まずい車内の雰囲気を考えると気が重くなってて、さらに「夏休み始まっちゃったじゃん! 計画立てなくちゃいけないのに、どうすんの? どこ行くかも決まってないんだよ! 東北って広いんだからさ! 早くしないと宿取れないよ!」と嫁のイライラは破裂寸前。それを背に受けその日、僕は逃げるように家を出た。目的地は豊洲PIT。「三十周年記念オリジナルアルバム『新青年』リリースワンマンツアー」を行っている人間椅子のツアーファイナルだ。
去年、人間椅子のフロントマン・和嶋慎治のインタビュー(「苦しみを楽しめ!」人間椅子・和嶋慎治の屈折人生を支えた光)をさせてもらった縁で、ライブにお誘い頂いたのだ。そのインタビューでは「続けることで捨てなくてはならないこと」「逃げられない覚悟」そして「続けることの先の希望」などを聞かせてもらった。その時のインタビューを読み返しながら、豊洲に向かう。中央線沿線から豊洲への経路は若干ややこしくて、いろいろ乗り換えなくてはならない。乗り換えでマゴマゴしつつ、豊洲に近づくにつれ黒ティーシャツ姿がちらほら増えてくる。浴衣姿の女性の姿も。間違いない。道は間違っていない!

 

人間椅子ライブレポ(1)

撮影:ヴィンセント秋山

 

果たして豊洲につけば。すでに多くの熱心なファンが集まっていた。この日のためにまだまだ集まる。 豊洲PITは大きい。ステージも広い。その会場が、人間椅子の30年を祝う人々で埋め尽くされていた。僕は会場の一番後ろで開演を待った。19時を過ぎると、会場にSE『新青年』の1曲目「新青年まえがき」がかかる。そう、世界が始まったのだ。新しい時代へ、新しい世界へと歌詞が響く。

和嶋慎治(Vo&G)、鈴木研一(Vo&B)、ナカジマノブ(Vo&Dr)。1曲目は「あなたの知らない世界」。そこには僕が、ブラウン管を通してCDを通して知っていた人間椅子の世界から“全く変わっていない30年続く世界”があり、と、同時に想像していたものと全然違う“知らない世界”があったのだ。

 

人間椅子ライブレポ(2)

 

思っていたのとは全然違う! 稀有なバンド人間椅子を今こそ追いかけるべきだ!

 

そもそも、あまり人間椅子を聞いてこなかった僕も御多分に漏れず彼らを「イロモノ」「怪奇派」「おどろおどろしい」「地獄」……などと思っていた。それはもちろん、インタビュー時にご本人にも恥ずかしながらお伝えした。そしてこの再ブレイクと言っていい状況においても、僕はまだ懐かしいモノを観る気持ちでやってきていた。さらに、再ブレイクの一つのきっかけと言ってもいい、和嶋のももいろクローバーZとの共演などを通して知った若い人たちと一緒に、僕ら「イカ天世代」のお客さんが彼らを今も支えているんだろうな、と。そんな会場の雰囲気なんだろうな、と想像していた。「おどろおどろしい」とか「怪奇」とかの彼らの世界観が、若い人には物珍しく、そして昔からの世代にとっては懐かしく支持されているんだろうと。でもそれは全然違っていたんだ!
そもそも客層が全然違った。10代、20代、30代、40代、50代、60代が満遍なくいる。そしてとにかくアグレッシブなステージ。MCで和嶋は言う。

 

人間椅子ライブレポ(3)

 

「一喜一憂しながら30年。この『新青年』が30年で一番売れました!」

江戸川乱歩や夢野久作がデビューし、その後も執筆していた雑誌『新青年』からタイトルをとった今回のアルバム。さらに和嶋は言う。

「YouTubeをはじめました! ぜひ、チャンネル登録してください。「無常のスキャット」も100万回再生を超えまして。このライブも、生配信しています! 世界に配信! なので世界の人々にも挨拶しなくては。ウイ アー ジャパニーズ ハードロックバンド ニンゲンイス!」

………なんだこれは? 一番売れた? YouTube? あれ? おどろおどろしい陰鬱な世界は? まるで現在進行形で、売れだしているバンドを見ている様じゃないか。30年前に一度売れて再ブレイクしたベテラン感もない。30年売れ続けている大物ミュージシャン感があるわけもない。売れて浮かれているわけでもない。かといってペシミティブなわけでもない。懐かしさなんて微塵もない。初々しささえ醸し出す。メンバー全員が楽しくて楽しくてしかたがないといったステージ。本当に、こういう世界観が好きで、音楽が好きで、本当にそれだけが好きで続けてきたロックバンド。それがいま売れだしている! その瞬間に立ち会っているような感覚。いや、「感覚」じゃない。じっさいに立ち会ってるんだ。まるで20代の上り調子のバンドみているみたいだけど、フロントマンふたりは50代。考えてみたらこんな稀有なバンド、他にいない。なんだかすごいモノを僕は見ている気持ちになっていった。これはエレベーターの一番上なのか? いや、まだまだ行くはず。
 

YouTube生配信も行われた本公演のライブ映像より「無情のスキャット」

 

趣がハンパね〜! 盆栽の様なバンド それが、人間椅子だ!!

 

ブレずにずっと続けていた……彼らを評す時、よく言われることだ。江戸川乱歩が、夢野久作が、そうした世界観が好きで、ハードロックが好きで、それをずっと続けてきた30年。でも彼らのステージを観ながら改めて思う。20代、30代の若造が、これをやっていたとしても全然響かないんじゃないか、と。でも今、50過ぎたからこそ。歳をとり、白髪と白髭の着物姿。坊主頭の白塗りの中年男。色眼鏡のリーゼント。じつに説得力がある。加齢が世界観にこんなにプラスに働くなんて! 売れるべくして売れたんだ。まるで盆栽のようなバンド。僕は気づいていなかった。

 

人間椅子ライブレポ(4)

 

「せっかく椅子があるから。ここからは座った方が」とは鈴木のMC。
そして、「幻色の孤島」が始まった。後半のインストを聴きながら感じた爽快感。そうか、あなたたちはこういうことをやりたかったんだ! この大きな会場で好きなことをやり切れる特権! やばい。泣けてきた。さらに鈴木のMCが続く。
「もうすぐKISSがやってきます。私たち、日本のブラックサバスなんて言われていますが、3人の共通点がKISSなんです。いま、END OF THE ROADなんて言ってますが、まだ大丈夫。10年ぐらい続くと見ていますよ、僕は」

彼らが言うと、説得力があり過ぎる。 「おどろおどろしさ」を歌にしながら、なんとも生き生きとしたステージング。広いステージを楽しそうに駆け巡る和嶋。ノリノリの鈴木。そして兄貴コールを呼び込むナカジマノブ。拳を突き上げる客。 本人は「屈折している」とは言ってたけれど、ぜんぜん屈折していないじゃないか! 屈折を使い果たして真っ直ぐになっちゃったんじゃないか!? とさえ思わされる唯一無二のハードロックバンドがそこにいた。

 

人間椅子ライブレポ(5)

 

そしてついにステージはラストへ向かう。 そこで鈴木のMC

「じつは、我々の備品ではシールドの長さが足りなかったんです。和嶋くんの左に僕はいけなくて。僕の右側に和嶋くんは来れない!」

 和嶋も続ける

「30年やって、まだ、大きな会場に慣れていないのです(笑)

なんとも奇跡のバランス。まだまだ初々しい50代。

 

人間椅子ライブレポ(6)

 

「どっとはらい」12月13日の金曜日。中野サンプラザで会いましょう!

 

 狂気の世界。決して暗いわけじゃない。暗い世界観なだけ。人生100年時代のモデルケースと言ったら言い過ぎだろうか。アンコールの曲は「どっとはらい」。東北弁で「また会いましょう」とのタイトルで12月13日の金曜日、中野サンプラザでワンマンが決定したそうだ。その時までには、長めのケーブルを用意してくれているだろう。 最後まで、誰よりも別れを惜しむ3人に涙が出た。生きることの喜びをもらった。

 

人間椅子ライブレポ(7)

 

今年の我が家の夏休みは、青森まで行ってみようかと思う。車内で『新青年』をかけ始めたら、難しい年頃の子どもたちはどう思うだろうか。少し、楽しみだ。

 

人間椅子ライブレポ(8)

 

三十周年記念オリジナルアルバム『新青年』リリースワンマンツアー
2019年7月26日(金)東京・豊洲PIT
<セットリスト>
01. あなたの知らない世界
02. 地獄のご馳走
03. 鏡地獄
04. 地獄の料理人
05. 盗人讃歌
06. 幻色の孤島
07. 無情のスキャット
08. 太陽黒点
09. いろはにほへと
10. 瀆神
11. 今昔聖
12. 地獄小僧
13. 地獄の申し子
14. 超自然現象
15. 針の山
EN1-01. 月のアペニン山
EN1-02. 地獄風景
EN2-01. どっとはらい

 


 

Text:ヴィンセント秋山
Photo:堀田芳香

 

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