【レコにまつわるエトセトラ】第3回 コンディションのハナシ~グレーディング編


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。
そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿プログレッシヴ・ロック館店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。
第3回のテーマは、“コンディションのハナシ~グレーディング編”。オリジナル盤の発売から年月が経つほどに、保存状態が良好な品物は少なくなっていく傾向にあります。自然、状態が良いものの価値は上昇していき、並くらいの品物との価格差は何十倍なんていうことも…。そこを分かつ基準、すなわち“グレーディング”の奥深き世界を覗いてみて下さい。

美品はどんどん高価で入手難に…。大事なのは“コンディション”との上手な付き合い方。

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車窓にて。PINK FLOYDネタです。これが見えるとイギリスに来たな感が出ます。

 

今回この記事はヨーロッパ買付中に書いているんですが、こうして国内外問わず毎日レコードを見続けて体感するのは、60~70年代のオリジナル盤の中でも特に保存状態が良好な、いわゆる“美品”と呼ばれるものが年々少なくなって来ているという事実です。

もう生産されてから50年余りの年月が流れ、当然増えることもないので当たり前っちゃー当たり前なんですが、当時のレコードたちはあくまで有限の文化遺産なんだというリアルな現実を日々突きつけられています。

そんな現状もあって、近年美品の需要と供給のバランスは少しずつ崩れ始め、中古市場において美品とそうでないものの価格差は広がる一方。特にビートルズのような王道アーティストであればあるほど、その傾向は強まるばかりです。

コレクションの全てを美品で揃えたいっていうのは誰もが思うところですが、経済状況と入手難度を考えると大半の人にとってはちょっと非現実的。そんなこともあって、現代のコレクターたちは誰もが“コンディション”との上手な付き合い方を知っているものです。

諸先輩方の背中を見ながら失敗を繰り返し身体で覚える、私も含め以前は皆そんな職人スタイルで徐々に学んでいったものですが、ネット時代の現代においてもそれを踏襲しているのか、もう一歩踏み込んでキチンと説明した本や記事が見当たらない気もします。

レコードを生業にするものにとって、入口に妙なハードルの高さがあるのも如何なものか、そんな思いも芽生えて来たので、今回は私からそんなコンディションのイロハをお伝えできればと思います。

 

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危険な角度のキズ。溝に沿った横傷は飛びます。

 

ということで、今回はグレーディングのお話をいたしましょう。
グレーディングっていうのは、いわばレコードの状態の格付けみたいなもの。
遡ることインターネット普及以前、実物はもちろん画像だって見れなかった文字面だけの通販リストで使われ始めたのをきっかけに、今やレコードの価値評価においてなくてはならない要素の1つになりました。

その格付け方法としては、“5”や“10”のような数字、“A”や“B”のような文字、果ては「A面1曲目:プチ×6回、ボツ×3回…」みたいに、オノマトペをフル活用していっそのこと全部説明しちゃおうなんていう(ちょっとマッドな)スタイルまで、多種多様な方法が存在します。

そんな中でも最も多く使われ、今や世界標準として市民権を得たのが“EX”や“VG”を用いたグレーディング方式です。レコードが好きな方であれば100%ご存知のこの方式ですが、意外と知られていないこともあるんです。

まずは基本からおさらいしましょう。
ちょっとまとめてみましたので、以下表をご覧ください。

 

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馴染みのない方にとって最初の引っ掛かりポイントはその呼称です。
“VERY GOOD”や“GOOD”等、パッと聞きでは結構な良品を指しそうな表現ですが、そこは初見殺し。表を見れば分かるように、“場合によっては”状態としては下から数えた方が早かったりします。

学校の通知表なんかでも使われている、一般的な呼び方(日本語で言うところの“優・良・可”)なので決して特殊ではないのですが、レコードに当てはめてみると違和感を感じるのも無理はありません。
特に馴染みの薄い私たち日本人にとっては、 その言葉が持つ本来の意味は一旦忘れる、それが基本です。

 

“VERY GOOD”=“大変良好”ではない? グレーディング方式の違いが生む混乱。

 

とまぁここまではそんなの知ってるよっていう方も多いかもしれませんが、この方式は決して世界統一基準ではないということは案外知られていないようです。

表を見た時点でお察しかとは思いますが、同じグレーディング方式でも複数のタイプが存在しており、例え同じ“VG"であっても採用方式によって随分と意味合いが違ってしまうのです。

これは各国において影響力のあるプライス・ガイドに端を発します。
プライス・ガイドというのは、辞書さながらにアルファベット順でざーっとタイトルが並び、オリジナルの条件や付属物の有無、そして目安となる価格が掲載されている本です。インターネット以前は多くの人が使用したこともあり、中古市場の価格相場にも強い影響力を持っていました。

 

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『RARE RECORD PRICE GUIDE』

 

イギリスで最も影響力のあるプライス・ガイドはRECORD COLLECTOR誌が発行している『RARE RECORD PRICE GUIDE』。2年に一度リリースされ、現在もなおイギリス国内ではプライス・リーダーとして影響力を持つプライス・ガイドです。

 

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『GOLDMIME RECORD ALBUM PRICE GUIDE』

 

そしてアメリカで名を馳せるのはGOLDMINE MAGAZINE誌による『GOLDMIME RECORD ALBUM PRICE GUIDE』。

世界的にも影響力のあるこの2大誌のグレーディング方法に大きな違いがあったのが全ての混乱の始まり。もっと具体的に言えば、“EX"の有無こそが混乱のタネだったんです。

こうしてとある“VG"の表記を見る度に、その店や個人がUS式とUK式のどちらを採用しているのかを知る必要が出てきてしまったということです。

現在でも多くのヨーロッパ諸国ではUK式が採用されていることが多く、アメリカではUS式がメインになるでしょう。そしてここ日本ではUK式が主流となるでしょうか。でもいずれの国でも結局は店によりけりなんです。

また、今中古市場に(良くも悪くも)強い影響力を持つモンスター・コンテンツ『Discogs』(https://www.discogs.com/)はUS式を採用しています。
WikipediaとAmazonを融合させたかのようなデータベース・サイトであるDiscogsの登場は、全ての価値相場をひっくり返してしまう程のインパクトがありました。まぁインターネットとレコードの関係は色々と積もる話もあるんで、詳しくはまた今度。

ということで、世界中で様々なスタイルが採用されてはいますが、“+”や“-”を使いさらに詳細なグレーディングを可能にしたスタイルが一般的になって来ており、個人的にも一番フィットします。
コンディション差によって著しい価格差が出てきている昨今、求められているのはやはりより細かいグレーディング方式でしょう。ちなみにディスクユニオンでも、基本的にはこの方式を採用しています。

ただこの“+”や“-”も使い様ってやつで、“VG++++”とか“M--”とか、もう結局なんだかよく分からない表記まで出てきてしまっている次第です…。
とにかくインターネットでレコードを買う時には、まず商品ページ等に記載されているグレーディング一覧を確認しましょう。

 

グレーディングとは、揺らぐもの。結局は自分で見て、触って、聴いて確かめるのが一番。

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ディスクユニオンでお馴染みのプライス・カード。下の方にコンディションを記載しています。

 

とまぁここまで書いておいてなんですが、前提として一番肝に命じておかなければならないのは、やっぱりグレーディングっていうのはあくまで主観によるということ。人によって多かれ少なかれ、感覚の差っていうのがあるものです。

1人でやっている店ならばいざ知れず、複数人が値付けに関わっている店であれば、同じ店であってもグレーディングが揺らぐものです。しかも売りたい欲が先行したオーバー・グレーディングなんていうこともしばしば…。
数百円ならばいざ知れず、5万、10万もするレア盤を通販してみたら、パッと見分からないけど実は深いキズがありました、なんて誰もが避けたいところです。

じゃあどうすればいいのよってことになりますが、結局はレコード屋に行って、実物を見て聴いて買うのが一番ではないでしょうか?

別に無理矢理こじつけて自分の店に誘導しようっていうわけじゃないんですが、値段や音楽ジャンルによって買い分けしたりなんかして、コンディションとの上手な付き合い方、つまりは自分なりのレコードの楽しみ方を探していくと良いんじゃないかという提案です。一件落着!

 

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※あくまでイメージです。あしからず。

 

※注意※ ここから先はどうかしてる人用の追加記事です

友人のイギリス人コレクターで随分と本気な方がいるんですが、彼の本気振りは実に徹底しています。

ebayで“MINT/UNPLAY”と表記されていたとあるレア盤を彼が落札した時のことです。彼はいわゆるガチガチのミント・コレクターで、“MINT”しかも“UNPLAY”と言うのであれば、感覚ではなく科学的にそれを検証するのです。
盤面の擦れや傷はもちろん、光沢やスピンドル・マーク(センター・ホール付近にできる擦れ跡。俗称“ヒゲ”)をどんなに肉眼でチェックしようとも、本当に一度もプレイされたことがないかどうかは分からないでしょう。

 

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ヒゲが多いものは、プレイ回数が多い証拠です。

 

そこで彼が用意するものは、電子顕微鏡。それでレコードの最外周部の音溝が始まる直前の部分をチェックするわけです。その部分はパッと見どんなに綺麗でも、一度プレイすれば針が通ったトレース痕が残ってしまうんです。
そして彼はそのトレース痕の残った部分を拡大して撮影、その写真を出品者に送って返品するわけです。しかも毎回それをやってます。

こうして彼に付いた通り名は“Detective(探偵)”または“Researcher(研究者)”。まぁ通り名といっても、ほとんど自分で言ってるだけっていうところがまた彼のヤバさを強調します。
しかもこんだけレコードにMINTを求めておきながら、住んでいる家には物が散乱し、猫10匹の糞尿まみれなガチガチのPOOR。やっぱり何事も行き過ぎは良くないですね!!

p.s. I ’m sorry for writing about you!

 


 

Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千