ドリカムの“音楽の祭典”を支え彩った元EW&Fのドラマー、ソニー・エモリーが語る音楽観


DREAMS COME TRUEが4年に一度行っているグレイテストヒッツライヴ《史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2019》が、9月8日の大阪公演でファイナルを迎えた。今回はデビュー30周年とも重なり、より特別感を増したステージに国内外から超一流のミュージシャンが集結。その中の1人、ドラムのソニー・エモリーへのインタビューが実現した。ツアーの感想から、かつて在籍したアース・ウインド&ファイアー(EW&F)のエピソード、自身のプロジェクトについてなど、終始フレンドリーに話してくれたソニーの言葉を聞こう。

バトルなんかじゃなく、2人のドラマーが“共に奏でる”つもりでプレイしたよ

 

ードリカムワンダーランドには2015年に続いて2回目の参加となります。ツアーの印象は?

とにかく壮大で華やかなショーだ。前回もとても楽しかったけど、今回はバンドウ(坂東慧/T-SQUARE)とのツインドラムで、さらに挑戦しがいのある楽しさ倍増のツアーだったね。特に意識したのは、オーディエンスの数や会場の広さに関係なく、1曲1曲に集中すること。そして、自分から一番遠くの壁を突き破るくらいのエネルギーを放出するつもりで叩くんだ(笑)。マサ(中村正人)とミワ(吉田美和)をしっかり視野に入れて演奏することもポイントだね。

 

ソニーエモリー(1)

 

ー吉田美和さんのように圧倒的なヴォーカリスト一緒に演奏することは、プレイヤーにとって大きな喜びでしょうね。

まず、彼女の書く曲と歌詩はとても素晴らしい。まるで色彩豊かな美しい絵を見ているような気持ちになるんだ。もちろんヴォーカリストしても最高で、公演ごとに彼女の声はどんどん力強く、表現力を増していった。マサとバンドウ、そして僕の3人で土台を作り、DREAMS COME TRUEの楽曲をしっかり表現することが、ヴォーカリストとして、作詩/作曲家としての彼女の魅力を引き立たせる最良の方法だと思ってプレイしていたよ。

ー中村正人さんについてはいかがですか?

マサはとても良い友人で、funny guy……面白いヤツだ(笑)。プレイヤーとしては、とてもソリッドで堅実なプレイをするベーシストだね。僕と同世代で、同じスタイルの音楽を聴いて育ってきた彼とは、出会ってすぐに通じるものがあった。DREAMS COME TRUEとして30年もの間ずっと成功を収め、今回のようなショーでは全体のコンセプトを作り上げ、細かいところまで気を配っている。そんなプロジェクトに参加できてとても光栄だよ。

 

ソニーエモリー(2)

 

ー今回ツインドラムで共演した坂東さんの印象は?

彼はとんでもなく素晴らしいドラマーだよ! 一緒に気持ちよく仕事できるし、ツアーを通じていい友達にもなれた。僕らのツインドラムから生まれる化学反応は、言葉を交わさなくてもわかり合えるレベルまで到達したと思う。まるでテレパシーみたいにね(笑)。ステージ上では離れていても、すぐそばにいるような気持ちでプレイしていたよ。

ーツインドラムでプレイする機会はそれほど多くないと思いますが、どんなことを意識しましたか? ​​​​​​​

2つのドラムを、あたかも1人の人間がプレイしているように聴かせること。そして音楽を邪魔せず、楽曲が表現するものをさらに大きく広げるようなドラムであるべきだ。だからこそ、2人の関係性がとても大事になってくる。

 

ソニーエモリー(3)

 

ーツインドラムというと、派手なバトルをイメージする人も多いと思います。 ​​​​​​​

バトルなんかじゃなく、2人のドラマーが“共に奏でている”と言いたいね。バンドにトランペット奏者が2人いても、バトルだと思う人はいないだろう? それと一緒さ。ツインドラムでは、2人で同じフレーズを叩くところもあれば、1人がベーシックなリズムを叩いて、もう1人が自由に叩くところもある。どの場合でも、お互いの音楽的アイディアを共有しながら、それぞれが自分自身の表現方法を極めていくんだ。


モーリス・ホワイトはこう言った。「神様が君をEW&Fに送ってくれたんだ」と

 

ーあなた自身のバックグラウンドについても聞かせてください。4歳の頃にドラムセットを与えられたそうですね。 ​​​​​​​

父がサックス奏者でね、サックスも試してみたけどあまり好きじゃなかった(笑)。それで家にあったボンゴを叩いていたら、父がドラムセットを与えてくれたんだ。すごく古い日本製のドラムだった。今はヤマハを使っているから、僕は日本製のドラムばかり叩いていることになるね(笑)。

ードラムのどんなところに惹かれたのでしょうか? ​​​​​​​

僕にとって、ドラムはとても自然な楽器なんだ。小さい頃、父がクラブで演奏しているのをステージの袖で母の膝に乗って見ていて、そのバンドのドラマーが叩いたシンバルの響きが好きになってね。自分もあんな音を出したいと思っていた。今思うと、そんなふうに音楽は人に感動を与えて、人を動かすものなんだ。そして、自分もそういうことをしたいと思ったんだ。楽器そのものとしては、全身を動かして演奏するフィジカルなところが気に入っている。パワフルだし、表現方法が幅広い。そして、バンドを動かしていく力があるというのが自分としては一番好きなところだね。

ーあなたにとって、最初のドラムヒーローは誰でしたか? ​​​​​​​

小さい頃は、父がよく聴いていたストレートアヘッドなジャズが好きで、エルヴィン・ジョーンズ、ロイ・ヘインズ、トニー・ウィリアムスが自分にとっての3大ドラマーだった。十代になると、当時ポピュラーだったR&Bを聴くようになった。スティーヴィー・ワンダー、EW&F、オハイオ・プレイヤーズ、キャメオ、アレサ・フランクリン、カーティス・メイフィールドなど……とにかくたくさん聴いたよ。特にEW&Fは大好きだったから、ドラムヒーローとしてはモーリス・ホワイト、ラルフ・ジョンソン、フレディ・ホワイトということになるね。その後はフュージョンに興味が広がって、マハヴィシュヌ・オーケストラ、リターン・トゥ・フォーエヴァー、ウェザー・リポートなどを聴き始めた。レニー・ホワイト、ビリー・コブハム、ナラダ・マイケル・ウォルデン、アレックス・アクーニャといったドラマーに夢中になったよ。

 

ソニーエモリー(4)

 

ーあなたがEW&Fに参加した1987年は、グループが活動休止を経て再び動き出した重要な時期でした。EW&Fに誘われてどんな気持ちでしたか? ​​​​​​​

当時の僕はロサンゼルスに住んでいて、クルセイダーズやデイヴィッド・サンボーンらと一緒にプレイしていた。その頃LAのミュージシャンの間では、当時活動休止していたEW&Fが再始動するらしいという噂でもちきりだった。そんな中、モーリス・ホワイトの友人だったジョー・サンプルが、僕のことをモーリスに話してくれたんだ。それに、僕はフィリップ・ベイリーのプロジェクトを手伝ったこともあったからね。EW&Fに参加して欲しいという電話がかかってきたのは、デイヴィッド・サンボーンのツアー中だった。それは間違いなく僕の人生で最高の日だったね(笑)。しかも不思議なことに、その頃、僕は自分がモーリスの後ろでプレイする夢を見たりしていたんだよ。もしかすると何かを予感していたのかもしれないね。

ーモーリスとの思い出深いエピソードを何か話していただけますか? ​​​​​​​

一緒にいた時間すべてが素晴らしかったので選ぶのが難しいけど、最も特別な瞬間は、モーリスのプロデュースで僕の最初のソロアルバム『Hypnofunk』を制作していたときのことだ。ある日、スタジオでモーリスに「どうして僕をEW&Fのドラマーに選んでくれたんだい?」と尋ねたことがあった。するとモーリスはこう答えたんだ。「僕が選んだんじゃない。神様が送ってくれたんだ」ってね。

ーいかにもモーリスらしい言葉ですね。 ​​​​​​​

ああ、そう思うよ。そして「君は今、いるべきところにいるんだ」とも言ってくれた。とても印象的な、スピリチュアルな瞬間だった。モーリスからは、プロデュースやレコーディング、作曲、バンドの運営の仕方など、いろんなことを学んだ。音楽のことだけじゃなく、人生すべてについて教わったと思っているよ。

 

ヤマハのドラムは世界一。まるで自分の体の一部のように気持ちよく演奏できる

 

ー2017年に発表したソニー・エモリーズ・カシェー名義のアルバム『Love Is The Greatest』は、ドラマーのみならず作曲家やアレンジャーとしての魅力が詰まった素晴らしい作品でした。メイヴィス・ステイプルズ「Eyes On The Prize」、アレサ・フランクリン「Rock Steady」のカバーで、伝説的なドラマーのプレイに敬意を表しながらアレンジしているのも聴きどころです。

どうもありがとう。アレサ・フランクリンの歌は1960年代の公民権運動に大きな影響を及ぼしていたし、「Eyes On The Prize」も代表的なプロテストソングの1つだ。公民権運動が盛んだったアトランタで生まれ育った僕にとって、この2曲をカバーすることは大きな意味があるんだよ。もちろん、原曲で叩いているジム・ケルトナーとバーナード・パーディーは大好きなドラマーだ。これらの曲をアレンジする上では、楽曲全体に気を配って、自分から見た世界のあり方を音楽でどう表現できるか、そんなことを考えて取り組んだよ。
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ーあなたが使っているヤマハのドラムについて、どんなところが気に入っていますか? また、ワンダーランド2019で使われたライヴカスタムハイブリッドオークのセットはいかがでしたか?

I love YAMAHA!(笑) ヤマハのドラムは世界で最高だと思う。叩いていてとても気持ちいいし、製品としての信頼性も高い。まるで自分の体の一部のようだ。1988年、EW&FのTouch The Worldツアーからヤマハのドラムを使い始めて、いろんなキットを叩いてきたけど、製品ごとに独自のトーンを楽しんでいるよ。新しいライヴカスタムハイブリッドオークは、まずサウンドがとても美しい。今回はバンドウも同じキットをプレイしているんだけど、パワフルで温かくて、ドリカムの音楽や会場の大きさにも合っていると思うね。そんなヤマハのドラムを使うきっかけを作ってくれたハギワラさん(元ヤマハ打楽器総合推進課所属で、ヤマハドラムの父と呼ばれた萩原 尚氏。2004年に勇退)にはとてもお世話になったし、心から尊敬している良い友人だ。そして、今もこうしてヤマハのチームと一緒に仕事できていることを光栄に感じているよ。

 

ソニーエモリー(5)

 

ードリカムワンダーランド2019は、ファイナル公演を終えてソニーさんたちが帰国された後も、別バージョンと言える“ドリカムの夕べ”として続行します。ベーシックな部分は変わらないとはいえ、すぐに別演出のツアーをスタートさせるというのは並大抵のことではないと思うのですが……。 ​​​​​​​

その通り。会場や演出が変わっても同じクオリティで音楽を伝えていくのはとても大変なことだ。それをやり遂げるミュージシャンやスタッフのプロフェッショナリズムは素晴らしいと思う。そして、とにかく一緒にツアーをしてきて僕が感じたのは、彼らは素晴らしい仕事をしているだけでなく、人間的にとてもいい人たちだということ。これが何と言っても一番印象に残っていることだね。

ーこれからの活動予定を教えてください。 ​​​​​​​

FULL TILT(フル・ティルト)という、ジャズ/フュージョンの新しいプロジェクトを始めていて、12月にアルバムを発表する予定だ。そして、ここ2年ほど一緒にやっているエリック・クラプトンとの仕事はこれからも続いていく。それから、ソニー・エモリーズ・カシェーの新しいアルバムのための曲作りも進めているよ。こちらはR&B/ファンク寄りのプロジェクトで、FULL TILTの方は、ウェザー・リポートmeetsパーラメント・ファンカデリックという感じだ(笑)。楽しみにしていて欲しい。

 

ソニーエモリー(6)​​​​​​​

 


 

【PROFILE】
●ソニー・エモリー
アメリカ、ジョージア州アトランタ出身。4歳のときにドラムセットを与えられ、ジョージア州立大学でジャズドラムを学ぶ。 卒業後はロサンゼルスへ拠点を移し、ジョー・サンプル、デイヴィッド・サンボーン、アース・ウインド&ファイアー、スタンリー・クラーク、リー・リトナー、ブルース・ホーンズビー、アル・ジャロウ、スティーリー・ダン、ベット・ミドラー、ボズ・スキャッグスほか多彩なアーティストと活動。ソロ名義のアルバムに『Hypnofunk』(1997年)、『Love’s Pure Light』(2005年)があるほか、自身の息子を含むグループ、ソニー・エモリーズ・カシェーで『Love Is The Greatest』を2017年に発表している。

https://www.sonnyemory-cachet.com

ソニー・エモリーズ・カシェー『Love Is The Greatest』​​​​​​​
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<「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2019 〜ドリカムの夕べ 〜」>
チケットはすべてソールドアウト

9月14日(土)広島・広島グリーンアリーナ (公演終了)
9月15日(日)広島・広島グリーンアリーナ (公演終了)
9月28日(土)沖縄・沖縄コンベンションセンター 展示棟
9月29日(日)沖縄・沖縄コンベンションセンター 展示棟
10月5日(土)愛媛・愛媛県武道館
10月6日(日)愛媛・愛媛県武道館
10月11日(金)宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ
10月12日(土)宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ

 


 

Text:西本勲
Interpretation:工藤玲子
Photo: 西本勲(インタビュー)、中河原理英(ライヴ)、岸田哲平(ライヴ)