ナイス♪インストポップmore 10選【百歌繚乱・五里夢中 第23回】


前回に続き、ナイスなインストポップをもう10曲ご紹介します。前回はどちらかというと、「ポップ史上重要な」ということに重心を置いてみた選曲だったのですが、今回はシンプルに「私が大好きな」曲の中から選んでみました。

「歌詞」というやっかいなモノ

 

私は以前、音楽制作ディレクターなる仕事で口を糊していたのですが、アーティスト(たいていは歌手だ)がいて、新しい作品を作ろうとするとき、いちばん悩んだのが歌詞なんです。もちろんメロディやアレンジも、アーティスト本人が作るにせよ、他人に任せるにせよ、なんらかのイメージに向かって、手探りで、よりよいと思う形にもっていく作業は、いちいち悩みの連続ではあるのですが、歌詞は何が困るって、具体的な「意味」を持ってしまうんですよね。
音楽って、文字通り、音が楽しいことがメインであって、何か具体的な「意味」を伝えることが主目的ではないですよね。もちろん「反戦歌」とか、その逆の「軍歌」のように、それを目的とする音楽もありますし、アーティストによっては言葉で伝えたいメッセージを持っている人もいるでしょうが、たいていの場合、具体的に何かを言いたいから音楽をやるわけじゃありません。だけど、唄うからには言葉を発しないわけにはいきません。スキャットとか「ハナモゲラ語」という選択もありますがそれは一種の色モノ。ならばどういう言葉を選ぶか。それこそ「言葉にできないような」感情とか感覚を表現するしかない、みたいなことで、こんな難しいことはありません。
だから「上を向いて歩こう 涙がこぼれないように」とか「The answer is blowin’ in the wind」とか「目にうつる全てのことはメッセージ」なんていう言葉を作れる人たちはすばらしいし、それくらいのレベルの歌詞じゃないと真の感動はありません。つまりやるからにはそこを目指したい。
だけどメロディやアレンジの才能と、詞の才能って、やはりベクトルが違うと思うし、音楽やりたいなんて人はまぁだいたい音のほうから入ってくるので、前者はあっても後者に乏しいケースが多い、というかほとんど。ユーミンや桑田佳祐は神さまの依怙贔屓としか思えません。
だから私は自分の担当アーティストの中で、”GONTITI”の仕事がいちばん楽しかった。歌詞の心配をしないでよかったから。それから”くじら”。勝手にすばらしい歌詞を作ってくれたから。
“GONTITI”のレコーディングでのひとつの大きな楽しみは、曲タイトルを決めることでした。音が出来上がるまで、曲にタイトルはなく、仮題で作業を進めます。先にタイトルを決めてそのイメージで作っていくという手法をとる人もいるでしょうが、彼らは逆。「意味」にしばられずに作って、出来上がった音をちょっと突き離して眺めて、それにしっくりくるタイトルの言葉を探す。いい言葉が見つかるとすごくうれしいし、妙にハマってゲラゲラ笑い転げることも。楽しいひと時なのです。
こういうタイトルの出来栄えってのもインストポップの醍醐味のひとつだと思うのですが、そこに注力しているアーティストはあまりいないような気がします。

 

ナイス♪インストポップ、もう10曲

 

①GONTITI「マルセルでさえも」(from 1st アルバム『Another Mood』:1983年7月25日発売)
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ということで、その”ゴンチチ”の記念すべきデビューアルバムから1曲、タイトル優先で選んでみました。いや、もちろん曲も大好きですよ。ゴンザレス三上作曲のオリジナルですが、まるでジャズのスタンダードのような風格を備えた、完璧なメロディラインだと思います。それを、二人のアコースティックギターのアンサンブルだけで充分に表現仕切っているアレンジもいい。
で、このタイトル。「マルセル」って誰?「さえも」なんなの?と突っ込まなくても、この語感だけでもいい感じとは思いますが、あえて説明すると、”マルセル・デュシャン”という芸術家のこと。81歳まで生きたけど、30半ば以降はほとんど作品を作らなかったという、相当に変わった人です。男性用便器をそのまま置いて「泉」と名付けた作品が有名ですね。そのデュシャンに「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」という作品があって、そこから発想を得て、「マルセルでさえも」とやったのです。

 

 

②Nightnoise「A Different Shore」(from 6th アルバム『A Different Shore』:1995年5月9日発売) 
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アイリッシュのバンドですが、たとえば”チーフタンズ”ほどトラディショナルではなく、もっとコンテンポラリーと言うか、ポップな音楽性を持つ”ナイトノイズ”。でも素朴でかつ知性を感じるその音楽が好きで、遊佐未森のアルバム『水色』(1994年)のレコーディングに全面参加してもらおうとコンタクトをとると、快く承諾してくれたのはいいのですが、アイルランドだと思い込んでいたら、米国オレゴン州ポートランドに住んでいてビックリ。この頃にはアイルランド人3人とスコットランド人1人という構成だったのですが、当初はそのスコットランド人の代わりにアメリカ人がおり、ウェストコーストで結成、活動していたのでした。というわけで我々はポートランドへ行ってレコーディング。
彼らのレコードには速いテンポの変拍子の曲などもあったので、てっきり譜面にも強いのだろうと思っていたら、みなさん譜面など読めないどころか、コードもあまりよく知らなくて、ちょっと困りました。それでどうやって楽器の演奏を覚えるんだろうなんて思ってしまいますが、耳と手なんでしょうね。だから、複雑なアレンジだと思う曲も、彼らは感覚でやってしまえるのでしょう。日本人のレコーディングでは譜面は欠かせません。そのほうが効率はいいのですが、音楽とはなんなのか、考えされられますね。
この曲はそのスコットランド人、バイオリニストのジョニー・カニンガムの作曲。なんだか”和風”でしょう?ケルト音楽は日本人がなじみやすい、ファとシが抜ける「ヨナ抜き音階」なので、近しいものがあるのです。ただ日本人にはもう、こういう”魂のふるさと”のような調べは作れないかも。

 

 

③Sharon Shannon「Cavan Potholes」(from アルバム『Common Ground: Voices Of Modern Irish Music(魂の大地)』:1996年発売)

もう1曲アイルランドから。シャロン・シャノンはアコーディオン・プレイヤー。アコーディオンと言っても、鍵盤があるタイプではなく、ボタンのみ、そしてもっと小ぶりです。タンゴで使う「バンドネオン」ともまたちょっと違うようですが。
彼女がそのボタン・アコーディオンでメロディを綿々と綴っていくこの曲は、アイルランドのポップ音楽シーンを代表するプロデューサー、ドーナル・ラニーの作曲ですが、アイルランドの「reel」という伝統的なダンスミュージックの様式にのっとったもの。「綿々と」と表現したように、少しずつパターンが変わりつつもよく似たメロディが次々と繰り返されるだけで、サビがあるでもなく、メリハリがないと言えばないんですが、でもその展開が自然で、メロディを覚えているわけじゃないのに、次にメロディがどう変わるか、なんとなく身体でわかるような、そしてそれが妙に快感という、気持ち良い曲なのです。ま、それがアイリッシュ・ミュージックのよさなんですけど。
ドーナルはこの曲が収録されたアルバム『Common Ground: Voices Of Modern Irish Music』全体もプロデュースしています。”U2”、”クラウデッド・ハウス”、シネイド・オコナー、エルヴィス・コステロ、ケイト・ブッシュなどのビッグネームも含めて、アイルランド/ケルトの遺伝子を持つアーティストたちが結集したコンピレーション・アルバムで、名盤です。
 


坂本龍一「PARADISE LOST」(from 4th アルバム『音楽図鑑』:1984年10月24日発売)
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作詞:坂本龍一&ピーター・バラカンというクレジットがありますが、歌はなくインストです。エフェクトされた声での語りは入っていますが、ほとんど言葉は聞き取れません。
「PARADISE LOST」は日本語で言えば「失楽園」。ジョン・ミルトンの同名の古典をイメージした曲とのことです。ミルトンの「失楽園」は有名ですが、読んだことはありません。古典と言われるものはいつかは読んでみたいけど老後でいいか、なんて思っていたら、もうそういう年齢になってしまいました。が、まだ読む気がしません……。イメージしたというからには”教授”は読んだのでしょうね?
前回、YMOは選曲しましたが、坂本龍一はやはり改めてピックアップしたい。この人の作るメロディは特にインストポップに向いていると思っています。「Merry Christmas Mr.Lawrence」でもそうですが、何度繰り返しても飽きのこないメロディというものを作れる人です。同じメロディはふつう2度まで、3度繰り返したらしつこいと感じるものですが、この人は何度も何度も繰り返すのに、不思議に飽きません。もうひとつの特徴は”和”の風味。まさに「和魂洋才」が最良の形で表現されているので、日本人は当然血が騒ぎますし、外国人は外国人で、磁石の両極のように惹きつけられてしまうのです。「世界のサカモト」たる所以です。
 


⑤Ramsey Lewis「Spring High」(from アルバム『Love Notes』:1977年発売)
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ラムゼイ・ルイスは1935年生まれ。エルヴィス・プレスリーと同い年です。関係ないけど。
アフリカ系アメリカ人のジャズ・ピアニストですが、”Earth, Wind & Fire”を結成する前のモーリス・ホワイトとトリオを組んだり、ポップ度も高い人。
この曲も作曲と編曲はスティーヴィ・ワンダーで、ジャズというよりはやはりインストポップの名作です。スティーヴィは演奏にも参加していて、エレピとシンセを弾いています。で、スタインウェイのピアノはルイス。ピアノのソロはさすがに素晴らしいですね。
いかにもスティーヴィらしい、明るく、ワクワクするようなメロディは、たしかに「Spring High」=高く跳ねるようで、聴くたびに元気な気分にさせてくれます。

 

 

⑥David Sanborn「Port of Call」(from アルバム『As We Speak(囁くシルエット)』:1982年発売)
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デイヴィッド・サンボーンもジャズの人ですが、70年代後半〜80年代前半のフュージョン・ブームを代表するサックス奏者の一人として、広くポップフィールドで活躍してきた、1945年生まれの白人のアメリカ人。
全米70位ながらジャズ・チャートでは1位をゲットしたこの曲、作曲は、あの映画「フラッシュダンス」の挿入歌「Maniac」でおなじみのマイケル・センベロとその弟、ダニーの共作です。マイケルはギターも弾いています。
イントロからシンコペーションの効いた1小節パターンの、ちょっと禁欲的なフレーズが、なんと36小節も続いて、「この先どうなるの?」とちょっと不安になった頃、サックスとシンセが一丸となったポップ・フレーズが爆発します。この時の開放感がたまりません。オマー・ハキム (drums)、マーカス・ミラー (bass)、ジョージ・デューク (clavinet)など錚々たる名手たちから繰り出されるグルーヴがしっかりと脇を固める中、サンボーンのアルト・サックスは縦横無尽に飛び回ります。
 


⑦The Crusaders「Put It Where You Want It」(from 3rd アルバム『Crusaders 1』:1972年発売)
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「フュージョン」という音楽スタイルを作ったのはおそらくこのバンドです。ジャズとロックの融合。まさに、”The Jazz Crusaders"という名前で始まり、10年後の1971年に”Jazz”を取って”The Crusaders"と改称したことが、それを象徴しています。
ウェイン・ヘンダーソン (trombone)、ジョー・サンプル (keyboard)、ウィルトン・フェルダー (tenor sax, bass)、スティックス・フーパー (drums)の4人はいずれもテキサス州ヒューストン出身の友人同士でした。女性シンガー、ランディ・クロフォードをゲストに迎えての「Street Life」(1979年)が彼らの最大ヒットではあるのですが、基本はインスト。当然、ナイスなインストポップもいろいろありますが、私のいちばんのお奨めはこの曲かなー。キーボードのジョー・サンプルの作品ながら、彼が得意とするエレクトリック・ピアノはサイドに回り、メロディはエレキギターが、なんだかちょっと弱々しい表情で奏でます。その風情と、それにはおかまいなしに8ビートでズンズン力強く歩むリズム隊が、好対照で面白い。このギターは、クルセイダーズ常連のラリー・カールトンではなく、デイヴィッド・T・ウォーカーのようです。
”Average White Band”もこの曲を、翌73年にカバーしていますが、そちらは”歌入り”です。
 


⑧Stuff「How Long Will It Last」(from 1st アルバム『Stuff』:1976年発売)
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フュージョンが続きますが、フュージョン・ブームのひとつのピーク、当時最高峰のフュージョン・バンドというイメージがこの”スタッフ”にはありました。とにかく日本では大人気で、スティーヴ・ガッド (drums)、コーネル・デュプリー (guitar)、エリック・ゲイル (guitar)、リチャード・ティー (keyboard)、ゴードン・エドワーズ (bass)、クリス・パーカー (drums)という個々のメンバー人気にまで広がり、そのおかげでガッドなんて、今に至るまで、自分のバンドでしょっちゅう来日しては「ブルーノート」を満杯にできるわけですが、意外に本国では、アルバムこそ3作も「ゴールドディスク」(50万枚)を獲得していますが、日本ほど盛り上がりはしなかったみたい。
ともかく、この曲は、人懐っこいメロディに、アイデア満載かつムダのないアレンジ、グルーヴィな演奏、華麗なソロという、インストポップがナイスであるための諸条件を高得点でオール・クリアする名作であることを保証します。
 


⑨Fleetwood Mac「Sunny Side Of Heaven」(from 6th アルバム『Bare Trees(枯れ木)』:1972年3月発売) 
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1977年に全米1位を31週間も続けたモンスターヒット・アルバム『Rumours(噂)』をリリースした”Fleetwood Mac”は、元々1967年に英国で結成されたブルースバンド。音楽性も全く違うので、別の名前にしてほしいくらいですが、バンド名の由来であるドラムのMic FleetwoodとベースのJohn McVieがずっと不動のメンバーなのでしょうがないか。
そのブルースバンド時代の68年、当時弱冠18歳ながら加入したギターのダニー・カーワンは、ピーター・グリーンとジェレミー・スペンサー(いずれもギター)が辞めたあと、音楽的中心となって、このアルバム『Bare Trees』を作ります。その精神的負担が大き過ぎて、アルコール中毒となった彼は、その後のツアー中に解雇されてしまうのですが。
このバンドには珍しいインスト曲であるこの「Sunny Side Of Heaven」はカーワンの作曲。ポップな中にも、哀しみを癒やす深い慈悲のようなものを感じる曲です。自らの救いを求めて、身を削るようにして作ったのかもしれませんね。
音色とかフレーズがどことなく、前回紹介した”The Shadows”を彷彿とさせるところがあるなぁと思っていたら、カーワンのギターは独学で、Shadowsのギタリスト、ハンク・マーヴィンから強く影響を受けているそうです。道理で。
 


⑩Frank Zappa「Peaches en Regalia」(シングル:1970年発売/from 2nd ソロアルバム『Hot Rats』:1969年10月10日発売)
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フランク・ザッパという人はともかく、”規格外”って感じがします。1993年12月、52歳で死去。決して長くはない生涯ですが、あらゆるジャンルを横断しながら、60作以上のアルバムを生み出しました。その数だけでも膨大で、全貌を把握することなんてとてもじゃないけど、私にはムリ……なんですが、勝手な思い込みとして、音楽性は全然違いますけど、音楽への接し方がプリンスと似ているような気がします。アイデアがどんどん湧いてきて、どんどん作る。自分も含めてミュージシャンの演奏のクオリティには厳しいけど、作ってるうちに、次のものが作りたくなるから、ひとつの作品にはあまり時間をかけず、勢いで”一筆書き”のように作る人……だったのではないでしょうか。
2枚目のソロアルバム『Hot Rats』に収録されたこの曲、1969年という、ハードロックやプログレというロックの発展型がようやく出始めたばかりの時期なのに、もうとんでもなく奔放で多彩なジャズ・ロックの世界を繰り広げています。で、楽器アレンジなんかもかなり複雑で、周到に考えられていると思うのですが、全体的には荒々しく、迸るような勢いがあり、そこがまさに、”ザッパ的”なんですわ。
 

 

 

 

以上、2回に渡って、ナイスなインストポップをご紹介してきました。
ふだん、どうしても、歌モノばかりが巷を賑わせていて、それが音楽だ、みたいな頭になってしまいがちなんですが、音楽って本来もっと自由なものです。
ミュージックビデオがあたりまえになって、絵があるほうがインパクト強いから、音楽を売るために映像をつけるのですが、実はその分音楽をちゃんと味わってない、味わえないのではと思うのです。それと同様、歌があり、詞があるだけで、そちらに意識が分散されます。いや、もちろん歌も含めて音楽作品。歌がないほうがよい、なんていうつもりは毛頭ありませんが、たまにインスト音楽を聴いてみると、歌がない分、意味や形で表せない、音色や音の動きが、心に直接、何かを語りかけてきます。それが音楽というものの、本来の根源的な魅力なんじゃないか、などと時々思うのです。

いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪