MONO NO AWAREが最近聞いている楽曲プレイリスト
音数を選び抜いたギターポップ・バンド、という一言ではちょっと言葉足らずな、ユニークな楽曲で楽しませ、時に脱力させてくれるバンド、MONO NO AWARE(モノノアワレ)。3月2日にリリースしたデビュー作『人生、山おり谷おり』が、すでにインディー・シーンの外にはみ出す勢いで評価を得ています。その名が示すように日本的なもののあわれ=しみじみとした情趣や無常観を10年代後半の感性でアップデートした音と言葉。そんなセンスを持つ彼らが「最近聴いている曲」をテーマにプレイリストを作成。このバンドの面白さの一端が解けるかも?しれません。
柳澤豊 “みんなひねくれてるところは共通点としてあります“
―今回に『人生、山おり谷おり』にははっぴいえんどもシューゲイズもポストパンクもAORもありながら、その交差の仕方が独特だなと思いました。
玉置周啓:特にそういうことを意識してはいないです。一枚の平面から様々な立体に変形する折り紙に僕たちを例えて、いろんな形のものを生み出しましたっていうコンセプトとして、仕立て上げたのが今回のアルバムです。
―曲作りはどのように?
玉置:基本的に今回の10曲は僕がデモテープで全パートを作って、それをみんなでアレンジして完成っていう作り方をしています。
―“夢の中で”は1曲の中でポストロックやファンクなど展開が多いですが、これも玉置さんのデモ通りですか?
玉置:これは唯一、バンドで手を入れた曲で。
柳澤豊:結構「こうじゃない、ああじゃない」ってスタジオで何回も試して、やっとのことでみんなで完成させたような曲ですね。
―特にリズムは要になっていますね。
柳澤:僕はブラックミュージックが好きで、ファンクとかブラックミュージックのハネの感じとか、スネアのバックビートの重たい感じとかを出してるつもりではあるんですけど、でもだからと言っていかにも”ファンクの影響受けてるバンド”みたいな感じの曲にはしたくなくて。
―いい意味でひねくれている(笑)。そこがポスト「ポストロック」のように感じます。
玉置:それはめちゃめちゃな褒め言葉です。ありがとうございます(笑)。
柳澤:みんなひねくれてるところは共通点としてありますね(笑)。
玉置:好きだけど寄せすぎたくないとか、そういう感覚を全員が持ってると思うので、そのおかげで曲が、「何々っぽいな」という風にならないし、しかも無意識的にそういうバランス感覚が働いているんだと思います。
―ベタにカッコよくなりそうになると戻す力学みたいなものがあるんでしょうね。
玉置:あまりキメッキメのこともやりたくもないし、かつふざけたことをやりたいわけでもないっていう、そこの真ん中のエンタテイメントみたいなものを探ってる最中です。まだ全然、到達してないと思っているので、そこのバランス感覚を4人で共有して活動を続けていきたいですね。
玉置周啓 “熱すぎたりする詩文を歌にできて、人に届けられるのがいいし、すごいなと思っています “
―なるほど。今回はみなさんが最近聴いてる曲を選んでいただいたんですけど、玉置さんからいきましょうか。まず岡林信康は意外でした。
玉置:最近、『放送禁止歌』っていう書籍を読んで、放送禁止になった曲がどういう風に歌われてたのかとかが書かれていて、ほぼ戦争や部落差別がテーマだったんです。で、この岡林信康も部落差別の歌を歌っていたんですが、アーカイブにもちろんないので、他の好きな曲でこれを選びました。
岡林信康
―タイトル通りひたすら私たちの望むものは、という歌詞が続きますね。
玉置:社会的メッセージが強いなって歌詞読んで思ったんですけど、それをこれだけストレートに歌ってもフォークソングは許されるんだなと。バンドがやるとクサイ域に入っちゃうし、あまり人は聴いてくれないと思う。けど、フォークシンガーは自分の声質とかギターの音とかっていう、シンプルな構成でクサかったり、熱すぎたりする詩文を歌にできて、人に届けられるのがいいし、すごいなと思っています。
―そしてINO hidehumiは?
玉置:日本のピアニストというか、フェンダーのローズ・ピアノを使う人なんです。この「スパルタカス」って曲は歴代のジャズの人たち、ビル・エヴァンスとかハービー・ハンコックがカバーしてる。で、全部聴いたんですけどINO hidehumiのこのカバーが僕が好きなビートだったから選びました。
INO hidefumi
―そしてキンクス。キンクスの中でもこの曲を選んだのは?
玉置:ちょっとチューニングがズレてるっぽいギターの音とか、よくわかんないヘロヘロした感じがあって、最近キンクスが好きなんですよ。この曲は歌詞がよくて、ウォータールーの駅から出てきたカップルの様子をテムズ川のアパートの一室かなんかから眺めてるっていうだけの歌詞なんですけど、聴くと結構泣いちゃうんです。涙腺を刺激するのがどういうメカニズムなのだろう?どういう力学なのだろう?といつも思うんですけどね。
加藤成順 “昼間は明るくて気取ってるような奴らが夜中に彼女を思って聴いてたりしてほしいなと思います“
―加藤さんの選んだハービー・ハンコックは玉置さんの話にも出てきましたけども。
加藤成順:自分の中でハービー・ハンコックはジャズ・ピアノのイメージが強かったんですけど、この曲とかはタイトにファンクっぽい感じで弾いてて、しかも短い音がすごく面白くて。あと、ドラムの音もいいし。今の方がうまく録れるのかもしれないけど、自分にとってはこの音がが衝撃でしたね。
Herbie Hancock
―そして2曲目はすごく身近なバンドであるTempalayから。
加藤:インディーズバンドでここまで大げさにドラムにエフェクトかけたりとか、そういうのをやってるバンドいないなと思って、しかもそれがすごい良くて。Tempalayは自分たちでいろいろなジャンルをやっていこうっていう姿勢がいいと思います。
Tempalay
―そしてジョン・メイヤーですが、ギタリストだけどピアノ・バラードを選んだのは?
加藤:とにかく口笛が良くて。ほんとに良くて(笑)。歌詞もひたすら「彼女はずっと自分の中で生きてる」みたいなことをずっと歌っててクサいんですよ。でもここまでロマンチックにやるとしみるんですよね。こう、昼間は明るくて気取ってるような奴らが夜中に彼女を思って聴いてたりしてほしいなと思いますね。自分も聴くと泣きそうになりますけど(笑)。
♪You're Gonna Live Forever in Me
John Mayer
竹田綾子“スカしてるじゃないですけど、そういう感じが気に入ってます “
―では竹田さんに選んでいただいた3曲。まずClap Your Hands Say Yeah。
竹田綾子:新しいアルバムを今年出して、これはベースの音がすごくいいい。ボーカルはダブルトラックなんですけど、ちょっとずれてて不思議な浮遊感があって気持ちいいなと思って選びました。
Clap Your Hands Say Yeah
―2曲目のVANTについては?
竹田:結構、ゴリゴリというか、ほんとにもう、ここまでゴリゴリなのは最近あんまり聴いてなかったんですけど、ルックスは可愛いのに歌詞が過激で。絶対、ペアレンタル・アドバイザリーのマークがついちゃうぐらいの歌詞を1曲目から歌ってて、そういうギャップもいいなって思って聴いてます。
VANT
―Public Access T.Vも「バンド」っていうところが好きですか?
竹田:そうですね。Public Access T.V.はサウンドクラウドでたまたま見つけて聴いてて、日本ではまだ知名度がそこまでないみたいなので、日本に来てほしいという思いも込めて(笑)、今回選びました。雰囲気がちょっとシニカルな感じがするというか。スカしてるじゃないですけど、そういう感じが気に入ってます。
Public Access TV
柳澤豊 “今回の選曲でもわかると思うんですけど、趣味が違って育った4人だとは思ってて“
―そして柳澤さんから先日来日もしていたホセ・ジェイムズの新作から。
柳澤:最初に見たのがYouTubeのショートビデオで、ドラマーのネイト・スミスが好きで聴いてたんですけど、この前のアルバムとはだいぶ違う色が出てて、こっちもいいなぁと思ったのでこの曲を選びました。この曲のWONKのリミックスも「こんなリミックス、ありなの?」って感じで好きです。
ホセ・ジェイムズ
―そして細野晴臣さんはいわゆるワールド・ミュージック期の曲ですね。
柳澤:最近、細野さん関連の記事を読んでて、「ああこれ好きだったな」と思い出して『オムニ・サイト・シーイング』のアルバムをもう一回聴いてたんです。ちょうどフライング・ロータスの『ユー・アー・デッド!』の1曲目にちょっと近い雰囲気も感じて、好きな曲ですね。
細野 晴臣
―最後はジョニー・グリーンウッド作曲のサントラ。
柳澤:これはイギリスに留学してた時に、図書館にDVDを借りるコーナーがあって、英語の勉強も兼ねて、この映画を観たんです。映画は僕は全然面白くなかったんですけど、曲はすごいいいなぁと思ってて。その後、たまたまジョニー・グリーンウッドというか、レディオヘッド関連の記事を読むことがあって。ジョニー・グリーンウッドがやってる音楽がジャズとの絡みで語られていたんです。
There Will Be Blood
―そこでこのサントラをジョニーがやっていたことが分かった?
柳澤:そうです。ジョニーがやってたんだって知って。ちょうど、自分がインディー・クラシックのようなものにハマっていたのもリンクしたんでしょうね。
―こうして選曲していただいたんですが、バンドでの曲作りなんかの相関関係、もしくは今の皆さん個人のモードだったり。
柳澤:常にドラムじゃない視点から楽器を見てみたいなと思ってて。僕、コード楽器ができないんで、そういうのが勉強できたらなと思って聴いてますね。
玉置:今回の選曲でもわかると思うんですけど、趣味が違って育った4人だとは思ってて。何が合わさって音楽性的に一緒にバンドをやってるのかは僕もよくわかってないです。
―玉置さんの書く曲や言葉が軸にあって、MONO NO AWAREとして繋がっている?
柳澤:そうかもしれない。あとは結構みんながオープンマインドというか何か一つに固執するというよりはすすめたものを「いいよね」って言ってくれるのもありますね。
玉置:特定のアーティストが好きな4人が集まったバンドではないし、趣味もバラバラとはいえ、音楽性が全く違うわけではなくて。だからこうやって、誰かがすすめたものを「いいな」と思うことはいくらでもあります。だからと言って、その曲の感じでやろうとはならないバンドなんだと思いますね。
ORIGINAL PLAYLIST
MONO NO AWAREが最近聞いている楽曲プレイリスト
玉置周啓(Gt,Vo.)
岡林信康
INO hidefumi
加藤成順(Gt.)
Herbie Hancock
Tempalay
♪You're Gonna Live Forever in Me
John Mayer
竹田綾子(Ba.)
Clap Your Hands Say Yeah
VANT
Public Access TV
柳澤豊(Dr.)
ホセ・ジェイムズ
細野 晴臣
There Will Be Blood
NEW RELEASE
MONO NO AWARE
PROFILE
東京都八丈島出身の玉置周啓、加藤成順と共に大学で出会った同級生の竹田綾子、柳澤豊で構成される2013年結成。2015年1月からドラムが柳澤豊に変わり、徐々に現スタイルに。2015年12月、初となる自主制作E,P、『舟』をリリース。新宿MARZでリリースイベント<波止場>を開催 2016年には、1st single、『イワンコッチャナイ/ダダ』をリリース。同年、<フジロックフェスティバル>のROKIE A GO-GO 3日目の締めに出演。同年の9月には、<りんご音楽祭>にも出演が決定。 バンド名のごとく曲ごとにその曲調は大きく流動しつつも、 一筋縄ではいかないメロディラインと 言葉遊びと独特のリズムに溢れる歌詞で どの曲も喜怒哀楽では測りきれない感情を抱かせる。
MONO NO AWAREアーティストページ
LIVE
■MONO NO AWARE リリースパーティー
<〜西の部〜>
日程: 2017年4月9日(日)
会場: 梅田NOON+CAFE
時間: OPEN 17:00/START 17:30
料金: ADV ¥2,500(+1D) / DOOR ¥3,000(+1D)
共演: Crispy Camera Club/TENDOUJI/バレーボウイズ/ベランダ
■MONO NO AWARE リリースパーティー
<〜夜の部〜 オリエンタリズム>
日程:2017年4月28日(金)
会場 : 渋谷TSUTAYA O-nest
時間 : OPEN 18:30/START 19:00
料金 : ADV ¥2,500(+1D) / DOOR ¥3,000(+1D)
共演:Tempalay/トリプルファイヤー
詳細はオフィシャルサイトで
http://mononoaware-band.tumblr.com/schedule
Interview&Text:石角 友香
音楽ライター/エディター。
ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Skream!」「PMC」「EMTG music」「NeoL」などで執筆。音楽以外のポップカルチャーの取材、執筆も行う。
Photo:山口 真由子