本田ゆか+ネルス・クラインの新デュオCUPのデビューアルバム NYから発信する至宝のサウンドトラック


ロック・バンド、Wilco(ウィルコ)が、通算11枚目となるアルバム『Odet to Joy』をリリース。さらに、Wilcoのギターリスト、ネルス・クラインと、公私のパートナーであり、Cibo Matto(チボマット)の活躍でも知られる本田ゆかが初めてのデュオ、CUP(カップ)を結成。11月に、ブルックリンのレーベル「Northern Spy Records」よりデビューアルバム『Spinning Creature』がリリースされる。互いにアーティストであり、夫婦でもある彼らの音楽は、思いのほか身近なところで作られているという。同じくニューヨークを拠点に活躍するマルチアーティストの工藤キキが、「特に家で作業するのが好き」だと話す本田とクラインのホームスタジオに伺い、CUPの音楽が作られる現場をレポート!

対照的な二人のアーティストによる“日々の生活から生み出されたサウンド”

本田ゆか(1)

 

ロック・バンド、Wilcoが通算11枚目のアルバム『Ode to Joy』を自らのレーベル「dBpm Records」から10月4日(金)にリリースした。
シカゴにあるWilcoのスタジオ、The Loftで録音された全11曲のスタジオ録音アルバムとしてフロントマンのジェフ・トゥイーディが楽曲を書き下ろしプロデュースしたもの。その様子は10年ぶりに制作したプロモーションビデオ「Everyone Hides」からも垣間見えるように、まさにクリエイティヴのカオスを終わることのない音楽の力で乗り越えたともいうべき傑作だ。怪物バンドとして大きな存在になりながらも、グルービーでありアバンギャルドな一面も忘れないまさにWilcoの真骨頂ともいうべきオルタナティブカントリーミュージックに仕上がっている。

『Ode to Joy』より「Everyone Hide」

 

そんなWilcoのギターリストであり、『ローリングストーン』誌における21世紀のギターヒーローのなかにも名を連ねるネルス・クライン。Wilco以外にもさまざまなプロジェクトを持ち、ロックスターにあるWilcoとはまた別のアンダーグラウンドな活動も多い。

The Nels Cline Singers では、90年代、Wilco加入前に参加していたフリージャズグループThe Nels Cline Trio の発展形として、エクスペリメンタルでノイズなサウンドを。パーカッションニストでありクラインの双子の兄弟であるアレックス・クライン、90年代はCibo Matto の活動で知られビースティーボーイズやショーン・レノン、Plastic Ono Band らと活動してきた本田ゆかとともに、本田プロデュースによる村上龍の小説『コインロッカーベイビーズ』にインスパイアされた、音楽で小説を翻訳したかのようなシネマテックでアバンギャルドなサウンドスケープ『Revert to Sea』を一緒に作り上げた。この作品は、2017年にテリー・ライリーもボードメンバーとして名を連ねるブルックリンのベニューNational Sawdustにて上映されたのである。

National Sawdustにて上映されたサウンドスケープ『Revert to Sea』について本田のインタビュー

 

そして、プライベートでもパートナーである本田との夫婦デュオ、「CUP」としてこの11月にはデビューアルバム『Spinning Creature』がブルックリンのレーベルNorthern Spy Recordsからリリースされる。
 

11月1日(金)にリリースするCUPのデビューアルバム『Spinning Creature』より、アルバムのタイトルにもなった「Spinning Creature」。

 

Wilcoに話を一旦戻すと、実はメンバー全員同じ街に住んではいない。ツアーまたはレコーディングの時に古き良き仲間は再会し、各々の新たなインプットを交換することでさらに新しいクリエイションを生み出しているが、クラインは本田とともにニューヨークに拠点を置き、CUPのアルバムは“日々の生活から生み出されたサウンド”だと本田はいう。

 

本田ゆか(2)

自宅のスタジオで機材に触れる様子。本田の日常そのものである

 

「いまやAbleton、Pro Toolsを使うことで、ミュージックスタジオに通うことなくDAW(A digital audio workstation)を持てる時代。音楽を作るのは日常的なことで、特に家で作業するのが好きですね」

ネルスとは、2009年に付き合いはじめてから本格的に一緒に音楽を作るようになった。今年の11月に発売されるCUPのデビューアルバムは、数日間音楽スタジオで集中してレコーディングをしたものと、CUPの前身バンドであるFIG時代に作られたものを、本田がさまざまなパターンを試しながらじっくりと自宅のスタジオで編集し、構成されたアルバムだ。

 

本田ゆか(3)

 

「制作の過程にはいろんなスタイルがあるのですが、最初にネルスがギターで曲を書いて、スタジオでいろんなパートでジャムを重ねていくもの、スタジオでふたりで音を出しながら作っていったものを私が自宅に持ち帰り、料理中、たとえば煮物を煮たりしている間に編集してました(笑)。料理は気分転換にもなるので。ネルスは天才型だからとにかく曲を考えるのも早いし、なんでも実行に移すのが早い! どんなパートでもサクサクとこなしてしまうのに比べて、私は試行錯誤しながら地道に、公私混同しながらジワジワと作り上げるのが好きなんです。そういう対照的なふたりだから、一緒に作ることに意味を感じます。そして、やっぱり自然体がいい」

 

本田ゆか(4)

 

アバンギャルドなノイズギターとグルービーなミニマルテクノが融合したような『Soon Will Be Flood』、本田が映像編集にも参加したPV『Spinning Creature』は、ネルスと本田のソフトなボーカルが気持ちよい。PVには、このアルバムの随所に使われるほど本田も愛用し、世界中にマニアも多く、ヤマハのレジェンダリーな楽器のひとつ「TENORI-ON(テノリオン)」が登場する。日々のサウンドトラックともいうべき全7曲入りのアルバム。

 

本田ゆか(5)

数台所有しているという「TENORI-ON」を操作する様子。日頃のライブでもたびたび使われる、愛すべき電子楽器である

 

「もともとやっている音楽のジャンルが違うのもあるし、あと新しいアパートに引っ越してきて、私たちと(CUPの名前の由来であり愛犬の)バターカップの3人になってから、ようやく、とうとうふたりだから出せる音が見つかってきた気がします」

 

本田ゆか(6)

スタジオの隅っこで本田を待ちわびる、クライン家の愛犬バターカップ

 

【INFORMATION】
■Wilco 
ニューアルバム『Ode to Joy』発売中

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℗© 2019 dBpm Records Inc.
Label:dBpm Records
Format:LP / Digital
https://wilcoworld.net
 

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■CUP
ファーストアルバム『Spinning Creature』
11月1日(金)発売

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Label:Northern Lights Records
Format:LP / Digital

http://cupmusicentity.bandcamp.com/album/spinning-creature-2

 


【PROFILE】
本田ゆか

幼少期、貿易関係の仕事をしていた父親のもとト゛イツ、テ゛ンマークで育つ。南フランスのAix-Marseille Universitéに留学、仏文学を専攻。 26歳よりNYに移住し、趣味で作曲を始める。
初めて使った機材はヤマハの4トラックレコータ゛ーとミニシンセ。1994年サンフ゜ラー1台て゛演奏するバンドCibo MattoをNYで始動。 1996年ワーナー・ブラザーズからCibo Mattoのデビューアルバム『Viva! La Woman』を発表し、カレッジ・ラジオチャートて゛6週連続ナンバーワンを記録。トラックの中から「Sugar Water」のPVを映像作家のMichel Gondryが手がける。さらに同年、Sean Lennonのテ゛ヒ゛ュー作をフ゜ロテ゛ュース。Cibo MattoではEP『SUPER DELUXE』、LP『STEREOTYPE A』『HOTEL VALENTINE』を発表している。ソロでは、ジャズミュージシャンJohn ZornのレーベルTzadikから作品を発表、 Sean Lennonのアルハ゛ム、バンドに参加、オノ・ヨーコのアルハ゛ムをアシスタントフ゜ロテ゛ュース、シンガーソングライターMartha Wainwrightのアルハ゛ムをフ゜ロテ゛ュース。
近年は、National SawdustのコミッションからSFのエレクトリックオヘ゜ラを制作。そして、カヒミ・カリィや、現地のミュージシャンGreg Fox、Nels Clineとともに参加したバンドDeerfoofによる作品のフルバージョンか゛2021年発表予定。さらに、元Kronos QuartetのチェリストJeffrey ZieglerやYoung People’s Chorusらと曲を制作。11月1日には、Nels ClineとのデュオCUPのデビューアルハ゛ム『Spinning Creature』を発売。また、カナダのバンドArcade Fireのメンハ゛ーRichard Reed Parryのソロアルハ゛ム『Quiet River of Dust』に詩の朗読て゛参加。今年11月26日(火)・27日(水)には日本で行われる公演に参加予定。

https://twitter.com/YukaCHonda?s=17

 


 

Text:工藤キキ
Photo:前田直子
Edit:草深早希