ナイス♪女性ボーカル Funny Voice編 10選【百歌繚乱・五里夢中 第24回】


前々回、前回と「インストポップ」のよさをさんざん熱く語りながら、打って変わって女性ボーカル曲をお薦めする節操のなさをお許しくだされ。でも”適当野郎”ではないつもりですぞ。やはり、歌っている中味=歌詞にはさほどの関心はなく、その声質とか歌唱力などの音楽的要素が私にとっては重要です。ただ概して、私が男であるがゆえなのか、男性ボーカルについてはかなり好き嫌いが激しいのですが、女性には、これはイヤだなと思うようなボーカリストはあまりいません。だから単なるナイスではあまりに多い。なので、そのボーカルのキャラクターによってカテゴライズした上で、お薦めしてみたいと思います。

「Funny Voice」とは?

 

ということで、今回は「ファニー・ボイス」な女性ボーカルというククリで。
「funny voice」、文字通り言えば「おかしな声」ですが、私はそこに「変わってて、でもとても魅力的な声」という意味を込めています。
その昔、1968年のハリウッド映画に「Funny Girl」というヒット作品がありました。主演はバーブラ・ストライサンド。バーブラの初出演映画でもありましたが、彼女演ずるところの女性が、美人ではないが、その性格・行動も含めて実に魅力的。その魅力を表すのに「funny」という言葉を用いたわけです。この映画があったから、「funny」にはそういう肯定的なニュアンスがプラスされたんじゃないかな、なんて思っています。
ポップミュージックが歌中心であることにちょっと抵抗があることは既にお話ししましたが、現実はまぎれもなくそうで、ゆえに、メロディ、歌詞、サウンドといろいろありますが、何より歌唱のあり方が、売れる売れないを左右するいちばんの大きな要素なんでしょうね。
ただ、歌が上手ければ売れるかというとそうでもありません。どうも上手い下手よりも、「声質」のほうが重要なポイントであるようです。
これは厳しい現実ですね。だって声質は天から与えられたもの。発声練習で声域が広がったり、力強くなったり、多少の改良はできるものの、やはりそもそもの声質をコントロールすることはできません。作詞・作曲他いろんな才能を持ちながら、声質に十分な魅力がなかったために売れなかったと思われるアーティストを実際何人か知っていますし、世界には無数に居るはずです。それはまあ、どうしようもないですね。それもまた人生。さっさと歌手は諦めて、他に活路を見出すべし!
今回は、幸いにも「Funny Voice」という声質を持って生まれ、もちろんその素質だけでやっていけるような楽な世界ではありませんので、しかるべく努力も重ねた女性シンガーたちの、愛すべき音楽作品群をご紹介していきましょう。

 

ナイスなFunny Voice女性10曲

 

①Nina Hagen「The Change」(シングル:1983年発売/from 4th アルバム『Fearless』:1983年11月発売)

ニナ・ハーゲンを憶えてますか?1955年3月11日、東ベルリン生まれ。歌、パフォーマンス、メイク、すべてにおいて常識破りで、「パンクの母」と呼ばれた人。
彼女の場合はFunny Voiceというより、Funny Vocal。歌い方までFunnyです。
ウチにニナ・ハーゲンのLPは何枚かあるんですが、2nd アルバム『Unbehagen(ウンバハーゲン)』(1979年)は最近手に入れまして、改めてつくづく見たら、帯に「ベートーヴェンを越える感性とディートリッヒを上回る美貌」というキャッチフレーズがありました。美貌で売っていたなんて記憶になかった。中の歌詞カードにはなんと江口寿史による似顔絵が!こんなぶっ飛んだ音楽もメジャーに売ろうとしてたんだなと思うと、なんかちょっとうれしくなりました。
さて、そのアルバムもとてもいいのですが、ここでお薦めするのは4th アルバム『Fearless』から「The Change」という曲。このアルバム、彼女の中では最も聴きやすいとされています。なんせプロデュースが、同じドイツ人にして、「ディスコの父」と呼ばれるジョルジョ・モロダー(Giorgio Moroder)ですからね。
でも、彼女のボーカルは常と変わらず容赦なし。魔女になったり天使になったり、突然の“ヨーデル”と十八番のディレイ飛ばし、とやりたい放題。サウンドがポップだから、より彼女の奔放さが輝いているような気がします。
「ディスコの父」と「パンクの母」のコラボレーション、絶妙のバランスです。

 

 

②青江三奈「恍惚のブルース」(デビュー・シングル:1966年6月21日)

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ニナ・ハーゲンから青江三奈へのつなぎっていいでしょ?(勝手にDJ気分…)
この人の声は相当変わってますねー。極端なハスキーボイス。たまたま同じ1966年にデビューした森進一がやはり極度のハスキーさで、デビュー曲が「女のためいき」だったということもあり、まとめて「ため息路線」なんて呼ばれたものです。でもこの2人しかいなかったんですけど。そして青江三奈は、68年に「伊勢佐木町ブルース」をリリースしたのですが、そこではモロに、イントロ・間奏で「ハァ、ハァ」なんて色っぽいため息をやってました。それを子供も観るゴールデンタイムの歌番組でやってたんですから、どうなんでしょうねー。NHK紅白歌合戦で歌った時は、ため息の代わりにカズーの音にしたらしいのですが、NHKだけそんなことしても意味ないでしょ…なんてことを含めて、歌謡曲の世界ってホント面白いです。
このデビュー曲のタイトルも、「恍惚」って…えらい言葉もってきますね。曲は好きなのですが(作曲は浜口庫之助)、川内康範の歌詞はかなりヤバい。
「歌詞にはさほどの関心はなく」と冒頭に書きましたが、そんな私の関心も引きずり込む川内康範、恐るべし。

 

 

③奥村チヨ「恋泥棒」(シングル:1969年10月1日発売)

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「危ない歌謡曲シリーズ」もうひとつ。
デビューは1965年。「ごめんネ…ジロー」などのスマッシュヒットがありつつも、今ひとつ伸び悩んでいた奥村チヨが念願のブレイクを果たしたのが、69年の「恋の奴隷」。ところがこれが、セクハラ、パワハラ、どうぞ存分にしてくださいみたいな歌詞で、今なら放送禁止?いや発売中止に追い込まれるんじゃないの。作詞はなかにし礼。川内康範に負けてないねぇ。本人も歌うのがイヤだったらしいですが、それにしては、セクシー&キュートな歌いっぷりが堂に入ってます。歌謡界、怖いですねー。
さすがに紅白歌合戦ではNGで、次作の「恋泥棒」を唄いました。こちらもなかにし礼なんですが、歌詞は比較的ソフト。さらに「恋狂い」が出て、“恋3部作”となるのですが、私は「恋泥棒」が好きですね。インパクト的にはやはり「恋の奴隷」でしょうが。
ともかく彼女のFunny Voiceと、独特のねばっこい歌唱スタイルは、他の人には決してマネできない境地です。

 

 

④Kate Bush「Sat in Your Lap」(シングル:1981年6月21日発売/from 4th アルバム『The Dreaming』:1982年9月13日発売)

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またダイナミックなつなぎ…もういいか。
ケイト・ブッシュが初めて、自分ひとりだけでプロデュースしたアルバム。納得ゆくまでやりたいことをやり切ったので、完成までに2年を要し、彼女の作品中、最も実験的で、最も非コマーシャルな一枚と言われているようですが、ちゃんと全英3位までいってます。
力作&名盤だと思いますし、彼女の研ぎ澄まされたFunny Voiceが、リードを解き放たれた犬のように、存分に暴れまわっています。
特にこの曲は、パーカッション多用のドカドカビートの上で、ささやき、シャウト、唸り、掛け声とあの手この手の歌唱スタイルが次々と飛び出し、さらに一人多重コーラスや"ファアライトCMI”でサンプリングしたと思われるボイス・パーカッションが合いの手を入れるという、カオス一歩手前の、美しくも過激な世界。
ジャケットも物語の1シーンのようでFunny。ミュージックビデオも変テコなダンス満載でFunny。全てがFunnyな孤高のアーティストです。
 

 


高田恭子「みんな夢の中」(シングル:1969年3月1日発売)

こんな素晴しい声の持ち主はそうそういないのに、世の中にほぼこの曲しか残っていません。これがソロデビュー曲で、80年に引退するまで、シングルを18枚も出しているのに、ベスト盤すらありません。もったいない。キングレコード様、なんとかしてください。ベスト盤出たら絶対買います…。
最初フォークを歌い、その後カンツォーネに興味を持って独習し、1968年、報知新聞主催の「第一回カンツォーネコンクール」で優勝したそうです。たしかにカンツォーネの要素あります。
彼女の声には、高域に独特の“照り”があるのです。ちょっと鼻声系なんですが、それがいい具合に作用するのか、音がこの曲ではいちばん高い上のCとかにいくと、ギラッと“照り”が出て、まるで声が輝くように感じるのです。こんな感じ、他の人では味わったことがないなぁ。男性だけど、ニール・ヤングがやや似た傾向かな?ともかく独特の声色。
この曲もそんな彼女の声の魅力をうまく引き出していて、大好きです。作詞・作曲は浜口庫之助。さすが。

 

 

⑥葛谷葉子「恋」(2nd シングル:2000年1月21日発売/from 1st アルバム『Music Greetings Volume One』:1999年9月22日発売) 

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この人も、僅かな作品を残しただけで、活動をやめてしまいました。実質活動期間2年弱。ソングライターとしてはその後も多くの人達に楽曲を提供しているのですが。
松尾潔プロデュースで、いわゆるR&B・スウィートソウル系のサウンドですが、この声、歌唱がどうにもクセになるくらいいい。シャウトしない。張らない。身体がだるいのか?と思うくらい淡々としています。口もあまり開けない(笑)。なので言葉がちょっとはっきりしなくて、「て」が「てぃ」に近かったりします。普通、これは邪道。そのへんのボーカル教師なら注意しまくるところでしょうし、私も、ヴジュアル系によくあるあの“英語風発音”を筆頭に、正しくない発音は基本気になる方なのですが、彼女の場合そこも魅力的で、許せてしまう。いい意味で気になる。
なんで歌うのやめちゃったのかなー。何かあったんでしょうけどね。まだ若い(1977年生まれ)のですから、ぜひもう一度立ち上がってください。

 

 

⑦Lady Gaga「Poker Face」(シングル:2008年9月29日発売/from 1st アルバム『The Fame』:2008年8月19日発売)

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私が思うに、前述のニナ・ハーゲンの後継者。もちろんレディ・ガガの方がもっとポップでもっと激売れしましたが。
ニナもお祖父さんはユダヤ人の銀行家で、まあ時代が悪く、ナチの収容所で亡くなってしまったのですが、でも家庭は裕福だったそうで、ガガも、お父さんが実業家。箱入り娘だったそうで、そこも同じ。令嬢の反抗期が爆発したパターン?
曲・サウンドが奇抜、衣装・メイクが奇抜、存在全体がFunny過ぎて、素の声質はようわからん感じでしたが、最近の作品、アルバム『Joanne』(2016年)とか映画『アリー/ スター誕生』では、ナチュラルな歌声でオーソドックスなバラードなども歌い、あらためてその声、歌唱力がただものではないことを見せてくれましたね。
それはともかく「Poker Face」、面白い曲ですね。「ポ、ポ、ポ、ポーカーフェイス、ポ、ポ、ポーカーフェイス」というリフレインは、単純なのに歌うのがむずかしいのだ。
 

 


⑧アグネス・チャン「ひなげしの花」(デビュー・シングル:1972年11月25日発売)

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この人の声は、正直好きというんじゃないのですが、しっかりFunny Voiceなのはたしかです。
「おっかのうーえ、ひンなげしのはーながー…」、歌い出しからいきなり度肝を抜かれますね。“素っ頓狂”とでも言うしかない、頭のテッペンから飛び出てるような声と、奇妙な発音。
この時17歳。日本へ来たばかりで言葉もままならなかったでしょう。それがああいう発音につながった。結局は聞き手への大きなインパクトとなったわけです。そこを計算してのこの曲作りだとしたら、プロデューサーがえらいですね。渡辺音楽出版の中島二千六さんかな?
「当初の衣裳はロングであったが、翌年ミニスカートに変えて人気が急上昇した」という記事を見つけましたが、いくらなんでもそこまで単純じゃないでしょ。

 

 

⑨Marina and the Diamonds「Primadonna」(シングル:2012年3月20日発売/from 2nd アルバム『Electra Heart』:2012年4月27日発売)

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マリーナさん率いるダイアモンズというバンドなんだ、と思われるかもしれませんが、1人の女性シンガーの名前です。本名がMarina Lambrini Diamandisでそれをもじったんですな。
激しいダンスビートに負けないパワーに加え、この人はオペラなどで使われる「ベルカント唱法」をしっかり身につけていますね。それが繊細な彩りとなって、その歌声を唯一無二のものにしています。
彼女は子供の頃、「シナスタジア(共感覚)」を持っていると診断されたそうです。シナスタジアとは、音に光を感じるとか、通常の感覚以外の感覚が同時に生ずる知覚機能を持つことだそうで、そんなことも彼女の声や歌に現れているのかもしれません。
その声の多彩さを最大限に活かす曲作りも見事です。ヒットプロデューサーのDr. LukeとCirkutがプロデュースと作曲に参加しています。
 

 


⑩Camila Cabello「Never Be the Same」(シングル:2017年12月7日発売/from 1st アルバム『Camila』:2018年1月12日発売)

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私の最新のお気に入りFunny Voiceがこのカミラ・カベロ(キューバ生まれですから名前はスペイン語。ならばカミラ・カベヨのはずなんですがね)です。
初めて聴いたのは「Shameless」という曲。その時はビックリしました。なんじゃ、このドラえもんみたいな声は!と。でも、世の中にスれている私ですから、「ああこういうキテレツな声が売りなのね」と早くも分別にとりかかろうとした矢先、突然今までと同じ人とは思えないくらいのキレイなハイトーン声に変化してまたビックリ。しかもやたら巧いことにも気づき、曲が終わる頃にはすっかり、カミラのファンになっていました…。
後から知るのですが、ルックスも可愛いキューバ生まれの22歳(1997年桃の節句生まれ)。米国のオーディション番組「Xファクター」から生まれた”Fifth Harmony”の一員として2013年、16歳でデビューしています。日本なら完全にアイドル路線、歌のクオリティは問われない(!?)ところですが、この実力。やはり世界レベルのエンタテインメントはすごい。
この曲「Never Be the Same」は、“ドラえもん声”とハイトーン・エンジェルボイスがともに存分に活かされた、彼女ならではの名曲です。調べてみたら、メロディの高低差約3オクターブ!でもまだまだ出るんだろうなと思わせる余裕の歌唱です。いやはや…。
 

 

 

 

以上、ナイスなFunny Voiceを持った女性シンガーでした。
声に魅力がないと成功するのは難しい。声に魅力があってもそれだけではなかなか…と序文で書きましたが、今回取り上げた僅か10アーティストの中にも、成功したとはいえない人もいました。こんなにいいのに。聴かなかったらもったいない。だから何度でもしつこく、語っていきたいと思います。

いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪