音楽で作る、新しいカタチのPTA! MOC(武蔵野おやじクリエイターズ)【ノンプロフェッショナル~おとなバンドの流儀~】


音楽は「プロ」だけのものではない。
誰であっても、いくつになっても、音楽は楽しめる。愛すべきノンプロを紹介するこのシリーズ、第二弾は武蔵野市を中心に活動するおとなバンドに注目。
ある週末、取材班は武蔵野市の施設で練習中の「MOC」を突撃した。この世には、仕事関係でもなく、同級生/同窓生というわけでもなく、かといって古い友人同士というわけでもない、不思議な関係が存在する。お互いが何者か知らなくたって、音楽があれば愉快な仲間になれる。利害関係のない間柄だからこそ、純粋に音楽で繋がる。そんなバンドが、そこにはあった!!

共通項は、保護者! バンドメンバーの仕事なんて、知らなくても大丈夫

 

はにかみながら歌うものもあれば、確かな技術力でバンドを支えるものもいる。しかし、何より笑顔の絶えない練習風景。ビール休憩を挟む彼らに、取材班はまずメンバーの職業や年齢を聞いてみた。

「発電所で設計を」
「眼鏡屋やってます!」
「公務員です」
「弁理士ってご存知?」
「某有名通販サイトのバックオフィスで…」

想像以上に多種多様だ。さらに

「45歳」
「52歳」
「35歳」

と、それぞれが年齢に言及し始めると……

「えっ? 〇〇さんってそうだったんですか?」
「△△さん、うちの上司と同世代だったの!」

と大盛り上がり。その場で初めて知って互いに驚く光景に、驚く我々である。
えっ? 一緒にバンドやっているくせに! そんなことも知らないの!?

 

PTAバンド(1)

 2019年12月1日に行われた「第54回PTAフェスティバル」にて

 

果たしてーー 彼らの共通項は、なんと「PTA

子どもが同じ市内の小学校/中学校に通う保護者たちによるバンドだったのだ。メンバーには、現役のPTA会長までいると言う。共働きが当たり前になり、時間拘束などの負担から各地で不要論まで飛び出しているPTA。そう、アメリカで生まれ、戦後日本にも導入されたParent-Teacher Associationだ。

 

PTAバンド(2)

PTAバンド(3)

PTAバンド(4)

 

なんだか興味深いではないか! 日を改め、立ち上げメンバーのひとり鈴木さんと、PTA会長の塚田さんに話を聞いてみた。
 

PTA不要論はもう古い!? SNSを駆使して負担減。PTA活動は、バンドと似ている


ーまずは、バンド編成からお聞かせください。

鈴木:特に決まっていなくて、それぞれが出来る楽器や歌、ラップで参加することが多いです。4~5人のときもあれば、最大30人ぐらいになる場合も。言われてみれば、全員が集まったこと…一度もないかもしれません(笑)。僕らはそもそも「集まらない」バンドなんですよ。だから、メンバー同士が普段どんな仕事をしている人なのか、最近まで、ほとんど知らなかった。それに、元々はPTAってことを特段意識していたわけじゃないんです。ただ、このメンバーで昨年12月に武蔵野市の市民文化会館大ホールで行われたPTAフェスティバル」ってイベントに初めて出まして。今年も、2回目の出場を果たしたところです。

 

PTAバンド(5)

PTAバンド(6)

「怪獣のバラード」をコーラス隊とともに演奏するMOC

 

塚田:「PTAフェスティバル」は、今年で54回目。半世紀以上続いているイベントなんですが、5年前までは「PTAコーラスのつどい」という名称だったんです。もちろんコーラスも素晴らしいのですが、学校によってはメンバーが集まらなかったり、参加が義務っぽくなったりするところもあって。だったら、もっとハードルを低くして「おとなの文化祭」みたいにしたらどうか?って、まず名前を「PTAフェス」に変えたんです。お揃いのTシャツやゆるキャラを作ったり、僕らのようなバンドも参加したり、5年かかってようやく「フェス感」が出てきました。それまでも、個々や小グループではそれぞれ活動していたんですが、去年の演奏が好評で、またやりたいね! と。そこを機にバンド活動がより活発になりました。

ーなるほど。PTAのイベントも時代に沿って変わってきてる。

塚田:市も協力するイベントだから、会場も立派なホールで気合が入りましたね。あそこでは失敗できない(笑)。

 

PTAバンド(7)

初ライブは地元のライブハウス……ではなく、まさかのホール!!

 

では、そもそもMOC結成の経緯は?

鈴木:MOCは、M(=武蔵野)O(=おやじ)C(=クリエイターズ)の略、頭文字です。「おやじたちでいろんなコトをクリエイトしていこうよ!」っていうのが最初の趣旨。ただ、今はメンバーに女性もいるので、Oはおとなですかね。 武蔵野市には小中合わせて18校あります。その中で、僕の子どもは井の頭小学校なんですけど、そこで「見破れ!~いかのおすし feat.ムサッシー君~」という地域防犯を広めるために子供たちに覚えてもらいやすいラップの曲を作ったんですよ。校長先生とかも巻き込んで。

 

PTAバンド(8)

「見破れ!~いかのおすし feat.ムサッシー君~」を聴く >>


ーおお、すごい! 「いかのおすし」って何かと思えば、「行かない」「らない」「声で叫ぶ」「らせる」の頭文字だ。よくよく頭文字好きですね。

鈴木:
たしかに(笑)。そんな感じで活動していたら、隣の第一小学校のお父さんたちが、たまたま校歌をパンクバージョンにしていまして(笑)。防災宿泊で校長先生とかも一緒に披露しているっていうんですね。意気投合して、地元の吉祥寺のお祭りのときに、第一小学校、第三小学校、井の頭小学校などの有志で集まりまして。お祭りのオリジナルTシャツを作ったり、ライブを企画したり。そこからなんとなくの、はじまりです。これが、第1期MOCですね。

HIPHOPにパンクって、武蔵野市どうなってるの(笑)! じゃあつまり、MOCは一つの小学校の保護者だけじゃない。

塚田:
そうです、そうです。で、そもそも武蔵野市って東と西に細長いんですよ。いまの鈴木さんの話は「東側」の話で(笑)。僕らは西の端の方の学校なんですが、こちらもお父さんたちで音楽をやっていたんです。運動会でマイムマイムを生演奏したり、平和な音楽性で(笑)。で、風の噂で隣の学校の話を聞いたりするうちに「あれ? 東の方にも同じようなことやっている人たちがいるみたいだぞ? おらが村だけじゃないみたい」って。で、そこが合体して第二期MOC。それがさらに増殖していっている……という感じかな。本当に各学校バラバラの保護者たちが参加していて、行事の日なんかもバラバラだから全員集まるなんて無理なんです。

鈴木:でも、そこで活躍したのがLINE。むしろLINEのグループから始まったと言っても過言じゃないですね。SNSという連絡手段がなかったら、ここまで広がりはなかったかも。曲決めから、コード表から、練習のスケジュールから、ぜんぶLINEです。学校も仕事もバラバラだから、できる人ができる範囲で、好きな時に参加できるバンドなんです。

 

PTAバンド(9) ​​​​​​PTAバンド(10)

現在23名が参加しているMOCのグループLINE

 

ーなるほど。ところで、塚田さんは現役のPTA会長です。

塚田:はい。関前南小学校っていう市内でいちばん小さな学校です。僕だけじゃなくて、他にもMOCには会長経験者がいますよ。

PTAって、最近は不要論もあったり。強制はおかしいとか、負担が大変とか批判も多いじゃないですか。その辺は、ぶっちゃけどうですか?

塚田:あっ、それ古い(笑)!! いまは全然違うと思います。もちろん嫌だって批判する人の気持ちもわかりますけど。負担は昔に比べ、少なくなってきています。それこそPTAも、LINEとかメールより気軽に一斉連絡できるツールの発達のおかげでとても楽になっているんですよ。むしろ、僕はPTAって今だからこそ必要だと思いますよ。

ーほぅ。

塚田:そもそもPTAの必要性、別にPTAってカタチじゃなくたっていいんです。でもね、子どもが通っている学校のことを親が知るっていうのはすごいメリットだと思うんです。そして、子どもに関わる親同士が知り合うのってメリットしかないですよ。本当に最近のPTAは変わってきていて、無理をしないなるべく「PTAっぽくしない」いわゆるステレオタイプの「PTA」らしさをなくすっていうのが、僕の会長としてのミッション。負担を減らしながらPTAをどう存続させていくか、どうやって楽しく学校に関わってもらえるかって。それにはMOCはぴったりでした。お互い仕事の関係性でもないし、同級生ってわけでもない、なんだか不思議な関係なんですよ、子どもの保護者同士って。大人になってから築くこの関係ってちょっと面白いですよ。

ーなるほど。PTAとバンドって親和性があるんですかね。

塚田:あります。結局はバンド活動だってコミュニケーションでしょ? そもそも、保護者同士って職業とかお互い言わないし、「音楽を好き」だとかもわざわざ言わないですよね。お父さん同士なんて、特にプライベートなことはあまり話さない。でもそんなこと知らなくても、一緒に演奏すれば本当に楽しくお互いを知ることができるんですよ。音楽の力ってすごいと思います。

ーじゃあ、みなさん学生時代にバリバリのバンドとかやってたクチですか。

鈴木:いや、そんなことないんですよ。

ーえっ! そうなんですか? だってパンク校歌とかHIP HOPって。

鈴木:もちろん、そういう人もいますし、なかには音楽を生業としている人もいます。僕自身は、楽器は何も弾けなかったんですが、MOCのメンバーからウクレレを習い始めて。楽器できない人の方が多いんじゃないかな? でもこれを機に僕みたいにやり始めた人もいる。そういう新しい世界が広がるのもMOCのいいところですね。あっ、楽器ができると言っても、そういえば塚田さんなんてバリバリのクラシック畑でしたよね?

 

PTAバンド(11)

MOCメンバーとウクレレ練習中の鈴木さん・真ん中 ​​​​​

 

塚田:はい(笑)。音楽キャリアは中学からずっと吹奏楽。大学はオーケストラ。ガチもガチ、どクラシックです(笑)。トランペットなんですが、そういえばヤマハさんをずっと使わせていただいてます。

 

PTAバンド(12)

“怪獣の雄叫び”を吹き上げる塚田さん

 

鈴木:今も、やられているんですよね。

塚田:ええ。大学のOBで金管のアンサンブル。Fireworks Brass Ensemble(http://www.fireworksbrass.net/)という東大、千葉大、筑波大の大学オケ出身のメンバーで構成された団体でやってます。

ーなんなんですか! ガチガチのガチじゃないですか!

塚田:ええ。だから、バンドはやるの初めてなんですよ! じつは、鈴木さんも習っているウクレレを教えてくれているのが僕の前の、関前南小学校のPTA会長だったんです。で、その前会長の長女とうちの長女が同級生で。たまたまクラス会かな、「塚田さんって音楽とかやらないんですか?」って聞いてきて。「ああ、まあ、ちょっと……」みたいなかんじで答えたら、
「来週お祭りで子どもたちに演奏するんですが、じゃあお願いします。コード教えるんでアレンジしといてください!!」
って。
はあ? 来週? 待て待て待て!って最初は思ったんですけど、やってみたら意外とうまくできて。楽しいし。あれ? クラシックじゃなくてこっちの道もありかな、って。で、気付いたらなぜかそのまま次の会長までやってました。

ーすげぇ! なり手がいないはずのPTAの、それも会長を音楽が解決してるとは(笑)。ちなみに曲目は?

塚田:「オー・シャンゼリゼ」と「おどるポンポコリン」(笑)。

ーあはは! いい選曲!

 

PTAバンド活動で磨かれる コミュニケーション&プレゼン力!



ーところでお二人のお仕事は? 

鈴木:僕は、株式会社ブロードバンドタワーという日本のインターネットインフラを支える会社に勤めていて、いわゆるエンジニアとして働いています。

ITですか! 会社名、出しちゃって大丈夫なんですか?

鈴木:はい。社長は音楽にも造詣が深いですし、地域貢献に余暇を活かす事に好意的な方です。同僚にMOCの話をすると、すごく興味を持ってくれる方もいますね。子育て世代の同僚だけでなく、音楽好きな人にも羨ましがられたり。

 

PTAバンド(13)

職場での鈴木さん

 

ーじゃあ仕事にもプラスに? 

鈴木:ええ、それはもちろん。会社内での交流も生まれるんですよ。こないだも、同僚が「おれも昔はバリバリのビジュアル系のバンドやっていたんだ」って動画見せてくれたり。いま、めっちゃ普通のサラリーマンですけど(笑)。でもそんな話、普通に働いてるだけだとしないじゃないですか。

ー塚田さんは?

塚田:僕は弁理士です。

 

PTAバンド(14)

 

ー弁理士? 聞き慣れずすみません。それはどういうお仕事なんですか?

塚田:何か発明した人がいたら、特許や意匠デザイン、商標などを権利化するためのお手伝いをします。YKI国際特許事務所という会社で、吉祥寺にあるんですね。やっぱり家と職場が近いから、学校のこともできるってのはあるかもしれませんね。

ーこちらも会社的に名前だしてオッケーなんですか?

塚田:ええ。うちの創立者がそもそも地域コミュニティにコミットすることに積極的な人で。僕がPTAやるってのも、「すごくいいんじゃないの」って。だから理解はありますね。売り上げ落とさないなら、どんどんやれって(笑)。

PTAやMOCの活動が仕事に活かされたことは?

塚田:それはもう、圧倒的にコミュニケーション能力の向上ですね。そもそも仕事柄、いろんな人に会って話を聞いたりするんですけど、確実に! 以前よりコミュニケーションが取れるようになりました。だってPTAなんて、仕事じゃ会わないような人にも会って、急に一緒に力を合わせなくちゃいけないし。あと音楽面では、ぶっちぎりでプレゼン力ですね。

ープレゼン!

塚田:ええ。人前で何かやるっていうのは、直結していますよね。自分の思っていることを伝えるには、空気読んだり間だったりアドリブも必要になるし。演奏も一緒じゃないですか。だから、ぶっちぎりでプレゼン力!

ーすごいなあ。なんかお二人とも、ちゃんとフィードバックされていますね。

鈴木:世の中には仕事が趣味って人もいますけど、絶対に、仕事じゃない部分からのつながりも持った方がいいと思います。どっちもあった方が人生が豊かになるし、家と職場の往復だけですって人生じゃなくて、実は身近なところに違う世界もあるんですよって。

塚田:おお! 鈴木さんいいこと言った(笑)。それです! 音楽って、みんなでできるコミュニケーションだと思うんですよ。絶対にやった方がいろいろプラスになると思います。僕はすべてトランペットが縁で、いまこうしているんですよ。

ートランペットが?

塚田:ええ。トランペットが。仕事にもPTAにも縁ができたのはそのおかげです。で、いったん違う世界に入ると、ネットワークの広がりがすごい。僕は地元は別で、結婚後武蔵野市に引っ越してきたんですけど、最初は子供のためにやりましたが、こうして地域のことやったりするとね、いきなり「俺の町」になってきたんですよ。以前は知らない人だったのが、どんどん知り合いになっていく(笑)。

 

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塚田さんは今年、三鷹駅前のイルミネーション点灯式のファンファーレを務めた。

 

鈴木:うん。それありますね。自分の住んでいるところが地元になって、そういうコミュニティがあることはとても心強い時があります。

塚田:地域のお祭りから声がかかるなど、MOCとしての活動がどんどん広がっていて自分でもちょっと驚いてますが、PTAとしての活動もやり方次第ではこんなに面白い!ってことを、少しでも知ってもらえると嬉しいですね。

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最後に、「PTAフェスティバル」に参加していた一人のお父さんの声を紹介したい。

「やってみたら楽しかった。これがPTAなら、全然できちゃう。音楽のあるPTAって、すごく良いですね」

果たしてそこには、純粋に音楽を楽しむ男たちの笑顔があった。
「音楽のあるPTA」であり「音楽で作るPTA」。音楽がつなぐ新しいカタチのコミュニティに、「おとなバンド」の今を見たのだった。

 


 

Text&Photo:ヴィンセント秋山
Edit:仲田 舞衣

 

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