【レコにまつわるエトセトラ】第6回 旧ソ連、辺境グルーヴ最後の秘宝 ~ RED FUNK


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。
そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿プログレッシヴ・ロック館店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。
第6回のテーマは、“旧ソ連、辺境グルーヴ最後の秘宝 ~ RED FUNK”。壁に隔てられた“向こう側の国”こと、旧ソ連で独自進化を遂げた音楽の一部に対して山中氏が提唱する新ジャンル、それが“RED FUNK”です。このネット社会でも未だ知る人ぞ知る存在…そんな鉄のカーテンで閉ざされた音楽シーン最深部に今回は誘います。

鉄のカーテンで閉ざされた音楽シーン最深部へご招待!

レコにまつわるエトセトラ6(1)

 

ここ数回の記事ではレコードというフィジカル・メディアそのものの魅力を紹介して来ましたが、今回はとある音楽ジャンルのお話をさせていただきます。もちろんレコードならではの。

今回ご紹介する音楽ジャンルは“RED FUNK”。みなさんご存知でしょうか? って、まだ知る人ぞ知るっていう感じですが。
というのも、RED FUNKは当の私が数年前に提唱し始めた新ジャンル。その舞台となるのは壁に隔てられた“向こう側の国”こと、旧ソ連です。

当時の特殊なお国事情はもちろん、今現在に至るまでCD化がほとんど進まなかったということも手伝い、繋がり得る術は当時リリースされたレコードを掘り起こすことでのみ。とはいえ、たとえ世界中どこのレコード屋に行っても気軽に手に入るような類のものではなく、ましてやディスク・ガイドや雑誌等で大っぴらに紹介されたこともなく、人知れず埋もれること数十年…。

結局そんな知られてないんだし、どうせ大した事ないんでしょ? ってお思いのアナタ、ちょっと待ってください。

クローズドな環境で育まれ、彼の国で独自進化を遂げた唯一無二の音楽的生態系は、決して英米に劣るものではありません。むしろその強烈な独自性が故、西側音楽のある種の定型が全身に染み込んだアナタにこそ、丸ごとフレッシュなサウンドを味わわせてくれるはず。

さあ、鉄のカーテンで閉ざされた音楽シーン最深部へとご招待しましょう!

 

レコにまつわるエトセトラ6(2)

旧ソ連を語る上では外せない、実にアイコニックなモスクワ・オリンピックのマスコット・キャラクター「こぐまのミーシャ」。ちなみにこれはソノ・シート付月刊誌『Кругозор(Krugozor)』の'80年7月号の表紙です。『Krugozor』だけにしか収録されていない音源なんかも存在しますので要チェック。

 

RED FUNK、それはソビエト連邦構成共和国が生んだ一種独特のグルーヴを持ったサウンドの総称。

世間一般のロシア音楽のイメージと言えば、クラシック、コサック・ダンス、バラライカ、そして90年代育ちにはお馴染みのt.A.T.uといった塩梅ですが、黄金期ともいえる70~80年代にはロック、サイケ、プログレ、ソウル、ジャズ、電子音楽等々、鉄のカーテンの向こう側でも西側諸国同様に多種多様な音楽が生み出されていたのです。ただ悲しいかな、ディープな音楽ファン界隈においても認知度は限りなくゼロ。

そこで私は旧ソ連音楽に魅せられた一愛好家として、この現状を放っておけないということで、RED FUNKという新しい冠を付け、布教活動を始めたというワケです。

 

レコにまつわるエトセトラ6(3)

'89年時点の旧ソ連の地図。

 

広大な国土を持つ旧ソ連の音楽シーンは、首都モスクワ(現ロシア)を中心に、エストニア、ラトビア、ベラルーシ等の西部(現東欧~北ヨーロッパ)、アゼルバイジャン、ジョージア等の南西部(現西アジア~東ヨーロッパ)、カザフスタン、タジキスタン等の南部(現中央アジア)、そしてモンゴルの南東部に大きく分けられ、英米の地域差とは比較にならないほどバラエティーに富んだ音楽性を持っています。

しかし、99%の録音物は国家による統制下。それらは国営スタジオでレコーディングが行われ、国営レーベルのMELODIYAからリリースされていました。おまけに全てはKGBを中心とした国家による監視付で。

こうして、この特殊事情が多種多様な音楽性に(期せずして?)統一感を持たせ、“RED FUNK”という一つのジャンルに括るに相応しい音楽シーンが存在していたのです。

 

レコにまつわるエトセトラ6(4)

Константин Орбелян(Constantine Orbelian)の'77年作『Песни』の裏ジャケットより抜粋。
VIAの人数の多さ、この写真を見ただけでも分かると思います。

 

ここで旧ソ連シーンならではの魅力について、もう少し触れておきましょう。

まず挙げられるのは、そのスキルの高さです。
大半のアーティストはクラシック畑でアカデミックな教育を受けた、いわゆる音楽的サラブレッド。どこの馬の骨とも知らない音楽好きの兄ちゃんが、バンドを組んで人気を集めてレコードをリリース、そんな西側の“普通”がまかり通るような寛容さは全くなかったということです。

次に挙げておきたいのは、グループの構成人数です。
英米でバンドと言えば、3~5名といった感じでしょうが、旧ソ連でいうところのバンド、VIA(Vocal Instrumental Ensembleの略)は、10人や20人が当たり前という大所帯ぶり。

こうした凄腕が大勢集まってサイケやらディスコやらをプレイするわけですから、それだけで英米とは基本的なサウンドの骨組みが違うっていうことを分かっていただけると思います。

 

独自進化を遂げた唯一無二の音楽的生態系、その一端をご紹介。

レコにまつわるエトセトラ6(5)

いつもトップ画像はコレでしたが、実は旧ソ連のレコードたちだったのです。

 

では肝心の音源をご紹介していきましょう。
 


Мелодия - Лабиринт
(Melodiya - Labyrinth) 1974

まずは旧ソ連シーンの最高峰に燦然と輝くジャズ・グループ、Melodiya Ensembleをご紹介。

グループ名自体が唯一の国営レーベルの名を冠しているということからも、彼らが特別な存在である事が分かっていただけると思います。そして本曲は、彼らが残した多くのカタログの中でも、不動の最高傑作と言える'74年作「Лабиринт(Labyrinth)」のオープニングを飾る1曲です。
冒頭からヒリヒリと焼け付くファズ・ベース、印象的なブレイク満載のタイトなドラミング、雄弁に語るメロディアスなホーン。ジャズ、ファンク、サイケ等、全ての要素は一つに溶け込み“究極”へと転生した、旧ソ連ジャズ界が生んだ永遠のマスターピース。
 


ВИА-75 - Аробная
(VIA 75 - Orovela) 1976

次に紹介するのは、伝統的民族音楽とジャズ・ファンクのハイブリッドを果たした、RED FUNKらしいサウンドを持った作品です。

彼らは1975年、その結成年数をそのままグループ名に据えた、ジョージア(旧名:グルジア)が誇る最強ジャズ・ファンク・グループ。本曲は1976年にリリースされた彼らの記念碑的デビュー作からの1曲です。
荘厳なコーラス・ワークによるジョージア・トラディショナル・フォークをベースにしながらも、切り裂く連発ホーン、吹きすさぶフルート、優美に乱れるピアノ、そしてファンキーなドラム・ブレイクを大胆に導入、否応なしに頭が振らされる絶品ジャズ・ファンク・ナンバーへとトランスフォームしたシーンを代表する名曲です。
 


АРГО – A1
(Argo – A1) 1980

今度は音楽性をガラリと変えて、エレクトロ・ミュージックから1曲をレコメンド。

リトアニア・エレクトロ・シーンを代表するグループによる、共産圏エレクトロ・ディスコ最大の名盤との呼び声高い'80年デビュー作「Дискофония(Discophonia)」からオープニング・トラックをチョイス。
自国ヴィリニュス製のエレクトリック・オルガンとシンセにより生み出される多幸感溢れるサウンド、細かいハット刻みと四つ打ちによるディスコ・ビート、そして連呼される“DISCO”が織りなす本曲は、ドイツで言う所のNEU!「Hallogallo」にあたるアンセム・チューン。
 


Чарівні Гітари – Ночной Экспресс
(Charivny Gitary – Night Express) 1980

最後は最高にゴキゲンでアゲアゲ必至なナンバーをご紹介。ちなみに以前、私がこの曲をDJでプレイした時、(もちろんこの曲を知らない)外国人のオバちゃんがブチ上がっていました。最高。

ウクライナ初のビック・ヒットを果たし、多くのフォロワーを産んだメロウ・ソウル・グループが唯一リリースしたアルバムからの1曲。グループ名は英訳すると“MAGIC GUITARS”。
アルバムはこの曲以外にも本当に名曲揃いで、完成度の高い自作曲を軸とした極上ホワイト・ソウルの数々が収録されています。旧ソ連産ソウル~プリAORの模範解答的1枚と言えるでしょう。

 

これはあくまでRED FUNKのイロハのイ。この先にはさらなる深淵が…。

レコにまつわるエトセトラ6(6)

X-RAY AUDIO、BONE MUSIC、レントゲン・レコード等々、様々な呼び方がありますが、やはりここ日本では“肋骨レコード”が一般的。

 

ここまで色々と書きましたが、これはあくまでRED FUNKのイロハのイ。今年は展示会も行われ注目集まる“肋骨レコード”を始め、もっと紹介すべきことが一杯ありますが、字数も尽きたので今回はこれにて一旦終了。続きは続編ということで。

あと最後に一番大事な話ですが、12月22日(日)にディスクユニオン新宿プログレッシヴ・ロック館でこれらRED FUNKのレコードを大量に放出します。
貴重な当時盤の数々が一箇所に集まる店なんて、世界広しと言えども当店だけでしょう。
気になる方は是非チェックお願いします!

最新情報はこちら。
ディスクユニオン新宿プログレッシヴ・ロック館
https://twitter.com/diskunion_DS3

 


 

Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千