京都発!年々盛り上がりを増す高校生のためのバンドコンテスト『TEENAGE KICKS』とは?


約30年前、“イカ天”をはじめとした空前のバンドブームも今や昔。かつてアマチュアバンドが腕を競ったコンテストも現在は絶滅同然だ。そんな中、一人の高校教諭の声から始まった高校生向けのバンドコンテストが京都で開催されているというので、現地に足を運んでみた!

ひとりの軽音楽部顧問の奮闘から生まれたバンドコンテスト

 

京都精華大学のAGORAホールで2日間に渡り開催された「TEENAGE KICKS〜第十九回 京都十一月グランプリ大会」は、なんと京都の14の高校から28バンドが集まる盛況ぶり。高校生たちは実にイキイキと、コンテストのグランプリ目指して熱く演奏しており、会場の温度も高い!

ここでまず驚くのが、この場にいる高校生がみんな礼儀正しく「いい子」らしいこと。盗んだバイクで走りだしそうなヤツはひとりもいない。バンド=不良の時代がとっくに終了していたことには隔世の感がありまくりだが、むしろ他校のライバルの演奏にも声援を送るフェスのようにフレンドリーな雰囲気は良いに決まっているし、かりそめの反逆心をバンドにぶつける必要のなくなった時代を反映しているのではないか。

などと無理に考察しなくても、ティーンの情熱がほとばしる熱い競演には素直に胸が熱くなる。

しかしこの盛り上がりからは想像もつかないが、初回開催時の参加はたった4校だったという。いかにしてこのコンテストは盛り上がってきたのか? その足取りをたどるべく、まずは発起人の遠山正哉さんに話を伺った。

 

TEENAGE KICKS(1)

 

遠山さんは2018年に30年間教鞭をとった高校を退職。そのうち後半の17年間に渡り軽音楽部顧問を務めた。

「文化系クラブの中ではアウトローの集まりという感のあった軽音楽部でしたが、2010年頃にアニメ『けいおん!』ブームもあり一気に部員が増えたのです」

しかし軽音楽部といえば部活の冷遇度は常に上位。音楽室の使用は認められず、練習場所は放課後の教室の片隅。そこで部員が自費で購入したアンプにギターを繋ぐたび「うるさい」「音を出さずにやれ」と苦情が入る有様だった。そこで学校の近くの音楽スタジオ『hanamauii』(ハナマウイ)に相談したところ、オーナーは快く低料金で練習させてくれ、おまけにスタッフが技術指導を買って出てくれたという。

そのかいもあってか、2012年にはなんと部員がNHK主催のバンドコンテストで関西第2位に入賞! すると当然ながら学校側の対応も変わり、音楽室やホールの使用が許可され機材倉庫も与えられるなど練習環境が充実していく。しかしそこで磨いた腕をどこで披露すればいいかという問題があった。

「京都には高校生を対象とした演奏会や大会がありませんでした。そこで彼らに発表の場を用意し目標を持ってもらいたいと、普段から世話になっている『hanamauii』に足繁く通って相談し、ついにその協力を得て『TEENAGE KICKS』を開催するに至ったんです」

第1回開催は2014年1月、京都市内のライブハウス「二条グローリー」にて。前述の通り参加は4校と少なかったが、遠山さんは諦めず、各学校の軽音楽部顧問に直電作戦を展開。地道に参加を呼びかけ協力者を増やしていく。

それだけでなく、高校生のための公的な大会等を開くには連盟が不可欠と、2016年には「京都府高等学校軽音楽連盟」を発足させる不屈の奮闘を見せた。2017年には加盟校がなんと20校に増えたこの連盟が、学校同士の関係に横串を通す役割を果たしたことは確かだ。

ローマへの道は一日にしてならず。地道な苦心の先に開催されたコンテストなのである。昨今では「先生」という仕事の激務ぶりも明らかになってきているが、その傍らでここまで精力的に働きかけた遠山さんの尽力には頭が下がるばかり。教育現場で孤軍奮闘した遠山さんこそまさにロックンローラーなのでは!?

そんなスクール・オブ・ロックを地で行く遠山さんは教諭を退職した今も、実行委員会顧問としてイベント運営側と学校側との調整役を務めている。学校によっては「ライブハウスNG」など様々な規則があり、そこをクリアする参加しやすい体制づくりは続いているのだ。

 

TEENAGE KICKS(2)

 

地元FM局も応援!

 

このイベントにはもうひとりのキーマンがいる。京都を拠点に活動する「片山ブレイカーズ&ザ☆ロケンローパーティ」のボーカリスト片山尚志さんだ。音楽活動の傍ら京都のFM局「α-STATION」でDJも務めており、その番組「BREAK ON THROUGH」で『TEENAGE KICKS』の応援を始めたことも、イベントの大きな躍進力となった。

 

TEENAGE KICKS(3)

 

バンドのボーカルだけあって近寄りがたいカリスマ的な何かを発する片山さんに恐る恐るイベントに注ぐ情熱を聞くと、始めこそ「いや、そういう熱い感じは難しいな」というクールな反応であったが、実際にお話を聞くと胸の内の炎が垣間見える熱いコメントが次々と。実は片山さん、19回目となった今大会からは自ら実行委員長を務めるほどの『TEENAGE KICKS』応援団長なのである。

「このイベントに関わるまで、京都の高校の軽音楽部に部員がそれぞれ60~100人もいるなんて知りませんでした。でもそんなに部員がいるのに、学園祭でも決まった子たちがちょっと演奏するぐらいで、ほとんどは卒業まで何の出番もなく3年間を過ごすなんて、なんというか…かわいそうじゃないですか!」

そんな片山さんが大会に携わって最初に手掛けたのは「高校生が『不公平やな』と感じない採点」。コンテストの審査には審査員の心情が影響するのではと批判が集まりがちだが、このコンテストでは、ライブパフォーマンスを評価する「パフォーマンス点(15点)」、歌唱力やグルーヴ、アンサンブルを評価する「技術点(30点)」など、評価基準を細かくシステム化してある。

その中でまたしても時代の変化を感じるのは、事前に提出するバンド紹介動画とアーティスト写真を評価する「動画・アーティスト写真点(5点)」。そう、このコンテストでは、応募時に自分たちの紹介動画と写真を用意しなければならないのだ。応募書類はバンド名、演奏曲、意気込み数行で終わらせていた90年代のバンド少年・少女には信じられない事実だろう。

しかし、彼らはほぼ全員がスマホを持つデジタルリテラシーの高い世代。「初めての出場です♥」といったフレッシュさを押したものから、ストーリー仕立ての高クオリティ動画まで、たった数十秒の中に世界観を盛り込んでいる。高校生だってセルフプロデュース能力を発揮する時代なのだ。

審査が偏らないよう審査員は5人を揃え、持ち点100点×5人分で総合得点は500点。うち250点分が演奏直後に発表されるシステムで、会場の反応を見る限り高校生のモチベーションアップにも繋がっていそうだ。加えて審査員による評価シートは各高校の顧問に渡され、その後の実力アップに繋げてもらうという細やかなフィードバック体勢をとっている。

「そもそも軽音楽に点数を付けるなんておかしいんです。でもそこはゲーム性を高めることで、楽器を練習するきっかけやパフォーマンスへの意識を変える一助になれば。彼らの伸びしろはすごいですから」

 

TEENAGE KICKS(4)

 

開会挨拶でも「初めての人はリハーサルを大事にしてください。どれだけ早く音作りができるかで、本番でできることが変わるので」とアドバイスを送っていたし、片山のアニキの親心は尽きないのだ。

しかしアニキが苦心するのはやはりビジネス的な採算の部分。PAや照明もプロが手掛ける見ごたえのあるステージだし、これだけの機材、スタッフを揃えると経費もかさみそうだが…。

「1人1800円の参加費を集めていますが、高校生にはこれが限界だと考えていて、あとは会場提供などのスポンサーを募って運営費を削る努力をしています。それでもスタッフの持ち出しが多いのが正直なところですね(苦笑)」

例えば会場は、京都精華大学の協力を得て同大学のホールを使用。前述の遠山さんによると、ポピュラーカルチャー学部音楽コースの設立を機に協力体制ができたそうだが、コンテストに出場した高校生のうち何名かは同大学に進学してもいるそうで、相乗効果は高い。

それに片山さんが「こんなに音楽に真剣に向き合っている子たちは、業界の宝ですよ」と話す通り、この若者たちがこれからも音楽活動を続けると思えば、業界活性化に繋がることは必至。高校生の音楽活動を応援してくれる企業の皆様方にはぜひスポンサーとして名乗りを上げていただきたい!

ちなみに、出演者以外にも会場スタッフや広報など高校生ボランティアが多く携わっている。公式カメラマンも現役高校生で、実はこの記事の写真はすべて堀川高等学校3年生の髙田慎太郎くんの撮影。最初は出演者として参加したが、その翌日すぐに撮影で協力したいと申し出たのだというから、イマドキの高校生の意識の高さには驚かされる!

 

TEENAGE KICKS(5)

TEENAGE KICKS(6)

 

オリジナル曲には加点。高校生に創作をしてほしいというメッセージ

 

さらに驚いたのは、オリジナル曲を演奏するバンドの多いこと。バンドブームの頃は、高校生バンドの多くは自慢の”スモーク・オン・ザ・ウォーター”で腕を競ったのではなかったか。というのは言い過ぎにしても、ほとんどがコピーバンドだったことを思えば、京都の高校生バンドの意識の高さと来たら!?

それもそのはず、このコンテストではオリジナル曲なら1曲につき10点まで加点される。つまりグランプリを狙うには、オリジナル曲制作がマストなのだ。そこには、高校生に創作をしてほしいという主催者の思いがあった。

片山さんいわく、

「軽音楽のいいところは、吹奏楽より楽器にライトに関われて、すぐに創作をできること。『曲を作る』という目標があると、日常で聴く音楽、学校に行く時に観る景色や休み時間に友達と話すこと、そんな日々のできごとが全部、創作活動に繋がる。

制作の過程では周りの人の音も聞かないといけないし、時にはメンバーと意見が合わなくなることも。それを克服しながら人間関係を築くことも体験して欲しい。創作活動は人生を豊かにすると思います」

しかもグランプリを獲得すればプロによるレコーディング&MV制作という副賞付きとくれば、参加バンドの気合いの入り方も半端ではない。

前半は1年生バンドでコピーも多く、back numberの”HAPPY BIRTHDAY”など流行りの楽曲のほか、ブルーハーツの”リンダリンダ”に情熱をぶつける女子バンドも。選曲は「顧問の先生に課題曲で出された」と、顧問と部員が築く関係性の良さを物語るのもどこか心が温まる。

後半に出場する2年生はMCやパフォーマンス力も急に上がる。やはりステージに上る機会が多いほど実力もつくのだ。力強い女子高生ドラマーの背後にはジョン・ボーナムの姿が重なり、ベースがうねり、ギターが泣く! それにしても京都のジミヘン高校生の泣きはどこか爽やかだ…! もちろん中には「キミら個人練習嫌いだね?」とツッコミたくなる荒削りな原石もいるが、むしろ技術に関わらず堂々と演奏する姿、大人になった今はそれすら眩しい。

オリジナル曲に詰め込まれた高校生の本気の言葉は、健全なパワーだけでなくやはり出口のない感情も内包し、胸に迫る。彼らの演奏を聞いていると忘れていた大切な何かを思い出しそうだ…。
 


2018年11月大会のグランプリバンド「LIly」”蒼”のMVを見えていただければ、そのレベルの高さがわかるだろう。

「けっこうみんなヤルでしょう(笑)? 11月大会はほぼ1、2年生なのでまだフレッシュですけど、6月大会はこんなもんじゃないですよ。引退前の3年生がそこに照準を合わせて本気を出してきますから」

片山さんはそう話す。なるほど、来年の6月までに彼らがどれほどの成長を遂げるかは空恐ろしいほどだ。

「軽音楽部をやめて大学に入っても社会人になっても楽器が生活のそばにあって、音楽とともに人生を送ってくれたら」という片山さんの熱いメッセージで幕を下ろした「TEENAGE KICKS〜第十九回 京都十一月グランプリ大会」。

しかしこれは終わりではなく始まりでもあり、実は来たる12月22日(日)には初の「関西大会」の開催も決まっており、翌2020年3月21日(土)、22日(日)には100人を超える高校生ボランティアスタッフが参加する野外フェス「AMATERU FES.」も開催される。入場無料で観覧できるので、ぜひ高校生の熱演をその目に焼き付けていただきたい。

ひとりの情熱に人々が共感・共振したとき、大きなうねりが生まれることを実証したこの『TEENAGE KICKS』というイベント、今後どんな発展を見せるのか楽しみだ!

 

TEENAGE KICKS(7)

 

TEENAGE KICKS今後の予定
「TEENAGE KICKS〜第一回 関西大会」
日程:2019年12月22日(日)
会場 : 大阪スクールオブミュージック専門学校

「AMATERU FES.」
日程:2019年3月21(土)22日(日)
会場:山城総合運動公園(太陽が丘)

詳しくはTEENAGE KICKSオフィシャルサイトにて
https://teenage-kicks.net/

Twitter
https://twitter.com/hanamauiikicks/

 


 

Text:明知 真理子
Photo:タカダシンタロ(京都市立堀川高校)