写真家・嶌村吉祥丸が選ぶ「撮影中にかけたい曲」10選

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普段の生活や思想にまで影響を及ぼす音楽。撮影中にかける音楽によって、その場の空気感やモデルさんの気分も変化します。同時に自分自身の気分も音楽によってテンポが変わってくるというのも事実です。今回は、私が「撮影中にかけたい曲」というテーマで10曲選曲させていただきました。
 

 

#1. Radiohead - Daydreaming

繊細な音で始まる冒頭部分はまるで意識を失って夢に落ちる瞬間のように聞こえます。ミュージックビデオの中で、男がひたすら歩き続けている様子は実にシンプルで美しいものです。彼が身を置かれる環境の数々は、リアルに見えて、どこかに不穏に感じてきます。様々なドアの向こうの世界は、新しい世界のはずなのに全て見覚えがあるような日常の景色が淡々と移り変わってゆきます。曲の終盤、聴覚の世界が崩れ行き、自分自身を探すかのように、さらに深い意識の世界へと落ちていきます。そんな夢を見ているように、何も考えずに撮影に集中したい時にかけたい一曲です。

Daydreaming

Radiohead

 

#2. MGMT - Time to Pretend

彼らは非現実的世界観をポップに表現しています。ミュージックビデオでは、なんとも言えない原始的な世界観と宇宙的な世界観を融合させていて、まさにカオス。日常性とはかけ離れた映像と音楽は、退屈な日常から脱出させてくれます。早朝からの撮影で眠気を吹っ飛ばしたいとき、朝一発目にかけたい一曲。

Time to Pretend

MGMT

 

#3. Sia feat. Sean Paul - Cheap Thrills

徹底的に顔出しせずに世界的に活動しているSia。彼女の名を聞くと、いつも力強く踊る少女の顔が思い浮かびます。彼女のミュージックビデオでは、その少女のパフォーマンスを中心とするものがほとんどですが、この曲はSean Paulとの合作曲の為、その少女は登場しません。彼女の力強い音楽は、私たちに自由とは何かを考えさせてくれます。思わず身体を動かしたくなるような(そんな撮影でかけたい)一曲。

Cheap Thrills

Sia feat. Sean Paul

 

#4. Massive Attack - Ritual Spirit

Massive Attackは極めて純粋であり、ミニマル。音楽を通して、何かを極めてシンプルに追求し続けています。きっと彼らの意図は、曲を通してなにかを伝えることではなく、作ること自体にあるのではないでしょうか。この曲から与えられた感情とそれによって産まれる思想を解釈するのは、とても難しいものです。解釈の余地を与えられたこの曲の向かう先には、何かあるように感じて、何もないのかもしれません。人間を人間として向き合い、ありのままのポートレートを撮影する時にかけたい一曲。

Ritual Spirit

Massive Attack/Azekel

 

#5. D.A.N. - Zidane

完成度の高さ故の重みがあるのに、非常に軽快でフレッシュな曲。彼らの歌詞の言葉は難解なわけでもなく、しかしその並びや語呂はあまりにも斬新で、日本語であることを忘れるほど心地良く聞こえます。ビジュアルや映像のデザインも、とても素敵です。どんな撮影でも、どんな状況でも居心地を良くしてくれる一曲。

Zidane

D.A.N.

 

#6. Flight Facilities - Crave you

Flight Facilitiesはそのままで、乗りやすいビート、わかりやすい歌詞、そして率直に身体が揺れてくるような曲となっています。この曲も歌詞だけ見れば一見、よくあるアメリカンポップのように見えますが、ミュージックビデオにおける謎の設定や、ラストシーンの身体交換のオチの理解不能さには一言では言い表せないポップさが内包されています。撮影では、テンポがわかりやすく、初めて聞く人でも乗りやすい一曲。(ブツ撮りにも向いているかも。)

Crave You (feat. Giselle) [Cassian Remix]

Flight Facilities

 

#7. Paul McCartney – We Can Work It Out

彼が世界中の人々に愛され続けているのは、理由があるのだと思います。ネガティブな感情が無く、「我々ならできる」と軽やかに、「試しに僕の立場に立って考えてみて」とまっすぐに歌い上げています。それはきっと、誰だってうまくいかないことがあることを認めて、相手を包容し、前向きに頑張ろうとする姿を応援する歌なのかもしれません。撮影が雨の日で憂鬱でも、この曲をかければ心はきっと前向きになれる、そんな一曲。

We Can Work It Out

Paul McCartney

 

#8. John Mayer - Daughters

この歌は行きつけの古着屋さんで、いつもかかっていた曲です。古着屋のお兄さんの気まぐれでかかるこの曲は、まるで家のソファでくつろいでいるような感覚にさせてくれました。どこか懐かしいメロディで優しい口調で語られる言葉は、父親は娘を大事にしようというもの。撮影のテーマとはかけ離れていても、当たり障りのない会話のように心地よく聞き流せる一曲。

Daughters

John Mayer

 

#9. The Chemical Brothers - Go

非常にテンポがよく、中毒性のあるリズムに思わず身体が動いてしまう。愉快極まりないテクノ音と共に、地球に訪れた異星人たちがはまり役で出演するミュージックビデオは必見。
We are only here to make you…
We are only here to make you…
We are only here to make you… GO!
テンポの良さゆえに、リズムにのって動きながら、いつもより多くシャッターを切ってしまいそうな一曲。

Go

The Chemical Brothers

 

#10. Bob Dylan - Blowin' In the Wind

Dylanの歌詞は、実に文学的です。彼の言葉に誰もが一度は共感したことがあるのではないでしょうか。政治的、哲学的な思考の先に彼が見つめようとするその答えは、我々もまた、探し続けているものです。この命が終えるまでに、その答えはずっと掴めないかもしれませんが、彼はそれを問い続け、答え続けています。何も考えず、自然体で撮影に臨みたい時にかけたい一曲。

Blowin' In the Wind

Bob Dylan

 

音楽と写真では表現方法は違えども、共通することもたくさんあります。これからも様々なジャンルの音楽と触れあって、私なりの写真の形を模索していきたいと思います。

 

Profile

嶌村吉祥丸|kisshomaru shimamura

東京生まれ。ファッション誌、広告、カタログ、アーティスト写真など幅広く活動。
主な個展に”Unusual Usual” (Portland , 2014)、”You are good” (Tokyo, 2015)、”Inside Out” (Warsaw, 2016)、”The Room”(Tokyo, 2016)、”the day after yesterday”(Tokyo, 2016)、"who you are"(2017)など。


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