【レコにまつわるエトセトラ】第7回 レコード用語辞典 ~ 誰も教えてくれないレコ屋スラング


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。
そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン・新宿プログレッシヴ・ロック館店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。
第7回のテーマは、“レコード用語辞典 ~ 誰も教えてくれないレコ屋スラング”。レコードブームもあって最近では若い女子をちらほら見かけるお店もありますが、昔の(特に専門店系の)レコード屋にはやはりどこか入りづらい敷居の高さがあったものです。そして、お店のスタッフと常連客が話す会話から漏れ聞こえてくる言葉は、一般の人にはちんぷんかんぷんだったりも…。そんな現場で使われる“レコ屋スラング”の数々を今回はご紹介!

レコード屋にはよく分からない専門用語が飛び交っている…?

レコにまつわるエトセトラ(1)

やっぱり象徴的なレコード屋「ROUGH TRADE」。

 

皆さん、レコード屋に行ったことはありますでしょうか?

インターネット内だけでも十分買い物が完結してしまう今日この頃。
自分の狙ってるアレがないかもしれないのに、何もわざわざ店に足を伸ばさなくても…なんて思う方もいるかもしれませんが、やっぱり本当に良い出会いっていうのはレコード屋にあると思います。
店でかかっている音楽に脳天をガツンとやられたり、何気なく見ていたら十年来のトップ・ウォントが爆安で見つかったり、ひょんなことから店員さんに薦められた一枚に人生を変えられたり…そんな“何か”がリアル店舗にはあると思います。

ただ「レコ屋ってなんか入りづらい」とか、「よく分かんない専門用語が飛び交ってる」とか、そんな声もチラホラ聞こえてきたりこなかったり。
言ってみれば古着屋なんかと一緒で、マンション一室系の店舗とかも多いので気持ちは分かります。さらにそんな店に勇気を出して入ってみても、店員さんからは聞き慣れない専門用語がバンバン出てくるかもしれません。
今では普通(?)の用語であれば少しググれば分かるかもしれませんが、いわゆる現場で日常的に使われる生の言葉はどこにも載っていたりなんてしないものです。

とまぁかなりオオゲサ目な話をしましたが、今回はみなさんがレコード屋で“通”を気取れる、そんなレコ屋スラングをチラリとご紹介します。
結構ローカルな言葉もあると思うので、どこかでしたり顔で使って通じなくても責任は持ちません。悪しからず。

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

 

【壁】
または、壁レコ。多くの店で見ることが出来る、壁に飾ってあるレコードのこと。基本的には、その店のオススメないし自慢の高額盤が陳列されていることが多い。初めて行った店では、壁を一瞥すれば概ねどういったタイプの店かが判別可能。

【エサ箱】
店にあるようなレコード用什器、または箱のことを指す。レコードを見る時に手でチョンチョン引っ張り上げる仕草が、鳥が餌をかいつまむ様に似ていることから命名。または安盤をエサに見立てて、安盤が多い床置きの箱を指すことも多い。

【OBI】
帯のこと。帯は日本特有の文化のため、世界共通用語として使用されている。OBI Stripとも呼ぶ。

【エクスポート】
輸出用として製造されたレコード。ジャケットやラベルに通常リリースされたものとは異なるデザインが施されたり、本国盤とは異なるカッティングのものも存在し、高い価値を持つものも多い。

【委託(プレス)】
増産や生産ラインの混雑状況等々、様々な理由によって、そのレーベルが通常使用するプレス工場以外の工場へプレスを委託して生産された盤のこと。エクスポート同様、通常盤とは異なる仕様(特にカッティング)のものも多い。

【白】
プロモ盤のこと。白プロモ、白ラベルとも呼ぶ。

【プラガイ】
プライス・ガイド。

【コグス】
Discogs。 ※音楽に関するデータベースサイト

 

匂いを嗅げば、どこの国のレコードかわかる…?

レコにまつわるエトセトラ(3)

Dark『Dark Round the Edges』。僅か64枚の制作ながら数種のバリエーションが存在。その中でもとりわけ美しいカラー・スリーヴ・ヴァージョンは、英国産レコードの中でも最も高額なものの内のひとつ。

 

【ほとんど車】
100万円クラスの超高額盤。

【99枚プレス】
99枚しかプレスされなかったレコードのこと。主に英国の自主盤で見られる。60~70年代当時の英国では100枚以上のプレスからを課税対象としていたため、多くの自主盤が99枚以内にプレスを収めていた。 

【レコードは資産】
特に高額廃盤に関してはここ20年右肩上がりのプライス・アップを続けており、レコードは趣味といえども、「もはや株券のような資産価値すらある」という考え。または、奥さんへのただの言い訳。

【足がつく】
上記のような自主盤やテスト・プレスのような極端に現存数が少ない特殊なレコードにおいては、保有していること自体を知られたくないコレクターが多く存在する。大袈裟に言えば宝くじの高額当選者のようなもので、保有していることのステータスと引き換えに、「譲ってくれ云々」の面倒が増えることもあるため、購入先から足がつくことは良しとされない。そうしたことから、特殊なレコードの保有者の情報はもちろん、その販売価格も含めコレクター個人情報として秘匿されることが多い。

 

レコにまつわるエトセトラ(4)

King Crimson「In The Court Of The Crimson King」の英国アセテート盤。

 

【酸っぱい(良い)匂いがする】
レコードの生産工程の中で作られるアセテート盤のこと。テスト段階で試作されたもののため、製品盤には含まれない貴重な音源を含むこともある。

【ジャケの匂いで分かる】
経験豊富な方であれば、ジャケットの内側の匂いを嗅いだだけで、どこの国でプレスされたレコードかを判別することが出来る。ただ特に実用的な意味はない。ただのフェチズム。

【大カット】
ダイカット・スリーヴの誤用。本来は「Die cut」という英語から来る用語であるが、大カットと間違えたとある人物が存在。彼は中カットや小カットもあると信じていた。

 

貴重なはずの直筆サインが、ただの書き込みに…!?

レコにまつわるエトセトラ(5)

センターホール付近に見える引っ掻き跡のようなものがいわゆる、“ヒゲ”。

 

【ヒゲ】
レコードのラベル面中央にある、センターホール付近に付いているプレイ痕(=引っ掻き跡)のこと。その昔(今でもいますが)はターンテーブルにポンと適当にレコードを置き、グリグリしてセンターに通す、というのが一般的だったため、ヒゲの量を見ることによって、その盤がどれほど聴かれているかの判断基準になり得る。

【ピンピン】
美品のこと。一説には今は亡き下北沢の某店の名物店長が言い始めたとか。他にもビンビン、カリカリ、ローカルではピカチュウとも呼ばれる。

【セルフ・コート】
勝手にジャケットにコーティング(風)を施すこと。多くはニスを塗ったり透明テープを貼ったりしているだけですが、稀に仕事振りが良すぎて騙される人もいたりいなかったり。

【組み合わせ】
複数の同タイトルのレコードから、ジャケット、盤、付属物等を入れ替え、最高の状態に仕上げること。入れ替え、グレードアップとも呼ばれる。

【ガチャ盤】
著しく状態の悪い盤。または誰かの入れ間違いにより、ジャケットと盤とのタイトルが合わないもののこと。

【中(内)シールド】
米COLUMBIAレーベルのレコードで見られる、中のプラスチック製の内袋がシールドされているもの。通常のシールド品に比べて、ラベルやマトリクス、そして反りの有無等、盤面が直接確認可能なため、通常シールドよりも好まれる傾向にあり。

 

レコにまつわるエトセトラ(6)

Rolling Stonesが'69年にプロモーション用にのみ制作したレコード(英盤)の裏ジャケット。こういう場合のサインは流石に本物です。

 

【サインはただの書き込み】
ジャケットに書き込まれたサインは、その真贋を証明するものがない限り原則として価値付けされない。かえって単なる書き込みとして減点対象にも。単に誰かが似せて描いた偽造サインはまだしも、近年の自動筆記マシーンによる(筆致すら再現した)精巧な模造は、もはや目視での判別は不可能とされる。

いかがでしたでしょうか? 聞いたことがある言葉はありましたか?
まぁでもここまで言っといてなんですが、用語なんて別に知らなくたって良いんです。音楽に関係ないですし。
とにかくレコード屋に行って、店員さんや他のレコードが好きな方と喋ってみてはいかがでしょうか? 時には強面の方がいるかもですが、そこは好き者同士、勝手に話も弾むってものです。
そうして新しい音楽や、気の合う(or競り合う)音楽仲間との出会いがあったりなんていう素敵なこともあると思いますよ! で、結局気付けばアナタもレコ屋スラングを使ってるんですけどね!
2020年も皆で素晴らしいレコード・ライフを送りましょう!

 


 

Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千